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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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かつての敵と共闘

康太はまず火の弾丸の魔術を使って相手を牽制していた。暗闇でよく見える火の弾丸は相手を牽制するには十分すぎる。


威力は低くとも確実に相手への攻撃であるということを認識できるのはかなり強みになっている。特に康太のように本命の攻撃を悟らせないようにしたいタイプにとっては。


とは言えこれ以上時間をかけるわけにもいかない。相手を火の弾丸でうまく誘導しながら、康太は自分にとって都合のいい場所へと相手を移動させていく。


開けた場所、同時にある程度起伏などがある場所。建物の上で戦っている時点で開けているのは前提なのだが、起伏がある場所となるとなかなか難しい。


屋根の形などを吟味し、相手を追い立てると、康太は文たちと十分距離が取れていることを確認しながらDの慟哭を発動する。


康太が急に煙幕のような黒い瘴気を噴出させたことで、相手は警戒の色を強めたようだった。即座に索敵をして康太の位置を探ろうとするがこの時点で康太はウィルに自分の分身となるように命じていた。


唐突に現れたもう一人の謎の人物。索敵によって大まかな形を把握していた魔術師にはそのようにとらえられただろう。


あの黒い瘴気が人間を転移させるだけの力を持ったものなのか、それとも煙幕に紛れて分身を作ったのか現段階では判断できないのだ。


今対峙している康太がブライトビーであるということを知ることができていれば、この魔術がかつて猛威を振るった封印指定百七十二号であるということに気づけたかもしれないが、運悪くこの魔術師は康太の正体を知らなかった。


とにかく何が起きているのかわからない以上、まずは攻撃して相手の反応を見るべきだと判断したのか、魔術師は自身の体にまとっている電撃はそのままに、康太めがけて電撃の弾丸を放っていく。


威力そのものは低いが電気の不規則な動きをしないように球体に作り上げた電撃の小さな弾丸。連射されるそれが康太とウィルに襲い掛かるが不規則な動きをしないただの射撃系魔術であれば康太の脅威にはなり得なかった。


康太とウィルは同時に屋根を蹴り、再度接近を試みていた。当然相手も攻撃してきてこちらの接近を妨害してくるが単純な電撃ならばそこまで注意することもない。


ここで火の魔術を使って応戦してもいいのだが、それをすればどちらが本物であるか即座にばれてしまうだろう。


せっかくDの慟哭を使ってどちらが本物かわからなくしたというのにそんなことをしてはもったいない。

そこで電撃の魔術を放ちながら逃げようとする魔術師に、康太は遠隔動作の魔術を発動していた。


火属性の魔術と違って無属性の魔術はばれにくい。その特性をいかんなく発揮し、遠隔動作の魔術によって逃げようとする魔術師の足をつかむ。


足場の起伏が激しい場所ではちょっと動くだけでもしっかりと足場を確認して動かなければならない。少し重心が狂えばその分動きは鈍くなってしまう。


逃げようとしている中で足をつかまれるなどということが起きれば、当然バランスを崩してしまう。康太の思惑通りである。


康太の魔術によってバランスを崩し転倒とまではいわずとも体勢を崩した魔術師めがけて、康太はウィルを急接近させる。それに対して魔術師はこれ以上近づけまいと先ほども放ってきた広範囲の電撃を繰り出す。


ウィルが一気に接近してきたところにはなってきたところを見ると、おそらく広範囲であると同時に射程距離が短いのだ。


近距離用の広範囲魔術。接近されたくない魔術師としてはなかなか良い魔術だといわざるを得ない。

だがそれはもう一度見た。


ウィルをおとりにして相手が防御などに魔術を使えない状況にしてから攻撃、単純ではあるがこれが一番楽で手っ取り早い。


康太は相手が広範囲の電撃を繰り出してくるタイミングで火の弾丸を周囲にまき散らしながら大きく槍を振り回し魔術を発動する。


発動した魔術は動作拡大。槍の動作を拡大したことによって本来の槍の射程と威力を大きく超えた一撃を魔術師に与えることに成功する。


刃の部分でやっては相手の体を真っ二つにしかねないために、柄の部分をたたきつけただけになるがそれでも十分すぎた。


強力な一撃によって吹き飛ばされた魔術師めがけて、康太はさらに追い打ちをかけていく。


遠隔動作の魔術で吹き飛ばされた方向とは逆方向に一撃を加え、飛んでいく速度を緩和させるとあらかじめ飛ばしておいた火の弾丸を一気に収束させていく。


もうすでに意識も保てなくなっているであろう魔術師に吸い寄せられるように集まっていく火の弾丸はすべてその体へと命中した。


たとえ威力が低くとも一斉に集まってくれば話は別。それは人を燃やすのに十分すぎる火力を持ち合わせていた。


あのままにしては死んでしまうだろうと、康太は近くまで接近させたウィルにその体を包み込ませて強引に消火する。


完全に拘束してもよかったが現段階でそれをするのは時期尚早だ。


関節部分のみをウィルで拘束すると康太は即座に次の敵のほうに目を向けていた。


文と倉敷はそれぞれ戦闘を続行している。文は電撃と風を駆使して相手の念動力の魔術を何とか攻略しつつある。


対して倉敷は水の精霊術を使って相手を圧倒しようとするも、その水を凍らされうまく相手を攻略できずにいた。


手を貸すならば倉敷のほうだなと康太は即座に判断して槍を手にかけだした。


「こんのぉ!いい加減にしろやこらぁ!」


「こちらのセリフだ!無駄なことはやめろ精霊術師!」


徹底的に水を出す倉敷と、それをどんどん凍らせていく魔術師。この二人の魔術の相性は決して悪いとは言えない。


互いに物理的な干渉能力を持つ魔術。そして水と氷の魔術はその特性が微妙に似ているのである。

だが当然水と氷は似て非なるもの。似てはいるが同じではない。


倉敷が水を作り出して操るのを得意としているのに対し、相手の魔術師はその場にある水を凍らせることを得意としているようだった。


凍らせた水を操ることもできるようだが、倉敷が作り出す水の量が多いうえに連続して襲い掛かってくるせいでなかなか攻撃に転じることができずにいる。


だがそれは倉敷も同様だ。相手が攻撃に転じないように徹底的に水を展開してはいるものの、このままではいつまでたっても決着がつかない。


いや、先にガス欠になるのは間違いなく倉敷のほうだ。


これだけの大量の水を生み出しながら操作しているのに対し、相手がやっているのは自分に襲い掛かり、なおかつ回避できなかった一部を凍らせているだけ。消費魔力がそもそも違う状況では倉敷が圧倒的に不利なのは否めない。


そんな中、魔術師めがけて唐突に上空から鉄球の雨が降り注いだ。


周囲を警戒していた魔術師は即座に鉄球の攻撃に気付き氷の盾を作り出すと降り注ぐ鉄球を防いでいた。


「加勢するぞ」


「もう一人片づけたのか?さすがに早いな」


「電気系だったらやりようはいくらでもあるからな。伊達にあいつと訓練してねえよ」


そういいながら康太は文のほうに意識を向ける。


自分よりも何倍も優秀な魔術師。そして同時にいつだって自分の横に立っていた魔術師。そんな文が最も得意としているのが雷属性の魔術なのだ。


その対策も対応も、いくらでも立てられる。少なくとも康太にとって電撃は相性的には良くなくともそこまで脅威ではないのだ。


「こいつは氷使いか、お前との相性はいいと思ったんだけどな」


「俺が作った水を徹底的に凍らせて来るんだよ・・・厄介極まりないぞ」


「オーライ。んじゃさっさと攻略しますか」


氷を使う魔術師とは戦闘経験が何度かある。水そのものを凍らせることに特化した魔術師であるならばやりようはいくらでもある。


だがこのタイプの魔術師は接近しすぎないほうがいいだろうなと康太は考えていた。


その実力がどれほどかはわからないが、倉敷が全力で作り出した水すべてを凍らせたことがわかるほどに周囲は氷で満ちている。いっそのこと周囲すべてを凍らせたほうが早いのではないかと思えるほどの氷の量だ。これだけの氷を作り出してなお相手はまだその魔力を多く温存しているようだった。


「トゥトゥ、水をもっと細く、鋭く多くできるか?大きい鞭だと相手に凍らされるのがおちだ」


「できるけど・・・水の量を減らすと相手にプレッシャーかけられないじゃんか・・・本末転倒じゃないか?」


「いやいや、相手にとってはだいぶプレッシャーだよ。威力よりも手数だ。俺もフォローするから頼んだぞ」


康太の言葉を簡単に信じたわけではないが、倉敷はこのまま水の攻撃をし続けても意味がないと察したのか、先ほどまで展開していた水の鞭をすべて細く鋭く、そしてその数を増やしていく。


水の体積自体は変わっていないが、一つ一つの鞭の大きさを変えたことでその数を倍以上に増やしていた。


「これだけ操るのは集中力いるからな・・・!フォロー頼むぞ!」


「おうとも、お前の守りは俺の影に任せよう。頼んだぞ、ウィル」


康太が名を呼ぶと倉敷の前に立ちはだかるように赤黒い液体状のウィルが登場して見せた。


相手が物理的な干渉能力を持つ氷の魔術だというのなら、こちらも物理的な干渉能力を持つものを守りにつけたほうがいい。


少なくとも氷のつぶて程度であれば問題なく防ぐことができるだろう。ウィルが防御に回っている間に康太はいくらでも攻撃できるのだ。


倉敷が勢いよく周囲の水を操ると、相対する魔術師もその水の大半を凍らせて見せた。


やはり凍らせることに特化した魔術師なのだなと康太が納得していると、凍らされた水の一部が勢いよく砕けていく。


鋭く細く形成された水はまるで氷柱のようだ。康太はその凍らされた水の棘を遠隔動作によって砕くとそのいくつかを同じく遠隔動作によって掴み魔術師めがけて投擲する。


水を凍らせることはできてもすでに凍っているものを凍らせることはできない。仕方がなく先ほど康太の鉄球を防いだ時のように氷の盾を作り出して防御するが、そうしている間にもほかの方向から水の鞭が襲い掛かってくる。


先ほどまでは水そのものが多く、凍らせてしまえば倉敷が操りにくくなり氷が落下していたが今は水一つ一つの量が少なく、なおかつ数が多いことで氷同士が絡みつくように互いを支えている。


そのせいで凍らせた水が邪魔で相手はうまく動くことができずにいるのである。


攻撃を増やすことによって防御の対応能力を上回ろうという単純な話だ。康太が得意とするのはあくまで攻撃、倉敷が攻撃を得意としない分康太がそれをフォローしてやればいいだけの話である。


だが次の瞬間、魔術師の周囲にあった氷の棘が一斉に粉砕されてく。


康太と倉敷の目に映ったのはその拳にできた巨大な氷のグローブのようなものだった。いや拳についているとはいえその大きさはもはやグローブとは言えない。


巨大な鎚を腕に強引に取り付けているかのようだった。


氷を操作するに加えて自分自身の体で動くことで近接戦も可能にした戦闘スタイルなのだろう。先ほどまで氷の棘で動きが取れなくなっていたのとは違う。


さすがに対応が早いなと、康太は内心舌打ちをしたがまだ状況はそこまで悪くはないと槍を構えた状態で前へと躍り出た。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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