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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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師匠の案

『兄弟子らしい言葉は言えたか?少しあいつの顔つきが穏やかになったが』


「最近忙しかったから構ってあげないとと思いましたよ。師匠神加にひどいことしてないでしょうね?」


『私を何だと思っているんだ。自分の弟子にはある程度甘い采配をしてやっているつもりだぞ?』


「まったく説得力のないお言葉ありがとうございます。まぁ俺が動いてる間の神加のことは姉さんとアリスに任せます。とはいえ・・・どうしたものかな・・・」


可愛い弟弟子のことに関しては心が痛い康太ではあったが、文が行動する以上自分も行動しなければならないのは明白だ。


さすがに文を一人で行動させるわけにはいかない。手伝うと決めた以上しっかりと文の盾役にならなければ約束を違えることになる。それは誰よりも康太が許さなかった。


とはいえ、小百合から新たな情報を得られる、あるいは新しい切り口を模索できると期待していただけに落胆は大きかった。


小百合ならば大分という今まで来たようなことがない場所でも何かしらの情報源になる人物を知っているかと思ったのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。


これは奏や幸彦に話をするべきかもしれないなと感じながら康太は悩んでしまっていた。


『現場の変化がないなら強引に変化をつければいいじゃないか。少なくとも今のままでは得られる情報も変わりないだろう。それなら犯人が出てくることを期待してかき回すくらいしかできることはないと思うが?』


康太は小百合に自分の案を話してはいない。だというのに自分が考えたのとほとんど同じ提案をしてきた。


この師にしてこの弟子ありといったところだろうか。思考回路が小百合のそれと似通ってきているという事実を突きつけられて康太は頭を抱えてしまいそうになるが、今はそんなことよりも重要なことがある。


「そうすると相手に気付かれるからもう後には引けなくなるんですよ。支部長のほうからもいろいろアプローチをかけてもらう予定なのに・・・勝手に俺らだけで話を最終段階まで進めるのはどうかと・・・」


『あのバカにそこまで期待するのが間違いだと思うが・・・まぁお前たちの依頼だ。お前たちの思うようにこなすのが一番いい』


「何を師匠らしいことを・・・なんか変なものでも食べましたか?」


『私はお前の師匠だったと思ったんだがな・・・いい加減にしないと心の広い私でも堪忍袋の緒が切れるぞ』


「師匠の心がどれくらいの広さかは知らないですけど、そういわれるだけのことをしてるってことです。もう少し自覚してください」


『・・・身に覚えがないな。十人に聞いたら十人が良い師匠だと答えるような私に向かってなんてことを言う』


それはひょっとしてギャグか何かですかと康太は笑いながら話しているが、そろそろ無駄話をしている時間がもったいない。


これ以上小百合と話をしても有益な情報がないのならば何か別の視点から情報収集をする算段をつけなければいけないだろう。


「それで師匠、今回のこの状況、新しい情報を得るためにはどんな行動が適切だと思いますか?」


『私にそれを聞くか・・・そうだな・・・あのバカの協力が得られるなら、釣りでもしてみたらどうだ?』


「釣り?」



『今まで移動してきた魔術師の傾向はつかめているのだろう?ならその傾向に従って餌をまけばいい。そうして相手が食いついてきたら釣り上げる。簡単なことだ』


「あー・・・俺らの誰かが拠点を移したいって情報を流すとかそういうことですか」


『そうだな。それぞれの情報を流出させる場所によって犯人とつながっている人物も割り出すことができるだろう』


小百合の言っていることは割と的を射ている。というか的確すぎる対処ではないかと思ってしまった。

要するに康太、文、倉敷の三人のうち誰か、あるいは三人とも拠点を移すことを検討しているという情報を流すのだ。


その情報がどのようなものかは条件によるが、いくつか共通しているのは三人がその情報を流す場所を変えるということである。


例えば術師課、あるいは経理課、あるいは専属魔術師の詰め所など、魔術協会の中でいくつもある部署や場所などによって誰が拠点を移したいと考えているかを変えるのだ。


そして三人の中でそれぞれうわさを聞きつけて引っかかってくれば、その中の協力者、あるいは本人がいる部署が特定できる。


呼び出され、拠点に案内された時点で捕まえてしまえばいいだけの話だが、それだけのことをすると先ほどの攪乱ではないが引き返せない状況を作り出すことになる。


支部長とも話をしてそのあたりを詰めるべきだなと康太は考えていた。


「さすがですね師匠。支部長に頼られてるだけありますよ」


『あいつに頼られても全くうれしくないが・・・というかあいつは私のことを頼りにしているのか?思い切り邪魔だと思っている節があるんだが』


「まぁそれは否定しませんけど・・・一応戦力としては頼りにしてるみたいですよ?師匠戦闘能力と問題解決能力すごい高いですし・・・その分ものすごくいろんな方面に迷惑をかけてますけれど」


『・・・最後の一言だけ余計だ。まったく・・・話は終わりか?私はやることがあるからもう切るぞ』


通話を終えようとする小百合に一言ありがとうございましたと礼を言って康太は通話を終了する。


とりあえずできることはやっておいたほうがいいだろう。今日の方針にどのように影響するのかはわからないが。


「いい情報は教えてもらえなかったけど、いい方法は教えてもらえたわね」


「あぁ、さすがは師匠だ。そっちは?なんかエアリスさんに教えてもらったか?」


康太が電話をしている間に文も自分の師匠であるエアリスに助言を求めていた。


小百合よりずっとまともな魔術師である彼女ならばきっと素晴らしい意見が出るだろうと康太は勝手に期待していた。


「師匠はとりあえず精霊術師に話を聞くことはやってもいいだろうけど効率的ではないって言ってたわ。ついでに言うと現地での調査もそろそろ切り上げたほうがいいかもって」


「ん・・・精霊術師のほうはわかるけど、なんで現地調査切り上げなんだ?なんか不都合でもあるのか?」


精霊術師に話を聞くことは何も無駄でない。だがほとんど魔術師が対象になっているということがわかっている状態で精霊術師に話を聞くというのは適切ではあっても最適ではないのもまた事実だ。


確信を深めるという意味ではやってもいいのかもしれないが、新しい何かを得るためにやる行動ではない。そのあたりを春奈はわかっているのだ。


だがそれならばなぜ現地の調査を打ち切るのか、康太にはそれがわからなかった。


主に現場で動いてきた康太だが、この近辺にはまだまだ情報があるように思えるのだ。


もちろんすでに得ている情報かもしれないし、知ったところで意味のないような情報かもわからない。

だが康太にとって現場をこの段階で見限るというのは多少見切りが早すぎるように感じられた。


「まず第一に、私たちの名前と顔が知られかねない。これは魔術師としての顔と名前ね。偶然居合わせて調べているにしては連日通いすぎ。修業だとしてもこれは目に余るわ。もう少し期間を空けて調べましょうってこと」


「・・・毎日調べるのはおかしいってことか?依頼なんだからそのくらい・・・」


「そうそこなの。魔術師として活動して、依頼を受けているのであれば連日連夜行動しても何の不思議もないけど、私たちは一応ここに修業とかそういう名目で来てるのよ?そんな奴が毎日来たらどう思う?」


「・・・修業熱心な奴だな・・・としか」


「普通は修業は嘘で、何か別の目的があるんじゃないかって疑うわ。私ならそうする。つまりあんまり頻繁に調査しすぎると、犯人側に調査をしてるってことそのものがばれかねないのよ」


調査をしていることが犯人にばれる。それは今更なのではないかなと康太は頭を掻きむしってしまう。


少なくとも康太たちが調査をしている、というかこの辺りで活動しているというのはすでにばれているのではないかと思われる。


どの程度までばれているのかはさすがにわからないが、ある程度警戒されているのは間違いないだろう。

だが文が気にしているのは康太たちの術師名やその姿かたちのことだ。


仮に毎日やってきている人物を見ても、通りすがり程度であれば気にしないだろう。この場すべてを観察しているのであれば一か所でのいさかいは自然に起こり得る事象だ。そこまで注目する必要もない。


だが連日連夜、康太たちが訪れる場所で問題が起きればそうもいかない。相手は康太たちをターゲットとして警戒するだろう。


警戒されたら仮に康太たちが先ほど言った情報を流して釣る作戦を実行しても徒労に終わるかもしれない。


「要するに相手への認識の度合いに気をつけろってことか。毎回毎回問題を起こせば当然注視されるってことだな?」


「まぁそういうことね。注視された結果相手がこっちにアプローチかけに来てくれれば本当はありがたいんだけど・・・」


康太たちの存在を邪魔に思い、直接排除しに来てくれれば非常にありがたいのだが、犯人本人が動き出すとは考えにくかった。


そんなに簡単に話が済むならこんなに悩んではいない。これだけ警戒し、なおかつ秘密裏に行動している魔術師がちょっとした混乱を起こした程度で自ら姿を現すとは考えにくいのだ。


「とにかく、今日まで毎日来てたけど、これからはランダムに期間を置きましょう。必要とあればビーがさっきクラリスさんと話してた釣りの作戦と並行して行うべきね」


「どっちにしろ時間が必要な作戦だからな・・・場合によっては情報を小出しにする必要もあるだろうし」


情報戦というのは実際の戦闘のように瞬時に決着がつくというものではない。そこに至るまでの過程や道程、経過をすべて加味したうえで導き出されるものだ。


そのためどうしても時間がかかってしまう。毎日のように調査をしていてはその速度がついてこられなくなってしまうのだ。


ある程度結果を確認したいのであればある程度時間を置くしかない。


「じゃあとりあえずこの辺りの調査はやめるってことか?精霊術師云々は?」


「残念だけど中止ね。実際精霊術師の探し方もわからないし・・・少なくともあんまり活発に動きすぎると目立つっていうのは間違いないわ。ちょっとやり方を変えるべきなのかもしれないわね・・・」


今まで常に全力で動き続けるというのが康太と文の中での共通事項だったために、こうして一呼吸置かなければいけないというのはなかなかに貴重だった。


これが本格的な情報系の依頼なのだなと康太と文は状況変化の速さに目まぐるしさを感じていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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