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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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戦闘を避けて

早めの夕食を終えた康太たちは日が暮れた後、移動を開始していた。


住宅街はすでにほとんど暗くなっており、時折ある街灯や各家の前に設置してあるライトが道を照らしている程度だ。


そこまで栄えている町ではないということもあり辺りは暗く、魔術師が活動するにはそこそこ適した環境といえるだろう。


もう少し交通の便がよく、生活するうえで必要なものが多ければ魔術師として活動するうえで最適な場所となったかもしれないが、そのあたりは仕方のない話なのかも分からなかった。


「どうだアリス、何か変わったところはあるか?」


「・・・何が変わったのかと問いただしたくなるほど何も変わらんな。この場所に魔術師として惹かれるところはかけらも見当たらん」


「本当に?なんかこの魔術の実験に適してるとかそういうこともないの?」


「ないな。普通すぎてむしろ適性がない魔術のほうが多いだろう。これだけの魔術師が集まる原因とはいえんだろうな」


「・・・となると魔術師が原因かぁ・・・いやだなぁもう・・・調べる範囲がめちゃくちゃ多くなった気がするわ・・・」


「まぁでもとりあえずこの場所が原因じゃないってわかっただけましだろ。あとは現地の組織的、あるいは魔術師が原因か、裏で操作してる組織あるいは魔術師が原因かのどっちかだな」


土地が原因ではないと発覚したのであれば次は魔術師が原因であると考えるのが自然な流れだ。


ただ偶然と片づけるにしてはこの魔術師の数は異常。ならば原因を究明するためにはこれから魔術師と接触しなければいけないだろう。


ここからは本当に地道な作業になるため、アリスの出番はここまでである。


「ていうかこれだけ歩いても他の魔術師たちが接触してこないな。もっとやってくるものかと思ってたけど」


「今は私が索敵の妨害をかけているからおそらく気づけないだけだろう。次からはフミがこれをやるのだぞ?」


「練習しておくわ。とりあえず目的は達成したわけだけど・・・ほかの魔術師たちの動向も確認しておきましょうか」


「そうだな・・・ていうかそういえば方陣術はたくさん見てるけどまだ現物の魔術師は見てないな」


現物って何よと文は眉をひそめているが彼女自身も康太が言いたいことはわかっている。


今まで大量の方陣術を見てきたが、この場所に来てからまだ一人も魔術師を確認できていないのだ。


もともとこの辺りには基本的に住宅街しかないために勤め先が別の場所にあると考えても不思議はないのだが、これだけの痕跡があって昼間に魔術師が一人もいないというのは確かに少し不思議な光景なように思えた。


中には夜間の仕事をしている魔術師もいるだろうに、昼間に誰もいないというのも少し妙な感覚がある。

少しここに残って魔術師たちが活動しているのを確認しても損はないように思えたのである。


「・・・なぁフミよ、もしこの辺りに魔術師が一人もいなかったらどうする?」


「へ?何言ってるのよ、もともとこの辺りに魔術師がたくさんいるっていう話だからここまで来たんじゃないのよ」


「もちろんそういう話なのは理解している。だが実際に私たちはまだ魔術師の姿を一度も見ていないのだぞ?」


「でも報告とかも上がってるんだぞ?いざこざがあったりだとか拠点の異動届だとか・・・ってまさか・・・」


アリスが言いたいことをいち早く理解したのは康太だ。本来ありえないことなだけにその考えは思いつきもしなかったのである。


「ひょっとしてだけど・・・人が増えたってのがデマってことを言ってるのか?」


「然り。辺り一面に残された方陣術はいわば仕込みのようなもの。これだけの方陣術が残されていれば誰でもこの場にいる魔術師たちが牽制しあっていると思うだろう・・・そこを利用しているのかもしれない」


いまだ出会えない魔術師に、大量に残されている方陣術。アリスの言うようにこの場に大量の魔術師たちが集まっているというのがデマという可能性も否定しきれない。


あくまで書類上の手続きを偽装したり、一時的に魔術師にそのような申請を出させてあとはその事実を忘れさせればいいだけだ。


そのあとに多少時間をかけて方陣術を仕込んでいけばいいため手間としてはこちらのほうがよほど楽にできる。


だが依然として問題なのはその目的だ。いったい何を目的としているのかがいまだ不明瞭である。


仮にデマだったとして、これだけのことをしていったい何が目的なのか。


「魔術師に会えればその可能性も否定できるけど・・・今はアリスが隠してくれてるのよね?」


「あぁ、ご要望とあれば妨害をやめるが?」


今康太たちが魔術師たちに見つからずに行動できているのはアリスが索敵妨害をかけているからだ。


本部の魔術師たちさえも見破れないものを支部の魔術師が見破れるはずもない。そういう意味ではこの状況はアリスのおかげといってもいいのである。


「いや待ってくれ、会うとしたら戦闘になる可能性もあるだろ?ちょっとこの状態で戦闘するのはやめたいんだけど」


「あそっか・・・今あんた装備全然持ってきてないんだっけ。その状態じゃ戦力半減ってところかしら?」


「半減どころの話じゃないな。武装があって初めてまともに戦える人種だぞ俺は。最低でも槍と盾がないとつらい。ウィルがある程度擬態してくれても限界があるからな」


今も連れているウィルの力を借りれば、槍と盾くらいは作り出すことはできるだろう。だが作り出された槍はやはりいつも使っている竹箒改とは別物なのだ。


手になじむ感覚や振り回した時の重さなど、些細かもしれないがその違いは顕著に表れてくる。


しかも盾に至っては内部に仕込んである鉄球もない状態なのだ。そんな状態では普段使っている盾の足元にも及ばない。


防御能力はある程度期待できるかもしれないが攻撃性能は一気に落ちてしまう。康太の持ち味はあくまで攻撃だ。その攻撃力を失ってしまっては康太が得意とする戦い方はできなくなってしまう。


そうなれば康太は人並以下の魔術師でしかないのだ。本人が半減どころの話ではないというのも決して冗談でも謙遜でもないのだ。


無論近接戦闘まで持ち込めれば、槍術には劣るもののある程度徒手空拳も行えるため戦力としては十分といえるだろう。


だがやはりこれだけの数の魔術師がいる中で戦いを挑むには心もとないというほかない。本人がそれを一番よくわかっているのだ。


「じゃあうちの一番の戦力がストップをかけたので、今回は突っかかるのはやめておきましょう。今日は魔術師の存在を確認するまでにしておくことにするけど、異論はあるかしら?」


「異論はない。もとより私は土地の観察のためについてきたのだ。戦いをするのは今回の協力には入っていないからな」


「同じく異論なし。戦えなくもないけど大勢相手にするには不安が残るからな。かといって装備大量に持ってっても警戒されすぎて面倒なことになるけど」


今回康太が装備を持ってこなかったのはこの場を拠点にしている魔術師たちに対してあまり敵視されたくないというのがあったのだ。


大量に武装した魔術師がやってくれば当然相手は警戒する。今はアリスの索敵妨害がかかっているためにほとんどの魔術師がこちらの存在すら気づいていないかもしれないが、実際この索敵妨害を解けば多くの魔術師の目がこちらに向くことになる。


これだけの緊張状態を保っている場所で大量の武器を持った魔術師がいたらいやでも警戒してしまうというものだ。


そうなると自然な状態の観察ができない。それは康太と文としてはあまり望むところではないのである。


「あんたが小百合さんレベルで頼りになればよかったんだけどね・・・いや真理さんレベルでもいいわ」


「あの二人を引き合いに出す時点で結構おかしいって気づいてるか?師匠に至っては支部長の切り札・・・奥の手的なポジションなんだぞ?」


「あの人が出るといろんな面で面倒なことになるしね。文字通り最後の手段ってところかしら」


小百合は基本的に自分の感情でしか動かない。だがそんな小百合でも誰かに動かされるということがある。


今のところそれができたのは本部からの直接の依頼と支部長からの直接の依頼だけだ。


本部の時は康太と引き離すという目的があったというのと、従っておいたほうが康太が動きやすくなるだろうということからそれを引き受けたが支部長からの依頼の時は特に受けるだけの理由はない。


あるとすれば支部長と昔からの知り合いだからというのがあるだろう。なんだかんだ言いながら小百合は支部長の言うことは聞いているように思える。


「では魔術師の姿を確認し、どれくらいの魔術師がいるのかを確認してみようではないか。さすがにそろそろ索敵にも引っかかるだろう」


すでに時間は二十時を回ったところだ。仕事を終えた社会人が家路につき始めてもおかしくない時間帯である。


つまり魔術師がこれから活発に動き出す時間でもあるのだ。この辺りにどれだけの魔術師がいるのかを確認するいいチャンスでもある。


二十一時あたりから深夜にかけてがもっとも魔術師が活動的になる時間帯だ。この辺りの時間帯にどれほどの魔術師がこの界隈にいるのかを確認するだけでも今日は十分な成果だといえるだろう。


可能であれば争いなどを起こしているところを見ることができれば御の字ではあるが、おそらくそう簡単にはいかないだろう。


「・・・さっそく反応アリね・・・よかった、これがなんかの仕込みとかじゃなくて」


「これが仕込みだったら脱力するレベルだけど同時に警戒しちゃうよな。それはさておき・・・何人だ?」


「待ちなさいって。ようやく索敵にかかったんだから・・・えっと、まずは一人。家に帰ってきたみたいね・・・」


「他の場所にも何人かもうすでに帰っているようだぞ?フミの索敵範囲もまだまだ狭いのだな」


「あんたと比べないでよ封印指定」


封印指定として名を連ねるほどの魔術師であるアリスの索敵範囲と優秀な魔術師である文の索敵範囲では比較すらできないほどだろう。すでにアリスはこの辺りにいる魔術師の数を把握できるだけの索敵網を敷いているようだった。


日曜日なので二回分投稿


誤字は月曜日に消化しようと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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