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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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現地の異様さ

「こうしてみると・・・結構物騒ね」


「ふむ、あちこちに警戒の色がうかがえるな・・・土地に何かというよりそこにいる人間に何かあるというのが正確か・・・にしてもこれはさすがに・・・」


索敵をしながら周囲を確認している文とアリスはこの町の異様さに気づくことができていた。


もちろん外観上は全く何も特別なことなどない住宅街だ。特別なところを探すほうが難しいほどである。

ただ別の角度から、魔術師としての見方をするとこの辺りで普通のところを探すほうがむしろ難しかった。


「そんなにすごいか?俺全然見つけられないんだけど」


「索敵してみればわかるわよ。結構すごいわよ?」


言われた通り康太は索敵の魔術を発動して周囲の状況を観察していく。


「うわ・・・」


康太は周囲を確認してからそれ以外の言葉を出すことができなかった。康太が使える索敵ではせいぜい三十メートル程度しか調べることはできない。文やアリスのように広範囲を調べることができない康太でもわかるほど、三十メートル程度でも十分以上に理解できるほどの警戒の証がそこにはあった。


方陣術によって作り出されたトラップの数々。一般人にはほとんどわからないようなものばかりで、普通の人間が触れるようなことのないような場所に数多く作られている。


中にはすでに魔力を込められておりいつでも稼働できるようになっているような危険なものまであった。


「これ全部魔術師が仕掛けたのか・・・普通の人たち巻き込まれるんじゃないのか?」


「危険なものにはすべて一定以上の魔力に反応するような仕掛けがしてあるようだし問題はないだろう・・・あるのはほとんどが警戒用の鳴子のようなものだ。問題はない、とは言えんがこの辺りが異常事態に包まれているというのは間違いないの」


「少なくともこれだけの量と種類の方陣術を見たのは初めてね・・・なんか方陣術の辞典を見てるような気分だわ」


「言いえて妙だな。これだけたくさんの種類があればこの場所を方陣術の教科書にしたいくらいだ。実戦的でなおかつ一般的なものが目立つ。さぞ良い手本となるだろうて」


康太からすれば見慣れない方陣術でも、アリスや文といった方陣術も扱える魔術師からするとこの場にある方陣術は珍しいものでもないのだろう。


その数や種類には目を見張るものがあるが、一つ一つにはそれほど驚きはないようで怪訝な表情をしていてもそこまで警戒を強めるということはなさそうだった。


方陣術の数よりも問題なのはそこにある方陣術の種類だった。


たいていの人間に魔術の得手不得手があるように、方陣術にも得手不得手というものが存在する。


個人差やその得意魔術にも左右されるが、文とアリスが問題視したのはその方陣術の特徴や特性とでもいえばいいか、それがあまりにも多すぎる点である。


つまり、それだけ多くの人間がこの場所に方陣術を残しているということだ。その数は十人ではきかない。もしかしたら百人規模に届くかもしれないほどの数になるかもしれない。それほどの魔術師がこの辺りを拠点にしているということだ。


「魔術師過密地帯・・・なんて言葉で表せばかわいいものだけど、これそんなレベル超えてるんじゃないの?場所に対して魔術師集まりすぎよ」


「そんなにすごいのか?町見ると普通な感じしてるけど」


「私もいろんな町を見てきたが、これほどまでに方陣術が張り巡らされた町というのも珍しいな。村全員が魔術師だったところもかつてあったが、それよりもすごいかもしれん」


「・・・ちょっと俺にはすごさがわからないんだけどさ、具体的にどれくらい魔術師がいそうなんだ?」


「そうね・・・まだ方陣術の数でしか判別できないけど・・・この辺りの家あるじゃない?この家の五軒に一軒は魔術師がいるくらいの密度かしら」


五軒に一軒。それがどれくらいの割合なのか康太は周囲の住宅街を見て、索敵によって判断してそれが途方もないことであるということを理解していた。


たいていの魔術師は自分の活動圏をある程度決めてそこを縄張りとすることで活動する。その魔術師の能力が高ければ高いほどその縄張りの範囲は広くなる。


当然徒党を組んでいればその分縄張りは広くなるし、その縄張りを侵すようなものも少なくなっていくことだろう。


この辺りの住宅街の五軒に一軒に魔術師がいるとなると、その縄張りを維持するのも、そして互いに干渉しないようにするのもかなりの難題になってくる。


というか普通に魔術師として歩くのすら難しい。数メートル移動しただけで他の魔術師との縄張りに接触してしまう可能性がある。


現在この場所での魔術師の縄張りがどのような形になっているかを知ることはできないが、少なくともこの状況を異常だと判断しないことそのものが異常だと考えるべきだなと康太は理解できていた。


「やっぱこれだけ人が集まるってことは何かあるんだよな・・・アリスが反応してないってことはやっぱ人由来なのかね?」


「まだわからんぞ?夜になってみないことには判断できん。もう少し調べる時間をくれ」


「んー・・・じゃあもう少し人が集まるところに行ってみましょうか。何かあるかもしれないしね」


人が集まるところ。たいてい人が集まるのは交通の便が良くものが集まるところだ。まずは駅前に行ってみようと康太たちは移動を開始した。


移動すればするほどにこの町の異常な状態を理解しながらも、一見すると平和な住宅街を三人は歩いていく。


「これだけ魔術師の痕跡がある町というのも珍しいな。私の記憶にもちょっとないぞ。いつの間に日本は魔術師大国になったのだ?」


「いやいや、この町が異常なだけよ。っていうか駅だっていうのにあんまり人がいないわね・・・店もあんまりないし」



「まぁまぁ、マックがあるだけましだろ。場所によってはコンビニすらないところだってあるんだしさ」


「・・・田舎とも言えず、かといって栄えてるとも言えず、ものの見事に中途半端な町ねここは・・・」


康太たちは最寄りの駅まで移動し、駅前にあるマックの中で軽食をとりながら周囲の観察をし続けていた。


ここにたどり着くまでにかなりの魔術師の痕跡を確認し、自分たちが住んでいるところよりも魔術師が多いのではないかと思えるほどの密度を前に三人は多少なりとも驚いてしまっていた。


一般人からすればいったい何を驚くことがあるのかと思うところだろう。特徴らしい特徴もなく、特別な何かがあるというわけでもない。


駅前だってあるのはドラッグストアにコンビニ、そしてマックをはじめとするファーストフードが少しあるくらいのものだ。


この辺りに住んでいる者からすれば、この駅をはじめとする周辺地域は見るもののないただの住宅街という認識だろう。見るものもなければ遊ぶための施設も存在しない。


つまらない町といえばそこまでだが決して何もないというわけでもない。住みやすい町であるというのは否定できないし、まったく何もないような田舎というわけでもないために否定ばかりできるというわけでもないのだ。


良くもなく悪くもなく、それが三人が抱いたこの町の印象だった。


「だからこそ不思議だの・・・魔術師が選ぶ町としてはえらく普通だ。たいてい田舎か都市部に集まるのが普通なのだがな」


田舎であれば機密性に優れる反面利便性が悪い、都会であれば利便性に優れ機密性が悪い。それぞれ一長一短ではあるがたいていの魔術師はこのどちらかに拠点を置きたがるものである。


もちろん自分が住んでいる町の近くを拠点とするものも多くいる。そのため先にあげた二つの特徴の場所に魔術師が集中しないようになっているのだ。


だがこの町はそのどちらにも該当しない。いやどちらにも該当するという言い方が正確だろうか。田舎とも言えず都会とも言えず、どちらの良さも悪さも中途半端に内包しているのがこの町だ。


良くも悪くも普通の町。この町に住んでいる魔術師がこの町を拠点にしても何の不思議もない町だが、問題なのはこの町を拠点にしようとしている、あるいはすでに拠点にした魔術師が妙に多いところにある。


魔術師としての拠点は別に住んでいる場所でなくてもいい。どこかに土地を借りたり、あるいは無断で借用したりと方法はいくらでもある。


褒められた方法ではないがそういったやり方を用いてこの町を拠点にしている魔術師も多くいるだろう。

何せこれだけ一般住宅が多い場所だ、魔術師が場所を保有できる場所など本当に限られている。


ないとまではいわないが、これだけの過密地帯になってしまうのもうなずける話といえるだろう。


「でもさ、何かしらの理由があって集まるわけじゃない?今までなかったの?魔術師が一つの町とか村に集まることって」


文の質問にアリスは自分の頭の中にある事象を探り出す。少なくとも一つの地域にこれだけの魔術師の痕跡が見つかるということがまずなかった。


アリスは今回の資料に目を通したわけではないが、少なくともこの状況を作り出せるくらいには多くの魔術師がこの辺りを根城にしているということだ。


そんなこと今までにあっただろうかと、アリスはポテトを口にくわえながらうんうん唸りだす。


「さっきも言ったが、村の人間全員が魔術師という村はあったぞ。あれはどちらかというと魔術師同士で結託して暮らすという一つのチームのようなものだったから今回とはまた状況が違うと思うが」


「それこそ昔の魔女狩りとかがあった時代か」


「そうだ。魔女狩りの脅威から自らの身を守るためというのもあるが、徒党を組んで暮らすことで普通の人間よりも比較的ではあるが豊かな生活を送れたようだ。何せ魔術を大っぴらに使えるのだからな」


一つの村に隠れるようにして暮らす魔術師では、自らの魔術を堂々と使うことはできないが村の全員が魔術師であったのであればそんなことを気にする必要はない。


農作業もそうだが病にかかった時も魔術を使ってほかの一般人にはできないような対処が可能になる。これは大きな利点だ。


それに仮に魔術師ではない一般人が来たとしても、その時だけ欺いてしまえばいいだけの話だ。


当時の魔術師からしても一般人を欺くのはそう難しい話ではなかっただろう。特に村人全員が魔術師だったのならなおさらだ。


だがアリスの言うように今回の状況とはまた違う。何せ結託した魔術師たちが一斉にこの場所を目指したわけではないのだ。


一人一人が自分の意志をもって自分の考えのもとにこの場にやってきた。これだけの魔術師がみな同じような場所を目指すからには何か理由がある。これでただの偶然などと言われたとしても康太と文は納得できないだろう。



「ちなみにさ、俺はまだよくわからなかったんだけど方陣術が結構あっただろ?あれって放っておいてもいいものか?」


康太は方陣術の技術を少しずつではあるが会得しつつある。その技術はまだつたないものだがそろそろ一つの方陣術くらいは完成させられるかもしれないというところまで来ているのだ。


だが当然、ひとつの方陣術を扱えるようになるかもしれないような実力があったとしても、ありとあらゆる種類の方陣術を一見して把握できるようになるほど甘くはない。


一つ一つ目で見て術式解析を行えば話は別だっただろうが、索敵で見つけた方陣術ではそんなことがわかるはずもない。


だが文とアリスの二人は大まかではあるが設置してあった方陣術の性質や特徴を理解しているのだろう、方陣術を見つけるたびにあれはどうだこれはどうだと小声で話していたのを康太はさりげなく気づいていたのだ。


「そのあたりは問題ないわね。ここに集まってる魔術師は少なくとも性質が悪いタイプではないみたい。一般人を巻き込まないように最低限の配慮はされてるわ」


「攻撃用なら一般人が触れない、あるいは誤って発動しないような工夫がしてある。必要最低限の措置ではあるが牽制としては十分すぎるといえるだろうな」


「牽制・・・ってことは攻撃とかが目的じゃないってことか」


「さっきも説明したが、鳴子のような術式もあった。あのあたりに方陣術を仕掛けているのはおそらくマーキングの意味合いが強いのだろう。実際に効果を発揮するかは問題ではないのだ」


「・・・というと?」


「あぁいう風に方陣術がちりばめられてると、同じ魔術師としてはぎょっとするでしょ?ただでさえ自分が身を置きたい場所なのにこんなに方陣術が!ってな感じで。そこにあるってだけで牽制になるのよ」


そこにあるだけで牽制になる。アリスが言ったマーキングという意味だとどちらかという犬猫などが自分のにおいをその場所に付けるような印象を受けたが、文の説明だと罠を仕掛けているような印象を受けた。


そしておそらくその二つはどちらも間違っていないのだろう。この辺りが自分の縄張りであると主張するという意味ではどちらも間違っていないのだ。


「無差別に置いてるってわけじゃないんだな・・・一応意味があったとは・・・」


「だからこそ索敵にも引っかかってるんじゃない。方陣術がここまでわかりやすく置いてあるなんてなかなかないわよ?」


「・・・あぁ、そういえばそうかも。前の二年生の時も方陣術って索敵でもわからなかったもんな」


康太は自分の記憶の中を探り、二年生魔術師と戦った時のことを思い出していた。


彼は廊下に方陣術を仕込んでいたが、康太の索敵ではその方陣術に気付くことはできなかった。


魔力などをあらかじめ入れておけば康太の索敵には引っかかるのだろうが、方陣術は魔力を入れなければただの文字などに近い。それを索敵で知覚しろと言われてもかなり詳細まで索敵しなければできない芸当だ。


隠すというのが目的であるというのなら今回のように見え見えな方陣術の設置の仕方はしないだろう。


つまりこの方陣術は見つけてもらうことこそ目的なのだ。もしかしたらこの中に本命ともいえるような方陣術があるのかもしれないが、それはまた置いておくことにした。


「あからさまに見せることで他の魔術師への牽制にしてるってことか・・・一般人にも見えないし、この辺りの魔術師も苦労してるんだな」


「自分でその苦労の中に飛び込んでいったんだし仕方ないんじゃない?ここまで露骨なのは私も初めて見たわ」


「私もそこまで記憶にないな。こうして方陣術を見せるというのはよくあるテクニックだが、ここまでの数はちょっと記憶にない」


魔術師の戦いで方陣術のトラップを使うのはよくあることだ。あらかじめ魔力を込めておくことでそれは相手にも確認できるトラップになる。


こういったトラップをおとりにして相手の行動を制限し、うまく相手を誘導するというのも戦いにおける一つのテクニックであり駆け引きでもあるのだが、アリスの記憶の中にもこれだけ『見せるための方陣術』がある光景は存在しなかった。


それだけこの辺りに大量の魔術師がいるということでもあり、互いに互いを牽制しあっているということでもある。


もうちょっとご近所付き合いができないのかと康太は辟易するが、自分とその師匠も人のことは言えないなと眉をひそめてしまっていた。


「攻撃の術式もあったんだろ?発動した痕跡とかはあったか?」


「さすがに見えている罠に引っかかるものはいないようだな。少なくとも今のところすでに発動した方陣術というのは確認していない」


「それだけ周りもピリピリしてるってことじゃない?互いに手を出せない状態が続いてるから膠着状態が続いてるのよ。こうなってくると魔術師同士が抱えるストレスって大きいわよ?」


「そりゃな、やりたいことがあるのに互いの目が気になってできないし、かといってことを起こそうものならほかの魔術師も介入してきそうだし・・・俺ならこんなところ絶対来たくないね」


「同感よ。こんな中でいざこざ起こした魔術師の気が知れないわ」


そういいながら文は報告として挙がっていた過去にいざこざを起こした魔術師とその経緯の資料を眺めていた。


この状況でもなおいざこざを起こした人物だけに、文の中での注目度は高かった。


忘れていましたが評価者人数290人突破、累計pv数8,000,000突破したので3回分投稿


お祝いを忘れるくらいに誤字に追われる日々でした。たぶんまだまだこの状況は続くんだろうなぁ・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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