表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
612/1515

全国制覇まで

『いるわけないだろう。私は九州は三回くらいしか行ったことがないんだ。しかも今回お前らが行ってる・・・大分県だったか?そこには一度も行ったことがない』


さっそく康太が事情を説明したのだが、それに対する返答がこれだった。


小百合でも行ったことがないという事実に、この場所、というかこの大分県が魔術的に今まで非常に平和だったということがよくわかる。


逆に行ったことのない県がどこなのか知っておく必要があるかもしれないなと思い始めていた。


「あぁ・・・そうですか・・・師匠いろんなところに行ってるからてっきり全国制覇してるくらいに考えてたんですけど・・・」


そう簡単にいくかと小百合はため息をつく。電話の向こう側にいるにもかかわらずその呆れ顔が見えるようである。


日本全国行くべきところがあるかと言われればそういうわけではないということだろう、康太は少し落胆してしまっていた。


「ちなみになんですけど、師匠って今まで行ったことのない県はどれくらいあります?」


『まだまだたくさんあるぞ。南のほうから・・・九州の鹿児島と長崎以外、山口、兵庫、高知、三重、和歌山、石川・・・あとどこだったか・・・中央から北のほうは割と行っているんだがな・・・』


「へぇ・・・ってことは沖縄とか北海道とかも行ったことあるんですか?」


『あるぞ。といってもその二つは魔術的な問題ではなく私用で・・・ただの旅行で行っただけだがな』


「なんですかそれうらやましい。俺も行きたいな・・・」


『無駄に金があるんだからそれでいけばいいだろう。時間を作れば学生なんていくらでも遊べるんだ』


小百合の言葉は確かにその通りなのだ、納得もできるしその通りだと思うのだが、なぜだか康太は腑に落ちない何かを感じていた。


小百合自身が普段からしてフリーターに近い自堕落な生活を送っているからだろうか、彼女が時間を作ればという言葉を言うと非常におかしいように感じてしまう。


「ちなみにですけど、師匠の知ってる情報屋とかで九州のこととか・・・特に精霊術師とかのことに詳しい人っていますか?」


『私の知り合いという時点で察してくれると助かるんだがな。そもそもそういう奴は特殊だ。以前の京都で会ったあいつは特殊な部類だと思え』


京都では小百合の知り合いである情報屋にいろいろと話を聞いたが、どうやら彼はだいぶ特殊な部類であるらしい。


小百合の知り合いとなるには少なくとも小百合を利用しようとするだけの胆力と、小百合の逆鱗に触れないようにする慎重さを兼ね備えているものでなければ難しいのだろう。


そう考えるとあの京都という場所は修羅がそろっているなかなかの危険地帯だということをいまさらながら再認識してしまう。


「じゃあ一から調べていくしかないですね・・・なんとも面倒な・・・」


『面倒でもやるしかないだろう。何を思って精霊術師を探しているのかは知らんが、ある程度魔術師がいない場所などもいるだろうからそのあたりを探して・・・ん?なんだ?』


話をしていると急に小百合の意識が電話している康太から別のものに移る。いったい何だろうかと思っていると電話の向こう側の気配が変化したことに康太は気づけた。


『お兄ちゃん、神加です』


「お?神加か?まだ起きてたのか」


現在時刻は二十二時をすでに回っている。年端も行かぬ少女である神加からすれば起きているのはつらい時間だろう。


だというのに起きて何かをしているのか、どうやら小百合から受話器を奪い取ったらしい。正確には代わってもらったというべきだろうが小百合が話している最中だというのに受話器を譲ったということはおそらく頑なに譲らなかったのだろう。


幼いながらになかなかの胆力の持ち主だと康太は少し感心してしまっていた。


『お兄ちゃん、昨日もその前も夜にお店にいないから・・・お話しあんまりできなかったから・・・』


「あぁ・・・ごめんな、最近ちょっと依頼で立て込んでる。昼間は神加は修業しちゃってるから話しかけにくくてな・・・」


普段の康太の生活サイクルから考えると、午前中から夕方にかけては学校。放課後に少し部活をやってそれから小百合の店にやってくるのだが、そのあたりは神加もだいぶ修業に熱が入っている時間だ。


その時間にやってきても神加とそう話す時間は作れない。何せたいてい疲れて寝てしまうか、高い集中を維持したままであるため邪魔をするのは良くないと思ったからである。


そうなると神加が一度起きる、あるいは修業を終えて起きている夕方から夜にしか話す時間はないのだが、あいにく康太は最近その時間に調査に出かけてしまっている。


そのせいで神加と最近話すことができないのだ。おそらく神加はそれで寂しくなって電話ででもいいから話をしたくなったのだろう。


アリスという話し相手がいるのだろうが、神加はアリスを変な子扱いしている。あまり話しかけたくないのか、本能から警戒しているのか、どちらにせよアリスはなかなかに近づきがたい人物であるらしい。


「今度ひと段落したらいろいろ話そう。一緒に遊んだりしたいしな。ちょっと都合つけて時間作るよ。それまでいい子で待ってるんだぞ?」


『・・・うん。待ってる。お仕事頑張ってね』


神加のお仕事頑張っての言葉に康太は何やら奮い立たされるものがあった。これが世のお父さん方が感じている感覚だろうかと思いながら小さくため息をついてお休みと小さくつぶやく。


神加ももう眠かったのか、お休みといって受話器を小百合に戻していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ