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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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姉と妹

そこから先はまさに公開処刑というにふさわしい惨状だった。エントランスにいる魔術師たちはその光景を目に焼き付けていた。


デブリス・クラリスとその身内に手を出したものにはあのような未来が待ち受けているのだと。


そして真正面から彼らと戦おうものなら、間違いなく自分たちが敗北するのだと。


戦闘に特化した魔術師。たいてい魔術師には向き不向きが存在しており、非戦闘が得意な魔術師もいれば戦闘を得意としている魔術師も確かにいる。


だが師匠から兄弟弟子に至るまですべてが戦闘に特化した魔術師系列などほとんど見られない。


一つの勢力にしては強い力を持ちすぎているのだ。今回のことで魔術協会日本支部にいてその光景を目にした魔術師はそれを本当の意味で理解していた。


「まったく、こんな魔術師一人止められないとは。ジョアが私に声をかけていなかったら取り逃がしていたぞ?」


「あ、やっぱり姉さんが声かけたんですか」


「えぇ、今回の問題は身内全員で事に当たるべきだと判断したのです。バズさんにも声をかけたんですが・・・まだ来ていないようですね」


真理のこう言うところはさすがというほかない。状況の把握能力もそうだが、事前の根回しという点において彼女を上回る魔術師はそういないだろう。


タイミング的に最高だったのはおそらく偶然だろうが、奏がこの場にやってきたことは偶然ではなかったのだ。


彼女もまた神加のためにここまで来てくれたのである。


「それにしてもよく来られましたね?お仕事はいいんですか?」


「子供がいらんことを気にするな。それに久しぶりにかわいい弟弟子の姿も見たかったしな」


「・・・前に会っているでしょう?会いに来るような意味はなかったのでは?」


「何を言うか、協会そのものに足を運ぶのも久しぶりだというのに。それに魔術師としてお前に会うのは本当に久しぶりだぞ?なぁクララ」


クララ。その呼び方をするのは康太が知る限り三人だけだ。


小百合の師匠である智代、そして兄弟子である奏と幸彦だ。クラリスの愛称でもあるその呼び名を使えるのは小百合と親しいもののみ。


そして小百合はその呼び名を少しだけ苦手に思っているらしい。どういう理由なのかは知らないがあからさまに不機嫌になっていた。


「それにしても助かりましたよ。あのタイミングで門が開いたときはヒヤッとしましたけど・・・来てくれて本当に助かりました」


「助けになれたのであれば何より。だが先ほども言ったが、この程度の魔術師を止められないとは、訓練が足りていないんじゃないのか?」


「お恥ずかしい限りで・・・最近実は師匠が新しい弟子にかかりきりでまともに訓練できてないんですよ・・・」


「・・・なるほど、そういう事情があったか。クララが妙にいらだっているのもそのせいだな?思うように体が動かなかったか」


楽しそうに笑いながらそう言う奏の言葉がどうやら図星だったのか、小百合は悔しそうに視線をそらせた。

普段は飄々としている小百合だが、兄弟子を前にすると途端に借りてきた猫のようにおとなしくなってしまう。


小百合が奏になるべく会いたくないというのは単に苦手意識があるというだけではないのかもしれない。


どちらかというと恥ずかしいから会いたくないというほうが正確なのだろう。いつまでも子ども扱いされるのが小百合は恥ずかしいのだ。


「そういうことならビー、日曜日だけとは言わずいつでも私のところに来るといい。お前ならいつでも手ほどきをしてやろう」


「本当ですか?ありがたいです。新しい子がせめてある程度になるまでは訓練できないかなと思っていたくらいですから」


康太にとっては毎日繰り返していた訓練が唐突になくなっただけでも調子が狂うのに、ただでさえ生命線である戦闘技能が衰えていくのは耐え難い。


魔術師としてもそうだが、もとより自己鍛錬が好きな康太にとってこの事態は好ましい状況ではなかったために奏の申し入れは非常にうれしかった。


「・・・姉さん、ビーは私の弟子です。あまり肩入れしないでください」


小百合の言葉に奏は一瞬呆けたような表情を仮面の奥で浮かべていた。その表情を見ることはその場の誰にもできないことだったが、奏が小百合の言葉に驚いていることだけはその場にいた康太と真理にも理解できた。


「お前に姉さんと呼ばれるのはいつぶりだろうな。いつからかそう呼ばれなくなって以来か?私はうれしいぞクララ」


「話をそらさないでください。ビーは私の弟子だ。訓練に手を貸してくれるのはありがたいですが、あまり肩入れしすぎないでください」


「・・・ふふ、師匠としての自覚が出てきたか?いいことだ。ジョアもビーも非常に良い弟子だ。新しい子もしっかりと育てるんだぞ?」


奏が小百合の頬を仮面越しに撫でようとするのを、小百合は距離をとることで拒否して見せた。


なるほど、こういう扱いをされるから小百合は奏と会うのがいやだったのだなと康太と真理は理解した。


今まで頑なに会いたがらなかったのはこういう事情があったからなのだろう。大人になってもいつまでも子ども扱いされるというのは小百合としては屈辱であるらしい。


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