戦いと相性
康太たちめがけて飛んできた攻撃を、まずは倉敷の作り出した水の盾が防いだ。索敵で判別したその攻撃は電撃に氷のつぶて、そして何やら適当に用意されたと思われる鉢植えやらの物体だった。
雷の魔術、そして氷の魔術、そしておそらくは念動力を操る魔術だ。この三種類を扱う魔術が一斉に襲い掛かってきたが、その三つの攻撃は水の魔術とは比較的相性のいい魔術だ。倉敷が作り出した水の盾によって防ぐことは難しくなかった。
物質的な干渉能力を持つ属性というのは本当に有利だなと思いながら、康太は槍を構築し完全な戦闘態勢に移行すると勢いよく跳躍する。
後ろの魔術師が攻撃を仕掛けてくる前に、そして拠点にいる魔術師たちが動き出す前に早々に目の前の戦力を減らしておきたいところだった。
狙うのは雷を使う魔術師だ。
康太は雷の魔術とは相性が良くない。電撃を扱ってくれるというのは正直助かるという面もあるのだが、文との訓練で雷属性の魔術を苦手としている自覚はあった。
何せ防ぐことが難しいのだ。軌道が読みにくいうえによけるならばかなり大きな動作で避けなければいけないし、防ぐのであれば障壁の魔術を使って受け止めるか、物体を地面と接地させた状態で電撃を当てるしかない。
文が近くにいて電撃に対するフォローはしてくれるかもしれないとはいえ、これだけ相手のほうが戦力が上の状態で文のフォローがどこまで続くかは分かったものではない。
康太が槍を構えて突進してきたことで、目の前の三人の攻撃の標的はすべて康太に集中していた。
近づいてくる魔術師が脅威に感じるのは間違いではない。射撃系の魔術が康太に襲い掛かる中、康太は冷静にその軌道を確認し対処していた。
再現の魔術を発動し疑似的に空中に足場を作り出すと肉体強化の魔術と併用して空中を駆け回る。
自身に襲い掛かってきていた魔術を容易に回避するとさらに近づく。彼我の距離を一気に詰める康太の姿に相手も康太が一番の脅威であると判断したのか一度分散し多角的に攻撃を仕掛けようとしていた。
だが康太だけにすべてを任せるほど文も倉敷も惚けてはいない。
康太が接近している段階で二人とも攻撃態勢に入っていた。文は電撃を、倉敷は水による拘束を試みている。
文が攻撃対象にしたのは念動力を扱う魔術師、そして倉敷が攻撃対象にしたのは氷を扱う魔術師だ。
互いに相性としては悪くない相手に狙いを定めて攻撃を仕掛けると、その二名は防御に集中することになってしまった。
念動力を使う魔術師は文の電撃を近くにあった鉢植えや物干しざおなどを使って防御、氷を使う魔術師は倉敷が放った水を凍らせることで無効化していた。
二人は康太が動きやすくなるように相手への攻撃を途切れさせない。徹底して攻撃し続けるつもりでいたが同時に背後への警戒も怠らなかった。
いつ後ろから攻撃が来ても不思議ではないのだ。その攻撃に対処できるように意識の何割かは常に背後に向けていなければならない。
囲まれている状況というのはあまり良くないなと文は実感しながらも、康太に襲い掛かっている電撃にも対処しようと魔術を発動した。
広範囲にわたって襲い掛かる電撃、あれでは康太も避けにくいだろうと電撃を引き寄せる球体を作り出す。
これは以前使った魔術と同様のものだ。一定の電撃を帯びたもの、あるいは電撃そのものを引き寄せる球体。
文はそれを康太とは全く違う方向に作り出すことで康太が近づきやすいようにフォローしていた。
さすが文だと康太は内心感謝しながら再接近を試みていた。だが相手もこれ以上は近づけたくないと思っているのか自らの体に電撃をまといだす。いや正確には自分の周りにしか展開できない強力な電撃を作り出していた。
康太はそれを見て直感的に理解する。あれは文が普段使うのと同じあるいは似たような魔術であると。
射程距離自体は短いが威力の高い魔術。あれを受けるのは面倒だなと康太はさっそく持ってきていた装備の一つを使うことにした。
自分の魔術師装束の背中の装甲部分に仕込んでいた鉄球のいくつかを放ち、収束の魔術で雷の魔術師めがけて攻撃を仕掛ける。それと同時に再現の魔術でナイフの投擲を発現し射撃攻撃、連続して多角的な攻撃を仕掛けると、魔術師は鉄球にのみしっかりと反応して見せた。
方々から襲い掛かる鉄球の攻撃を障壁の魔術を広範囲に作り出すことで早い段階で威力を減衰させると、魔術師はとにかくその場から離れようと移動する。幸か不幸か康太の再現の魔術の射程距離から逃れる形になってしまったため、康太の攻撃は完全に不発になってしまっていた。
やはり遠距離から攻撃する場合対応される可能性が高いなと、康太は内心舌打ちをしながら相手がまとっている電撃を見て眉を顰める。
あれが文の使っている魔術と同様のものであればやりようはある。少なくとも槍での直接攻撃をするわけにはいかないが、できることはある。
牽制をしながら近づき、可能な限り早く仕留める。手加減をしている暇はないかもしれないなと康太はため息をつきながら近くで戦闘を行っている文と倉敷のほうにも意識を配っていた。
二人はそれぞれ自分の魔術と相性のいい相手と戦っているようだった。まだ相手が隠しだねを用意している可能性があるために安心はできない。相手のほうが戦力が上なのはいつものことだが、今は身近に頼りになる師匠や兄弟子がいないということもあって自分が何とかしなければという意識が康太の中に強く残っていた。




