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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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偶然か必然か

混乱する中それでも早く門のもとへ行かなければと、プラナ・オーバーは念動力の魔術を発動させるとその体を浮かせて移動を始める。


新米の魔術師ならばまだしも、彼は何人もの教え子を持つ魔術師だ。仮に足を負傷したところで逃げる手段などいくらでもある。


この状況ならば念動力の魔術を使って逃げるのが最も確実だと判断したのだろう。痛みによって多少集中が乱される状況においても簡単な念動力ならば問題なく発動することができる。


平時における移動速度とは比べるべくもないが、止まっているよりはずっと確実な前進方法だといえるだろう。


あと少しでプラナ・オーバーが門の前にたどり着くというところで康太が、そしてさらに数瞬遅れて小百合がエントランスへと駆け込んでくる。


二人が同時に攻撃魔術を発動しようとした瞬間、エントランスにある協会の門がゆっくりと開いていく。


このタイミングでなぜ開くのか。いちいち門をつなげる手間を短縮し、相手に逃げられるだけの道を用意してしまったことになる。


何という偶然か、最悪のタイミングで開いた門に、プラナ・オーバーは今度こそ勝利を確信していた。


あとはあの門の中に逃げ込むだけだ。あの先がいったいどこにつながっているのかはわからないが、一度門を閉じてしまえば再びつなげるまでに時間がかかる。その間にどこへなりとも逃げてしまえばいい。


あとは協会に寄り付かず、ほとぼりが冷めるのを待てばいいだけだ。さすがのデブリス・クラリスといえど何年も同じ標的を追うということはないだろうと高をくくっていた。


プラナ・オーバーが勝利を確信している中、康太と小百合は攻撃の意味がないことを悟ってその様子を観察していた。


猛攻撃しても勝てないと悟ったわけではない。むしろ自分たちが攻撃することのほうが勝利から遠ざかると思ったからこそ、あえて傍観という態度をとったのだ。


そう、開いた門だけを見ているプラナ・オーバーにはその姿が映っていなかった。そして康太と小百合はその門から出てきた人物の姿をしっかりと確認していた。


「おやおや、そんなざまでいったいどこに行こうというんだ?」


その声は聞くものが聞いたら震えあがるものだった。その仮面は見るものによっては悪夢にさえ出てくるような代物だった。


その声が聞こえたことで、ようやくプラナ・オーバーも目の前にいる人物を視界に収めることができたのだろう。


浮きながらゆっくりとその声のほうに視線を向け、焦点を合わせると、仮面の一部が砕けたことによりほんの一部ではあるが露出している彼の表情が一変していく。


先ほどまでの勝利に酔い、恍惚に満ちた表情が驚愕と戸惑いに満ち、眼前の理不尽に絶望した表情へと変化していく。


「・・・サリエラ・・・ディコル・・・!」


「久しぶりに会ったんだ、もう少しうれしそうな顔をしたらどうだ?ちょうどお前に用があったんだよ」


おそらく仮面の下では満面の笑みをしているであろう、サリエラ・ディコルこと草野奏。小百合の兄弟子であり、小百合の師匠筋の中で最も高い能力を有する魔術師である。


小百合の兄弟子という時点でその悪名は轟いているが、小百合のように悪い意味だけでのものではない。


その能力面では小百合以上に高い評価を得ているのだ。戦闘だけではなくありとあらゆる面において高い評価を得ている彼女は、おそらく日本支部の中で指折りの魔術師だといえるだろう。


何の偶然か、それとも必然か、最高であり最悪のタイミングでその場に現れた彼女の姿に康太は安堵の息を吐いていた。


同時に小百合が小さく舌打ちしているのにも気づいたが、無視しておいたほうがいいだろうなと気づかないふりをしておくことにした。


「それはそうと、レディの前でいつまで浮ついているつもりだ?」


奏が腕を一振りすると念動力によって浮いていたプラナ・オーバーの体が地面に強く叩きつけられる。


相手の魔術を完全に無視して与えられる圧倒的理不尽。物理的に浮いていることを浮ついているというかどうかはさておいて、さすが奏というほかない速攻だ。


相手が自分の登場に驚いている隙を逃さず先制攻撃。というかあの場合はただ奏がそうしたかったからという理由かもしれないが。


「な・・・なんでお前が・・・!」


「理由が必要か?可愛い可愛い弟弟子の新たな弟子が手を出されたとあってはこちらとしても対応しなければいけない。当然だろう?大切な身内に手を出されれば怒るのが人間というものだ」


地面にたたきつけられたプラナ・オーバーは全く動くことができずにいた。おそらく奏が延々と圧力をかけ続けているのだろう。


単純な威力比べで、プラナ・オーバーはサリエラ・ディコルに敗北したのだ。


小手先での勝負で比べあうのは実力が拮抗している者同士の話。このように実力差がはっきりしている者は小手先での勝負などしない。


自分の圧倒的なまでの実力を相手にただ押し付ける。小細工ではどうしようもない絶望的な差を思い知らせるのだ。


そして奏がプラナ・オーバーを押さえつけている間に康太が、小百合が、そして少し遅れて真理がその場にやってくる。


この状況を見たものはプラナ・オーバーがいったい何をしたのかすぐに理解した。彼は敵にしてはいけないものを敵にしてしまったのだと。


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