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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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アリスの指導

「ふむ・・・これでどこでも手に入るような魔術であれば別に私が教えることは問題なかったのだが、見つからない魔術となると話は別だ。私が直接手を貸してしまう結果になるからな」


「あー・・・前に俺に魔術教えてくれたしな・・・あれはそういう基準だったのか」


基本的にアリスはその高い技術力から、あてにされるというのが好きではないらしい。


今まで康太や文が何か頼んでもやってくれたのは別にそれが自分でしかできないような事柄ではなかったからに他ならない。


あくまであまりにも高い技術、あるいは高い能力を利用しての頼み事が嫌いなだけであって、普通の事柄ならば同盟を結んでいる康太と文の頼みを聞くのは彼女としてもやぶさかではないらしい。


「まぁ私としても都合のいい話だとは思ってるわよ。いきなり秘術を教えろって言ってるようなもんだからね。でもあんた以外に使えそうなやつに心当たりがないのよ。この前の神父は殺されちゃったから確認しようがないし」


「あー・・・そういえばそうだったの・・・協会には?さすがに私以外にも使い手の一人くらいいるだろう」


「あんたの行動を本部の魔術師でさえとらえられなかったのよ?これは推測だけど、たぶん魔術師用の暗示ってもう廃れちゃったか、あるいは難易度が高すぎて習得できないんじゃないかしら?」


「むぅ・・・事情が事情だけにあまり強くは言えんが・・・んんんん」


かつてアリスが康太たちと出会ったとき、アリスは一時的に康太と行動を共にしていたのにもかかわらず本部の専属魔術師たちに全く気付かれなかった。ただ視認できなくさせるだけではなく、魔術師の使っている索敵にも引っかからないようにしていたのを康太も覚えている。


確かに仮にそういった魔術を使えるものがいたとして、高い技術や能力を有する本部の人間があの状態でアリスに気づけなかった時点で魔術師用の暗示を覚えている者がいなかったのではないかという考えが浮かんでくるのは自然な流れかもしれない。


むろんその魔術師用の暗示を覚えていたからといってアリスほどの実力者が使う魔術師用の暗示を見抜けたかどうかは怪しいところである。だからこそアリスも文が求めているものがすでにこの世に存在しない可能性を理解して悩んでいるのだ。


「コータとしてはどう思う?私がフミに魔術を教える件について」


「ん?別に好きにすればいいんじゃないのか?そのあたりはアリスの気分次第だろ。やりたくないことをやる必要はないぞ」


「・・・それでコータたちの・・・いやこの場合はフミたちのというべきか。ともかく依頼を達成するのが難しくなったとしてもか?」


「それとこれとは話が別じゃないか?文がお前に魔術を習いたいってお願いしてる原因が依頼だったとしても、お前が教えるのを渋る理由と依頼は関係ないだろ?文にはちょっと悪いけど、そこはお前の好きなようにするべきだと思うぞ?」


聞いておいてなんだが、アリスは康太がこういうであろうということはおおよそ予想できていた。


康太は良くも悪くも小百合に似たのか、物事の判断基準をその時の気分や感情、自分の考えなどで判断する癖がつき始めている。


今回のことも、アリス自身がいやだと思うことを強制するつもりは康太にはなかった。仮にそれが原因で依頼が困難なものになったとしても、今回の依頼をアリスが受けたわけでもないのだから、アリスのせいで依頼の難易度が上がったなどというつもりもない。


あくまでアリスが文に魔術を教えるかどうかはアリス自身の中で折り合いをつけることができるか否かにかかっているのだ。


「まぁ康太ならこういうことはわかってたでしょうに、なんで余計に難しい顔してんのよ」


「・・・あぁ、お前たちが連携して教えるように説得していたら私は間違いなく教えるのを拒んでいただろうが、コータがこういう奴だから困る・・・」


「別に無理強いはしないわよ?あんたとの関係を壊してまで教わろうとは思わないし」


「わかっておる。それに魔術一つ程度で見限るほど私は狭量ではない。とはいえどうしたものか・・・フミは実際にこの魔術の恩恵を感じているからその重要性はよくわかるだろう?」


「そうね。少なくとも使いどころくらいはわかってるつもりよ」


康太を探す段階でいくら索敵しても見つけられなかったその異常事態。三十メートルという近い位置にいたにもかかわらず認識できなかったその魔術。文にとってその状態の恐ろしさは誰よりも理解できた。


そしてその使いどころと利点についても十分に理解できている。それもアリスが文に魔術を教えたくないと思ってしまう理由でもあった。


アリスから見ても、文はとても優秀だ。優秀すぎるのが問題なのだ。


文は現時点で康太の影にいることが当たり前のようになってしまっている感があるが、長期的に見て文のほうが魔術師として大成するであろうことはアリスの目からすれば明らかだった。


そんな彼女にこれほどまでの肩入れをしていいものか。彼女の師匠でもない自分がそこまでしてもいいものかと悩んでいるのだ。


師と弟子というのは良くも悪くも深いつながりを持つ。文と春奈の師弟関係がどのようなものであるかを正確に把握していないアリスからすればよそ様の家庭事情に口を出すようなものなのだ。


アリスは長く生きているし魔術師としても長い年月を過ごしてきたが、そのあたりの魔術師的な常識は欠如していない。


とはいえアリスとしては文の力になってやりたいとも思うのだ。どこまで成長するのかアリスも見てみたい。そう思えるだけの才能が文にはあった。


どうしたものかと一通り悩んだ後で、アリスは結論を出した。


「わかった。だが教えるのは一回だけだ。術式を見せるが、それ以上の伝達はしない。それでいいな?」


「十分よ。悪いわね、無理言って」


「構わん。それにフミのことだ、おそらくだが自力で暗示の術式を作り出したかもしれん。遅いか早いかの問題だ」


今の発言でわかる通り、アリスはかなり文の評価を高めにつけている。具体的には康太の五倍近い評価をしているといっていい。


康太が文に勝っているところは少なく、文のほうが魔術師としての未来が明るい。総合的に判断すればアリス的には文のほうがよほど優秀であると判断するのだ。


いや、アリスだけではなく二人の実力を正確に把握すればほとんどの魔術師がそのような評価をつけるだろう。


今はまだ康太のほうが高い評価を受けているが、それはあくまで康太が厄介な事象にかかわってしまい、なおかつそれを解決する糸口を見いだせるだけの体質を持ち合わせていたにすぎないのだ。


それが知られていないというだけで評価は大きく変わってしまう。そのあたりは仕方のない話だろうか。


「ほれ、背中を出すがいい。今教えてやる」


「え?あぁ直接術式を入れるの?この教わり方久しぶりね・・・」


「ふふ・・・一発勝負ならこういう形のほうがいいだろう?そのほうがわかりやすいし何より形に残らないからな」


魔術師として長い年月を過ごしてきた文ならば、紙に書かれた術式を解析することくらいは何でもない。だがそれでは記された紙を破棄するという手間が発生してしまう。


それならば直接触れて文の体に直接教えたほうが早いと判断したのだ。


アリスが掲げた手に文は自分の背を向けて見せる。小さな少女の手が文の背中に触れると同時にその体の中に件の術式が入り込んでいく。これがその術式なのかと文は目を閉じて意識を集中し始める。


その術式の複雑さと、一回しかチャンスがないということに文は高い集中が必要であると判断し余計な情報をすべてシャットアウトしていた。


「アリス、この魔術の難易度ってどれくらいなんだ?」


「そうさな・・・十段階で評価して六か七といったところか。一度コツをつかんでしまえばそこまで難しい魔術ではないが、コツをつかむまではなかなか苦労するだろうな」


「文が普段使ってるような暗示結界みたいなもんじゃないのか?それならこいつ結構得意だぞ?」


「そのあたりの表現は少々難しいな。性質的に似ているのは否定せんが特徴は大きく異なる。クッキーとケーキくらい違うかの」


それはだいぶ違うなと康太は頭の中でクッキーとケーキを思い浮かべながらそのほとんど違うような魔術を覚えようとしている文のほうをみる。


文がよく使う結界は、範囲内にいる人間を特定の場所に近づけないようにするための魔術だ。


人間の無意識に干渉し、意図的に特定の場所へ向かわないようにすることができる。ただその特定の場所そのものが目的だった場合この魔術は効果を発揮しない。


あくまで暗示の魔術の延長線のような魔術であるがゆえに、文はこの魔術を一見当たり前のように使っていた。


文が今覚えようとしているのは基本的には暗示の魔術と同質のものだ。だがその対象が具体的に決まってしまっているのが特徴である。


魔術師の索敵に対して効果を及ぼす暗示。


広範囲を索敵する魔術師の無意識に干渉し、特定の空間を正しく認識できなくするのがこの魔術だ。


「この魔術ってどういう理屈で発動してるんだ?暗示とかは人間の思い込みを利用してるって聞いたことあるけど」


「ふむ、これは人間の脳の能力を利用している魔術だ。康太は目の錯覚というものを知っているかの?」


「錯覚って・・・見えてないものが見えてたりとかそういうことか?」


「まぁそういうことだの。物理的に見えていないはずのものがある場合、そして特定の空間だけが不自然にかけていた場合、人間の脳はその光景を自動的に補完する。周りの風景や色合いなどを利用して自然に見えるようにな」


アリスの言いたいことは何となくわかる。康太も以前テレビ番組で似たような現象などの説明を見たことがある。


そして学校の授業でも、人間の目と脳が起こす特殊な状況などを教えていたことがある。


つまりこの魔術はそういう理屈で動いているのだなと康太は納得していた。


「暗示が人の思い込み、索敵回避は人間の脳そのものの働き・・・それぞれ利用してるものが違うんだな」


「そう、同じ暗示系統の魔術でも理屈が異なれば扱い方も異なってくる。暗示が得意だからこそこの魔術をしっかりと覚えるのは難しいかもしれんの」


「まぁ大丈夫だろ。ていうかアリス、この魔術俺に教えてくれてもいいんだぞ?」


康太がどや顔で自分を指さすが、その康太に対してアリスは失笑してしまっていた。


何をこいつはバカなことを言っているのかというのが表情から読み取れるほどに憎々しい表情だった。


「フミならば一回でも覚えられると思うが、おそらくコータでは無理だ。聞けば暗示の魔術もかなり苦労したのだろう?」


「うぐ・・・で、でもタイプが違うんだろ?案外行けるかもしれないじゃないか」


「短冊切りができない者にキャベツの千切りをさせようとしているものだ。その程度の実力では先は見えておる」


「失礼な!キャベツの千切りくらいできるわ!」


「物のたとえだ馬鹿者」


「ごめん二人ともちょっと静かにしててくれる!?」


文の怒号に康太とアリスは小さく謝罪しながらその場に小さくなってしまっていた。集中している文の邪魔をしまいと、康太とアリスは互いの口を押えながら文の行く末を見守っていた。


日曜日なので二回分投稿


誤字は相変わらず月曜日に消化しようと思います。魔王様の一撃が思ったよりも苦しい・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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