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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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記憶にない手がかり

「とにかくあんたら、もう厄介ごとおこさないでよね?周りの人たちすっごく迷惑そうにしてたわよ?」


「俺に言うなよ。こいつが先に霧出してきたんだから。ついでに言うと先に攻撃してきたのもこいつだぞ」


「僕は霧は出していないぞ。先に攻撃したのは認めるが」


先ほどの霧を出したのは倉敷だ。あれが戦いの始まりになったのは間違いない。あれが出てきたせいで火の魔術師はそれを振り払うために火炎をまき散らし、それを止める口実としてこの水の魔術師が襲い掛かってきたのだ。


このままだとじゃあ誰が霧を発生させたのかという話になってくる。この流れはまずいと感じた倉敷だが康太と文は逆にこれをチャンスだと考えていた。


「てっきりこのストーカーが原因だと思ってたけど、そういうわけでもないみたいだな・・・ベル、一応この辺りの魔術師に事情聴取しとくか」


「そうね・・・この人たちの話もある程度聞いておきたいし・・・少なくともこの人たちの争いが頻繁に起こっているならそれだけの対処をしなきゃいけないし・・・最悪協会のほうに話を通す必要がありそうだしね」


先ほどのような戦闘を頻繁に起こされると協会としても非常に迷惑がかかる。ある程度周りにいる魔術師に話を聞く必要があるためこの話の流れは自然である。


これならば周りの魔術師に話を聞くきっかけを作れる。この辺りにいる魔術師への事情聴取のついでに世間話程度の感覚で拠点の話をすることができるかもしれない。


これは大きな前進だった。


「とにかくあんたらはちょっとこの場で待ってなさい。トゥトゥ、こいつらの見張りは任せたわよ」


「俺かよ・・・俺で大丈夫か?」


「負傷者なんだからちゃんと応急処置くらいはしておいてよね?ある程度はできるでしょ?」


「そりゃある程度はできるけどさ・・・こいつ自分でやってないか?」


倉敷は水属性の術を扱える。その中には水属性を基準にした治療の術も存在している。もちろん倉敷も治癒の術式を扱うことができるのだ。


といっても春奈のところに存在した術式であるために、覚えたのは割と最近で完璧に扱えるとはいい難い。


そして倉敷の言うように水の魔術師は康太から受けた鉄球の攻撃でできた出血を自分で止めている。体内に残ったままの鉄球があるために傷口をふさぐことはできないが、血を止めること自体はできているためにこれ以上の処理はできないのではないかと思えた。


「まぁ応急処置の必要がないのなら何よりだわ。とにかくあんたたちはおとなしくしておいてよね?これ以上騒いだり迷惑かけたら本当に協会に話通すからね?」


「この人としては話を通してこの二人が同じ区域にいないように協会に計らってもらったほうがいいんじゃないか?そのほうがいろいろといい気がする」


「そりゃありがたい。ストーカーから逃げられるなら協会に逃げ込むぞ」


「それならなおさらおとなしくしてなさい。周りの人から話を聞いて、その話を統合して支部長のほうに通しておいてあげるから」


支部長という言葉が出たことでその場にいた二人の魔術師は一瞬呆けた後で顔を見合わせる。


康太たちが支部長と繋がりがあるとは思えなかったのか、それともそんなつながりのある魔術師には見えずうそを言っているのではないかと疑っているのか、どちらにしろ驚いていることには変わりがないようだった。


「お前ら専属の魔術師なのか?」


「そんなしっかりした魔術師ならこんなところうろついてないわよ。個人的にちょっと付き合いがあるってだけ。うちの師匠が支部長の知り合いで仲良くさせてもらってるのよ」


だからある程度話はしやすいと思うわと付け足しながら文はため息をつく。うそは何一つ言っていない。支部長と文の師匠である春奈は小百合と同じく昔からの知り合いだ。


そういう意味もあって文も支部長とは比較的接触しやすい立場にある。


もとより今回の依頼を受けていることもあって接触自体は容易なのだが、依頼を受けていることに関しては言わないほうがいいだろう。


せっかくここまで話を進められたのにそれを無為にすることはない。


「というかお前らはなんでこんなところにいる?この辺りの魔術師じゃないだろ?」


「修業の一環よ。この辺りに知り合いの魔術師を配置したらしくて、それを探して来いって修業・・・こいつらはお目付け役ね。こんなに魔術師がいるとは思わなかったからちょっと大変で・・・」


「はー・・・妙な修業をさせるんだな・・・っていうかまだ一人前じゃないのか」


「一応ね。こっちにいるやつもまだ半人前よ?」


先ほど自分たちと戦った康太でさえも半人前ということに二人の魔術師は素直に驚いているようだった。


戦闘能力だけなら既に一人前の魔術師といってもいいレベルの康太が半人前。つまりまだまだ伸びしろがあるということでもある。


この二人は康太のことをよほど才能のある魔術師なのだなと誤認してしまっていた。


実際は戦闘能力に関してはほぼ完成しつつあり、半人前なのは一般的な魔術が未習得であるためなのだがそのあたりは知らぬが仏というところである。


「とにかく話を聞きに行くから。トゥトゥあと頼んだわよ」


「了解。気をつけてな」


「言われるまでもないわ。それじゃビー手分けして話聞きに行くわよ。くれぐれも面倒を起こさないでね」


「わかってるって。平和的にお話し合いをさせてもらうよ」


なぜ康太が言うと物騒に聞こえてしまうのだろうかと文は少し不安だったが、康太は何も戦闘狂というわけではない。必要のない戦いは避けるためにある程度対応も考えるだろうと信じ手分けして周囲の魔術師の話を聞くことにした。












結果的に言えば、あの二人の魔術師の周囲にいた魔術師のほとんどの話を聞くことができた。


この周辺を拠点にしており、なおかつ先ほどの戦闘を感知しており康太たちのことを割と好意的にとらえていたおかげで話を聞けた魔術師は十二人。


そしてその中の約四分の三、つまり九人の魔術師がもともとはこの辺りにいた人間ではなく最近別の場所からやってきたのだという。


九人の中で、今までも話に出てきた『拠点を譲る』という提案をしてきた人間の数は八人。ほとんどの人間がその人物の提案を受け入れていたということになる。


その八人の全員がこの場所、という自分たちが拠点としている場所を気に入っているという発言をしていた。


別の場所からやってきた魔術師はこれで十二人。その中の十人が接触し、なおかつその怪しい提案を受け入れ、さらにみな一様に似たような感想を抱いている。これは明らかに異常な状態だ。


みなそれぞれ関わりを持たず自分たちの状況を話し合わないからこそこの異常な状態に気付いていないが、もしこの辺りの魔術師たちが会合を行い自分たちの近況を話し合えばこの状況の異常さにすぐに気付くだろう。


自分たちが何らかの魔術をかけられたということにも気づくかもしれない。


逆に言えば指摘されない限り、いや指摘されたとしても気づけないだけの精度を持った暗示、ないし感性を操作するだけの魔術を扱えるものがこの状況の背後で動いているということになる。


「どう思う?」


「どうもこうも確定的だろ。一人二人ならまだしもこれで十人の確約ゲットだぞ。明らかに何かしらの目的を持って行動してると思っていいな」


「でもいったい何が目的で?結局そこに行き着くけどあんなことして何の意味があるんだ?」


康太たちは一度大分県にある現場の調査を切り上げ日本支部に戻っていた。


支部長への報告をする前に今の状況を正確に把握するために一度部屋を借りて話し合っているところである。


現状は正直に言えばあまり良くない。調査の成果としてはこれ以上ないものがあるのだろうがこれを一つの事件としてとらえるとかなり悲惨な状況といえる。


異常であることに気付けていない。それだけの技術を持った魔術師が暗躍しているという時点でかなり厄介だ。


仮に支部専属の魔術師が動いても解決できるか怪しいところである。


「仮にだぞ?仮に支部長にこの事件の解決をお願いされたとして、できると思うか?」


「相手が出てこないのなら不可能に近いわね。もうすでにあの場所に興味をなくしている可能性もあるし・・・いっそのことあの場所の魔術師を一か所に集めて話し合いでもさせる?そうすればいやでも自分たちの状況に気付けるでしょ」


「あんな警戒しまくってる連中をか?不可能に近くね?」


「一人ずつ倒していけば問題ないだろ。ちょっと面倒だし手がかかるけど」


「すぐ手を出すことを考えないの。でもビーの言うことももっともよ。一番手っ取り早くて一番面倒な方法ではあるけど確実ではあるわね」


あの場にいる魔術師一人一人を説得していたらいつまでかかるか分かったものではない。それならばあの場にいる魔術師を不意打ちでも何でも倒していって一つの場所にまとめたほうがまだ早い。


ただあの場所にいる魔術師たち全員を相手にすることを考えるとなかなかに難しい。今の戦力だけでは持て余すのは間違いない。


「ていうか今問題なのはさ、その拠点を譲ってくれるってやつの詳細がいまだに全くわかってないってことなんだよな」


「そこなんだよな・・・明らかにやばそうな感じがする」


今日を含めて合計で十六人の魔術師に話を聞くことができた。その中のうち十人が件の魔術師に接触しているというのにだれ一人その人物のことを覚えていないのだ。


これは明らかに異常だ。拠点を譲ってくれた、しかも自分でそれなりに気に入っている場所を譲ってくれた人物だというのに名前はおろか特徴すらも覚えていないというのは明らかに異常だ。


仮面をつけていたとかそういう理由で顔の特徴がわからないのならば仕方がない。だが中には昼間に直接会って拠点を見に行ったものもいたのにもかかわらず特徴を何一つ覚えていないものもいた。


男か女か、髪は黒いのか茶色いのか、長いのか短いのか、身長はどれくらいなのか、体格はどの程度か、何一つわかっていないというのはあまりにもおかしい。


「・・・なんか前にも似たようなことがあったわね・・・ビー、覚えてる?」


「え?そんなことあったっけ・・・?特になかったように思うけど・・・」


「・・・長野のことよ。マナを集める禁術を扱ってた魔術師が、それを教えてもらったはずの相手を覚えていなかったってこと」


「・・・・・・あー!はいはいそんなことあったな」


文に言われて康太はようやく思い出す。今は春奈が持っているマナの結晶。それを作り出すきっかけになった長野でのマナ収集事件。


あのマナの収集を行うための術式そのものが禁術であるために何者かに禁術を教えてもらうか、あるいは自分で自力で生み出すか、自分で規則を破って禁術の収めてある場所に侵入して術式を入手するかしかない。


本人が教えてもらったと供述していてすでに調べもついている。記憶を読んでもそれらしい人物の記憶は残っていないのに彼自身が禁術を入手した記憶もない。


結局その何者かがわからず、今も調査が進んでいるもののあまり進展はないということだった。


日曜日なので二回分投稿


忙しくなってきてちょっと大変。予約投稿が増えるかもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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