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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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逃走阻止

このままでは間に合わない。康太は後数十メートル走らなければエントランスにはたどり着かない。間違いなく相手のほうが先に到着してしまうだろう。


どうすれば相手の足を止められるだろうかと必死に考えた結果、康太は致し方がないと懐からお手玉を取り出す。


炸裂鉄球の入ったお手玉だ。室内では収束の魔術の効果はほとんど恩恵を受けられず、ただの無差別攻撃に等しい。


恨むなら逃げていったプラナ・オーバーを恨んでくれと、康太は内心その場にいるかもしれない魔術師たちに詫びながら、手に持っていたお手玉を全力で投擲する。


肉体強化がかかった状態でのお手玉はほんのわずかに放物線を描きながら一直線にエントランスへと向かっていく。


だが一回だけでは足りない。康太は遠隔動作の魔術を用いて再びお手玉を掴むともう一度思い切り投擲した。


目標は今まさにエントランスに到着したプラナ・オーバー。扉を勢いよく開けた彼の眼前に一直線に飛んできたそれが攻撃であると、彼は瞬時に理解していた。


康太がそうしていたように、彼もまた索敵によって康太の動向を把握していたのだ。康太が妙な行動をしていれば当然のように警戒してしかるべきだ。


だからこそ、彼は康太が炸裂鉄球の力を発動するよりも早く自身とお手玉の間に障壁を展開していた。


康太が鉄球を炸裂させるも一手遅い。三百六十度全方位に向けてばらまかれた鉄球は方々に飛んでいく。さらに康太は炸裂鉄球と同時に炸裂障壁の魔術も発動していた。


お手玉を中心に、プラナ・オーバーのいない側に半球状に構築された炸裂障壁は、関係ない魔術師や場所への攻撃を減衰させると同時に、鉄球によって打ち破られた障壁は刃と化してプラナ・オーバーめがけて襲い掛かる。


結果的に、康太の放った鉄球のほとんどが壁や天井に直撃していた。


当然その鉄球はプラナ・オーバーにも襲い掛かったが、寸前のところで発動した障壁の魔術が彼の身を完全に防御していた。


炸裂障壁の刃も当然のように障壁を切り刻んでいったが、彼の障壁を貫通するまでには至らなかった。


さすがにこちらの攻撃のタイミングを読まれていただけにかなり固い障壁を張ったようだ。あれを打ち破るのは炸裂鉄球を一点集中させない限り難しいだろう。


ほとんどの鉄球が地面や床に当たる中、その場にいたほかの魔術師に被害がなかったのは康太の発動した炸裂障壁の魔術の効果に他ならない。


プラナ・オーバーにぶつけられる角度以外の方向に飛んだ鉄球に関してはその威力が減衰され、プラナ・オーバーの目の前の床以外に当たった鉄球は壁や地面にめり込むことなく乱雑に転がっていた。


中には鉄球が直撃した魔術師もいたが、そのほとんどは小石がぶつかった程度の痛みでしかなく、ほとんど無傷に近かった。


康太の攻撃を完全に防ぎ切ったと、プラナ・オーバーは一直線に走りだそうとする。康太の位置もすでに把握している。あとは防衛しながら門を開いてもらい逃げるだけでいいのだ。


そんなことを考えながら体を前に運ぼうと、勢いよく地面を蹴りだす。康太の位置も把握している、背後から追ってきている小百合の位置もわかっている。


この状態なら逃げられると確信した。これで自分の勝利であるとその仮面の奥でほくそ笑んだ。


「逃がすかよ」


その瞬間、その場にいないはずの康太の声が聞こえたような気がした。


プラナ・オーバーが一歩踏み出した瞬間に康太はもう一度蓄積の魔術を発動した。


その瞬間、先ほど床にめり込んだ鉄球が今度は真上めがけて飛び出し、床の破片とともにちょうど真上を移動していたプラナ・オーバーの体へと襲い掛かる。


康太の攻撃は終わったとばかり思っていた彼はこの攻撃に対してまったく反応することができなかった。


直下からの攻撃になすすべなく、脚部に鉄球の直撃を受けエントランスに転がり込むようにして倒れてしまう。


何が起きたのか彼は全く理解ができなかった。いきなり真下から攻撃された。後ろから追ってきている小百合の仕業ではないのかと思ったほどだ。


だが小百合はまだ自分に追い付いていないどころか目視できる距離にもいない。


康太がやったのは実にシンプルだった。普段康太は炸裂鉄球を作る際に、鉄球にマークを付けてそこに金槌などの道具を使って力を蓄積させている。先ほど放ったお手玉の中に入った鉄球はそのマークが二か所あるのだ。


普段通りのマークに加え、その反対側にもう一か所。つまり正反対の向きにもう一度直進するだけの力を備えていたのである。


康太の炸裂障壁の魔術によってある程度威力が減衰したものの、ほぼ至近距離にあった床に向かった鉄球はほんの軽くではあるが床にめり込んだ。ほとんど回転もしなかったために、床に向かって直進したのとほぼ同じ方向に、一回目のマークが向いていた。


それはつまり、その反対側、ちょうど床にめり込んだほうには二回目のマークがあるということだった。


ちょうどプラナ・オーバーの体がお手玉の炸裂した位置と同じ場所に来た瞬間に、康太は床に軽くめり込んだ鉄球に仕込まれた二発目の力を解放させたのだ。


無論周りの魔術師たちへの被害も考慮し、床にめり込んだもののみを対象にした発動だったために被害は最小限に抑えられた。そして最高の効果を得られたといっていいだろう。


その結果、まるでその体を狙ったかのように鉄球たちが襲い掛かったのだ。康太の攻撃を完全に防いだことで油断していたのもあるかもしれない。目の前にゴールである門が見えたことで心のどこかにゆとりができたのかもしれない。


そのほんのわずかな隙は、康太のような魔術師相手には命とりだった。


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