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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
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覚えるべき魔術

「結局あんたってまだ二つしか魔術覚えてないのよね?」


「あぁ、今三つ目を修得中。これはもう少しでいけそうだ」


魔術師として魔術の所有数を明らかにするというのは愚策なのだが、そのあたりもおいおい教えていかなければならないと思いながら文は師匠であるエアリスの方を見る。


「師匠はどう思います?こいつがどういう魔術を覚えればいいかとか、何かアドバイスのようなものってありますか?」


本棚だらけの場所でいくつかある机の一つに向かって何かを書いているエアリスは文に話を振られたことで小さく息をつきながら康太の方に視線を向ける。


康太の頭の先からつま先までを観察するように眺めた後、彼女はふむ・・・と小さくつぶやいた後で口元に手を当てて思案し始める。


「他人の弟子にあれこれ口出しするのは些か無粋だが・・・そうだな・・・どうやらあいつは君を普通の魔術師とは一線を画した存在に育て上げようとしているように見える」


「一線を画した・・・?」


エアリスの言葉がその通りの意味を持つのであれば、強力な魔術師として育て上げるつもりなのか、それとも小百合と同様に魔術師として異端の存在に育てるつもりなのか。


どちらにせよ康太はただの魔術師にはならないということがわかる。いやなれないと言ったほうが正確かもしれない。


「私が君の師匠なら、この段階で・・・いやその次の段階で君に肉体強化の魔術を覚えさせる。君にとってあれは覚えて損のない魔術だ」


「・・・肉体強化って・・・魔術師はあんまり使わないんじゃ・・・」


肉体強化が魔術師に軽んじられる理由、それは単純で『使い物にならない』からである。


魔術によって得られる強化というのはいくつか種類があるが、結局のところやっていることはほとんど変わらない。


それはつまり『性能強化』である。


照明などであればその光量を増やしたり、木刀などの道具であればより固くなったりと、その道具などがもつ能力の性能を強化することができる。


人間で用いる場合は筋力、動体視力、感覚などの強化を行う事でそれぞれの能力を助長することができる。


「確かに魔術師で肉体強化を主力にしているのは結構レア・・・だけどいないわけじゃない。何より君の先日の戦いから察するに得意属性は無属性、そして覚えている魔術攻撃は近距離でしか使えないようなものであることがわかる。それなら肉体強化は持っていて損はない」


先日の戦いをエアリスが遠目で見ていたことは理解している。彼女は文の師匠なのだからそのくらいは当然だが、見ているだけでそこまで把握されるとは思わなかった。


文字通り見抜かれたという事だろう。この辺りはさすがとしか言いようがない。


「でも・・・確か肉体強化ってそこまで強くなれるわけじゃないんですよね?」


「その通りだ、別にスーパーマンのような力を得られるわけではない。もっともそれを目指している魔術師もいるが・・・まぁそれは置いておこう」


強化の魔術はあくまでもそれぞれが持つ能力や性能の助長であって限界を越えられるというものではないのだ。


例えば肉体強化の力を使ったとしても百メートルを一秒で駆け抜けることができるようにはならないし、ただの拳で巨大な岩を砕くことができるようになるわけでもない。


魔術による肉体強化はあくまでほんの少しだけ身体能力を強化するだけにすぎないのである。具体的に言えば『人間という種族』の限界を超えることはできないレベルでの性能強化という事である。


これで身体能力を極限まで高めることができるような魔術があれば、それこそそれを主力魔術にする者もいたのだろうが肉体強化の魔術というのは良くも悪くも地味なのだ。もちろん使いどころを考えれば有用ではある。


だが使う魔力やそれによって得られる効果、汎用性などを考慮しても強化の魔術を主軸においている魔術師というのは非常に少ない。


強化を覚えるなら別の魔術を覚えたほうがまだ使い道があるからである。だからこそ強化の魔術はあくまで補助的な使用しかされず、優先的に覚えるようなものでもないのだ。


それが普通の魔術師ならば。


「肉体強化の魔術は強化の度合いとその継続時間で魔力を消費する。君がどの程度の素質を持っているか詳しくは知らないが、基本的には瞬間的な発動になる。例えば敵の攻撃が来た時の緊急回避など、瞬間的に動体視力と筋力をあげて回避、などという風に使える」


要するに、身体能力の強化はあくまで回避などの対応をする際に使うものであって、緊急時以外にはほとんど使い道がないという事でもある。


人間の限界は越えられないという言葉を聞くと地味なように聞こえるが、それでも十分に有用である。


人間は本来全力であると思っていても七割程度の力しか使えていない。無意識のうちに手加減をしてしまっているのだ。


その力をすべて使えるようになるということはそれだけ高い身体能力を得られるという事である。


とはいっても先ほどエアリスが言ったようにスーパーマンのような力が得られるわけでは決してない。別に道路を走る車に並走できるわけでもなければ数十メートルジャンプするようなことができるようになるわけでもない。


人間の限界とはそう言う事だ。肉体強化の魔術はあくまで補助のためのもの。覚えておいて損はないが主力にするにはいささか力不足な魔術なのだ。


いくら人間の限界に到達するほどの身体能力を有していたとしても、遠くから攻撃できる魔術の前には無力に等しい。


たとえ強い体を持っていても、人間の体は銃弾を受ければ血を流すのと同じだ。必ず限界というものは存在する。それ故に主力にはなりえない魔術なのだ。


「まぁ口で言っても理解はできないだろうな・・・来なさい、今から軽く君に肉体強化の魔術をかけてやろう」


「え?いいんですか?」


「構わない。あいつに格の違いを見せつけてやるのもこのトレードの目的の一つなんだからな」


思い切り私情が入ったような気がしたが、とりあえず新しい魔術の体験をさせてもらえるという意味ではありがたい。


そもそも小百合が肉体強化の魔術を覚えていない可能性もあるのだから。


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