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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」

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三鳥高校の魔術師たち

時刻は二十一時過ぎ。康太たちは三鳥高校の校舎内へと侵入していた。


それぞれ仮面と外套を身に着け周囲を警戒している。


今日は休日、もうすでに夜も遅いとはいえ必ず誰かが残っているだろう。見つからないことに越したことはないとはいえこうして警戒するのも面倒なものだ。


「ていうか・・・あんた家は大丈夫なわけ?確か普通の家なのよね?」


「問題ない、もうすでに暗示をかけてもらった。姉さん様様だ」


他人に暗示かけてもらってる時点でどうなのよと文は明らかに呆れた声を出していたが、確かに康太も早めに暗示の魔術は覚えたほうがいいと思っていた。


だがこの暗示の魔術、地味に練習法が限られているのだ。暗示というのは魔術師にはかかりにくい。だからこそ魔術師ではない人間、あるいは動物などを被検体として練習を行うのだが、ただの人間に魔術を行うところを見せて失敗すればそれはそれで面倒なことになる。


逆にただの動物に魔術をかけたとしても、その魔術が成功しているか否か判別しようがないのだ。


その為魔術の発動練習をするには必ず誰かしらの協力が必要になる。魔術師同士で練習するというのも手だが、もっとも簡単なのは家族への暗示だ。


適当な暗示をかけてそれの成功率を高めていくほかないのである。


康太が暗示の魔術を修得するのはもう少し先のことになるだろう。


「ていうか、呼び出し場所はどこなんだ?」


「もう少しよ。体育館だから・・・鍵開けもしなきゃね」


今回康太と文が三鳥高校にやってきたのは訳がある。それは先輩である二年生三年生の魔術師たちに呼び出されたからだ。


康太と文が通う三鳥高校にはそれぞれの学年に魔術師が存在する。


二年生には三人、三年生には二人それぞれ魔術師がいるのだとか。


文宛にその書面が用意されたのは今週末の金曜日、日曜日の二十一時半に体育館に集合。


それがどんな意味を持っているのか、康太は理解しかねていた。


「にしても呼び出しって・・・あんまりいいイメージないな・・・ボコボコにされる気しかしないぞ」


「そんなわけないでしょ?これはあくまで顔見せよ、新しく自分の高校に入った魔術師を確認しようとして損はないもの」


「まぁ仮面で顔隠してるから顔見せも何もないけどな」


そう言う意味じゃなくてと文は呆れているがとりあえず体育館にたどり着くと深呼吸する。


自分より先輩の魔術師、どんな相手なのか気になるところだ。


入学からこれまでずっと意識を研ぎ澄ませて魔術師の気配を探したがそれらしいのはほとんど見つけられなかった。


唯一見つかったのは魔力を垂れ流していた康太だけ、日常的に魔力を放出するような馬鹿な真似はしないという事だろう。


「んじゃ開けるわよ、準備はいい?」


「おうよ、いつでもいいぞ」


文が鍵開けの魔術を使って体育館にかかっていた鍵を解錠すると同時にその扉をゆっくりと開いていく。


中は暗い、明かりがついていないのだから当然かもしれない。


だが文は感じることができた。誰かがこちらを見ていると。


「どうする?電気は付けない方がいいだろうし・・・俺らが一番手か?」


「いえ・・・もういるわ・・・」


約束の時間まではまだ少し余裕がある。ここで相手が行動するのを待つのも手だったが、文は先手を打つことにした。


短い集中の後に彼女は手の中に小さな光の球を作り出す。康太はそれに似たものを一度見たことがあった。電撃を周囲にまき散らす電撃の球体。苦い記憶と共にあるそれを見るのだが、どうやら今彼女の手の中にあるそれは以前自分が見たものとは別物のようだった。


あの時の球体はその周囲にわずかに雷光を蔓延らせていた。だが彼女の手の内にある光球はただ緩やかに光り続けている。


まるでただ光を発することだけが目的とでもいうかのように。


そこまで考えて思い出した、文は雷、水、風だけではなく、光に属した魔術も扱えるのだということに。


あの時妙に廊下が暗かったのは光を遮っていたからだということを思い出し、これはその逆、光を放つという魔術なのだという事を理解した。


光球は徐々に増幅していき、その光一つ一つは弱弱しくなりながらも体育館の中を照らしていく。


その光球が体育館の中を満たしていくと同時に、康太と文はようやくその姿を見ることができていた。


ステージの上に三人。一人はステージの真ん中に立ち、二人はその両脇、ステージの縁のところで座っている。


そしてステージ裏から登ることのできる二階観客席部分に二人。ステージから見て左右に伸びる観客席部分に一人ずつこちらを見下ろすように立っていた。


ステージにいるのが二年生、観客席からこちらを見下ろしているのが三年生という事だろう。


光で照らされているとはいえその光は弱い。それぞれの体格まではおおよそ見当がつくとはいえ詳細な特徴まではとらえられなかった。


場所の高さがそのままそれぞれの学年の立ち位置を示しているという事だろうか。どちらにしろ見下ろされるというのは些か気分がよくはなかった。


とはいえ相手は自分より年上の魔術師。しかも学校でも先輩にあたる。


失礼の無いようにしなければならないだろうと康太と文もそれを理解していた。


「初めまして・・・というべきかな。ようこそ三鳥高校の魔術師同盟へ」


誰がその声を発したのか、声が反響するせいで誰の声であるかを確認することはできなかった。


だが聞こえてきたのは女性の声だ。少なくとも女の魔術師がここにいるということになる。それが二年生なのか三年生なのかはわからないが。


三鳥高校の魔術師同盟、何とも陳腐なネーミングだが、それ以外に呼称する方法もなかったのだろう。同盟などというくくりをつけるあたり、互いの不干渉と協調を促すものであるということがうかがえる。


「とりあえず自己紹介を頼むよ。こちらとしても君たちを何と呼べばいいか、そして誰の弟子であるかをあらかじめ理解しておきたいからね」


次に聞こえてきたのは男性の声だ。これも声が反響しているせいで誰が発しているのかを確かめる術はなかった。


だが自己紹介を求められているのであればそれに応えなければならない。ここで争うつもりがない以上、ある程度穏便に事を進めたい。恐らくそれは相手も同じだろう。


誰の弟子であるか、魔術師にとってはそれはある意味重要なことなのだ。


師匠同士が敵対していた場合は疎遠になるし、逆に仲が良ければそれなりに友好的に接することができるだろう。


それぞれの師匠と弟子の関係、ある意味派閥ができていると言っても過言ではない。魔術師の世界もいろいろ面倒なんだなという事を理解しながら康太は文の方を見る。


文もその視線を理解したのか一歩前に出て小さく息を吸った。


「エアリス・ロゥの弟子、ライリーベルです。どうぞよろしくお願いします」


「・・・デブリス・クラリスの弟子、ブライトビーです。よろしくお願いします」


文に続くように自己紹介を終えた後康太は内心ため息をついていた。


エアリス・ロゥ、そしてデブリス・クラリス。両名の名前が出たところで僅かにその空気が変わったのだ。そしてそれを康太と文は感じていた。


あらかじめ聞いていたことではある。文の師匠であるエアリスは良い意味で、康太の師匠である小百合は悪い意味で有名なのだ。


エアリス・ロゥはその実力と実績の高さ、そして魔術師としての品格から多くの魔術師から支持されているのだとか。


対して小百合、デブリス・クラリスは実力も実績もエアリス以上だが魔術師としての品格や常識のなさ、そして素行の悪さから徹底的に忌避されている。


良くも悪くも目立つ二人の弟子という事もあるのか、周りにいる魔術師の目は二人に集中しつつあった。


「ここまでは予想通りの反応ね・・・」


「ここまで露骨とは思ってなかったけどな・・・」


周りに聞こえないように小さな声で二人は話しながら小さくため息をつく。二、三年生に呼び出された時点であらかじめこうなることは予想していたのだ。


特に自分たちが誰の弟子であるかを伝えるという事がどういう意味を持つのか。特に康太の場合はその傾向が顕著である。


なにせ敵の多い小百合だ、ここでそれを打ち明けるとまた面倒の種になることはわかりきっている。


だが相手がそれを求めたのだ。こちらとしてもそれに応えなければ後々面倒になりかねない。


康太の場合は打ち明けても打ち明けなくても面倒なことになるだろう。なにせ師匠が小百合なのだ。いっそのことエアリス・ロゥの所の弟子になりたかったなと康太は内心涙していた。


よその子になりたいという子供じみた感想かも知れないが、どこに行っても敵視されるという意味ではその感想は間違っていないと思いたい。


だがこういう反応になるというのがわかっていたからこそ、あらかじめその対策もしてある。両者の師匠の了解もすでに取っているのだ。


「そして私たち二人は同盟関係を結んでいます。私たちの師匠も一時的にではありますが協力関係にあります。そのことをどうかご理解いただければと思います」


文の言葉にさらに周囲にいた魔術師たちは動揺していたようだった。


良くも悪くも目立つ二人の弟子が同盟を結んでいる。しかもその師匠同士も協力関係をとっている。それがどういう意味を持つか。


つまりは片方だけの味方をするというのは難しくなるという事である。

仮に小百合の弟子である康太だけを敵としようと、その同盟関係にある文は康太を助けるような動きをするだろう。


そして自分の弟子にそのような役回りをさせるものに対してそれぞれの師匠がどのような反応をするか想像に難くない。


互いに不干渉を貫くのであればそれでよし。あえてこちらから無視してくれと、関わらないでくれという事を示すのが目的だった。


片方はぜひ関わり合いたい、可能ならばお近づきになりたいだろう魔術師の弟子。


片方は絶対に関わりたくない、可能ならば近づくこともしたくない魔術師の弟子。


それぞれが協力関係にあるというだけで既にこの二人には手を出すことができない状況になりつつあるのだ。


互いの師匠の関係を上手く利用した案ではあるが、ここまでうまく作用するとは正直康太も思っていなかった。


どれだけ自分の師匠は悪名を轟かせているのかと不安になったが、それはもはや今さらというものである。


学校という場において師匠の名が原因で面倒を起こすわけにもいかない。二、三年生の魔術師とのコミュニティには入れないというのは些か不利かもしれないが、学校という場所を戦場にしないためには必要なことである。


引き続き予約投稿で二回分


反応が遅れてしまうのはご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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