表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
606/1515

追うもの追われるもの

「まぁ何でもいいけどさ・・・とりあえず話を聞いてくれるか?こんなところで暴れまわってんじゃねえよ。一般人に見つかったらどうするんだ」


康太の立っている屋根の上にウィルがやってくるのを見計らって、康太は二人の魔術師に視線をそれぞれ向けてからため息を吐く。


火と水の魔術師。対極に位置する属性を持つこの二人の魔術師がどのような関係なのかは知らないが、妙に親しげ、というか確執を抱えているあたり昔からの知り合いなのかもしれない。


もしかしたらいい情報源になるかもしれないなと思いながら康太は二人をウィルによって拘束していく。


水の魔術師も虚勢を張っていたがもう動ける状態ではなかったらしく、ウィルの拘束から逃れることもできずにつかまっていた。


それを見て周りの魔術師たちは安堵の息をついている。徐々にではあるが一般人への対処をやめ、この状況がどのように変化するのかを見守る構えのようだった。


いい空気を作れているかもしれないと思いながら康太は道路上にいる文と倉敷に遠隔動作で合図を送っていた。


どのタイミングで二人がやってくるかは二人に任せたほうがいい。少なくとも康太が決めるよりはずっといい。


周りの状況の把握も含め可能ならばこの辺り一帯の魔術師からも話を聞きたいところだった。


「で?なんであんなに暴れてたんだよ。縄張り争いか?」


「・・・そんなんじゃない。こいつは僕が倒す、それだけだ」


「だそうだ。ことあるごとに突っかかってくるからもう慣れっこになってるけどな」


ことあるごとに突っかかってくる。いったいどのような理由があるのかはさておきいろいろと思うところがあるのだろう。


捕まったままの水の魔術師はおそらく仮面の下では苦虫を噛み潰したような表情をしていることだろうが仮面のおかげでそれは見えない。


見えたほうがよかったのか見えないほうがよかったのかはさておき、康太は再び大きくため息をついていた。


「どんな理由があったにせよ、あれだけ派手に暴れるのはまずい。そのくらいわかるだろうが・・・少なくともあんたたち二人とも結構実力あるんだからさ」


「それを倒したお前はそれ以上・・・とさりげなく自慢されている気分だな」


「あんなんでまともに戦ったって言えるか。不意打ち特攻がうまく決まっただけだっての。少なくともあんたたちのほうが魔術師としては格上だろ」


謙遜でも嫌味でもなく、康太は心の底からそう思っていた。今回はウィルをはじめとする文、倉敷の援護があったからこそ何とか捕縛することに成功したが、もしこれが完全に一人の実力で倒せと言われれば康太はおそらく負けていただろう。


炎の魔術師の攻撃をよけきることができずに焼かれ、水の魔術師の攻撃から逃げきれずに飲み込まれ、それぞれ戦闘不能にされていたはずだ。


まだまだまともな防御手段がないために広範囲に高威力の攻撃をまき散らされるとどうしても対処しきれない。


それこそ先ほどやったような特攻に近い一直線に接近する以外できなくなってしまうのである。


この二人のようなタイプの魔術師は特に苦手だといえるだろう。高威力に加え広範囲。ただでさえ苦手な水の魔術師はおそらく倉敷のフォローがなければ普通につかまっていたことだろう。


もう少し水属性の魔術に対して対応力をつけなければと思いながらどうしたものかと悩んでいるとその場に康太が待っていた二人がやってくる。


「ビー、大丈夫?」


「随分派手にやってたけど・・・こいつらが犯人か?」


やってきたのは一度この場を離れていた文と倉敷だった。


この辺りの魔術師の索敵範囲から逃れ、別の場所からやってきたことを演出するために別の場所へと移動していたのである。


ようやくやってきたかと康太は内心安堵の息をついていた。


「遅かったな。もう終わっちゃったよ。もうあと数分早く来てくれれば楽だったのに」


先ほどまで一緒にいて、戦闘中にもしっかりフォローしてくれていたというのに何という言い草だと、二人は思ったが、今はそういう演技をしているのだ。この場は康太に合わせなければと文句を言いたいのをこらえながら悪かったよと肩をすぼめて見せる。


「戦闘の原因は?どっちかがなんかやらかしたの?」


「なんでも片方がもう片方の熱烈なファンらしい。こいつを倒さなきゃ気が済まないそうだ」


「何それ。ちょっと純粋に気持ち悪いんだけど」


「ひでぇな・・・男同士のライバル関係みたいな感じだろ?結構熱いじゃんか」


実際はライバルというべきではないように思える。妙に執着している感じがあるためにどちらかというと病んでいるような気がしなくもない。


男同士でそれはどうなのだろうかとも思えたが、別にそういう趣味があっても不思議はないだろうと康太は自分に言い聞かせていた。


その対象が自分に向かないことを祈るのみである。


「まぁまぁ、個人の趣味嗜好はいいじゃないか。とりあえずこいつらから話を聞こうぜ。いろいろとな」


「そうね・・・いろいろと聞きたいこともあるし」


そういって文は二人に目を向けた後周囲の魔術師に目を向ける。この辺りの魔術師はこの二人のいさかいを止めたこともあって康太たちに好意的な視線を向けているようだった。


これなら一度に大勢の魔術師から話が聞けるかもしれないと考え、文は言葉を選びながら二人から話を聞いていく。


「つまり、あんたはこの人を追いかけてこっちに来たのね?」


「そうだ。こいつが行くならどこだって行く。たとえ地獄の果てであろうともね」


文が代表して話を聞くと、この魔術師二人はずいぶんと前から争っているらしい。いや争っているというよりは一方的にこの水の魔術師が突っかかっているというべきか。


先ほどまで荒々しく炎をまき散らしていた魔術師の印象が大きく変わってきているのを三人は実感していた。


短気かつ攻撃的な火を扱う魔術師に対してそれを止めようとする冷静な水の魔術師という印象だったのだが、暴れん坊の火の魔術師に妙に固執する水の魔術師という印象に変化してきている。


「で、あんたはなんでこんな場所に?」


「わかるだろ?こいつから逃れるためだよ。こいつのせいでもう何度も拠点を変えてるんだが、ここまで来るとはな・・・」


「ちなみにあんたの拠点って・・・あんたが自分で選んだの?」


拠点を移す。今回の話の肝になる部分であるために文は言葉を選んで慎重に問いかけていた。


拠点を移した時にもし何者かの紹介があったのであればその人物を覚えておいてほしいのだが、覚えていてくれるかははっきり言って運だ。こればかりはどうしようもない。


「いいや、ちょうど拠点をどこにしようか悩んでたら拠点を譲ってくれるってやつに会ってな。そいつの話に乗ったんだ。幸いまぁまぁいいところだったし距離もあったからこいつも追ってこないと思ったんだが・・・結果は御覧の通りだ」


「・・・それは・・・ご愁傷様ね」


もともとどこを拠点にしていたかは知らないが、九州まで足を延ばしたのにと火の魔術師はかなり参っているようだった。


ここまで来るともはやストーカーの域に達しているように思えてしまう。何がここまで彼を駆り立てるのか、なぜこうまで追い回すのか。それはおそらく本人にしかわからないのだろう。


とはいえ、昨夜の魔術師に引き続き拠点を誰かに譲りたいという何者かがいたのは確定的になった。


四人のうち二人がこのような提案を受けた。話を受けなかった二人のうち一人は長年この辺りに住んでいた魔術師で、もう一人は熱烈なストーカー。これはほぼ確定なのではないかと思いながらも文と康太は顔を見合わせて悩んでいた。


「追ってくるのが女だったらうれしかったんだろうけどな・・・全くそのあたりはうまくいかんもんだよ」


「ていうかそれならまた拠点変えたらどうだ?少なくともここにいるよりかはましだろ。かなりこの辺り混んでるし」


「そうは言うけどな、拠点を移すって結構手間なんだぞ。それにこの辺り結構気に入ってるしな」


気に入っている。昨夜あった魔術師からも出てきたセリフだ。


人間の感性を操作する魔術があった場合このような考えを押し付けることも可能なのかもしれない。


この場所から離れられないようにする。それが場所にかけられた魔術なのか人にかけられた魔術なのかはまだ判別できない。


昨夜見せてもらった魔術師の拠点には特に変わったところはなかった。術式がかけられたような痕跡も文が見た限りは見当たらなかったためにおそらくは人にかけるタイプの魔術であると思われるが、まだ確定できないうえにデータが少なすぎる。


もう少しデータを集めて話を聞きたいところだった。


「ていうかあんたはどうやってこいつが拠点移したのを調べたんだよ。なんか方法あったのか?」


「そんなこと話すか。僕の専売特許だぞ」


「ストーカー技術が専売特許っていうのもなんだかなぁ・・・どうせ追うなら女の子でもストーカーしとけよ」


「ふざけるな。僕にそんな趣味はない」


「・・・え?こいつマジモノなの・・・?いや、まぁうん・・・別にそういうのを否定はしないけどさ・・・」


「おい、なんだかすごくいやな勘違いをしていないか?」


女の子を追う趣味がないといわれると女の子そのものに興味がないように聞こえるかもしれない。というか事実康太はそのように受け取った。


文と倉敷、そして拘束されたままの火の魔術師も少しだが水の魔術師に対して距離をとろうとしていた。

本当かどうかはさておき狙われないように注意したほうがよさそうな人物であるのは間違いない。


「おい!違うからな!僕はちゃんと女の子が好きだぞ!」


「いやいやいやいや、さっきのセリフ間違いなくそういうアレだったろ。別にいいんだぜ?今の世の中そういうのにも寛容じゃないといけないからな」


俺はノーセンキューだけどと倉敷は笑っている。だがその笑いが本物ではなく少しだけひきつったものだということに康太は気づいていた。


こういう時に精霊術師の半分だけの仮面というのは表情がわかってしまっていけない。


ポーカーフェイスを身につけろとまではいわないが、あからさまに表情を変えるのは相手を刺激してしまうのだ。ある程度控えたほうがいいのは間違いない。


少なくともこういった性癖や趣味趣向のことに関しては特に、ある程度許容してしかるべきだろうが反感を買うような反応は避けたほうがいいだろう。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ