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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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運命の意味

魔術師を集めるという行動自体はそれほど問題ではない。何か目的を達成するために、あるいは目的に向かって魔術師が徒党を組むということ自体は決して珍しいことでもないからだ。


問題は魔術師を集めているというのに別に徒党を組んでいるというわけでなくただその場に集まっているということなのだ。


自らの意志で目的を持って行動しているというのなら警戒もたやすいし対応も比較的難しくはない。


だが目的が見えず、何をしようとしているのかもわからず、ただそこを拠点にしている魔術師が多いというのが不気味さを増幅させているのである。


「徒党を組んで目的を達成するために集まる、徒党を組んで目的を達成させるために集める、どちらにしろこの状況には合わないか」


「魔術師を集めることができるかどうかを確かめるためのテスト・・・前にコータが言っていたことだが、集めることそのものが目的なのかもしれんぞ?」


「・・・この状況を作ることそのものが目的だった場合、現地で何か調べても何もかも無駄ってことになるわよね・・・そうじゃないことを祈るわ」


今回の事象が当事者、つまりこの場を拠点にしている魔術師ではなく、その裏にいる人間たちによって引き起こされ、なおかつその引き起こした当事者たちが全くこの場所に介入していなかった場合調べるのはかなり困難になってくる。


それこそ一人一人尋問してその背後関係を確認するくらいしかできることがない。そうしてだれか主犯格を捕まえられたとして、その人物が何を目的にしているのかを吐かせることができないのであればこの依頼は達成できないことになる。


「魔術師の誘導が可能かどうかを試す実験みたいなもの・・・だとしたら厄介だぞ?一応姉さんがそれらしく支部のほうでいろいろと調べてくれてるらしいけど・・・」


「望み薄よね。支部長の部下も結構調べてるんでしょ?それで調べられてないんだったら真理さんが調べてもなぁ・・・」


「そういわれるとちょっと反論したくはなるけど、まぁ否定はできんな・・・少なくともその程度で尻尾を出すような輩じゃないのは間違いないだろうな」


今のところ犯人がいて、その犯人が支部の人間であるという体で話を進めているが、想像すれば想像するほど面倒なことになっているのがわかる。


この状況を作り出せる魔術師の人物像が浮かんでこないのだ。想像を働かせれば働かせるほど、今まで相手にしてきた敵のイメージに引っ張られて面倒な想像しかできずにいるのである。


「まぁとにかく今日次第だ。アリス頼んだぞ。少なくとも今日で土地の可能性を完全に排除するからな」


「任せておけ。少なくとも今のところは何も感じない。土地由来の問題ではなさそうだというのが現状の私の考えだ」


「そうなったらそのことだけでも支部長に伝えておかないとね。誰かが動いているんだったらその事実だけでも支部長に伝えておかないと」


「無論ただの偶然ということもあり得るがな・・・あぁそうか、偶然か」


「ん?なんだ?なんか思いついたか?」


偶然という何気なく出た自分の言葉にアリスは何か思うところがあるのかラーメンを食べる手を止めて何やら考え込む。


「いやなに、昔ちょっと特殊な魔術を扱えるといっていたやつがいてな。私自身眉唾物だったんだが」


「どんな魔術?」


「なんでも偶然を操ることができる魔術だとか。本人曰く運命を操るなどといっていたが」


運命?と二人は同時に眉を顰め、何を言っているのだという表情をしてしまっていた。


運命という言葉はたびたび耳にする。曰く未来に関するものであり行き着く先であり、人間には認識できないような代物だ。


すでに決まっていることというものもあり、未来というには少々ニュアンスが違うような印象を受ける。


それを操るといわれても信じられないというのが正直なところだった。


「運命を操るって、具体的にはどうなるんだよ?そもそもどういう魔術なんだ?」


「さぁな。私もそういった魔術は知らん、そいつがうそを言っていた可能性もあるしな。ただあいつは良くも悪くもあいつに都合のよい事象に引き合っていた。それが運命を操るということなのかは・・・私もわからん」


「・・・んー・・・それだけじゃなんとも判断できないよな・・・」


「あぁ、だからただの嘘か冗談だと思っているんだが、もし仮に個人の運命、特定の未来を作り出すことができるとしたら?」


「・・・なんか突拍子もない話すぎて納得できないって感じするわね・・・そもそも未来って過去と現在の積み重ねでできるものでしょ?今の行動を変えれば未来だって変わるじゃない」


それは未来予知の理屈だ。未来を知ったことで現在の行動を変えれば当然未来は変わる。


もちろん過去の積み重ねによって変化しにくい未来というのも存在するだろうが、まったく変わらない未来というのは存在しないのだ。


現在の行動によって特定の未来を引き寄せるとしたら、特定の未来を引き寄せるための条件をすべて現在の状態で満たす必要がある。


それらを操ることができるなどそれはもはや一人の人間の可能な限界を超えているように思えたのだ。


地道に一つ一つ条件をクリアしていくというのならまだわかるがそれを魔術によってなしているなどと言われてもそんな馬鹿なといいたくなるのは無理のない話なのかもしれない。


「偶然か必然かはともかく、この状況を作り出しているのは間違いない。問題なのはそれがどのように行われているかだの」


「もしかしたらここに来た魔術師たちの勤め先とかに裏でこう、いろいろ操作していろいろ頑張ったのかもしれないぞ?『運命を操作する(地道に)』って感じで」


「なんかすっごくかっこ悪くなったわね・・・運命を操るっていうとすごく格好良く思えるのに・・・」


「運命などあってないようなものだ。もっとも康太の言っているように裏でいろいろと工作活動を行って相手の行動を操るということもできないわけではないだろうな」


「すっごい手間がかかりそうだけどね・・・仮に百人魔術師を集めるとしてもそれだけの数の魔術師の素性から調べなきゃいけないわけでしょ?」


魔術師の身辺情報を調べるところから始め、それからそれぞれの魔術師の勤め先、あるいは家庭環境などに工作活動を行ってその魔術師が拠点を移さなければいけないような状態にしなければならない。


文は手間がかかるなどと一言で済ませたが、これだけのことをやるとなると相当面倒なのはすぐに理解できる。


例えば康太を特定の場所に動かしたいのであれば、康太の両親が同時に移動するような状況を作らなければならない。そのためにはまず康太の父親の勤め先に細工をし、康太の父を特定の場所に移動するような転勤をさせる。さらに父から母と康太にも一緒についてきてほしいなどと言わせることが必要なのだ。


もっとも康太の場合活動拠点は小百合の店であるために移動するには小百合のほうにも細工をしなければならないだろう。


一般的な魔術師であればその人物の勤め先にのみ細工をしておけば無理なく移動させることができるだろう。


だがこれだけの数の魔術師の背後関係を明確にし、暗示などの魔術で本人に気付かれないように細工しなければならない。


さらに言えば細工をした後、本人にどうすることもできないレベルで外堀を埋めておかなければいけないのだ。


たいていの魔術師は一度決めた拠点をそう簡単に移したりはしない。たいてい自分の勤め先などが強制的に変化しそうになった場合、自分の勤め先の人間などに暗示をかけるなどしてそれを回避しようとするだろう。


それすらさせないようにするのは至難の業だ。それを何十人、何百人に届くかもしれない数をやるとなるとそれこそかかる時間はどれほどになるか想像もつかない。


そんな地道なやり方をしているとなると本当に組織的に大勢の人間が動いていると考えるのが自然だ。だが当然組織が行動するには何か目的が必要になる。


この行動そのものに目的があったとしてもそれをどのように調べればいいのか。


「もしそうなら、今回のこの状況、裏どりできなくなるな。魔術師の素性を調べても背後関係を調べてもそいつらが尻尾を出すわけないし」


「それこそ本人たちにも協力してもらわない限り難しいでしょうね・・・ていうかいきなり前途多難な感じがしてるわ」


「マイナス方面ばかり考えても仕方ないだろう。現状できることをするしかない。あとは依頼主である支部長が判断することだ」


「確かにそうかもしれないけどね・・・」


依頼をしているのが支部長である以上、状況を把握してこれからどうするかを判断するのは支部長の仕事だ。


依頼を完遂するのが依頼をされた側の責務ではあるが、それが達成不可能になったのであればそれを報告する義務がある。


ホウレンソウという三項目があるように、報告、連絡、相談は常に行うべきなのだ。それが依頼主であり支部の長ともなれば当然である。


「とりあえず今日確認できることを全部確認したら一度支部長に報告する必要があるな。可能性含め」


「そのあたりは支部長もわかってるだろうけどね。こういうことは初めてでもどうしてこういうことが起きているかの想定はできてるはずだし」


「想定できていてもそれを調べることができていないってのが悔しいところだろうな・・・どうする?今日とりあえず張り付いて、問題が起きたならそいつらに突っかかっておくか?」


支部長の部下が調べようとしても、支部の人間が動いたとなればその分警戒されてしまう可能性がある以上彼らは動くことができない。


だからこそ支部の人間ではなく康太たちのような人間を使ったのだ。


今日可能なら魔術師の一人と接触しある程度の事情を把握しておきたいところだが康太はその決定を文に託した。


今回の依頼はあくまで文が受けたものだ。康太は補助でしかなく、助言や進言をすることはあっても決定はしない。


一歩引いた状態で全体を見渡せるような立ち位置を維持するつもりだった。


「・・・今日確認している間に問題が起きたら介入してみましょう。なにも無理に問題を引き起こす必要はないわ。それまでは周りの魔術師たちに干渉しないようにひっそりと行動しましょう」


多少消極的な行動かもしれないが、今日の目的はあくまで今回の原因が土地にあるかどうかの判別だ。急ぐだけの理由がないうえに、これだけの状況を調べるのに一日ですべてを終えられるとは思っていない。


急いで失敗するよりは運が良ければという待ちの姿勢でいたほうがいいと文は考えているのである。


康太もそれに納得した。今回はそこまで深入りする必要はない。特に今日はそこまで武装もしていないのだ。できる行動にも限りがあるため文のこの判断は適切であると思っていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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