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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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支部長との話し合い

「なるほど、支部の人間のあぶり出しか・・・」


文たちは一度支部に戻ると早速支部長にこのことを話していた。現段階で得られる情報に限界があるのであれば、別の角度から情報を得るしかない。


先ほど話に出ていた釣りに近い行動を試してみるのはどうかと進言したのである。


「はい、方法としては悪くないと思います。私たちをおとりにしているのでそれなりにデメリットはありますが・・・」


デメリット。それはいわば有名税のようなものである。康太は小百合の弟子として、文は同じように春奈の弟子として。そして康太と文がともに行動をしているというのは協会の中でも割と有名な話になっている。


この二人が話題に出てくるという時点で警戒するものがいる可能性も高い。そもそも康太のようなものが拠点を移すといわれて信じる者がどれくらいいるかという話である。


「君らを釣り餌にするかどうかはさておき、いい案だと思うよ。適当な知り合いの情報を流させようかな・・・そうすればもっと確実に情報が集まる」


「私たちではだめですか?」


「釣り餌にしては君たちは大きすぎるね。正直に言えば不適切だと思うよ。むしろ情報を与えてそのあとに動いてほしいって感じかな。それまでは現地のほうの調査を引き続き頼むよ」


「やっぱり・・・不適切でしたか?」


「そうだね。特にブライトビーの場合拠点を移すだけの理由が見当たらない。すでにクラリスがいてさらにそこの店を拠点にしているわけだろう?あの立地を捨てるのはどの魔術師から見ても不自然だ。そしてそれはライリーベル、君も同じだよ」


文も春奈の弟子として春奈の拠点をそのまま使わせてもらっている。魔導書の多いあの場所を捨てて別の場所に拠点を構えるというのはあからさまに不自然だ。


ブライトビーにライリーベル。拠点を移す必要のない二人が同時に拠点を移したいなどと言ったら確実に疑われるだろう。


少なくともすんなりと話が進むとは思えなかった。


「釣り餌のほうは僕が用意しておこう。常に監視をつけてそれらしい人物が話しかけてきたら君たちにも知らせるようにするよ。君らが動けるのは・・・主に夜かな?」


「そうですね、昼間は学校があるので・・・ですが大丈夫ですか?相手はかなり強いレベルの暗示や記憶操作などを使ってくる相手ですよ?」


「なぁにやりようはあるさ。特に今回みたいな相手であれば文明の利器に頼ることにするよ」


文明の利器。その言葉に文はなるほどと小さくつぶやく。


ありとあらゆる暗示や記憶操作の魔術。これらのほとんどは人間の無意識などに干渉することによって効果を及ぼす。


そのため本人もそれらに介入されたことを認識できないが、それはあくまで人間のみの話、もっと言えば術をかけられている本人だけの話なのだ。


つまり本人とは別のところに記録を残しておこうということである。


「小型のカメラとか、レコーダーを用意しようってことですね?」


「そういうこと。ちょっと記録に残るのはよろしくないけど、直接僕のほうからそういう話をすれば相手も少しは警戒してしっかり記録を残してくれるだろうと思ってね」


現代の技術の結晶とでもいうべきか。かつてからは考えられないほどにあらゆる機械は小型化されている。


今はペン型のカメラやレコーダーなど、本当に小さなもので録画や録音ができる。


どこで誰が盗撮盗聴を行っていても気づけないだろうレベルの道具が多々存在するのである。


それが良いのか悪いのかはさておいて利用しない手はない。現段階でほしいのはその話を持ってくることなのだ。


康太でも文でも支部長でもいい。公の場にその人物の情報を記録することが目的なのである。


「でもどうする?アリスみたいに見た目も声も変えてたら・・・さすがにああいう魔術だと太刀打ちできないぞ?あれって機械もごまかせるだろ?」


「そうね・・・そこまでできる魔術師なら本当に危険よ。それこそ支部全体で取り組まないと危ないレベル」


康太が言っているアリスの変装などは康太が思っているよりもずっとレベルの高いものなのだ。


アリスの変装の原理としては基本的には光属性の魔術が使われている。人間の目というのは周りから放たれる光をキャッチすることで初めて認識できているものだ。その光そのものを操作することで実際にあるものを魔術によって改変するのがアリスの使っている変装魔術である。


さらに言えば彼女の使う魔術は通常の索敵なども考慮した特注品だ。声を変えることはもちろん、身長や体形なども魔術を使って変化させている。正確には念動力や障壁の魔術、そして光属性の魔術を併用して人形のようなものをまとう形で変装しているといったほうがいいだろう。


精巧な変装であるために一目では気づけないものがほとんどだ。康太はデビットがついているためにそのざわめきから、近くであればアリスの存在を感じ取ることができるが、それでも完全に把握できるわけではない。


逆に言えば康太のように特殊な条件でもない限りアリスの変装を見破ることはほぼ不可能なのである。


もし仮にアリスレベルの変装が行えるのであればそれは十分以上な脅威となり得る。何せこの世界の誰も見破れないレベルの変装を持っているということはどこの誰にもなれるということなのだから。


「うん、もしそんなことになったら大事件だね。それだけの魔術師がそれだけのことをしようとしている。何か裏を感じずにはいられないよ」


正直現段階でもだいぶきな臭くなってきてるんだけどねと支部長は苦笑している。実際かなり怪しいにおいがプンプンしてきているのは事実だ。


こういった事柄に慣れてきてしまっている康太でも背後に誰かがいるというのは感じ取れる。


面倒ごとを抱え続けてきた支部長は今回の裏に何かしらの人物、あるいは組織がいるとすでに確信を有しているようだった。


そういったところはさすがというべきか、それともそんな特技を持ってしまって不憫だと思うべきだろうか。


「でもよ、現場の調査って言っても限界があるっすよ?もうすでに魔術師から出てくる情報はだいぶ洗っちゃったし・・・」


あの場にいる魔術師の中のまだ十分の一程度しか話を聞くことはできていないが、何かしらの背後があることはすでにつかんだ。


これから情報収集を続けても今までと同じように裏に誰かがいるという確信を深めていく程度の情報しか出ないだろうと倉敷は考えていた。


「そうだね。実際現段階でできることはだいぶ限られている。それこそさっき言った釣りが成功でもしない限りは進展は難しいだろうね」


支部長もどうやら倉敷の意見には同意しているようだった。実際現場を見ていないが何度も面倒ごとを抱えた彼にはあらかたの状況はすでに頭の中に入っているのだろう。


想定できる状況をすべて考慮したうえで、なおかつこうした状況を理解してなお現場の調査を命じるということは何かあるのだろうか。


「支部長はまだ現場に隠された何かがあると思ってるんですか?」


「うん・・・まだ勘の域を出ないけどね。あの場所には特定のグループがいるはずなんだ。君らにはそれを調べてもらいたい」


「グループ・・・ですか?」


「そう。前にも話したと思うけどあの場にいる魔術師の中にもある程度結託してる、というか徒党を組んでる魔術師もいる。そのグループの一つなんだけどね、グループ丸ごと拠点を移動してるんだ」


グループ丸ごと。その言葉に康太たちは目を丸くする。一人程度であれば暗示などの魔術を使ってある程度行動や思考をコントロールすることもできるだろう。一人一人しっかりと術をかけて準備する必要があるが、それさえこなせば実力のある魔術師ならば一人の魔術師に暗示をかけるのは不可能ではない。


だがそれが大人数に同時にとなると話は別だ。一気に移動したとなればそれなりのリスクが付きまとう。

一人の感性を変化させてその場所を気に入らせてもほかの何人もがそれに反対すればグループとしてはその拠点は使えない。


つまりその場所を気に入るように全員に術をかけた可能性が高いということである。


「絶対的な一人がグループの決裁権を有してるのか、それとも全員に気に入るような術をかけたのか・・・」


「あるいはその場所そのものに術をかけて魅力的に見せているのか、あるいはそのグループの中に術をかけ続けてるやつがいるかってところかしらね・・・」


「話が早くて助かるよ。つまりはそういうこと。何かしらの手がかりが得られるかもしれないからね」


新しく出た手掛かりに康太たちはやることができたなとうなずいていたが倉敷は納得していないようだった。


「あの・・・なんでそんな情報今出すんですか?最初から出してくれればよかったじゃないですか」


「あー・・・そのことについてはごめんとしか言いようがないね・・・最初はなんであの場所に集まってるのかもわからなかったし・・・そもそも詳しくあの場にいる魔術師たちのことを調べ始めたのもこの前君らから情報をもらってからだったから・・・」


なにものかが今回の事件の背後にいて、人為的な何かがあるとわかったからこそあの場にいた魔術師たちの行動をつぶさに調べることにしたのだ。


特にグループ丸ごとの移動に不信感を抱いたのは相手の手段がある程度判明してからのことである。


時間にすれば一日二日程度しか経っていないような状況なのだ。今更、というよりはよくこの短時間に情報を出すことができたものだと驚くばかりである。


「トゥトゥ、あんたあれだけの数の魔術師の中からグループであるかどうかだってわからないでしょ?情報くれたんだからそんなこと言わないの」


「まぁまぁ・・・僕ももう少し力になれればいいんだけどね・・・子供に任せっきりっていうのは正直気持ちよくないし」


何より君らに借りを作るといろいろと大変なことになりそうだからねと支部長は笑っている。


康太と文はそれぞれ小百合と春奈につながっている。この二人に迷惑をかける、あるいは借りを作るというのは間接的に小百合と春奈に貸しを作るのと同義なのである。


今まで何度となく迷惑をかけられてきた支部長からすれば可能な限り避けたい事柄の一つがあの二人に借りを作ることなのだ。


特に小百合に借りを作るとろくなことはない。今までの支部長の魔術師人生がそう言っている。


そして似たような何かを康太からも感じているのだ。康太に借りは作らないほうがいいなと支部長の中の何かが叫んでいるのだ。


その叫びに耳を傾けることができるかは支部長次第である。


日曜日なので二回分投稿


ちょっと仕事の関係で今日まで予約投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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