追う殴る戦う
康太は索敵を駆使しながら全力疾走を続けていた。相手よりも早く門の前にたどり着き、協会の外に逃げることを防がなければならない。
時折殴る蹴るなどの暴行を遠隔動作によって加えていくのだが、相手にとって的確な有効打かついやがらせにはなっても決定打にはならない。
相手の体を吹き飛ばすくらいの威力が出せれば小百合が追い付けるだけの時間を作ることができるのだが、康太の使う遠隔動作ではそれほどの威力は出せない。
刃物を使って相手の足をつぶすことも考えたのだが、さすがに走りながら、しかも肉眼による目視ではなく索敵によって相手の位置を把握している状態で刃物を使った遠隔動作の魔術は失敗する可能性があるために可能な限り使いたくなかった。
索敵自体の技量も足りないうえに、何かをしながらの発動というのは地味に失敗の可能性が上がる。
現に康太は今索敵と肉体強化の魔術を常に併用し、時折遠隔動作の魔術を使って攻撃するという、多い時では三つの魔術を同時に発動しているのだ。
だいぶ慣れてきたとはいえやはり複数の魔術を同時に発動するというのは集中力が必要になる。
ただでさえ康太自身が焦っていることを自覚している状況で刃物を使った攻撃をするのは少しためらいがあった。
こういう時師匠の小百合なら絶対にためらわないのだろうなと思いながら何度でも拳をたたきつけていく。
このままだと少し早く相手のほうがついてしまうだろう。何とか小百合に攻撃させて少しでも時間を稼ぎたいところなのだが、当の小百合もプラナ・オーバーの弟子たちに阻まれ近づけずにいる。
走っている相手の足に対して攻撃を加えられれば最高なのだが、遠隔動作の魔術で動いている、なおかつ走っている相手に当てるのは至難の業だ。
胴体などを狙ってしまえば基本動かないために楽なのだが、四肢への攻撃はそれだけ練度が高くなければ当てられない。
足をかけるなどの行動をすれば逆に康太の移動速度が落ちる。
ままならないものだと思いながらも康太は相手の移動ルートを想定し始めた。
相手がまっすぐに協会の門にたどり着こうとしているのであれば、もはやこちらから接触することはほぼ無理だ。
交わるポイントはもう協会のエントランス、門がある場所しかない。
ショートカットやワープでもできればよかったのだが、あいにく康太が今いる場所からではショートカットなどはできず、ワープなどというSFチックな魔術も康太は覚えていない。
こういう時に自分の足がものをいうのだ。康太は最近陸上部の練習にあまり真摯に取り組んでいないことに後悔しながら、ここまで走るのも実に久しぶりだと考えていた。
門に近づくにつれて人が増えてきた。時折何度かあったことのある魔術師とすれ違う。
魔術師が増える中、康太の目の前に立っていた魔術師が康太の仮面を見た瞬間に姿勢を低くして戦闘態勢に入った。
索敵をずっと展開していたのが功を奏したといえるかもしれない。相手の魔力の揺らぎを感じ取ることによって、康太は相手の攻撃を予測することができた。
いきなりなぜ康太を攻撃しようとしているのかはわからない。予想としてはプラナ・オーバーの弟子か、彼の世話になった人物だろう。
だが康太には今そんなことはどうでもよかった。今邪魔されると本当に間に合わなくなる。それは非常にまずい。
魔術師という性質上、一般人に紛れたら魔力でしか判別できなくなってしまうのだ。仮面が少し砕けているところを索敵したが、相手の顔を識別できるほど康太の索敵は精度が高くない。
においもまだ完全に覚えられていないためにそこから追跡するというのはまだ不可能だ。そもそも彼の拠点に向かったところでその拠点が破棄されていたら何の意味もない。
履歴を見ていちいち追っていては面倒だ。何よりこの場で仕留めることに意味があるのである。
康太めがけて、いやこの通路にいる魔術師全員を巻き添えにして放たれた魔術に対して、康太がとった行動は非常にシンプルだった。
一度索敵の魔術を解除し、相手の魔術が発動する場所に炸裂障壁を作り出し攻撃が拡散するのを防ぐ。
炸裂障壁を軽く突き破った相手の魔術は、一直線に康太の身に襲い掛かったが、その分炸裂した障壁は刃と化して魔術師めがけて襲い掛かる。
「ウィル頼んだ!」
康太の叫びに呼応するかのように、その体を包んでいたウィルが動き出し、康太の眼前に盾としてその形を変えていく。
よけている時間すらもったいない。康太はウィルの体に自身の腕に取り付けていた盾を持たせることでより安全性の高い遠隔の盾として利用した。
襲い掛かる魔術を払いのけるように、魔術そのものに盾をたたきつけるような形でウィルは康太の体を守り、守られた康太はそのまま直進していく。
炸裂障壁によって切り刻まれた魔術師の体を足場代わりに飛び越えるような形で乗り越えると同時に再現の魔術によって大量の拳を作り出し、その体めがけて襲い掛からせる。
魔術師は地面にたたきつけられ、何度も転がると完全に意識を喪失したのか微動だにしなくなった。
炸裂障壁による裂傷と拳による打撲、仮に最悪の事態でも脳震盪くらいのものだろう。何より幸いなのはこの辺りには魔術師が何人もいたことだ。誰かしらが手当てをしてくれるだろうと高をくくって康太は先を急ぐことにした。
すぐさま索敵の魔術を発動すると、相手はすでに協会の門のあるエントランスに到着しようというところだった。




