待ちに待った援軍
康太が去った後、倉敷は徹底して攻撃を繰り返していた。
相手の魔術が光に物理的特性を与えたものであるのはわかっていたために徹底的に水の圧力をぶつけることで相手にプレッシャーをかけているのだが、どうにもうまくいかない。
相手の盾の展開の仕方がうまいのか、それとも自分の水の圧力が弱いのか、相手の守りを突破することができないのである。
水で包んでしまえば自分の勝ちだ。それを理解しているがゆえに大量の水を作り出して相手を追い詰めようとするのだがこれがまたうまくいかない。
大量に水を作り出した影響で魔力の消費も激しい。相手に防戦一方の戦いを強いることができているとはいえさすがにこの状態を長く続けることはできそうになかった。
せめてもう少し消費を抑えれば何とかなったのにと、敗色が濃厚になるのを感じながら冷や汗をかいていると上空から火の弾丸が無数に相手めがけて襲い掛かる。
「悪い、待ったか?」
楽しそうな声を出しながら落下してきた康太を見て倉敷は心の底から安堵していた。こいつが来てくれたなら何とかなると思いながら同時に自分一人で何とかできなかったことが悔しくて腹立たしさを覚えていた。
「・・・くっそ!待ったよ!待ちくたびれたよ!あっちは!?」
「全員叩き潰してきた。あとはこいつだけだ。畳みかけるぞ!」
「おうよ!」
残った魔力の使いどころであると理解したのか、倉敷は魔力を総動員して水を展開し相手を追い詰めていく。
先ほどまでの攻撃で相手の動きはある程度把握できている。康太ならばその行動の先を読んで攻撃を当てることもできるだろう。
康太は倉敷の水で追い詰められている魔術師の動きを確認すると同時に上空にいる文の状態も確認していた。
文もすでに相手の動きの把握に努めている。いつでも攻撃態勢に入ることができるように集中を高めているようだった。
「こっちは魔力があんまり残ってないんだ!短期決戦で頼むぞ!」
「オーライ!さっさと終わらせよう!」
魔力的にも、そして残った装備的にも康太もそろそろ戦闘可能限界に近づいてきている。
ただでさえ魔術を連発し続けているのだ。もはや康太の残存魔力は三割もない。
あと数発強い魔術を使ってしまえば魔力は完全に枯渇してしまうだろう。供給口をフル稼働させていても回復できる魔力量はそこまで多くない。焼け石に水とはまさにこのことである。
魔力が枯渇するまでのわずかな間。限られた攻撃の間。その限定された状況で勝負をつけなければならなかった。
だが幸いにも、康太は一人で戦っているわけではない。魔力が枯渇しかけている二人に比べ、上空で待機している文の魔力はほぼ満タンに近い。そして相手は一人だけ。十分勝てる条件は整っていた。
「トゥトゥ、俺が近づくからフォロー頼んだ。相手の逃げ道を限定してくれ」
「はいよ!とっとと行って終わらせてこい!」
倉敷の激励ともとれる言葉に康太は槍を構えて勢いよく駆けだす。その間にも倉敷の操る水が相手を追い回す。攻撃に回せるだけの余裕は相手にはないようで、康太が近づいてきてもほとんど何もできずにいた。
襲い掛かる水に対して光の盾を作り出しその水の流れを防いで見せることはあっても、接触したばかりの時に出していた光の弾丸のようなものを出そうとはしない。
自身のもつ供給能力を度外視した倉敷の攻めによって、相手は専守防衛を強いられているのだ。
槍を持って近づいてくる康太に気付きながらもどうすることもできない歯がゆさを覚えているのだろうか、魔術師はしきりにこちらのほうに意識を向けている。だがどうすることもできずに水から逃れ、同時に康太からも離れようとするが倉敷がそれを許さない。
水からは逃れることができても康太からは逃れることができないような形で相手を追い込んでいく。
康太は槍の射程距離まで接近すると勢いよくその槍を振るう。接近戦は実に久しぶりだと思いながらも振るった槍を、魔術師は自身の体に光の鎧をまとわせることで防御して見せた。
遠くからの攻撃は空中に展開した盾で、そして近づいてきて接近戦を挑んでくる相手には光の鎧で対処する。
なるほどいい魔術師だと思いながらも、康太はその体を拡大動作の魔術で強引に上空に持ち上げる。
空中でも動けないことはないのか、魔術師は光の盾を自分の足場代わりにして何とか動こうとするが、その動き出しよりも早く上空から文の放った電撃が襲い掛かった。
倉敷のおかげで辺りには十分すぎるほどの水分がまき散らされている。それらを操って道を作り、広範囲に電撃の道を作り出し魔術師めがけて襲い掛からせたのである。
広範囲にまき散らされたために威力自体はそこまで高くはなかったが相手の動きを一瞬止めるには十分すぎた。
そしてその一瞬の停滞を倉敷は見逃さなかった。
ようやく止めた動きを待ってましたと言わんばかりに大量の水で覆い、その全身を水で包み込んでいく。
光の魔術を使って水を破壊できるはずもない。仮にほかの魔術を覚えていたとして、近い属性で言うと火属性などだろう。自身の火傷も気にならないほどの高熱にできるなら早々に水を蒸発させていただろう。
さらに蒸発させられても構わないというかのようにどんどんと水を集めて水の牢獄を作り出していく。
息をすることもできず、魔術師はそのまま窒息し意識を手放していた。




