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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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槍の扱い

槍の扱いにおいて最も重要なのは間合いである。ナイフ、剣、刀などよりもさらに間合いを気をつけなければ槍はただの棒切れにしかなりえない。


何故なら先にあげた武器と違い、刃のある部分が少ないからである。


それは言い換えれば他の武器に比べてリーチが長いという利点でもあるのだが、特定の距離で初めて最大限の効力を発揮する武器という事でもある。


相手を近づけさせないという意味では近接武器においてはもっともリーチのある種類と言えるだろう。


相手を懐に入れることなく、自分の間合いを維持しながら相手を追い詰めることができる、それが槍の強みであり、なおかつ最大の弱点でもある。


つまり槍のもっとも弱い部分は懐なのだ。それを理解せずにただ振り回せばどうなるか。


「・・・まぁこんな所か」


結果はこの通り。槍を持っているにもかかわらず相手に簡単に懐に入り込まれそのリーチの長さゆえに近くの敵に攻撃しにくくなりまったく対処できなくなるという事である。


例え長い槍を持っていても扱えなければ邪魔なだけ、懐に入られた康太は小百合に適度にボコボコにされて床に倒れこんでいた。


「うぐぅ・・・ま・・・魔術が使えていれば・・・!」


「アホが、魔術を使えば槍の扱いを学べないだろう・・・今日からは普段の魔術の訓練に加えて槍術の訓練も加えるからそのつもりでいろ」


康太の覚えている魔術、再現の力を使えば槍の死角でもある懐に入られたとしても問題なく対処することができるだろう。


だが小百合はそれを禁止していた。


まずは槍の扱いに慣れる事。それをクリアしなければ総合的な戦闘などさせられないと思ったのである。


その考えは正しい。槍を持っていると相手が思えば懐にはいる事こそ安全だと思わせることができるが、実際には康太の懐は槍の攻撃よりも面倒な魔術を扱える空間でもあるのだ。


文にそれをしたように、拳の届く範囲であればほぼ一方的に殴ることができる。その為に真に危険なのは槍の範囲内よりも槍の懐なのだ。


康太が槍の扱いを正しく学び、なおかつ正しくその戦い方ができるようになれば康太の戦いの幅はぐっと広がることになるだろう。


もっとも、槍を正しく扱えるまではそれ相応に時間がかかるだろうが、そこは訓練していく以外に上達の方法はない。


「ところでビー・・・お前エアリスから魔術を教わったな?」


「え?あ・・・はい・・・一応・・・」


「・・・肉体強化の魔術・・・違うか?」


その言葉に康太は目を見開いた。確かに康太はエアリスから肉体強化の魔術を教わった。


と言っても一度その体を媒介にして術式を習った程度だが、それでも肉体強化の魔術を発動できるくらいにはなった。


もちろんその精度も成功率もまだまだ実戦に使えるレベルではないが。


「・・・もしかしてエアリスさんから聞いたんですか?」


「いや、わざわざあいつがそんなことを話すと思うか?お前を見てあいつならお前に肉体強化を教えると思ったまでの事だ。むしろそうしてくれなければ困る。何のためにお前をあいつの所に行かせてると思ってる?」


エアリスは小百合の指導法を先読みして康太に肉体強化の魔術を教えた。だが小百合はそうすると読んだうえで康太をエアリスの方に向かわせていた。


なんというかどちらも互いの考えを読んで行動している。実はこの二人は似た者同士なのではないかと康太は思い始めていた。


「・・・あの・・・クラリス・・・ビーに槍を持たせるというのは・・・どうなんですか?」


戦闘不能状態から復帰したのか、文はふらふらと立ち上がりながらゆっくりと小百合の下に歩み寄っていた。


さすがにまだダメージは抜けていないのだろう、足取りはおぼつかないがそれでも動くことができているあたりさすがというべきだろうか。


「どう・・・とは?」


「魔術師として戦うなら近接攻撃を学ばせるより遠距離攻撃を学ばせた方が有効的です。槍は確かにリーチは長いですが結局のところは近接武器、魔術のリーチには遠く及びません」


文の言う通り、魔術と近接武器ではリーチが違いすぎる。普通の魔術師なら武器の扱いなど学ばずに魔術の訓練を最優先に行うだろう。


事実文の師匠であるエアリスもそのように訓練を行っている。だがこれは彼女が普通の魔術師であるからだ。


「素質のあるものならそれでもいいだろう。だが魔術同士の打ち合いで勝つには素質とセンスで相手の地力を上回るしかない。こいつにはその戦い方はできん。だからこそこうして近接戦の訓練をしている」


魔術師の戦いにおいて、もっともはっきりと浮かんでくるのは魔術師としての素質とセンスである。


どれだけ魔術を連発できるかは魔術師としての素質、魔力をどれだけ扱えるかに関係してくる。


相手の魔術に対してどれだけ早く対応できるかはそのセンスが関わってくる。


長期戦になればなるほどその二つの要素は明確に結果として現れる。実力差がはっきりと出てしまうのだ。総合力をはっきりと見せつけることができるのが魔術師としての本来の戦いでありその本質だ。


だが康太は魔術師としての素質が極端にアンバランスだ。本来の魔術師としての戦いをすれば確実に負ける。だからこそ彼女は康太に近接戦闘を教えているのだ。


本来の魔術師の戦いをさせないように。


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