水と砂と風
次の瞬間巻き起こったのは先ほどよりもさらに強い風だった。康太は一度それと似たものを見たことがあった。
京都でも見たことのある竜巻。それは兄弟子である真理が作り出していたものとほぼ同質のものだった。
しかも相手が自分めがけて作り出した炎を取り込み、炎を含めた竜巻としながら逆に相手めがけて襲い掛からせる。
強力な風が一気に連続して巻き起こったことで、文の方へと向かっていた砂はほとんどが吹き飛ばされてしまったのか彼女のもとへとたどり着いた砂はほんの少量になってしまっていた。
自分たちの攻撃をあっさりと対処されてしまい、逆に自分たちめがけて炎の竜巻が襲い掛かってくるのを見た二年生魔術師二人は一瞬硬直したが、すぐに防御態勢を敷こうと魔術を発動していた。
風に対しても火に対しても有効な魔術といえば土属性位のものだが、どうやら土属性の魔術の中でも砂を扱う魔術しか使えないようで、砂を周囲に展開させるがそれでは不十分のように思えた。
だが次の瞬間その砂を包むように水の膜が発生していく。炎に対しての対策だけではなく、風によって飛ばされないようにするために水を混ぜて砂を固めようとしているのだ。
なるほど確かに対処としては間違っていないだろう。確実な防御をするため、そして相手に自分たちの魔術を必要以上に見せないという意味ではこの状況でできる最適解かもしれない。
だがちょうど視界と攻撃が途切れたこの時を康太が見逃すはずもなかった。
相手が物理的な防御を固めているのであれば、それは康太にとって攻撃のチャンスでもある。
単純な砂や水の防御であったのなら康太も崩しにくかったかもしれないが、水によって砂を固め、土に近い状態にしているのであれば話は別だ。
さらに言えば今は文の魔術が迫っている。完全に防御を破る必要などない。少しでも穴をあけてしまえばあの炎の風がおそらくあの二人に大きなダメージを与えるだろう。
亀裂を生じさせるといっても砂に水を含ませてそれなり以上の堅さにはなっていることから、通常の対人用鉄球の攻撃だけでは不十分だと理解した康太はどうしたものかと少し思考を巡らせる。
康太が覚えている攻撃手段であの土の壁を突破できるものはいくつかある、対物用の鉄球でも問題なく破壊することはできるだろうが、それだと威力が高すぎて中にいる二人のどちらか、あるいは両方に大きな鉄球が直撃するかもしれない。
さすがに殺すのは康太としても不本意だ。あまり威力が高すぎる攻撃は避けたいところだった。
文の言う通り殺傷能力が高すぎると攻撃を選ばなければいけないために地味に不便だ。
別の攻撃手段を模索するべきかもしれないと思いながらも、康太はすでに対応するべき攻撃を思い浮かべ実行に移していた。
取り出したのは以前倉敷との戦いで使ったことのある筒に収められた鉄球だった。
二段階での加速が可能で、威力も対人用のままになっているために比較的使っても安全である。
あの土の防壁の前に対人用の鉄球と筒でははっきり言って効果的なダメージは望めないだろう。
だが目的はあくまであの防壁を破壊することだ。それならばこの筒に収められた鉄球でも十分すぎた。
康太は筒入り鉄球を上空高くにばらまくと、まず一段階目の加速によって周囲にまき散らし、収束の魔術によってそのすべてを土のドームに直撃させていく。
当然そのすべてが土の防壁によって受け止められる。ドームの中からその様子を確認していたであろう二人は安堵の表情を浮かべたことだろうが、その反応がまだ早いことは康太も文も理解していた。
筒の中に収められていた鉄球に込められているエネルギーを解放すると、土にめり込んだ場所からさらに押し出される形で内部めがけて鉄球が襲い掛かった。
ほとんど対人において致命傷を与える威力にはならなかったが、鉄の球が襲い掛かるというのは致命打にならなくともなかなか痛いものである。
全身で鉄球の攻撃を受けていく中、二人は気づいただろう。
鉄球の通り道には、その鉄球が収められていた筒がある。そして鉄球そのものが通ってきた穴が開いている。
先ほどまで風を通さない土の防壁となっていた魔術は、すでに穴だらけで風を簡単に通してしまう状態になっていた。
そして文はそれを見逃さなかった。康太のあけた穴を通すように一気に風を吹き込ませていく。
そしてその風に含まれた炎もまたドームの中に吸い込まれていった。
ほとんど逃げ場のない状態で炎を受けたらひとたまりもないだろう。さすがに文も殺すようなことはしないが、これで勝負がつくかもしれないなと康太が楽観視していると土のドームは内側から爆散する。
しかもただの衝撃によって吹き飛んだのではなく、内部から大量の水があふれだすことで圧力に耐えきれずに土の壁が崩壊したのだ。
文が作り出した風も、取り込まれた炎もすべて無力化した水の奔流は、中にいた二人をずぶ濡れにさせていたがほとんど無傷の状態を維持させていた。
だがそれすらも文の予定通りだったのか、周囲には雷雲が発生しつつある。次の瞬間、二人にめがけて激しい電撃が襲い掛かった。




