得られる情報
「ところで、今までこういう風に魔術師たちが特定の場所に集まるってことはあったんですか?」
「少なくとも僕が支部長に就任してからは初めてだね。何か異常があって引き寄せられるっていうならわかるんだけど、特にこれといって理由がないのは・・・」
支部長が今の役職に就任してからどれほどの時間が経過しているのかはわからないが、少なくとも彼の記憶の中に今回と同じ、あるいは似たような事象は存在しないらしい。
もちろんその原因や理由にも心当たりがないようである。こうなってくると現地に行って確かめる以外に方法がないように思える。
「支部長のほうで心当たりがないなら、やっぱもう直接現地にいる魔術師たち締め上げるほうが早いな」
「勝手に結論付けないでちょうだい。まだやれること山ほどあるんだから。それにその場にいる魔術師たちが常にその『何か』に引き寄せられてるわけじゃないのよ?もともといた人とか、野次馬根性の人とかもいるんだから」
康太の意見も解決のためには必要なことかもしれないが文の言うことももっともである。なにも攻撃的に対応すれば物事が解決するというわけではないのだ。
それに攻撃する対象も選ばなければならない。少なくとも今までずっとその場所を拠点にしていた魔術師たちは今回の調査対象からは除外してもいいのではないかと文は考えていた。
「支部長、とりあえず現地を拠点にし始めた魔術師の申請の日時だけ教えてもらっていいですか?特定の条件があるにしろあらかじめデータとして把握しておきたいです」
「わかった、そのくらいなら問題ないだろう。ほかに何かほしい情報は?」
ほしい情報はと聞かれても得られるのはあくまで支部長が出しても問題ないと判断した情報に限られる。
そこまで重要度が高くないとはいえ一応個人情報もどきのようなものを扱っているのだ。事件にかかわるとはいえ第三者に教えるといろいろと角が立つのは文も康太も容易に想像できるゆえにあまり強くいうことはできなかった。
「今まで確認できているいざこざを起こした魔術師の名前を教えてほしいです。可能な限り全部」
「えーっと・・・全部っていうと具体的な期間は?」
「そうですね・・・支部長が今回の件に勘付いたあたりからでいいですよ?」
なんとも意地悪な返しだなと康太は苦笑してしまっていた。文のほうから具体的な期間が明示されていたらその期間の情報だけを提示するだけで済んだものを、彼自身がおかしいと感じ始めたころからの情報を望むとは。
この回答によって支部長の懐の深さと思慮深さが判断できる。情報提供の期間をどうぞ自由に決めてくださいといったようなものなのだから。
「・・・ライリーベルはなかなか意地悪だね・・・なるほど、エアリスの弟子らしいというべきかな・・・?」
「え?エアリスさんはすごくいい人ですけど・・・?違うんですか?」
「あー・・・違うとはいいがたいね・・・いい人なのは違いないよ。そこは僕も同意する。けどなんというかなぁ・・・彼女はなかなかに策士というか・・・こちらの思惑やらなんやらを見透かすところがあるというか・・・」
支部長はエアリスのことを高く評価しているようだが、同時に少し厄介な存在であるという認識でいるようだった。
思えば支部長は小百合と昔からの知り合いなのだという。それなら自然にエアリスこと春奈と接触していても不思議はない。
康太たちの知らないような彼女の一面を知っていてもなにも不思議はないのだ。
「まぁライリーベルの師匠の話はさておき、僕の把握している限りの情報は提示しよう。どちらにしろ君たちのことだから自分で調べちゃうんだろうけど」
「そんなことありませんよ、こうして情報提供してくださるだけでだいぶ助かってます。少しずつですけどやることがわかってきましたよ」
漠然としすぎていた依頼内容の無駄な部分や核とでもいうべき部分を見つけ出したことで文はこれから自分がとるべき行動を精査していった。
話を聞くにしろ調べ物をするにしろ状況を把握するにしろ現地に赴くにしろある程度方針が決まっていないとどうしようもない。
文はそういった方針を大まかにではあるが決めることに長けているのかもしれない。長期的なものの見方とでもいえばいいだろうか、大局を見ることができているような気がするものの考え方をする。
とはいえまだまだやるべきことが山積みになっているのが現状だ。一つ一つ解決していくにも数が多い。
「支部長、今回の依頼でビー以外にも何人か連れていきたいんですけど、構いませんか?」
「あぁ構わないよ。でも可能な限り信頼できる人間に限ってほしいんだ。一応ほかの魔術師たちに大々的に知られるのは避けたいところでね」
件の現場の詳細を知るためには自然体の魔術師たちと接触するか、そういった魔術師たちを調べるほかない。
あまり大々的に動きすぎると警戒されてほしい情報を隠されてしまう可能性があるのだ。支部長としてはそれは避けたいところであるらしい。
「それじゃあ情報のほうはよろしくお願いします。何か進展があれば報告しますね」
「頼むよ。あとエアリスによろしく」
伝えておきますよと言いながら文は康太を引き連れて一度部屋の外へと出ていく。
何を急ぐわけでもなく、誰かと約束があるわけもないのに文の歩みは早かった。普段の彼女の歩き方に比べるとだいぶ急いでいるかのような印象を受ける。
こういうことがわかってしまうあたり長く一緒にいすぎたなと康太は少しだけため息をついていた。




