人伝いの情報収集
「で?それじゃあ現場での調査は打ち切りか?とりあえず俺らができることって現場云々の話になりそうだし」
「何言ってるのよ。このまま継続するわよ。無駄かもしれないけど無駄ではないもの。何もしないでただ待ってるなんてまっぴらごめんよ」
「ベルらしいお言葉ありがとうございます。でも何かしら目的がないと難しいぞ?それこそ前に言ったような攪乱目的にするか・・・新しい情報源を探るか・・・」
「でも新しい情報源なんてあるか?それこそこの辺りじゃろくに・・・」
少なくとも現段階での情報収集は移動してきた魔術師が対象となっている。彼らの境遇や状況などを判断することで正確な状況判断ができるというものだ。
無論文の言うようにまだ情報源がいる時点で無駄ではない。この辺りにいる魔術師の何割が連れてこられた者たちなのかを正確に把握することは必要だし、それらを調べることに康太たちも反対ではないものの少しアクションとしては弱いような気がしてしまうのである。
もう少し積極的に、状況を一変させるとまではいわないが、ある程度次の段階に進められるような一手を打つべきではないかと考えていた。
「情報源がないわけじゃないのよ。探すのがちょっと手間だけど」
「というと?具体的には?」
「精霊術師よ」
精霊術師。倉敷のように魔術師としての素質に欠陥を抱えたもののことである。今回の移動騒動がいったいどの範囲で行われているのかはさておき、その種別くらいは把握しておくべきだと思ったのだ。
「なるほど、精霊術師が今回の移動の対象になっているかどうかの調査ってわけだな?一応しておくべきことか」
「えぇ、今回の拠点譲る君がどんな考えでどういうつもりでやってるのかは知らないけど、その中に精霊術師も入ってるかどうかを確認したいのよ。というわけでトゥトゥ、あんた何とかしてこの辺りの精霊術師とコンタクト取れない?」
「んな無茶な・・・精霊術師って基本的にあんまり表に出ないんだぞ?それこそ探すのだって苦労するよ」
「あんただって精霊術師でしょうが、私たちみたいに横のつながりとかあるんじゃないの?」
魔術師の同士の横のつながりというと康太と文のように同盟関係を結んでいたり、小百合と春奈のように同世代の魔術師として活動していたりといろいろと繋がりはあるものだ。
倉敷が普段どのような活動をしているのか文はよく知っている。主に春奈の手伝いをすることで術式を教えてもらっている日々だ。
だが手伝いだって毎日ではない。適当な日には休みを入れ、どこかに行っているようなそぶりもある。
何かしら精霊術師としての活動をやっているというのが文の考えだった。その中で横のつながりがあるのではないかと考えたのである。
「まぁ・・・近所であれば精霊術師も何人か知ってるけどさ・・・この辺りとなると・・・だってこの辺りって九州なんだろ?普通の知り合いだっていないっての」
「まぁそうなるって。俺だって魔術師の付き合いがあるかって言われると微妙だしさ。ベルだって俺以外の魔術師の知り合いってそこまでいるか?」
「・・・私は結構いるわよ?師匠のつながりでいろいろと紹介されてるし」
「・・・えっと・・・この九州にいるか?いないだろ?」
「大分ではないけど鹿児島に住んでる人であれば・・・前に方陣術教えてもらったことがある人がいるわね」
思わぬ文の人付き合いの良さに康太は目を丸くしてしまっていた。
正確には文の交友関係ではなくエアリスの顔の広さを利用したものなのだろうが、それにしたって文に自分以外の知り合いがいるとは知らなかっただけに康太は少しだけ悔しくなってしまっていた。
なんだか自分だけあまり人付き合いをしていないように思えてしまう。もう少し文たち以外とも付き合いを持つべきなのだろうかと少しだけ不安に思ってしまった。
「と、とにかくだ。こんな場所にピンポイントに知り合いを探すほうが難しいって。なんか別の調査方法を探そうぜ?こんな場所じゃ、精霊術師が表立って行動するのも控えるだろ・・・」
周りが魔術師だらけでその数も多いとなれば精霊術師たちが活動を自粛するのもうなずける話である。
それどころ活動圏を意図的にずらすことだってあり得る。それだけの危険地帯なのだ。
精霊術師をこの辺りで見つけるのは至難の業といえるだろう。
「この辺りに情報屋でもいれば話が早いんだけどね・・・さすがにこの辺りにはいないだろうし・・・」
「師匠に聞いてみるか?あの人変なところで顔が広いし、もしかしたら知ってるかもしれないぞ?」
「あー・・・確かにあの人いろんなところに飛び回ってるもんね・・・どんな人と知り合いでも不思議じゃないわ」
基本的に小百合は商談や依頼があればどこにでも行く。そのためいろんなところで敵を作るが同時に知り合いも作っていくのだ。
小百合の存在が必要な人物がいるのもまた事実。そのために小百合が必要だと判断した人物は比較的小百合と友好的に接する。
特に情報屋などの状況が動くことを望む人間からすれば小百合はいい顧客であり良い状況変化の材料だ。
それなりに情報屋に知り合いがいてもおかしくはないし、この九州にその知り合いがいても別段不思議ではない。
とりあえず康太は小百合に話を聞くべく携帯で小百合を呼び出していた。




