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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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保護者として

「よっしゃ、これで情報は全部得られたな。悪いなトゥトゥ、こんな夜遅くに呼び出して」


康太はヤヤに情報を聞き出して気絶させた後、ヤカセとクダにも同じようなことを繰り返していた。


結果的に言えば三人ともすべての事情を説明した。そしてその説明は三人とも完全に一致していた。


「あのさ・・・三人に同じことをする意味あったのか?」


「あるね。情報のすり合わせってんじゃないけど、嘘を言ってる可能性もあるだろ?本当なら三人とも別の部屋とかで同時に聞くのがいいんだけど、今はそれができないからな」


「・・・妙に手馴れてるな・・・」


「周りにそういう人がいるからな。まぁとにかく情報は出そろった。またやることができてうれしい限りだよ」


三人から得た情報は以下の通りだ。この三人が世話になっていた魔術師の依頼で動いていた。デブリス・クラリスの店に潜入し、その場所にいる精霊を宿した少女を連れてきてくれとのことだった。


依頼主はプラナ・オーバー。康太は聞いたことのない魔術師ではあるがおそらく神加のことを知る人物の一人だろう。


直接手を下さずに自分の手駒を使ってこういうことをするあたりいい性格をしているなと薄く笑みを浮かべていた。


「・・・俺はここでお役御免か?」


「あぁ、あとは俺らがやる。さぁてどうしたもんかな。全く困ったもんだよ本当にさ」


言葉とは裏腹に康太の声音は非常に上機嫌といった具合だった。これから何をするつもりなのかは倉敷は知る由もないが、これ以上関わり合いにならないほうが賢明だなと本能が叫んでいた。


ここで康太がもうお役御免といっているのだから無理にかかわる必要もないだろうと倉敷は早々にこの場を離れていた。


とりあえずこの三人をどこか別の場所に運ばなければならない。このまま放置しておいてもいいのだがこの後また牙をむかれると面倒だ。ある程度処置をしてから放り投げておく必要があるだろう。


協会に行ってこの三人を放置させておいてもいいのだろうが、さすがにこの状態で放置していたら相手の耳にもこのことが伝わる可能性がある。


どこかいい隠し場所、もとい監禁場所はないかなと考える中、とりあえず今回のことを兄弟子である真理に報告した方がいいという思考に至る。


『もしもし、電話をかけてきたということは無事ですか』


「はい、問題なく三人は処理しました。やっぱりうちのかわいい末っ子を狙ってきたようですね」


『おやおや・・・それはいただけませんね・・・それで?裏はとったのでしょう?』


「もちろん。プラナ・オーバーという魔術師が裏で指示していたようですね。この三人はそいつに世話になったらしいです」


プラナ・オーバーという名前を聞いて真理は何度かその名前を反芻して自分の記憶の中に該当する魔術師がいるかどうかを探しているようだった。


真理は小百合よりずっと協会に所属している魔術師に詳しい。敵ばかり作っている小百合と違って真理は適度に味方を作っている。味方にできなくとも不戦条約を交わすなどいろいろと手を打っているやり手の魔術師だ。彼女ならばプラナ・オーバーという魔術師について何か知っているのではないかと思った康太の考えは間違いではなかった。


どうやら彼女の中には件の魔術師に思い当たる点があるらしい。


『・・・あぁ、あの方ですか。あまり話したことはありませんが、なるほど。我々のかわいい末っ子に手を出そうとしたのであればそれ相応に対処しなければなりませんね』


「姉さんならそう言ってくれると思いましたよ。どうしますか?すぐにでも向かいますか?」


『彼が協会にいるかどうかはわかりませんが、早々に師匠に話を通したほうがいいでしょうね。ちょうど師匠は協会に向かっていますし、アリスさんにあの子のことは任せていってみましょうか』


「あ、それはいいんですけどこの倒した三人はどうしましょうか?少なくとも放置っていうのはちょっと問題ですよ?」


倒した三人をこのまま屋上に放置しておいてもおそらく問題はないだろう。ただでさえ長い間苦痛を与えられて、完全に意識も戦意も失っている状態なのだ。


仮に放置して目を覚ましたとしてもまともな精神状態になるまで少し時間がかかると思われる。

放置しても神加が狙われるということはまずないだろう。


ただこの状態で放置して万が一一般人に見つかったときが面倒だ。こんな格好をした人間が拘束されている状態を見たら最悪警察沙汰になりかねない。


『そうですねぇ・・・それでしたら身ぐるみをはいで貸倉庫の中にでも入れておきましょう。彼らも魔術師ですから最低限隠れるくらいはできるでしょうし、何より貸倉庫であれば少なくとも明け方までは誰かがあけるということもないでしょうから』


「なるほど。近くに確かありましたよね。鍵開けの魔術・・・はないからまぁ何とかして倉庫のカギは開けますよ」


『お願いします。私は出かける準備をしましょう。いろいろとやることができてしまいましたからね』

真理は上機嫌な声を出しながら一度通話を切る。


こういう時に兄弟子がしっかりしている人だとやはり助かる。自分が思いつかないようなことをしっかりとアドバイスとして出してくれるのだから。


康太は真理の助言通り近くにある貸倉庫の近くに向かい、監視カメラなどがない死角を通りながらウィルの体を変化させて鍵を作り出し倉庫の扉を開けると、服や道具などをすべて奪った状態で三人を放り投げた。

あとは協会に向かって小百合に会いに行くだけである。



康太が魔術協会の日本支部に足を運ぶと、そこにはすでに真理が準備万端の魔術師装束に身を包み康太を待っていた。


「お疲れ様です姉さん。店は?」


「アリスさんに任せてきましたよ。うちの子もぐっすり寝ていますからお留守番にはちょうどいいでしょう」


「それなら安心ですね。それで師匠は?」


「まだ支部長のところにいるらしいですね。ちょうどお話をしたいと思っていたので都合がいいです」


これから康太たちがやろうとしていることを考えれば、あらかじめ支部長に話を通しておいた方がいいのは間違いない。


ちょうど小百合が途中経過を支部長に報告に来ているのだから小百合に会いに行くついでにそのことを話しておいた方がいいだろう。


なにせそれなりに騒ぎになるかもしれないのだから。


「時にビー、消耗していませんか?三対一では多少つらかったでしょう?」


「三対一って言っても相手は戦い慣れてない感じでしたよ。比較的楽に倒せました。あれが倍になってたらつらかったかもしれませんけど」


連携という意味ではあの三人の技術は決して低いものではなかった。攻撃、索敵、防御。それぞれの使用する魔術やその体格なども考慮して互いにフォローしあうことができるという意味では間違いなく高い技術を有しているだろう。


だが初手で対応を誤った。


康太にとって絶対的に有利な状況にしたきっかけは、最初の一手で索敵役のヤカセを負傷させることができた点だ。


本来ならばヤカセはある程度距離をとったり、攻撃の対象にならないようにはなれながら二人に指示を出す司令塔的な役割だったのだろう。


最前列に防御役のクダ、そのすぐ後ろに攻撃役のヤヤ、その後ろに索敵と指示を出す司令塔のヤカセが配置するのが彼らの最も得意とする戦い方であっただろう。


だが康太は初手でヤカセの動きを封じた。多角度的な攻撃に対してヤカセを守るためにクダとヤヤが一か所にかたまらざるを得なくなってしまった。


完全に役割分担して戦う場合、その役割が完全にうまく作用すればかなり高い効果を発揮するが、どれか一つでも機能しなくなるとその効力はかなり失われてしまう。


特に指示を出すはずの人間を最初に攻撃されたことで、とにかく守らなければならないという考えが先行し攻撃に頭が回らなくなったのが彼らの敗因だ。


攻めと守り両方を考えていればそれぞれに割り振れる意識は少なくなる。どちらかに集中した方がいい戦いができるというものなのだ。


「ただ武器はいくつか使いました。消耗って言ったらそれくらいですかね。まだまだやれますよ?」


「それは結構です、頼もしくなりましたね。やはり弟弟子ができると変わりますか?」


「確かに、しっかりしなきゃとは思いますね。戦闘能力的にはデビットとウィルがいてくれるのがだいぶ助かります。こいつらがいなかったらだいぶ戦力ダウンですからね」


康太だけが扱えるDの慟哭に加え、意志を持ち活動するウィル、この二つの魔術がなければ確かに康太の戦闘能力は一気に下がるだろう。


視覚的な阻害に加え魔力吸収、そして防御にも攻撃にも役に立つ半液体状の魔術。この二つがあることによって康太の戦闘能力は飛躍的に上昇している。


さらに康太は小百合や真理、そして奏たちによって数々の魔術を教えられている。その戦闘能力はどんどん上がっているのだ。


少なくとも同世代の魔術師には負ける確率は低いだろう。それこそ文のような天才肌かつ実戦を知っているレベルの魔術師でない限り康太が苦戦することはまずありえなさそうだった。


「それにしても・・・姉さんも今日は随分と『正装』してきたんですね。普段とは見違えるようですよ」


「ふふ、今日は特別にドレスコードが必要そうでしたからね。私だってしっかりとするときはきちんと身だしなみにも気を付けるんですよ?」


康太の言う正装という意味を真理は正しく理解しているようだった。


仮面越しにも穏やかな笑みが見えるような柔らかい声を出しているが、康太にはその変調が見て取れていた。


どうやら真理もやる気は十分のようだった。少なくともこの場に来て尻込みをするなどというような軟な精神は持ち合わせていないらしい。


「さて、師匠に会いに行きましょうか。支部長のところにいればいいんですけど」


「ていうか師匠に弟子二人が会いに行くと妙に警戒されそうですよね。なんかあるんじゃないかって感じ」


「むしろ逆じゃないですか?何か師匠がやらかしたから私たちが引き取りに来たとかそういう感じだと思いますよ」


「あー・・・保護者的なあれですか。確かにそれはあるかもです。最近他の魔術師たちからめちゃくちゃ同情の目で見られますからね。また君のところの師匠は何かやったのかい?みたいな感じで」


「そのうちそれがデフォルトになりますよ。ビーも少しずつですが慣れてきましたね。良い傾向です」


「ほんとにいい傾向なんですかね。そのうち師匠の後始末だけする感じになりそうで怖いですよ」


笑いながら康太は冗談交じりにそういうが、さすがの真理もそこまではないだろうといいかけながらも否定しきれないようで苦笑いしてしまっていた。



「失礼します。あ、やっぱり師匠いた」


「何だお前たち二人そろって。留守番していたんじゃないのか?」


小百合は予想していた通り支部長室にいた。神加の現状を支部長に対して報告しているのだろうが来客用のソファにふんぞり返るように座っている。


いくら客として来ているとはいえこの態度はさすがにいただけないなと康太と真理はあきれてしまうが今はそのことは後回しにした方がいいだろう。


「留守番していたらちょっと『おいた』をしに来たお客さんがいまして報告に来たんですよ。一応師匠も関係ありますし」


「その程度電話でもよかっただろう。何のために携帯があると思っているんだ」


それがそうもいかないんですよと真理が小百合に今回の事のいきさつを耳打ちする。


支部長に聞かれないようにしているわけではないが、まずは小百合だけに事を伝えてそれから行動を決めて支部長に許可をもらったほうがいいと考えたのだ。


真理の話を聞いて小百合は小さくため息をついてから康太と真理を見比べる。


「なるほど話は分かった。それで?お前たちはどうしたい?」


「そりゃ決まっているでしょう。しかるべき対応をするべきだと思っています」


「うちのかわいい末弟に手を出そうとしたんですよ?ロリコン死すべし慈悲はない」


「・・・まぁそうなるだろうな。私としても舐められたままというのは気に食わん。というわけだ、悪いがちょっと席を外すぞ」


「・・・あの・・・全く話が分からないんだけど。せめてちゃんと説明してね。何をするのかわからないけど・・・いや何をするのかはなんとなくわかるけど」


さすがに小百合という問題児を抱え続けただけあって支部長はこれから小百合たちが何をしようとしているのか何となく察しているようだった。


その声音と康太たちの言葉の内容から、そして小百合の雰囲気から内容を予想したのだろうが、それにしたってさすがの状況把握能力だ。


伊達に日本支部の支部長はやっていないということだろう。


「うちの弟子が標的にされたらしくてな。こいつらのように自分で解決できる奴ならまだいいが、まだそんなこともできない卵レベルの奴だ。保護者としてしっかりと文句を言ってやらなければな」


康太たちならばある程度自分たちで自己防衛もできるのだが、神加はまだそのレベルには達していない。

まだ師匠として守ってやらなければいけない点が多いため手を出されたなら保護者が出ていくしかないだろう。


若干物騒すぎる保護者である可能性が否定しきれないが。


「・・・なるほどね・・・モンスターペアレンツとか言われないようにしてよ?ていうかいったい誰を始末・・・もとい誰に文句言いに行くのさ」


「プラナ・オーバーという奴らしいな。私は聞いたこともないが」


その術師名を聞いた瞬間に支部長はうわぁといやそうな声を出している。その仮面の下では本気でいやそうな顔をしていることだろう。


「よりにもよって彼かぁ・・・それなりにしっかり立場がある人じゃないか・・・あとで面倒なことになるよ?」


「先に仕掛けてきたのはあっちだ。文句はあっちに言え」


「・・・いやまぁ君に文句言っても意味ないからね・・・あぁもう・・・」


本当なら小百合にもしっかりと文句を言っておきたいところなのだろうが、小百合に文句を言っても右から左へと聞き流してしまうだけだ。馬の耳に念仏とはよく言ったもので全く意に介さないだろう。


本当の意味で説教をしたいのであれば小百合の師匠か兄弟子を呼ぶしか方法はない。もっとも彼らも忙しいためになかなか呼び出すなんてことはできないのだが。


「それで?そいつは今どこにいる?」


「聞いたところだと今日ちょうど協会にいらっしゃるらしいですよ?どこにいるか、まではちょっとわかりませんが」


おそらく康太が三人の魔術師の処置をしている間に真理の方の情報網を使っていろいろと調べていたのだろう。


知り合いの魔術師を経由してプラナ・オーバーがいるかどうかだけは確認したようだが、残念ながらその詳細までは調べられなかったと見える。


だが協会に来ているというのなら話は早い。何せこの協会支部のトップが目の前にいるのだから。


「というわけらしい。プラナ・オーバーは今どこにいる?どうせ知っているんだろう?」


「・・・やっぱりそうなるよね・・・そりゃそうだよね・・・そういうの教えられないのわかっていってるでしょ?」


「何を言っている?私は聞いただけだ。教えるかどうかはお前次第だ」


もっとも教えなければ勝手に探すだけだがなといいながら小百合は小さく拳を握る。その拳の意味が分からないほど支部長は察しが悪くなかった。


「・・・あぁもう・・・わかったよ・・・えっと・・・ちょっと待ってね・・・」


大抵支部に足を運ぶということは何か用があることになる。おそらくは三人の魔術師を待っているか、あるいはその関係でのことなのだろうが、おそらくどこか部屋を借りて待っているはずだ。


以前康太たちが打ち合わせやら拷問やらで部屋を借りた時もそうだが、たいていあらかじめの手続きが必要になってくる。


その手続きの結果や承認などは一応支部長のところにも届いてきているのだ。誰がどこにいるかなどはある程度把握できてしまうのである。


こういう時にコネがあると強いよなと康太はしみじみと感じていた。


支部長には申し訳ない限りだが今回ばかりは小百合の行動に全面協力させてもらうつもりだった。彼の胃に穴が開かないか心配ではあるが今回は目をつむってもらうしかない。


日曜日、誤字報告五件分受けたので三回分投稿


ダブルチェックのおかげか誤字が少なめですね。このまま誤字を少なくしていければいいなと思っています。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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