表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
60/1515

兄弟子の言葉

「おや・・・ライリーベル、今日も来ていたのですね」


「あ・・・ジョア・・・さん」


訓練場の扉が開きやってきたのは康太の兄弟子であるジョアこと真理だった。


こうして小百合の訓練を受けるようになってから、彼女は康太と文の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる。


栄養補給や傷の手当、アドバイス等々先輩の魔術師としてたくさんのことを教えてくれていた。


魔術師として過ごした歳月だけならば文も負けていない。それどころかむしろ勝っているかもしれないが本当の意味で魔術師として生きてきた彼女には敵わない。


魔術を扱うだけが魔術師ではない。魔術師としての活動をしてきた歳月の違いこそ本当の魔術師としての評価なのだ。


自分はまだまだ実力が足りない、そう言う意味では彼女の意見は非常にためになる。


なにせ彼女は異端である小百合の一番弟子にして、一人前の魔術師なのだから。


小百合の指導を受けてなお普通でいられるというのはかなり特殊な部類と言えるだろう。なにせあれだけの訓練を施され、そして偏った知識を詰め込まれてなお周囲から普通の魔術師として認識されるというのは並大抵のことではない。


恐らく血のにじむのような努力と研鑽があっただろう。そのすごさは文の師匠であるエアリスも認めるところである


「今日もずいぶんと手厳しくやられたようですね・・・相変わらずというかなんというか・・・」


「い・・・いえ・・・むしろありがたいです・・・厳しいですがその分得られるものもありますから・・・」


魔術師として訓練しているのだ、これが生易しければ訓練とは言えない。少なくとも小百合は自分の為を思って厳しく接してくれているのだ。


エアリスとはまた別の形の師匠としての姿。自分以上に康太には厳しくしているようだったが、だからと言って自分との相手の時に手を抜くようなことはしない。


もちろんある程度死なないように加減をしても、死ぬ直前まではほぼ全力で打ちのめしてくるのだ。


それは指導を受ける身としてはありがたい。厳しすぎるのは望むところなのだ。だからこそ自分は修業の見学と体験を申し出たのだから。


「あ、ビーの槍届いたんですね・・・なんか竹みたいですけど・・・」


「あぁ・・・実際は竹じゃないみたいですよ?見た目が竹ってだけで」


「なるほど、偽装用の竹ですか・・・師匠の事だから竹箒に見せかけるとかさせるつもりですかね」


文の怪我の具合を確認しながら康太が振るう槍を視界に入れている真理の言葉に実際は話を聞いていたのではないかと思えたが、恐らくは彼女の付き合いの長さからくる予測だったのだろう。


その予測は完全に的中している。さすがは一番弟子といったところか、恐らく小百合がやろうとしていることの八割以上は彼女は予測できるのだろう。


こういう付き合いの長さは大事なのだなと文は傷の手当てをされながら感心してしまっていた。


「あの・・・ジョアさんはビーのことについてどう思いますか?」


「どう・・・とは?」


「その・・・魔術師らしくない戦い方をすることについて」


兄弟子である彼女は小百合と違って普通の魔術師だ。可能なら康太にも同じように普通の魔術師になってほしいと望むかもしれない。


だが師匠である小百合がそれを許さない。だからこそ口出しできないが本心としてはどうなのだろうかと思ってしまうのだ。


「んー・・・まぁ確かに普通であるに越したことはないかもしれませんね。普通というのはそれだけあらゆる状況に対応できるという事。逆に特殊というのはそれだけ対応できる条件が限られるという事ですから」


可能なら普通の魔術師として成長し、自分と比肩するほどの魔術師になってほしいと考えているようだが、真理は諦めたような表情をしながら小さくため息をついてしまう。


恐らく彼女はすでに小百合がなぜ康太にあのような指導をしているのか、その意味を理解してしまったのだ。


そしてその考えはおおよそ正しい。


「ビーは普通の魔術師にはなれません、いえならない方がいいと言ったほうが正しいでしょう。彼の性格的にも、そして彼の素質的にも、普通であることは難しい・・・この前の戦いを見て・・・私も師匠もそれに・・・その事実に気づいてしまったのです」


「・・・私との戦いの時・・・ですか?」


自分との戦いの時、小百合と真理は一体何を感じ取ったのか。一体何に気付いたというのか。


少なくとも自分は特に気になったことはなかった。いや気になるところが多すぎてどれが気になったのかさえ分からなくなるほどだ。


「あの戦い、貴女にとってはどう映りましたか?」


「え・・・なんて言うか・・・無茶苦茶だと思いました・・・少なくとも、魔術師としては」


「そう、まさにその通りなのです。あの戦い方は師匠のそれにそっくりでした。まぁ師匠がそれをするようにアドバイスしていたのですが」


魔術師として戦うな。康太に小百合がしたアドバイスだ。魔術師としての戦いになったら康太に勝ち目はない。だからこそ康太はそれを忠実に実践したのだ。


だからこそ康太は勝利した、魔術師として圧倒的に性能の違う文に対して。


「アドバイス通りにできたなら、それはあいつの実力ってことですよね?なら普通の魔術師みたいに戦えって言われてもそれができるんじゃ・・・」


「・・・かもしれませんね、ですがそれこそがおかしいんです。『つい最近までただの中学生だった』彼が、いきなりそんなことができる事こそ異常なんですよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ