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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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風の力とその応用

神加が勉強をしている間に、康太と文はアリスに神加の世話を任せてそれぞれ魔術の練習を始めていた。


康太は火と風属性の魔術を引き続き学習しようとしていた。特に風属性に関しては比較的扱いやすくなってきた。最近では無属性の魔術との同時使用も問題なくでき始めている。


これからは無属性と風属性を主力に置いた戦い方をするべきかもしれない。


火属性の魔術はまだほかの属性と併用するのは難しく、単体での使用がメインでの使用法になりそうだった。


属性魔術を覚えてかなりの時間が経過し、それぞれの魔術で実戦に使用できるだけの練度を持った実用性の高い魔術も身についている。魔力の扱いもだいぶ慣れてある程度安定して操れるようにはなってきた。


「そろそろ属性魔術で次の魔術を覚えたいんだよな・・・なんかないか?」


「せめてもう少し具体的なリクエストくれないかしら?何食べたい?って聞かれて肉って答えるようなものよ?」


何でもいいとまではいわないあたり、ある程度までは決まっているということくらいは文もわかっているのだろう。彼女自身の魔術の訓練も行いながら康太の言葉に耳を傾けつつ何やら考えているようだった。


「具体的にどんな魔術がほしいの?属性は?種別は?効果は?」


「えっと・・・風属性で戦闘に使えるやつ。効果は相手にダメージを与えることができるタイプで」


「待て待て待ちなさい。あぁもう・・・そもそも風属性で攻撃ってどれだけ難しいかわかってるわけ?私だって風属性は主に補助的な役割なのよ?」


「そこを何とかお願いします。火の射撃はあくまで牽制だからさ、遠距離である程度攻撃できる魔術がほしいんだよ。可能なら見えないような形で」


康太の言いたいことは十分理解できる。康太の攻撃手段は今のところ近接攻撃に大きく偏っている。


いくつか遠距離攻撃の手段もあるが、それらは比較的威力が低いものや扱いが難しいものが多いために常用性が低い。


例えば康太のよく使う蓄積の魔術を応用した鉄球による攻撃。康太はこれをお手玉などに入れて無差別攻撃をよく行ったり、盾などに仕込んだりして遠距離での攻撃を可能にしている。


鉄球の大きさによって威力を調整しているためある程度加減などもできるし、収束の魔術と同時に扱えば目標を追尾することも可能だ。


ただしこの攻撃は防がれやすいという欠点がある。


そもそも蓄積の魔術は物体に物理的なエネルギーを蓄積するという魔術だ。それを一度に解放することで高い威力を疑似的に作り出しているに過ぎない。つまり鉄球自体に特別な仕掛けがされていないために結局はただの物理攻撃なのだ。そのため目視もある程度可能だし、索敵にもほとんど引っかかる。


最低限の防御魔術を覚えていて、なおかつタイミングを間違えなければたいていの魔術師ならば防ぐことはできるのだ。


康太は相手に防がれないように一度にいくつもの鉄球を同時に放ったり、多角的な攻撃をしたり地雷などの形で不意を打つなどしてこれをうまく当てているが、残弾に限りがあるという点で連発はできない。


再現の魔術は事前に行った動作、それによって直接生じたものを再現する魔術だ。これを利用した投擲による攻撃は一種の念動力であるため視認できず、また索敵も難しい。ただ康太を起点にした攻撃しかできないため多角的な攻撃が難しく、当ててもナイフや槍の投擲ということでダメージコントロールができない。


認識はされにくいが、康太との間に防御魔術を張られていた場合は簡単に防がれる比較的遠距離攻撃としては使いにくい魔術だ。


遠隔動作の魔術は術者が今行っている動作を念動力によって別の座標で擬似的に再現するというものだ。そのため康太の動きと完全に同じであることから相手にも認識されやすい。


だが定点的な発動であるためその原理を理解していなければ相手がこれをよけるのは難しいだろう。


現在行っている動作をぶつけるため、ダメージコントロールもしやすい。比較的安定した効果を持つ魔術なのだが、その特性から康太の動きがその攻撃の行動をしなければならないために相手にも当然すぐにばれるだろう。何より攻撃の動作をすることによって行動が制限されるのが欠点だ。


康太が扱える遠距離攻撃は地味に使えるのだが地味に使いにくいものが多い。火属性の射撃魔術を覚えたことで比較的安定した射撃魔術を扱えるようになったとはいえ火弾の魔術はあくまで牽制が目的の魔術だ。相手にダメージを与えることが目的ではないために相手にダメージを与え、なおかつ使いやすい魔術がほしかったのである。


「ダメージを与えたいなら火属性を覚えたほうがいいんじゃないの?視認されやすいし対応もされやすいけど確実よ?」


「なるべく相手には認識されたくないんだよ。そのために火の牽制魔術覚えたんだし・・・ほら、かまいたちとかさ、あるだろ?」


「あのね・・・風の刃で切り裂くとか考えてるんでしょうけどそんなの普通無理よ?そもそも強風で切れるってあり得ないからね?」


「・・・え・・・?いやだって漫画とかだとこう・・・・スパスパと切ってるじゃんか」


それは漫画だからよと文は切って捨てた。実際かまいたちという現象は確かに何度も確認されている。


なぜか鋭利に切り裂かれた人体の部分などいくつもの証言が上がっているがその原理はいまだ解明されていない。


偶発的に真空が作り出されそこに触れた瞬間切れるというのが提唱されたこともあるが、そこに科学的な根拠はない。康太が考えてるような高い威力の攻撃は風属性だと難しいのである。


「実際高い威力を求めるっていうなら竜巻とかが効果的かしらね・・・あとは前に教えた突風の魔術にちょっとアクセントを加えて攻撃するか」


「アクセントって・・・例えば?」


「風でものを飛ばすのよ。風速何十メートルって風でものを飛ばせば適当な物体でも十分脅威になるわ。風そのもので相手の動きも少しは封じられるし一石二鳥ね」


安定した地面に立っていても風速十メートル以上の風が起きているときは機敏に動くことはまず難しくなる。


相手を拘束するというよりは相手の動きを阻害するという意味で風属性は非常に優秀な魔術だ。


不安定な足場や空中にいればその傾向はさらに顕著なものになるだろう。バランスを崩して戦いにくくするくらいのことは簡単にできてしまう。


そこに加えて何かしらの物体を飛ばしているとなればその破壊力はさらに増す。トルネードなどで被害にあった家屋などを見ると、風そのもので飛ばされている被害もあれば、風によって飛ばされてきた物体によって破損している場所も多くみられる。


風の恐ろしいところは物理的な防御以外に対処法がないということだ。しかもその風の勢いが強ければ強いほど防ぐのが難しくなる。


より無理なく防ぐためには風の動きを把握してよりなだらかな、風を受け流す形での壁を作るほかない。


そういった余裕を戦闘時に見せられるような相手なら非常に苦労するだろう。ほとんどのものがそういったことはできないだろう。


「でも物理的な攻撃だと相手に反応されちゃうんだよ。威力が高いって言ってもある程度防御力がある奴なら防がれちゃうだろ?」


「まぁね。仮にあんたがそういう攻撃をしてきても私なら防げるでしょうし、風属性の魔術を覚えている人なら問題なく防げるでしょう」


「だろ?簡単に防がれないような攻撃がほしいんだよ。そのほうが俺としても楽だしさ」


「・・・そうは言うけどね、あんたの本領って基本近接戦闘で発揮されるでしょ?遠距離攻撃を鍛えるのはいいことだと思うけどあくまで得意分野で戦ったほうがいいと思うわよ?」


康太の得意分野は言うまでもなく近接戦闘だ。小百合に鍛えられてきただけあって近接戦闘ならばほとんどの魔術師に劣ることはないだろう。


ほとんどの魔術師が射撃系魔術をメインにしているというのも理由の一つだろうが、康太は近接戦でほとんど負けたことはない。


たいていの魔術師は康太に対して近接戦闘を挑むことはないため、康太にとっての課題はいかにして相手に近づくかということなのである。


「そういう意味では風の魔術は最適よ?風そのもので物理的に加速できるし、相手に対しては動きを阻害することもできる。さっき言った方法で攻撃だってできる。場合によっては目くらましもできるわね」


「それ全部暴風の魔術で事足りるってことか?」


「ぶっちゃけるとね。あの魔術結構あんたにとっては汎用性高いのよ?あんたほとんど使ってないけど。ちょっとは使い方を考えなさい。あんたただでさえ魔術の使い方だいぶお粗末なんだから」


「そうか?結構応用したりしてると思うけど・・・」


「使い方っていうのはそういう問題じゃないのよ。ばれやすいってこと。相手に自分が持ってる魔術を把握されないように使うのが基本なんだから」


以前誰かにも言われたことがあるが、康太は魔術の使い方が素直すぎる。再現の魔術にしろ遠隔動作の魔術にしろ、ほとんどが一回か二回使ってしまえば相手にその魔術の性質を把握されてしまうだろう。


ごまかすという言い方は少し違うかもしれないが、魔術の本質を隠しながら使うということを康太は今までしてきていない。


応用性に関しては目を見張るものがあるが、ひとつの魔術を一つの使い方しかしないのではなく別の使い道があるということを知るべきなのだ。


「風属性の魔術はひとまず習得は禁止よ。今覚えてる三つの魔術で何とか立ち回りなさい。一つ一つの練度を上げて使い勝手がよくなったら次を覚えること」


「ん・・・わかったよ」


康太が今覚えている風属性の魔術は三つ。微風、暴風、嗅覚強化の三つだ。三つのうち二つは戦闘では役に立たないために主に暴風の魔術の訓練をしていくことになるだろう。


実際文の言うように暴風の魔術はかなり使い勝手のいい魔術だ。これをうまく扱えるようになることが、複数の属性を扱う上での康太のステップアップにつながると文は考えていた。


無属性をメインに主に攻撃しかしてこなかった康太が相手への阻害や牽制の魔術を使いこなせば戦いの幅はかなり広がるだろう。


最終的には近接戦を挑むことになったとしても、相手を追い詰めるやり方がさらにえげつなくなっていくのは間違いない。


相手への嫌がらせという意味では間違いなく高いレベルに達することができるだろう。相手からの攻撃は回避しこちらからは牽制と嫌がらせをしながら接近。


想像しただけでイライラするような戦い方をする魔術師になる。


戦いにおいて大事なのは相手に自由に行動させないことだ。康太はそれを理解しているから主に近接戦を挑む。


だがこれからは近接戦に至るまでのプロセスも大事にしていく必要がある。


「ほらほら、やりようはいくらでもあるわよ。とりあえずこの紙飛行機を自由自在に飛ばしてみなさい」


「やりたいことに対して訓練が非常に地味なんですがそれはいいんですかね・・・?」


「いいのよ、すぐにやる!」


自分が弟子を持ったらこんな風に指導をするのかな。そんなことを思いながら文は康太に徹底的に指導を施していた。


評価者人数が285人突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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