分断
何とか立ち上がることができている魔術師は自分の周りに砂の柱を作り出すと、電撃を作り周囲にある電撃の球体にめがけて放っていた。
電撃の球体同士に道を作ることで強制的に放電を行わせているのだ。さらに自分の近くの砂の柱にも道を続けると強引に周囲の電撃を消し去っていく。
この時点で砂を操る魔術と磁力を操っていた魔術、両者の使用者が決定したことになる。
あらかじめ自分で発動した魔術だからこそある程度身構えていたために耐えることができたのだろう。
逆にいまだに衝撃によって満足に体を動かすことのできていない魔術師は、おそらく水と炎の魔術を使っていた方だ。
土と雷の属性を使う魔術師、水と火の属性を使う魔術師。この二人に分かれた時点で康太と文はそれぞれが戦うべき相手を認識しつつあった。
相性的に言えば砂の魔術を使う魔術師を文が、残ったほうを康太が対応した方がやりやすくなるだろう。
相手も文と同じように雷属性の魔術を使ってくるようだったが、それはそれで彼女にとっては好都合だ。
むしろ格の違いを見せつけるという意味では自発的にそういう状況を作りたいと思っている節さえある。
負けず嫌いだなと思いながらも、康太は何とかこの二人を引き離せないかなと思考を巡らせていた。
今は動くことのできる魔術師がまだ動けていない魔術師をかばうように康太たちの前に立ちふさがっている。
見る人が見たら賛辞を贈るほど美しい光景だろう。だが生憎康太にも文にもその行動は邪魔なものでしかなかった。
さすがに相手があの場から動くつもりがないのではどうしようもない。だがやりようはある。
康太が攻撃を続けている中、文は康太に一瞬だけ視線を向けると手で簡単に合図をして見せた。
それが何の合図なのか康太は理解できなかったが、文が何かをしようとしていることに加え、あの二人を分断しようとしていることは理解できた。
だからこそ康太は意図的に槍を大きく振り回してそれにこたえる。
文が何をするつもりなのかはわからないが、少なくとも状況を変える何かをやろうとしているのは間違いない。ならば自分はそのフォローと、文がそれをした後の対応をするだけである。
消され続けていく電撃の球体を文はさらに一斉に増やしていった。相手からすればありがたかっただろう。近づかない限り攻撃してこない魔術を連発してくれるのだから。
こちらから動かず、体調が元に戻るまで、少なくとももう一人がまともに動けるようになるまでこの状況を続けたいところだった。
だが当然文がそれを許してくれるはずがない。
二年生の魔術師が康太たちの攻撃を防ぎながらもう一人の体調が整うのを待っていると、不意にその体が宙に浮きだす。
その感覚をその魔術師は知っていた。何せ普段自分が好んで使うタイプの魔術だったからである。
そう、つまりは磁力による斥力などを利用した浮遊と移動である。
そしてこのタイミングでそれが起こっていることの意味を瞬時に理解した。
電撃をあれほどの威力と精度で操れる文が、人の体一つ浮かすのくらい何の問題もなくできることだろうと。
その答えを体現しているかのように、二年生魔術師の片割れの体はどんどんと宙に浮いていき、その体は一気に校舎の屋上にまで運ばれていく。
「それじゃビー、そっちは任せたわよ」
「オーライだ。そっちも気をつけろよ」
「誰に物を言ってるんだか・・・まぁいいわ。任せておきなさい。電気じゃ負けるつもりはないわ」
終わったら手伝いに来てねと言いながら文はいまだ倒れ伏したままの魔術師を見て小さく眉を顰める。
ただ壁にたたきつけられただけにしては回復が遅い。何かあるだろうということを予想して康太に助言しようと口を開いたが、その言葉が声となって喉を通ることはなかった。
自分よりも戦闘がどのような意味を持っているのかを知っている康太に対して、自分から何か助言をするようなことはないと思ったのである。
「それじゃ行ってくるわ。さっさと追いついてきなさいよ?」
「わかってるって。この状態なら負ける気はしないな」
相手はいまだ動かない。そんな状態で一人任されればそういう言葉が出てくるのも何もおかしいことではないだろう。
文が風の魔術を使って体を浮かし、屋上にまで飛んでいくのを確認してから康太はいまだ倒れうずくまっている二年生魔術師を一瞥して槍を構える。
「先輩演技下手くそですね。そんなんじゃ死んだふり作戦は意味ありませんよ?もう少しうまくもがかないと」
康太の言葉に倒れ伏していた魔術師はほんのわずかに体を強張らせた。体を強く校舎にたたきつけられたとはいえ、もがき苦しむ時間が長すぎた。そして何よりもあまりにももがき苦しむそのそぶりがおかしかったのだ。
叩きつけられ肺の空気がすべて押し出された状態ならば、まずは痛みを覚えた個所を抑えながらとにかく息をすることを目的とするだろう。だがその体は痛みと衝撃によって痙攣しうまく呼吸ができない。
そういう演技をするべきだったのだ。訓練で何度か似たような状況になっている康太にはこの程度の演技は通用しない。




