神加の才能
「・・・なるほど、とりあえず収穫ありといったところか」
「あんまりうれしい収穫ではありませんけどね・・・正直よくないほうの情報ばっかり集まってるって感じですよ」
「でもこのまま放置するよりはずっといいと思います。実際神加ちゃんのことを考えると早いうちからこういうことは把握しておいたほうがいいでしょうし」
康太の言うように神加の両親がすでに何らかの悪い状況に陥っている可能性があるという情報が増えたのをマイナスととらえるべきか、それとも文の言うように早い段階でこのことを知れたことは早く対応できると考え方を改めるべきか。
どちらにしても康太たちが次にとる行動は変わらないのだ。そしてその次の行動次第では今後の神加の生活が一変するといっていい。
「師匠が締め上げた魔術師たちにいろいろと話を聞ければ結構早く話が済んだかもしれないんですけどね・・・いったいどれだけ派手にやらかしたんですか?」
「そんなこと知るか。戦いでやられたならそれは相手が悪い」
相変わらずこの人はと康太はうなだれる。情報の入手の方法が楽であればあるほど康太たちが苦労せずに済むのだが、そのあたりは小百合がかかわった案件だからとあきらめるほかないだろう。
「状況から察するにすでに話は次の段階に進んでいるようだな。お前たちとしてはどう考えている?」
「・・・両親はすでに死んでいる、あるいは生きてはいるが魔術師たちによって暗示をかけられている」
「・・・それと、両親は魔術師で特異な体質を持った神加ちゃんを売った。これが今考えてる私たちの現状です」
康太たちの考えている可能性を上げたところで小百合はふむと小さくつぶやいて口元に手を当てた。
実際あり得ない話ではないから困るのだ。神加の体質を考えると彼女の体を調べるために彼女の身柄を求めるものがいても不思議はない。
それがたとえ我が子であったとしても、大金を積まれれば自分の子供さえ差し出してしまうような親がいないとも限らないのである。
「前者二つに関してはまぁ同意する。普通にあり得る話だからな。だが最後の一つに関してはどうだろうな」
「あり得ませんか?えげつない話ですけど結構あり得る話だと思うんですけど」
「状況が状況なら考えられただろうが・・・今回あいつは死体と一緒に牢に入れられていたんだぞ?大切な実験体をそんな粗末な扱いをするとは思えん。あの状況から察するに無差別な攻撃の中で生き延びたという感じだったしな」
実際に神加のとらえられていた状況を見ているのはこの中では小百合だけだ。そういった状況を知らない康太たちからでた意見が間違っているとは思わないようだが、可能性としては低いということを示唆できるのは大きい。
無差別の攻撃から生き残った。つまり目の前で人が死ぬ光景を見せつけられたということだろう。
神加があんな状態になったのも無理もないなと康太はため息をついてしまっていた。
「師匠、神加をここに住まわせる場合学校とかにも通わせてあげますよね?」
「当たり前だ。学業は子供の義務、それを怠って魔術師になるための特訓なんてお前以上の欠陥魔術師を作るだけだ」
自分以上の欠陥魔術師などと師匠であり、康太と同じかそれ以上に欠陥だらけの小百合に言われたくはないセリフだが確かに同意してしまう。
学業、学校で学ぶということは今の日本で誰もが通っている道だ。そんな道を通らずに魔術師になったところで必要な知識も何もかも足りずに魔術師としてどころか人間として大きな欠陥を抱えることになるだろう。
さすがに自分の弟弟子がそんなことになるのは避けたいところだった。
「手続きとかはどうにかするんですよね?でも師匠じゃ暗示は使えないから・・・姉さんですか?」
「いや、借りを作るようで嫌だが奏姉さんに頼むことにする。そのほうが確実だし何よりあとくされがない。あいつと奏姉さんを引き合わせるきっかけにもなるしな」
奏なら確かに多少の無理難題は解決してしまうだろうが、小百合が奏を頼るのは珍しいなと思ってしまった。
小百合はあまり奏とはかかわりあいになりたくないようなそぶりがあったのだが、そんなことを言っている場合ではないということは小百合自身もわかっているのだろうか。
「学費とか生活費は?小百合さんが全部出すんですか?」
「必要なら俺の貯金くらい切り崩しますよ?どうせ使ってませんし」
「弟子にたかるほど落ちぶれてはいない。それに貯金を使わないのは私も同じだ。子供一人養うことができる程度には所得もあるから問題ない」
問題なのはむしろ別のところだなと小百合は頭を抱えてこの部屋を見る。
小百合がこの部屋の中を見た理由を何となく理解してしまった。この場所は小百合が住んでいるとはいえ基本的に多くの人間が住むには適していない。
特に小学生にもなっていない小さな子供からすれば悪影響しか及ぼさないようなものなのだ。
こんなところで生活していたらいつぐれるか分かったものではない。
「いっそのことこれを機に改装でもしませんか?小さい子でも普通に過ごせるように」
「それもいいんだがな・・・さすがに改装すると大ごとだぞ。何より私が住む場所がなくなる」
ここに住んでいる小百合からすればこの店を改装するということはつまり一時的に住処を失うということだ。
ただ住んでいるだけならまだしもこの店の地下には大量の商品がある。あれを考えると簡単に改装するというわけにもいかなそうだった。
康太は店全体を見渡すと同時にこの場にはいない真理と神加とウィルの姿を探して視線を動かしていた。
「ちなみに、今日の神加の訓練はどうでした?今日はずっと魔力操作の訓練ですか?」
「ん・・・一応な・・・だがあいつは良くも悪くも私の弟子らしくない」
「それはどういう・・・?」
「優秀すぎる。体力の限界を迎えて寝る寸前の段階でもう魔力の操作に関しては完璧にマスターしているようだったな」
その言葉に康太は目を丸くしてしまっていた。小百合がマスターしたというのはつまりほかの作業を行っていても問題なく扱える程度の練度ということだ。
自分の時は一体どれくらいかかっただろうか、そんなことを考えて眉を顰めると同時に自分たちがこの場所を出て行って、そして戻ってくるまでの間の時間がどれほどだっただろうかと携帯の時計を見ながら康太は愕然としていた。
「随分と早いですね・・・半日程度でマスターしたってことですか?」
「物覚えが早いのかもしれんが、あいつの場合幼いころから精霊たちが魔力を体内に循環させていたんだろうな。魔力を操るコツをつかんだらあっという間だったぞ」
そういえばそういう体質を持っているんだったなと康太はこの場にいない弟弟子の姿を思い浮かべながら感嘆の息を漏らす。
自分が何日もかけて習得したものをたった半日で習得してしまうとは、確かに小百合の弟子にするのはもったいない逸材のように思える。
「今からでも遅くないから文のところに連れて行ったほうがいいんじゃないのか?ここにいるとろくな魔術師にならないぞ?」
「私はいいけど、条件があるんでしょ?あの子のためを思うならこの場所にいたほうがいいわ」
文としても神加が弟弟子になるというのは歓迎するつもりのようだが、彼女のこれまでの境遇を考えるとそれが難しいことは理解できているようだった。
彼女のためを思っての行動が逆に彼女のためにならないとは、なかなかどうしてうまくいかないものである。
「魔術に関してはまだやってないんですよね?」
「あぁ、今日は魔力だけで精いっぱいだったようだな・・・あと一日かけて魔力を完璧にしたら魔術の修業に移る」
「・・・たぶんだけど魔術の習得も早いんじゃないかしら?精霊たちが半ば無理やりに術を発動させたことがあるなら・・・」
「なるほど・・・あり得るな」
もしかしたら一日二日で魔術を習得して魔術師の仲間入りを果たすかもしれない。自分の弟弟子に抜かされてしまうのは時間の問題かもなと康太は若干戦々恐々していた。
「そういえば姉さんは?」
「今は神加についている。体調管理に加えて精神面も何とかできないかと苦労しているようだな」
「ウィルは神加と一緒として・・・アリスは?」
「あいつも神加と一緒だ。真理に頼まれて神加の精神状態の改善を図っている」
神加の精神状態の改善などと口に出すと簡単に聞こえるが実際それがどれほど難しいことか、おそらく小百合自身理解しているだろう。
壊すよりも直すほうが難しい。それはどのようなものでも同じだ。心を壊すのはたやすく数十秒もあれば可能だが、その壊れた心をいやすには年単位での時間が必要になる。
特に彼女の場合少々特殊すぎる状況に置かれていたのだ。幸いにも彼女が幼すぎたせいもあってそういった物事の本質を理解できなかったかもしれないが、むしろそのほうがいいかもしれない。
「今日、神加の家に行って写真を見てきたんですよ。今の神加からは想像できないような顔で笑ってる写真見つけました」
「・・・そうか。まぁそうだろうな・・・」
「・・・何とかして元の状態に戻してやりたいですけど・・・師匠の魔術では何とかならないとして、奏さんとかの魔術では何とかならないんですかね?」
「なんで私の魔術が最初から除外されているのかは・・・まぁ聞くまでもないか。奏姉さんでも難しいだろうな。精神に作用する魔術というのは総じて扱いが難しい」
一歩間違えれば廃人を作れてしまうからなと言いながら小百合は康太のほうを見て目を細める。
康太もすでに一人の人間を廃人に近い状態に追い込んでいる。そのことを忘れたとは言わせないぞと小百合の目が語るのを康太は感じ取っていた。
忘れるつもりはない。自分が壊した人間のことはしっかり覚えている。だがだからと言って後悔も反省もしていない。
康太はなすべきと思ったことをなしたのだ。そこに一片の悔いもない。
「こういうのは時間で解決するのが一番だ。最初こそあんな状態かもしれんが、育っていくうちにやがてうまいこと自分で折り合いをつけるだろう」
「そういうもんですかね?」
「幸いだったのはあいつが幼かったことだ。まだ今ならただの夢で片付けられる。両親のことに関しては・・・まぁどうしようもないがな・・・」
実際に体験した事柄程度であれば何の問題もない。ただの夢としてしまうことだってできるのだ。
なにせほとんど証拠など残っていない。映像だって残っていないために確かめようにももう確かめることもできないのだ。
だが死んでいるかもしれない彼女の両親の場合は話が別だ。生きているのであれば何らかの理由をつけてこの場所に住まわせることもできるかもしれないが、死んでしまってはどうしようもない。
こればかりは本当に、どうしようもないのだ。
康太は携帯を握る手が震えるのを感じながら神加の父親の勤めている会社の番号を入力していた。
この電話の如何によっては神加の将来が決まってしまうという事実に少しではあるが気圧されているのである。
無理もないかもしれない、現段階で電話で確認することは彼女の父親の安否だ。
これで普通に出社しているのであればほぼ問題なし。問題は出社していない、あるいはすでに退社しているということだ。
学校の屋上、文は近くで康太の様子を眺めている。彼女もまた康太が電話をかけるのを待っている様子だった。
会社に電話するなど初めてなのだがなと思いながら康太はため息をついてから通話を開始する。
コールは数回もなることなくすぐに相手が電話に出た。さすが会社に連絡しているだけあって出るのが早い。
『お電話ありがとうございます。清見自動車営業部の渡部です』
電話に出たのはおそらく事務の人間だろうか、女性の声だった。やはり名刺に載っているのは神加の父親が務めている会社につながる電話番号だったのだろう。
これが携帯の電話番号でないのはその数字の羅列を見ればすぐにわかる。直通回線などというものを名刺に載せるはずがないのはわかりきっていただけにそこまで落胆することはなかった。
「私横井工業の川城と申します。営業部の天野和也さんはいらっしゃいますか?」
横井工業というのは神加の父親が勤めている会社である清見商社の取引先の会社である。いきなり全く無関係な人間が電話をかけるよりもこのように多少うそをついてでも情報を引き出すべきだと思ったのだ。
実際に会社に足を運べば暗示の魔術でどうにでもなったのだが、わざわざその場所まで足を運ぶのは面倒だ。電話で済むことなら電話で済ませたほうが早いと判断したのである。
偽名の川城は文と一緒に適当に作ったものだ。本名を出すのははばかられたために素早く作ったのである。
『天野でございますね、少々お待ちください』
今この場にはいないのだろうか、保留の音楽が流れ始めて数十秒の時間がたっても誰も出る気配がない。
これはもしかすると本当にもしかするかもしれないなと康太は歯噛みしていた。
康太の表情を見て文はだめかもしれないなと半ばあきらめの境地に達しつつあった。
『川城様お待たせいたしました。申し訳ありません、天野は先日一身上の都合で退職いたしまして。担当は小西が引き継ぐこととなっております』
「そうなんですか。正確な退職の時期はわかりますか?それによってこちらも担当者を変更いたしますので」
『えぇと・・・先々週の木曜日となっています。連絡が遅れてしまい申し訳ありません』
「いえ、構いませんよ。それでは担当者に資料の引継ぎをしてからこちらからまたかけなおします。失礼いたします」
相手からの返答を待つ前に康太は電話を切る。正確な退職時期もわかったところでもはやこれは絶望的になったのではないかという表情とともにその場に座り込んでしまう。
「あぁ、やっぱり駄目だったのね」
「先々週の木曜日にはもう会社辞めてるってよ・・・これはもう絶望的ですわ・・・会社を辞めて娘を探す旅に出たって可能性はあるかな?」
「あー・・・まぁ可能性がないとは言い切れないわね・・・携帯の番号とか教えてもらえばよかったのに」
「やめた人間の私用の携帯を会社が教えるわけないだろ・・・家にも携帯らしきものは置いてなかったしな・・・これは本当にまずいかもわからんね」
会社によっては私用の携帯を使う場合と、入社した時点で社用の携帯を与える場合がある。
社用の携帯を与えていれば仕事の電話はすべてそちらに通ることになるのだが、問題なのは退職した時点で社用の携帯は回収される。
かといって会社が辞めた人間の私用の携帯電話の番号を教えるはずもない。プライバシーの問題などもあり、もし交換するのであれば本人と面を向って会うべき話になってくる。
もしかしたら自宅の電話番号は教えてもらえるかもしれないが、自宅にはいないのは確認済みだ。
そんなものを教えてもらっても意味はない。それなら不信感を与える前に電話を切ったほうがいいのだ。
「さてどうしますか・・・会社にはいない・・・まず間違いなく死んでるぞこれ」
「あんたが言ったように娘を探して三千里してるなら可能性はあるわよ?そうなると探すのはほぼ絶望的になるけどね・・・」
「自分で探すならまず警察に連絡するだろうからその可能性もほぼゼロだろ・・・警察とか探偵に依頼しないように暗示でもかけたってか?」
「ピンポイントすぎるわね、娘がいなくなってるのに警察に連絡しないなんて違和感しかないわ・・・」
自分で言った可能性を自分で否定するというのもなんとも複雑な気分だが、こうなってしまうともはや神加の両親、特に父親の死亡はほぼ疑いようがないかもしれない。
問題はどこでどのように死んだかという問題だ。少なくとも先々週の木曜日までは生きていたと思うのが道理だろう。退職届は基本本人でなければ出せない。暗示でも体の操作でも使って操り、退職届を出させてそのあと殺したと考えるのが妥当だろうか。
「母親のほうはどうやって調べようか・・・それこそ探偵にでも依頼するか」
「それも一つの手ね・・・今のところ私たちにできるのって家の経過観察くらいだし・・・」
人探しという部門になれていない康太たちからすると、人を探す専門の人間に依頼したほうが早いような気がするのだ。だがだからと言って魔術の存在が露見するようなことは控えるべきだ。どうしたものかと悩んでいる時康太が一つ思いつく。
「そういえばさ、魔術師って基本いろんな職業の人がいるだろ?」
「そうね、私たちみたいな学生から奏さんみたいな社長もいるし、小百合さんみたいな半分フリーターみたいな人まで人それぞれよ」
全部自分の身内なんだけどなと康太は少し複雑な気分になったが今はそんなことはどうでもいい。重要なことではない。
重要なのは多種多様な職業の人間がいるということだ。そしてその可能性について文も何となくだが気が付いていた。
「協会の日本支部にさ、探偵の魔術師っていないかな?魔術で探すこともできるし、何より魔術の存在が露呈する可能性も少ない」
「うん・・・悪くないと思うわよ?魔術師で探偵をやっていろいろと調べている人とかって結構いるし。そういう人に事情を説明して手を貸してもらうのはいい案だと思う」
「だろ?とはいえ信用できない人に任せるわけにはいかないな・・・支部長か幸彦さんによさそうな人を紹介してもらうか・・・」
自分の兄弟弟子のことについて調べてもらうのだからある程度信頼できる人物に依頼したいと思うのは当然だ。
それならば協会内の事情に詳しい幸彦か、日本支部のトップの支部長に紹介してもらえないかと思ったのである。
「奏さんは?あの人たぶんだけどこういうこともやってるんじゃないの?」
「やってそうだけどな・・・でもそれはあくまで会社経営だろ?魔術が使える探偵までやってるとは思えないんだよな・・・」
奏の会社は手広くいろいろと手をまわしている。その中に探偵などともつながりがある、あるいは経営補助くらいはしているかもしれない。
だが問題なのは実力があるかどうかではなく魔術師かどうかということなのだ。
今回の件に魔術師がかかわっていてそれが原因で死亡している可能性が高い以上、かかわらせるのは魔術師でなければいけないのである。
そうでないともし事件の核心にたどり着いたとき、魔術の存在が露呈してしまう可能性があるのだ。
「そうなると・・・まずは幸彦さんに話をしてみたら?支部長に話を通すのはそれからのほうがいいでしょ。一応あんたたちの身内の問題なわけだし」
「確かにそうだな・・・よし、とりあえず幸彦さんに連絡するか・・・仕事中じゃないといいけど」
康太はさっそく幸彦の携帯に電話を掛ける。そういえば神加の話もしておかなければいけないなと思い、電話よりも直接会ったほうがいいかもしれないとも考え始めていた。
『もしもし康太君かい?どうしたの?』
「お疲れ様です幸彦さん。今お電話大丈夫ですか?」
『問題ないよ、その様子だと何かあったのかな?なんかまたさーちゃんが派手にやらかしたみたいだけど』
「あぁ・・・その話もう伝わってますか」
まだ噂程度だけどねと幸彦は笑っている。協会に所属する魔術師を経由して小百合がいろいろとやんちゃしていることは彼の耳にも届いているのだろう。
だがどうやらまだ小百合がもう一人の弟子をとろうとしていることまでは耳に入っていないようだった。
「幸彦さん、実は師匠がかかわった一件に関して、ちょっとお願いがあって電話したんです」
『そんなことだろうと思ったよ。どうかしたのかな?ひょっとして康太君も参加してたとか?』
「いえ、今回自分はノータッチだったんですけど・・・少々厄介なことになりまして。人を探してるんです」
『・・・ふむ・・・続けて』
人を探している。およそ康太が頼みそうにないようなことだっただけに幸彦はその言葉と頼みの真意を測りかねているのか、康太に話を続けるように促した。
「電話で話すような内容ではないんですが、師匠がかかわった一件で生存者がいました。その生存者の家族を探してるんです」
『それはまたどうして?そういうのは協会に任せちゃっていいと思うけど・・・あ、ひょっとしてさーちゃんから無理難題でも吹っ掛けられたの?』
「そういうわけでもないんです。実はその生存者を師匠が弟子にとることになりまして」
康太の言葉を聞いて電話の向こう側にいる幸彦が明らかに息をのむのがわかった。驚いているのだろう。康太が弟子になった時も幸彦はだいぶ驚いたといっていた。
小百合がまた弟子をとったという事実が幸彦は相当のショックだったようだ。とはいってもそこまでマイナスイメージが強いというわけでもなく。ただただ驚いているといった様子である。
『さーちゃんが三人目をねぇ・・・なんだか事情がありそうだ。なるほど、話の流れがわかったよ。新しくできる弟弟子のために動いてるってわけだね?』
「早い話がそう言うことです。ある程度までは自分たちでも調べられたんですけど・・・足取りが完全に消えてしまって、ここからは自分たちでは難しいと思って」
『探偵、あるいは人探しが得意な魔術師を紹介してほしいってことだね?』
「話が早くて助かります。つまりはそういうことです」
さすがに今まで面倒ごとを引き受けていただけあって話が早い。察する力というのもあり幸彦との会話は話がトントン拍子で先に進んでいく。これはだいぶありがたいことだった。
『康太君の兄弟弟子、さーちゃんの三番弟子の家族ともなれば信頼できる人に頼まないとね。わかった、ちょっと知り合いにあたってみるよ。数日中にまた連絡するね』
「お願いします。依頼料とか費用はこちらで持ちますので」
『また君はそういうことを・・・まぁそのあたりはおいおい話そう。それじゃ』
そういって幸彦は通話を切った。これでそれらしい相手を見つけられればいいのだがと康太は少しだけ安堵していた。
日曜日、評価者人数275人突破、評価者人数3500人突破したので四回分投稿
誤字報告分は明日以降にしようとおもいます
これからもお楽しみいただければ幸いです




