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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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判断基準

「ふふん。これでお前はもう認めるしかないのだ、少し待っていろ、今確実に自覚させてやろう」


「自覚って・・・このタオルなに?汗でもふけっていうの?」


「そんなことはしなくていい。いいからそれを手に持っていろ」


そういうとアリスは文の後ろに回り込むとその背中に手を当てる。次の瞬間、文の体内に術式が入り込んでくる。


いったい何の術式を、文が警戒するよりも早くアリスは文の体を押さえつけ、文が手に持っていたタオルをその顔に押し付ける。


「さぁよく深呼吸するのだ。口からではなく鼻からな。しっかりと脳髄まで叩き込むのだ。そうすればいろいろとわかる」


「むがむ・・・何すんのよ・・・!」


「いいから嗅げ、話はそれからだ」


有無を言わさぬアリスの言葉に、文は仕方なしにそのタオルのにおいを思いきり嗅いでみた。


鼻から入ってくるその匂いに、文は覚えがあった。そしてこの時点で文はアリスが先ほど自分の体に流し込んだ術式が嗅覚強化の魔術であったことを悟る。


タオルから匂ってきたそれに、文は覚えがある。どこで嗅いだのか、そして何のにおいか、それがわからないほど文は鈍感ではない。


「・・・康太のにおいね・・・なに?あいつの汗でもしみこませたの?」


「あぁ、ちょっと拝借してきた。どうだ?臭いか?」


「・・・臭いって程でもないわ、康太のにおいがするってだけよ」


「それだけかの?てっきり鼻をつまむと思っていたが」


「そこまで強く発動してないんでしょ?康太のにおいだったら別にそこまでいやな顔することもないわよ。あいつ体臭そこまで強くないし」


文の言葉にアリスは満面の笑みを浮かべる。やはりなとつぶやきながら康太のタオルを取り上げると自分が着ていた服を近づけて見せる。


「ではフミよ、私のにおいをかいでみよ。それでいろいろわかるはずだ」


「・・・そんなのなんか変わるわけ・・・っ!?」


アリスのにおいを嗅ごうとした瞬間、文は顔をしかめて鼻を抑える。アリスのにおいにではなく、アリスのにおいをかぐ前に把握してしまったこの地下空間のにおいをかいでしまったのだ。


不潔なにおいとまではいわないが、明らかに正常な空気ではないにおいだ。カビや汚れ、ほこりや油のにおいなどが混ざった独特のにおい。


先ほどまで康太のタオルを顔に押し付けられていたから感じ取れなかったが、この空間はここまでの悪臭が詰め込まれているのかとかなりのダメージを受けてしまっていた。


「あー・・・まぁ私のにおいをかがせるまでもなかったか。わかった通りだ。今回私はそれなりに強く嗅覚強化の魔術を発動させた。意識しないだけで嗅ぎ慣れているはずのそのあたりのにおいでさえ鼻が曲がりそうだろう?」


「何よこれ・・・ちょっとどうなってるのよ・・・」


「とりあえずほれ、このタオルをマスク代わりにしておけ。あと数分は嗅覚強化は解けないからの」


アリスからタオルを渡された文は言われた通り康太のにおいの付いたタオルをマスク代わりに鼻に押し当てていた。


呼吸をするたびに康太のにおいが脳に送られるのを感じながら、文は恨めしそうにアリスをにらむ。


「なんでこんなことするわけ?この場所の掃除でもさせようっての?この場所が悪臭だらけなのは理解したけど」


「わからんのか?強すぎるにおいは毒でしかない。以前コータも嗅覚強化を覚えたての時は苦しんでいたようだったが・・・まぁそれはさておき・・・フミよ、お前にとってコータのにおいは嫌悪感のあるものか?」


「・・・?いや・・・ない・・・けど・・・」


「ならば確定的よ。もうあきらめて認めてしまえ。フミ、お前はコータに惚れておる。これは間違いない事実だ」


「なんで匂いでそんなことがわかるのよ」


そんなことは簡単だといいながら、アリスは文の前に一本の指を立てて見せる。


その指先には力があった。間違いないと言ってのけるだけの自信があるのか、その指先にこもっている力は並大抵のものではない。


「人間は意識を持ち、意志を持ち、好みを持ち、その感情に色を付けることで恋愛などにも様々な要素を付け加えている。今は学歴だったり職業だったり顔だったりファッションだったりと様々だがな」


昔、それこそ何百年何千年前と違い現代の恋愛というのはいろいろと面倒なものになっているかもしれない。


アリスの言うように判断基準が多いのだ。無論そんなもので決めるわけでもないのかもしれないが、多少価値観などが加わっているのは否めない。


「・・・まぁそうね・・・年収とかあとは趣味とか?」


「判断基準が多いことは良いこととも取れるがの・・・今はそこはどうでもいい。重要なのは結局どんな追加要素を加えようと、人間の感情もやはり繁殖を根源としているのだ」


「・・・繁殖って・・・なんかすごく露骨ね」


「露骨だとも。人間だって動物だ。嫌悪感を示すものとは交尾したがらん。そしてそういったことを決める生物としての判断基準の一つが匂いだ」


匂いが判断基準の一つということに文はようやくアリスが何を言いたいのか理解していた。そしてそれを理解した瞬間、自分の手に持っている康太のにおいのするタオルがいったい何を意味しているのか、そしてそれがどういう意味なのか分かってしまう。


「つまり、フミはただの動物としても、本能的にコータのことを求めているということだ。頭でどう考えようと、心をどのようにだまそうと本能はごまかせん」


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