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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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異常事態とはじまり

「止まれ、それ以上俺たちの縄張りに侵入すれば攻撃する」


魔術師の一人の発言に対して康太たちは一度前進をやめていた。こちらにはまだ話し合うだけの余地が残されているというのを強調するためである。


戦闘状態に移行する前に、こちらの意向を向こうに伝えておく必要がある。無論相手がその考えに乗ってくれるかどうかは微妙なところではあるが。


「あなたたちに聞きたいことがあってきたの。話を聞いてくれると助かるわ。可能ならあなたたち全員に」


あなたたち全員。文はその言葉にグループ全員という意味を込めたつもりだった。無論相手にとってはこの場にいる三人だけともとらえられる。


まずは話のきっかけになるように軽い内容から話を始める。一種の話術というものだ。この段階で相手が話に乗ってくれなければ話し合いはもはや望めない。


「これだけ長くにらみ合い続けて、今更話し合い?本当の目的はなんだ?」


「最初から話し合うのが目的よ。いきなり駆け込んで話を聞けっていったところであなたたちは話を聞こうとしないでしょ?あれだけ長くにらみ合えばいやでもクールダウンできるかと思ってね」


突発的な現象に対して、人間ができる対処はかなり限られる。それは考える時間が限られているからでもある。


ほぼ反射的に行動することもあれば、自分があらかじめ決めていた行動しかとれない場合が多い。


だが文が言ったようにあれだけ長くにらみ合えばいくらでも考える余地は与えられる。感情に任せての行動も、流れに身を任せた短絡的な行動もなくなる。


あのにらみ合いは時間を稼ぐだけではなく両者の思考を熟成させるためのものでもあったのである。


文の思惑通り、相手はすでに康太たちに対しての対応を頭の中で組み立てることができている。


その中にはもちろん話し合いというものもあるだろう。だからこそ少し進んだ康太たちに対していきなり攻撃をせずに一度警告を含めたのだ。


「話を聞きたい・・・ということだが、いったい何に関してだ?」


いい流れだ。文は内心安堵しながらも緊張感を保っていた。相手がこちらに興味を持っている。こちらの素性はわからないが、話を聞くだけで相手が帰ってくれるのであればそのほうがいいだろうと考えているのだ


「あなたたちがこの辺りにやってきた時期、そしてその理由を知りたかったのよ。グループ全員でこっちに移動してきてるって聞いてるわ」


虚偽を含まずいきなり本題に切り込んだ文の発言に対して、相手は少しではあるが動揺していた。


答えることはできるはずだ。グループ全体でこちらにやってきたというのは間違いないだろうしその理由もグループ内で話し合っているはず。ならば答えることに何の問題もないはず。


その程度の情報で帰ってくれるのであれば御の字程度に思ってもいいだろうが、逆にその程度の情報が知りたくてここまで来ていると思えなかったのか、少々こちらに対して猜疑の視線を向けていた。


「それを知ってどうする?俺たちのことを知ってどうする?」


「別にあんたたちだけじゃなくて他の全員もそうなのよ。この辺り一帯の魔術師が増えてるのは知ってるでしょ?その原因今調べてるところなの」


支部長からの依頼というのは隠す形で文は話を進めようとした。このままいけば話をするだけで解決できるかもしれない。


そんなことを考えた瞬間、康太たちと対峙していた魔術師の持っている携帯が別々に音を発しだす。


何かの着信音であることはすぐにわかった。だが三人の魔術師の携帯が同時になっているということに康太は少し違和感を覚え警戒していた。


そして違和感を覚えた康太の感性は正しかった。携帯が鳴りだし、その音を聞いた瞬間に目の前にいた魔術師たちの様子が豹変しだす。


先ほどまで会話も厭わないという流れで進んでいたのに対し、急に康太たちに対して強い敵意を向けてきている。


「ベル、トゥトゥ、あいつらの様子がおかしい」


「・・・なんかの連絡かしら・・・?それとも・・・?」


「なんだなんだ?やっぱ話し合いは無理か・・・?」


康太の言葉に二人もその違和感に気付いたのか、いつ何が来てもいいように身構えていた。


文は索敵によって背後にいる三人の魔術師にも警戒しながら、康太は目の前の魔術師たちに集中、倉敷はどちらの攻撃が来てもどちらに攻撃したとしてもフォローできるように周囲に気を配っていた。


「なんだよお前ら・・・ざっけんなよ・・・」


不意に聞こえたその言葉を康太たちは聞き取ることができなかった。聞こえさせようとした声ではなく、独り言のようなその言葉がどんな意味を持っているのか理解はできなかった。


だが三人とも、その言葉にいら立ちが込められているということは理解した。何があったのかなど考える暇はなさそうである。


何かがあったのだ。何かがあってこの三人はすでに戦闘態勢に移行しようとしている。


「ベル、トゥトゥ、とりあえず俺が前の三人が動いたら前に出る。後ろの連中がちょっかい出してくるまではフォロー頼む」


「了解。後ろの奴が来ても抑えておくわ。それまで頼むわね」


「三人とはいえあんまり持たないかもしれないから早めに助けに来てくれよ?」


「それこっちのセリフじゃないのか?そっち二人いるんだからさ」


覚悟を決めてそんな話をしている最中、目の前にいる三人の魔術師は康太たちめがけて魔術を放ってきた。


有無を言わさぬ攻撃に、康太たちは戦闘を開始した。


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