意外な手掛かり
「・・・なるほどね・・・これが記憶から読み取ったものの情報の弊害か・・・」
「なかなかないもんだな・・・公園の遊具ってだけでも結構手掛かりになると思ったんだけど・・・」
康太たちは半日以上近隣の町を歩き回り公園という公園を見て回ったのだが、文が描きだした公園の光景と重なるようなものはまだ見つけられずにいた。
やはりというか、どうしても人間の記憶というのはあいまいになりがちなのだ。しかもその記憶の主は小学校に通っているかどうかもわからない幼子と来ている。今のところ地区だけはある程度絞れているために市役所などに片端から不法侵入して情報を仕入れたほうが早いかもしれないなと思っている中、康太はふと町並みを見ていて不思議に思うことがあった。
「そういえばさ、協会からはこのあたりで抗争があったって話を聞いたけど・・・こうしてみると全然平和だろ?魔術師同士の抗争ってどんな感じなんだ?」
「どんな感じって言われても・・・その場合によりけりなんじゃないの?大々的に戦うようなものもあれば水面下でいろいろと激突してたり裏でいろいろ手を回してたりだとかあるだろうし・・・まぁ今回の場合あんたのところの師匠が出る羽目になったんだから・・・」
「・・・まぁ大々的な戦闘が行われてたと思うべきか・・・時期的に考えてここ最近の勢力図とかがわかればまだ活動範囲が絞れるんだけど・・・」
協会としてもただの魔術師グループ同士の戦闘にそこまで戦力や人材を割くわけにもいかず、苦肉の策で小百合を投入したのだ。
その抗争においてどちらが優勢であったかなどわかるはずがない。
「近くの公園は大概回っちゃったし・・・もうこの記憶が間違ったものであったと思ったほうがいくらかましよね・・・」
「・・・待てよ・・・?それならさ、もう二つの絵見せてくれ」
「ん?いいけど・・・こっちはだいぶ劣化激しいわよ?」
それでいいんだと康太は文が持っていた三枚の絵の内二つの絵を手に取る。
二枚目の絵はみかの自宅と思わしき場所が描かれている。劣化が激しく細部まで描かれてはいないが見るべき点は家ではなかった。
三枚目の絵はみかの母親と思わしき女性が描かれている。二枚目以上に劣化が激しく、女性自体はほぼ輪郭に近い形でしか描かれていないうえに下から見上げる形での構図であるために他の風景もわかりにくい。
だがこちらも康太が見たのは注視するべきである女性ではなかった。
「・・・文、ここ見てくれ」
「ん?ここって・・・なにこれ、鉄塔?」
「っぽいよな?こっちもあるんだよ」
康太がさしているのは家でも女性でもなくその背景に映し出されている鉄塔だった。
電力会社などが発電所や変電所、あるいは変電所から変電所を結ぶために作る架空送電線のための鉄塔である。
よくよく見れば確かに鉄塔とそこから延びる電線が描かれている。しかも家の描かれた二枚目と女性の描かれた三枚目の両方に。
「・・・あー・・・そういえばこんなの描いた気もするわ・・・でもそれがどうしたのよ?」
自分自身で描いたものだというのに文はそのあたりがあいまいになっているようだった。何度も何度もみかの記憶を見ていろいろとあいまいになっているのかもしれない。
少なくとも文は家や女性の方に集中していた時間の方が長かったのだろう。風景や背景の方はあまり記憶に残っていないようだった。
だがそれも無理もないかもしれない。一見して最も有力となるような手掛かりを優先して書きだしたいと思うのは必定だ。
風景や背景からその周辺の状況を把握するよりも、直接家やその人物の詳細を把握した方がよほど早く済む。文もそういった考えにとらわれていても仕方がないのである。
「鉄塔って基本的にそこまで乱立してるもんでもないだろ?ある程度ラインをこう引いてくものだよな?電気送ってるわけだし」
「まぁそうね・・・なるほど、その鉄塔と電線をたどっていけばいいってわけね?」
「あぁ、電柱とかだったらさすがに無理だけどでかい鉄塔なら目印としても申し分ないだろ?」
電線というのは細分化されればされるほどに小さく数が多くなっていく。家庭用電源などではコンクリートでできた電柱を用いたりして電気を各家庭に送り届けているが、発電所から変電所、ないし変電所から変電所となるとそれなりに数が限られる。
何せ電気を作り出すところである発電所と、使用用途に応じて電圧を変化させる変電所をつなぐ道というのは必ず決まっている。何せその線と線をつなぐのは発電所と変電所という点であるからである。
各家庭という数えることすら億劫になるほど枝分かれしたそれと違って、このあたりであり得るルートはすでに限られているだろう。
「件の魔術師グループの活動圏内で、しかもそういう鉄塔とか電線がある場所・・・しかも公園が近くにあってってなると・・・」
「だいぶ限られるな。今地図で調べる。こういう時ささっと調べられるのはありがたいよな・・・」
「便利すぎるのも考え物だけど、こういう時はありがたいわね」
今の時代携帯さえあれば何でも調べられてしまう。図書館などに足を運んで調べものをしなくとも、最低限の知識であれば十分に調査することはできるのだ。
特に今回のように公共の施設、あるいはインフラに関わるものとなれば調べ方によってはすぐに調べられる。
さすがに今まで調べたこともないような事柄であるために多少時間はかかったが、それでも康太たちが先の条件に当てはまる場所を見つけ出すまでに時間はかからなかった。




