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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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上空での会話

「なるほどね・・・即席のパラグライダーってわけか」


「おうよ。やったのは今日が初めてだったからちょっとビビったけどな。もう気が気じゃなかったから何でもできる気分だったよ」


気が気じゃなかった。その言葉に文は少しだけ動揺していた。


自分のことをそんなに心配してくれていたのかと、少し意外だったのだ。あんな強がりを言って、康太は自分にすべてを任せるのではないかと思っていたほどだ。


駆けつけてきてくれた時は本当にうれしかった。そして同時に情けなかった。康太に手間をかけさせてしまったということが文の劣等感を強めていく。


「でもお前が頑張っててくれてよかったよ。おかげですぐ見つけられた。やっぱ電撃は見ててわかりやすいしな。間に合ってよかった」


「・・・悪かったわ・・・手間かけて」


「何言ってんだよ。ベルがやばくなったらいつだって助けるぞ?どんどん頼れ」


嘘でも謙遜でも、慰めでもなく康太は本気でそう言っている。文はそれを直感で理解していた。


自分のためなら康太はどんな状況でも助けてくれる。そしてこんなことを言ってくれるのはたぶん自分だけ。そんなことを意識した瞬間、先ほど自分を助けるために現れた康太のあの背中を思い出し文は自分の顔に血が一気に集まっていくのを実感していた。


肉薄する康太の体温が、自分を軽々と抱える康太の腕が、そして康太の息遣いがいつも以上に余計に感じ取ることができてしまう。


いつも通りのはずなのだ。いつもより距離が少し近いだけでいつも通りの会話のはずなのだ。


だというのに文はいつも通りにすることができずにいた。康太の腕に抱えられながら、その体を小さくすぼめてしまう。


軽々と持ち上げられた瞬間を思い出し、自分はどうしようもなく女なのだと実感させられ、康太がどうしようもなく男なのだと実感させられる。


ダメだと思っていながらも思考がどんどんそっちのほうへと動いていってしまう。いつもなら気にならない康太のにおいを、体温を、鼓動をいつの間にか集中して感じ取ろうとしている自分がいることに驚きながら自分のその考えを必死に否定しようとしていた。


「そ、それよりも・・・!トゥトゥは大丈夫なの?あいつ一人で今残ってるんでしょ?」


「あぁ、それは大丈夫だと思うぞ。とりあえず一対一になる状態にまで相手はつぶしてきたから。もしかしたら二対一になってるかもしれないけど・・・いやそれはないか・・・」


康太が移動した段階で拠点に残っている魔術師がどのような対応をしたかはわからない。拠点から出てきた光を操る魔術師は戦うようだったがそれ以上拠点から動くような気配はないように思えたのだ。


もっとも康太の索敵では拠点まで把握することはできなかったためあくまで康太の勘でしかない。


だがあの状況で出てこないようなものが、倉敷が一人になったからと言って出てくるとは思えなかったのである。


「にしてもお前軽いな・・・ちゃんと食べてるのか?」


「う・・・うっさいわね。女子に体重のこと言わないでよデリカシーないわね!」


「でも肉体強化も何もかけてないのに簡単に持ち上がったぞ?さすがにこれ軽すぎだろ・・・病気なのかと疑うレベルだわ」


「うっさい!ていうかあんたの力が強いんでしょ?たぶん私は人並みよ!」


文は割と細身の体形ではあるが、訓練によってしっかりと筋肉はついてきているし、出るところは出ているためにある程度体重もある。それなのに康太が軽いと感じたということはそれだけ康太の地の力が優れているということになる。


こうして抱えられていると自分のことを把握されているのだと思い文は今すぐにでも康太の手から離れたいと考えてしまう。


だが体は動いてくれなかった。怪我のせいなのか、それとも本心ではこのままでいたいと思っているのか、文の体は康太の腕に抱えられたまま、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまっている。


「ていうか・・・これだけ長く空中にいたのって初めてかも・・・いい景色ね」


「そうだな。普段ベルはちょっとしか浮かないからな」


「風で浮くのってあんまり効率よくないからね・・・こういう風にしないと魔力の無駄遣いになるし」


文ほどの素質の持ち主であれば消費した魔力も数秒程度あれば回復するとはいえ、風の力を使って無理やりに体を浮かせるというのはどうやらそこまで効率がいいとは言えないらしい。


このように風を捕まえるための布か何かがあれば話は別だが、体一つでは風の力で強引に体を浮かせるしかないためになかなか苦労するらしい。


「お・・・トゥトゥ見っけ」


康太の言葉に文も地上に目を向けると、そこには輝く何かと戦っている倉敷の姿がある。


大量の水を操って何とか倒されないように努力しているようだが、形勢はあまり良くないらしい。


「とりあえずウィルはこのまま貸しておくから、ベルは上空から援護頼む。風の感覚は自分でつかんでくれ」


「・・・わかったわ・・・フォローは任せなさい」


この状態がもう終わってしまうのかと文は少しがっかりしていることに気付いて首を大きく横に振る。


今は戦闘中なのだ、集中しろと自分に言い聞かせながら康太からウィルを借り受け、自分の風で空中飛行を開始する。


「んじゃさっさと終わらせるぞ。さすがに連戦はきつい」


「わかってるわよ。さっさと行ってきなさい」


文に見送られながら康太は地上へと落下していく。文は自分の体に残った康太の体温を名残惜しそうに感じながら集中していた。


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