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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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兄弟弟子達

「そういえば、もうその子の術師名は決めたのか?」


「いいえ、まだ魔術を覚え始めたばかりですよ?さすがに早いでしょう」


「そうか?師匠はお前がそのくらいの時からすでに決めていたぞ?」


奏の言う師匠というのが小百合たちの師匠である智代のことであるのはすぐに理解できた。


小百合の起源から破壊の魔術しか覚えることができないという時点で、智代は小百合の術師名を決めていたのだという。


破壊を司るものとして教え込まれた今の小百合の姿を見れば、名は体を表すというのがよくわかる。


「大まかでもいいから考えておけ。康太の時はどうしたんだ?」


「こいつの時は運が悪い奴だと思ったのでそういう意味を込めました。いろいろと考えてはいますが、今回は少々皮肉を込めたほうがいいとは思っています」


康太の術師名であるブライトビーは幸福を呼ぶ蜂、ブルービーが語源となっている。康太の苗字である八篠というものから八だけ取って付けた妙な名前だ。


真理の場合は器用貧乏という意味を直接つけた。そう考えると小百合のネーミングセンスは微妙なのかもしれない。


「皮肉ねぇ・・・でも神加はすごい才能を持ってるんですからそこを前面に押したほうがいいんじゃないですか?」


「才能を持っているからこそ皮肉なんだ。あいつがそんな才能を持っていなければもう少しまともな道だってあっただろうに、あんな才能があったせいであいつは魔術師にならざるを得なくなったんだぞ」


仮に神加が魔術師たちにさらわれていたとしても、両親を殺されていたとしてもあの精霊に愛される才能がなければほかの道だっていくらでも見つけることができたはずだ。


いや、彼女の場合精霊に愛されていなかったらあの場で死んでいたかもしれないのだがそればかりは結果論だ。


彼女が精霊に愛されているという才能のせいで魔術師にならざるを得なくなったが、それがあったおかげで今こうして生きている。


そういう意味では確かに皮肉かもしれない。他者から見れば誰もがうらやましがるものだというのに、実際にそれを有している者は全くうれしくもなければ恵まれてもいないのだから。


「確かに・・・皮肉かもしれんな・・・お前がそんな子の世話をすることになるとは」


「そうだね・・・さーちゃんも大人になったってことか」


奏と幸彦の言葉に康太は一瞬疑問符を浮かべてしまった。いったい何の話をしているのだろうかと気にはなったものの、それを聞いていいものか迷っていた。


何せ奏の言葉を聞いた瞬間、小百合の表情が一瞬変化したのだ。これを聞いていいものか迷ったのである。


「だがもしこれから本格的に魔術師として教えていくのなら、一人だけでは手が足りないだろうな・・・真理や康太がいるとはいえ・・・」


「あとアリスもいますから、最低限基本的な魔術は全部教えていくつもりです。結構時間がかかると思いますけど」


「康太君もまだいろいろ覚えてないもんね、まだまだ先は長いかな?」


「あはは・・・それを言われるとつらいです」


教えるとは言っても康太もまだ魔術師として必要な魔術をすべて覚えているとはいいがたい。


これから弟弟子ができるという中でまだ自分が未熟であるというのは少しだけ不安であり申し訳なくもある。


だがそれでも神加よりは魔術師歴が長いのだ。仮に精霊に愛されていても、彼女はただの女の子だったのだから守ってやらなければいけない。


「真理、康太、もし何かあれば私たちをいくらでも頼りなさい。新たな輩のためだ、いくらでも力を貸すぞ」


「そうだよ?どれくらい力になれるかはわからないけど、微力ながら力を貸すよ」


「ありがとうございます奏さん、幸彦さん。そのときは頼らせてもらいます」


「ほら師匠もお礼言って。うちの兄弟弟子のためにここまで言ってくれてるんですよ?」


奏と幸彦の申し出は素直にうれしかった。うそはない。だからこそ直接の師匠である小百合も何か言うべきだと思ったのだろう。真理が小百合の背を押して無理やり奏と幸彦の前に立たせる。


二人も小百合が自分たちに礼を言ってくれるのではないかと期待しているのか妙にそわそわしている。


今まで素直になっていなかったのだからたまには素直になってもいいのではないかと康太と真理も小百合の反応に少しだけ注目していた。


小百合はしばらくの間複雑そうな表情をしてから康太と真理のことを一瞬にらんであきらめたようにため息をつく。


「・・・うちの弟子のためにそこまで言ってくれてありがとうございます。不出来な弟弟子ではありますがこれからもよろしくお願いします」


「えー?そんな堅苦しいいいかたなの?もっと甘えた言い方のほうがお兄ちゃんうれしかったりするなぁ」


「幸彦の言うとおりだ。弟子の前でそういう言い方をするのが難しいのはわかるがここはもう少し砕けた言い方で」


「もうこれ以上付き合ってられるか!さっさと戻るぞ!」


さすがの小百合もこれ以上は限界だったのだろう。全員を振り切ってどんどんと先に進んでしまう。


さすがにからかいすぎたかなと康太と真理は初めて見ることができた小百合の新しい一面を見て満足していた。


今度からはこれをネタにいろいろとからかおうと思う反面、これは切り札としてとっておいたほうがいいのではないかとも思っていた。


小百合の店についた五人はさっそく神加を探していた。


店にいきなり大人数がやってきたことでアリスは何事かと驚いていたようだがその面子を見て何を目的にしているのかを察したのだろう。


視線で神加がいる部屋を示すと小百合を先頭にその部屋へと向かっていった。


「神加はどんな様子だ?」


「落ち着いて寝ている。今のところ変調もない。精神的な異常を肉体的な疲労で覆い隠されているとみるべきだの」


「疲れていれば嫌なことを考える暇もないということですね・・・良いことなのかは正直微妙なところではありますが・・・」


神加がこうしてぐっすりと眠っていられるのは彼女が魔術の訓練で非常に疲れているからに他ならない。

逆に言えば彼女は極度の疲労状態にならなければ満足に寝ることもできない可能性があるのだ。


小百合が神加につきっきりになって修業をし続けているのも、彼女をこの状態まで追い込む目的があるのかもしれない。


休んでいるときくらい安息を与えてやりたいという小百合なりの親心か、それともただ単に早く神加に魔術師になってほしいという師匠ゆえの感情か。


どちらにせよ今の状態の神加には良い傾向かもしれない。疲れて眠る。当たり前のことだがその当たり前のことができるというのはある意味収穫だろう。


小百合の後に続いて神加の姿を視認した奏と幸彦はその少女の姿を実際に見て目を丸くしていた。


話には聞いていたが現物を目にするとやはり驚いてしまうのだろう。奏や幸彦のように経験も多く高い実力を有している魔術師にとっても神加の存在は稀有なものなのだろう。


ほかの魔術師が彼女の体質をほしがるのも、そのために彼女を狙うというのもうなずける話だなと二人は納得してしまっていた。


「あの子を弟子に・・・か・・・これから苦労するだろうな」


「承知の上です。そのうえであれを弟子にすると決めましたから」


「話によると支部長からの申し入れだったんでしょ?それがなかったら弟子にしなかったんじゃないのかい?」


「あいつの申し出がきっかけであるのは認めます。ですがお二人も起きているときのあれに会えばきっと私があれを弟子にしようと思った意味を理解できるでしょう」


小百合の言葉に奏と幸彦はこの時間にしか会いに来ることができなかったことに深く後悔していた。


康太はすでに見ているその瞳。まるでその人物の本質まで見抜くのではないかと思えるほどに深い瞳。


子供のする目ではないのは確かだった。それだけで判断したかといわれると小百合としても否定しかねるが、目は口程に物を言うという言葉がある通り、その目を見れば奏も幸彦も小百合が神加を弟子にするといった言葉の意味が分かるだろう。


何せ小百合たちは誰よりもその目を見てきたのだ。深く深く、静かで恐ろしく、同時に穏やかで優しいその瞳を。


その瞳に似た目を持つ少女を弟子にするということに反対するはずもなかった。


「さーちゃんがそこまで言うならそれだけの理由があるんだろうね。康太君を弟子にするって言った時も結構驚いたけど、今回のも結構驚いたよ」


「まったくだ。てっきり弟子は真理一人だと思っていたからな。いつの間にか子だくさんになったものだ」


「また適当なことを・・・とりあえずあれが魔術師になったら康太にでもお二人のところに連れて行かせます。そのときはいろいろとご教授いただければと」


「わかったよ。暇なときであればこっちに来るんだけどね」


「いいだろう。その時を楽しみに待たせてもらおう。ちなみにあの子の実力はどのくらいだ?あの子自身の実力としては」


「・・・素質自体はかなり高いです。長年精霊を宿して魔力で満たされていたこともあって魔力の操作も予想以上の早さで会得しています。魔術のほうは少し苦戦していますが・・・それも時間の問題でしょう」


「天が二物を与えた少女か・・・いや、素質は与えられても本当に必要なものを奪われたという意味では、二物を与えられたとはいえんか・・・」


奏の言葉がどういう意味を持っているのかこの場にいる全員が理解していた。


他人から見ればうらやむべき才能を二つも与えられたと思っていいだろう。神加がこれから順調に魔術師として育ったのであればこの才能は唯一無二の絶対的なものとなる。それこそこの世界で一人といってもいいほどに。


だが幼い神加からすれば、そんな才能よりも何倍も必要だったものを奪われてしまっているのだ。

彼女の両親、彼女の普通の生活、彼女の世界。


今まで彼女の周りを満たしていたものをすべて奪われた彼女にそんな才能があるのだといってもはっきり言って何の意味もないのだ。


才能などというものは結局そういうものだ。本人がどう思うか、他人がどう思うか最終的にはそのあたりに左右される。


問題なのは彼女の有した才能があまりにも魔術師にとってうらやましいものだったということである。


それさえなければ彼女はもう少しまともな生活ができたかもしれない。少なくとも小百合のもとに預けられるようなことはなかっただろう。


奏も幸彦もそのことを理解しているようで、気の毒そうに、だが同情は決してせず神加のほうを眺めていた。


自分たちがあの子を愛してやらなければという考えを強く抱きながら。










「もう帰っちゃうんですか?今日くらいゆっくりしていけばいいのに」


神加の顔を見た奏と幸彦は早々に店を後にしようとしていた。


店の前に立つ二人を見送るべく康太と真理が店の前に立っているがそこには小百合の姿はなかった。


まるでさっさと帰れと言っているようだったが、兄弟子の二人はあまり気にしていないようだった。


「そうは言うがな、私もいろいろとやることがあるんだ。気持ちだけ受け取っておくよ」


「あはは・・・僕のほうは協会でいろいろと手伝いがありそうだからね・・・君ら結構派手にやったみたいだし。いろいろと根回ししておくよ」


奏のように私用、というか仕事で忙しいのに対して幸彦は康太たちが暴れた後の協会での後片付けをメインにして行動するようだった。


後片付けとは言うが、どちらかというと根回しを中心にした康太たちへの印象操作というのが大きな目的の一つだろう。


これをやるかやらないかで康太や真理の協会内での印象が大きく変わるのは容易に想像できた。


しかもそれをやるのが本人ではないというのが重要な事項の一つだ。本人が根回しをするとどうしても言い訳のように聞こえるが第三者がすることによって情報の信憑性を増すことができる。


もっとも幸彦の場合一応身内であるためにどちらかというと根回しというよりは迷惑をかけてしまったことへの謝罪を含めた方々への挨拶回りといったほうが正しいのかもしれない。


「それじゃさーちゃん、時間ができたらまた来るよ」


「康太、今度時間があったらあの子を連れて来い。いろいろと手ほどきをしてやろう」


「わかりました、今日はありがとうございます」


「師匠!二人とも帰っちゃいますよ!見送らなくていいんですか!?」


康太が店の奥にいる小百合に声をかけるが、小百合は鬱陶しそうに眉間にしわを寄せた状態で手を振っている。


あれだけいじられてもう小百合の許容限界を超えてしまっているらしい。かなり不機嫌なのが見て取れる。


「すいません、師匠が失礼を・・・」


「構わん、遅めの反抗期だと思っているからな。あいつがあぁいった反応をする理由もわからないではないんだ」


「主に僕たちの態度が原因だと思うんだけどね。今日は本当の久しぶりに三人そろったからちょっと構いすぎたかな?」


「あんなふうにしてる師匠は珍しかったですけど・・・まぁ今日はちょっと師匠なりに思うところがあったようで・・・」


小百合が不機嫌な原因は何も奏や幸彦にからかわれたからというだけではない。最近訓練ができていなかったせいで自分の攻撃がなまっているというのがもう一つの理由なのだ。


小百合にとって攻撃というのは自身が持つ技術の中で一番といっていいほど誇れるものなのだ。


その攻撃がなまってしまっているというのは彼女にとっての得意項目が劣化してきているということに他ならない。


神加を早い段階で魔術師にする必要があるとはいえ、最近神加にかまいすぎたのかもしれないなと彼女なりに思うところがあるのだろう。


「真理、康太、新しい兄弟弟子のことを頼むぞ?あの子はきっとこれからいろいろと大変な目にあうだろう。お前たちが支えてやるんだ」


「わかっています。ひとまずもう少し心を開いてくれるようにします」


「あとはもう少し生活環境をまともにできるようにします。今のままじゃあまりにもあれなので・・・」


「あはは・・・でもあんまり構いすぎないようにね?僕らみたいにさーちゃんに苦手意識持たれちゃわないようにね?」


それもそうですねと康太と真理は笑う。小百合が奏と幸彦に対して苦手意識を持ってしまったのはひとえに二人が小百合にかまいすぎたのが原因だ。


いつまでも子ども扱い、あるいはいつまでも大事にしすぎたのが原因といえるだろう。


康太と真理も神加を大事にするのはいいが、過保護になりすぎては神加を第二の小百合にしかねない。


さすがに小百合のような性格にはならないと思いたいが、子供というのは何をきっかけにして変わるか分かったものではないのだ。


もしあの子が小百合のようになったらどうしようと康太は少し不安になりながら眉をひそめてしまっていた。


「それじゃあね二人とも。何かあったら呼んでね。今度は役に立つからさ」


「今回お前はほとんど役に立てなかったからな。それではな二人とも・・・小百合もだ、また来るぞ」

そういって奏は空中に手をかざして頭をなでるようなしぐさをする。


康太と真理はその行動の意味を理解していた。


それが康太と真理も使える遠隔動作であること、そして今店の奥にいるであろう小百合の頭をなでているであろうこと。


こういうことをするから小百合に苦手意識を持たれてしまうのではないだろうかと思ったが、これはこれでほほえましい光景だった。


奏と幸彦にとっては小百合はいつまでたっても手間のかかる愛しい弟弟子なのだ。


二人が去っていくのを見送りながら康太と真理は少しだけほほえましく、そして自分たちにできた新しい兄弟弟子をしっかりと守らなければという意識を強めていた。


新たにやってきた魔術師の卵、精霊に愛された少女、自分たちの新しい兄弟弟子。


新しくなりつつある環境に康太は身が引き締まる思いだった。


今は静かに眠るあの少女がいったいこれからどうなるのか、まだだれにもわからない。


日曜日、そして誤字報告五件分だけ消化してこれで三回分投稿


物語をちょうどよく区切るために誤字の一部だけ消化させていただきます、これでカウントは20になります


これからもお楽しみいただければ幸いです

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