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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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頼みと思惑

「おいベル、なんでそんなに急いでるんだよ・・・もうちょっと話しててもよかったんじゃないのか?」


「あんまりあそこで話したくなかったわ。私も途中から気づいたんだけどね」


「気づいた?何に?」


「あの場所、たぶんだけど監視されてるのよ」


監視されている。この日本支部の支部長の部屋にもかかわらずあの場所は監視されているらしい。


具体的に誰にどのようにという疑問に対する答えを文は持ち合わせていなかったが、どちらにせよ康太が気づかない、気づけない何かを感じ取ったのは間違いない。


「まじでか・・・俺何も気づかなかったぞ」


「私も確証があるわけじゃないのよ?それに支部長も多分気づいてる。気づいたうえで放置してるんだと思うわ」


「どうして?泳がせるためか?」


「わかってるじゃない。ただ実際支部長がどういう考えなのかは私もわからないわよ?」


ただ見られているだけならいくらでも対処可能だ。文が気づけたということは間違いなく支部長も気づいている。おそらく文が感じるよりもずっと詳細な状況を知ることができたことだろう。


問題なのは支部長に対して危害を加えるかどうかというところに帰結する。


彼も一応日本支部を任されている身だ。小百合に及ぶかどうかは判断しかねるが、少なくともそのあたりの有象無象の魔術師たちに負けるとは思えなかった。


少なくとも監視されているとはいえ今のところ危害を加えるつもりはないと判断したからこそ彼はあのように平穏を装っているのだろう。


「やっぱ偉くなるとそういうの大事なのかな・・・?相手を掌の上で転がすっていうか・・・なんかそんな感じの手腕が」


「その言い方だとすごく誤解を招きそうだけどね・・・まぁ間違ってないでしょうよ。あんたも今度から支部長室に行く時は気をつけなさい。支部長のあの感じだと見られてるだけっぽいけど」


「見張られてるってわかってれば変なことはできないって。ただ見張ってきてるのが誰なのかっていうのは気になるよな。ばれてるとはいえ支部長の部屋を覗き見ることができてるってことは・・・協会の魔術師であることは確定か?」


「そう考えるのが妥当でしょうね。それが日本支部の人間の仕業なのか、それともほかの支部、あるいは本部の仕業なのかは判断しかねるけどね」


何も支部に入るために必要な手順は一つではない。康太たちのような各支部に所属している魔術師たちは一部の場所にある門を使って容易に協会に足を踏み入れることができるのだ。


だが当然、そういった制約を受けないような魔術師も存在する。


具体的には支部や本部のほうである程度実績を上げてきた人間は、魔術師として非常に優秀であるためにほかの支部への出入りが一定条件のもと許可される。


つまりある程度他の支部などでも実績を上げていれば問題なく他の支部に出入りすることができるということである。


「支部長なんて監視してどうするんだか・・・あの人苦労人だけどそこまですごい人じゃないように思えるんだけどな・・・」


「あんたの師匠をいいように扱ってる時点で結構な実力者だと思うんだけどね・・・その分苦労もしてるみたいだけど・・・あとは支部長を通じて何か別の人を探している可能性かしら?」


「あー・・・あり得るかもな。それこそ俺らや師匠を支部長を餌に誘い出すためってところか?」


小百合さんなら支部長を人質にされても平気で無視しそうだけどねと付け足す文に対してそれもそうかもしれないと康太は全く反論することができなかった。


普通の師弟関係ならばある程度フォローしたりもするのだろうが、あいにくと康太と小百合の間にある師弟関係はすでに冷え切っているのだ。


何も考えずにフォローすると当然のように調子に乗って発言を続けるところがあるのである。


フォローをするのは最低限小百合をけなしてからのほうが効果的だ。下げてから上げるというのは会話術の中でも十分役に立つテクニックの一つである。


「さて、支部長のことは後々別の誰かに相談するとして・・・だ・・・文的には今回の件はどう考えてる?」


「・・・正直、何か原因があってそこに魔術師が引き寄せられてるっていう考えは持ってないかな・・・」


「ほうほう。ということは?」


「それだけの数の魔術師がいるのなら、おそらく派閥や組織での活動の一環である可能性が高いわね。いざこざのレベルがどの程度だったのかにもよるけど」


「組織間の対立のためにその場所を使ったって形か」


「そういうこと。もう少し通いやすい場所だったらもっと簡単に情報を聞き取れたかもしれないけど・・・場所は大分じゃねぇ・・・」


康太たちの住んでいる場所から大分県まで移動するとなるとまず間違いなく飛行機を利用することだろう。


今回は協会の門を使用するためにそういった苦労はないが、康太たちが住んでいる場所の近くであればより簡単に情報を聞き取れた可能性がある。


ただでさえあまり遠出はしない康太だが、日本の中で一番遠くまで行けるかもしれないと少しだけテンションが上がっていた。


それと対比するかの如く、文は面倒そうなこの依頼に不機嫌そうな表情をしたまま大きくため息をついてしまう。










「というわけでね、今回はあんたにも手伝ってほしいのよ」


「ふむ・・・私に協力を要請するとは・・・話を聞く限り私が出るような内容ではないように思えるが?」


文は小百合の店にやってくるとプラモデルを作りながらアニメを見ているアリスを捕まえて今回の話をしていた。


唐突にそんな話をした文も文だが、アリスとしてはそんなことに自分が出る必要があるのかと疑問を覚えているようだった。


実際今回の件はアリスが出張るような案件ではないように思えてしまう。


現地の事情を把握するにしてもアリスのような実力のある魔術師が出ていく必要があるとは思えない。


それにアリスのように外見的に目立つ魔術師が行動するだけでだいぶ行動するのが難しくなるだろう。


そのあたりの事情を考えるとアリスの言うように彼女が出るような内容ではないのも納得できる。


「手伝ってもらうのは最初だけでいいわ。いろいろ頼みがあるのよ。何も依頼のために常に一緒に行動しろとは言わないわ」


「・・・一緒に行動しないのに手伝えとは・・・何やら妙なことを・・・まさかとは思うが情報収集やら書類整理をやっておけとかそういう話ではあるまいな?」


「そういうのは倉敷にやってもらうわよ。アリスに頼みたいのは魔術関係の話なのよ。私たちだけじゃ判断できないかもしれないことだし、ちょっと覚えたい魔術もあるし」


「・・・ふむ・・・なるほど・・・」


その言葉にアリスは何となく文が言いたいこと、頼みたいことが分かったのか、口元に手を当てて何やら悩みだした。


すでに大まかではあるが事情は聞いているためにアリスほどのものならば少ない情報であるとはいえ予想するのは難しくないようだった。


「まぁ、初回での確認は私としても問題はない。たまには外出するのもいいだろう。だがもう一つのほうは・・・正直迷っているかの・・・私はお前の師ではないからの」


「そういうのはわかってたわ・・・康太の時も結構渋ってたしね・・・でもお願い。師匠も覚えてないし、魔導書も見つからなかったからあんたに頼むしかないのよ」


「そうは言うがな・・・んー・・・同盟を組んでいるとはいえあまり過干渉するのはどうかとも思うのだ・・・私の力を利用しないあたりは評価するが・・・んー・・・」


文の説得に対してアリスはいまだ難色を示している。何とかして頼みたい文としては簡単に引き下がるつもりはないようだが、アリスとしてもあまり肩入れするつもりはないようでどうしたものかと悩んでいるようだった。


「・・・あのさ・・・一応俺も一緒に行動するわけだからさ、俺にもわかるように説明してほしいんだけれども」


「なによ、ちゃんと説明したじゃない」


「いやいや、お前ら途中から大分説明省いたぞ。もうちょっと俺にもわかるように説明してくれよ」


読解能力のないやつねと文はあきれているが、とりあえず説明自体はしてくれるようでため息をつきながらアリスのほうを見て指を一つ立てて見せる。


「いい?私たちはまず現地の状況、特に土地に関係することなのかどうかを把握したい。それこそ魔術師たちが求めるような何かがあるかどうかを確認しなきゃいけない。これはわかるわね?」


「あぁ、魔術師が集まる原因が土地にあるのか人にあるのかを確認しなきゃだな」


「そう、だから私たちよりも知識も経験も知覚能力もあるアリスに一度現場を見てほしいのよ。アリスが何も反応しないで魔術的に価値がないってわかれば、集まっている原因が土地ではなく人にあるって確定できるでしょ?」


なるほどそういうことかと康太は文の言葉の半分をようやく理解できていた。


要するに初回だけアリスに意見を求め、そこから先は自分たちで調べ物をしようということだ。


土地ではなく人にかかわることが原因であるならば文たちの行動によってはうまく原因が探れるかもしれない。


そんなところまでアリスの力は借りなくても問題ないために、そのあとは自分たちで何とかするというのが文の考えのようだった。


「でも覚えたい魔術ってなんだ?協会とかお前のところの魔導書にもないって結構なレアものだぞ?」


魔術師であれば基本的に協会に保管してある魔導書のほとんどが閲覧できる。しかも文の場合は彼女の師匠である春奈が個人的に保管している魔導書も閲覧できるのだ。


はっきり言って彼女が覚えられる魔術の量はけた違いに多いだろう。だがそれでも見つからない魔術となるとそれこそ禁術レベルなのではないかと思えてしまう。


いったい何を覚えようとしているのか、そしてアリスがそれを覚えているという確信がなぜあるのか、康太は不思議でしょうがなかった。


「まぁ隠してもしょうがないか・・・索敵用の暗示結界を覚えたいのよ。前にアリスとかが使ってたでしょ?魔術師が使う索敵で見つからないようにするやつ」


「・・・あー・・・いろいろごまかしてたやつか。え?文あれ覚えるつもりなのか?」


「今回の場所って結構な数の魔術師がいるでしょ?それで調べ物をしようとするなら隠密能力を上げておいたほうがいいと思ったのよ。互いに縄張り主張してるなら当然索敵も張ってあるでしょうし・・・」


「なるほど・・・そういうことか・・・それでアリス的にはその魔術を教えるのを渋っているのか・・・」


ようやく事情が呑み込めた康太がアリスのほうを見ると、彼女はまだ悩んでいるようだった。どうやら文に件の魔術を教えるのは彼女的にだいぶ迷ってしまう事柄のようである。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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