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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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二人の間柄

だが物理的な拘束をあきらめたといっても、まだ拘束する手段がないわけではない。先輩魔術師は周囲に展開している光の鞭と同質の魔術を自ら発動した。


方陣術として扱えているのだから、本人がその術を扱えても不思議はない。自動制御ではない分数に限りがあるだろうが、周囲の方陣術の発動を維持しながら扱える量にも限界がある。


方陣術を維持するための魔力、そして自身で魔術を発動するための魔力。さらに両方の術を維持、発動できるだけの処理能力。この三つが備わっていないと満足に術を操ることはできないだろう。


もっとも方陣術の方は適切な魔力を注ぎ込むだけで発動が継続されるため、そこまで高い処理能力は必要としない。


学校という場を戦場に選んだ時点であらかじめ仕込みはできたのだ。康太たちが一切の油断なく準備を進めたように、相手だって当然油断なく容赦もなく準備を進めたことだろう。


あらかじめ捕縛用の方陣術の罠を仕掛けることくらい造作もなかった。何せ康太たちは装備を用意するために一度学校を後にしているのだから。


相手は二年生。しっかりと陣地を築いて待ち構えていた。対して自分たちは一年生、相手の牙城に斬りこまなければならない。


ならばこの程度の逆境ははねのけなければならないだろう。何よりもこの程度の状況は今までも超えてきたのだ。


康太はその体の中から黒い瘴気を噴出させていく。それは何を合図にするでもなく一気に廊下中に広がっていき、簡単に康太の体と二年生の魔術師の体をも覆いつくした。


そして容赦なくその体の中から魔力を一定量奪っていく。その代わり康太の体の中には奪った分の魔力が注ぎ込まれていた。


通常の魔術師にとってこの状況は最悪とまではいわないものの、かなりつらい状況といっていいだろう。


視界を遮られた上に、魔力までも奪われていく。まともに戦闘をするためには索敵の魔術を常時発動しなければならない。


ただでさえ魔力を奪われているのに、使用しなければいけない魔術がさらに増えるというのはそれだけで大きなマイナスだ。


方陣術で使用している魔力、自身で発動している魔術に必要な魔力、そして索敵を使うための魔力、これらが必要だというのにさらに自身の残っていた魔力も奪われていく。


それは相手があらかじめ予想していた消費と供給のバランスを一気に崩すには十分すぎる一手だった。


魔術師は自身が有している素質を十二分に把握しているものだ。どれだけの魔術をどれだけ同時に、あるいは連続での使用ができ、どれだけの時間をかければ魔力を回復できるかなど、消費と供給の天秤を常に自身で操ることができる。


だが康太の使うDの慟哭がそれを容易に崩した。


魔術を使用中だった相手にとって自身の魔力を奪われるのは、このバランスが崩れることは自分の継戦能力や瞬間出力にも影響する甚大な被害だ。


そこまで多くない量でも、素質によってはかなりの動揺を相手に与えることができるだろう。


今まで魔力吸収などという魔術を受けたことのなかった二年生魔術師は当然のように動揺した。


そしてその動揺を見逃すほど、康太は未熟ではなかった。


自動で動き続けている方陣術によどみはなかったが、こちらに向かおうとしていた術者自身が発動していた光の鞭はわずかに動きが鈍っていたのだ。


康太は身をひるがえしながら方陣術で自動で動き続けている鞭を回避し、その腕についている盾を魔術師に向ける。


その盾の中に収められていた最も小さい対人用の鉄球を、二年生の魔術師に向けて放つと物理エネルギーをため込まれていた鉄球は勢いよく飛び出していった。


康太が盾を構えて攻撃するというのは以前の戦いでも感知できていたことだ。動揺していたとはいえ康太の攻撃の予備動作をしっかりと索敵できたのだろう。先輩魔術師は自身の目の前に障壁を展開して鉄球を防ごうとする。


何発もの鉄球が障壁に直撃していき、その半透明の壁に亀裂を生じさせていくが、一発もその体に命中することはなかった。


ただの物理的なエネルギーを持っただけの鉄球ではこの障壁は破れない。その確信を得たのだろう、二年生の魔術師はほんの少し安堵していた。


だが鉄球を防いだ程度で安堵するには少々、いやだいぶ早い。


何せ相手をしているのは康太だけではないのだ。


障壁が康太の攻撃を防いだ瞬間、彼の索敵魔術に反応があるが二年生魔術師は反応しきれず、その体の側面から複数の杭のようなものが飛翔しガラス窓を突き破りながらその足と腕に突き刺さった。


いったい何が、それが誰の仕業であるのか康太はすぐに気づくことができた。


杭にほんのわずかではあるが電撃が込められている。そのせいで突き刺さった部位が電気信号を受けて勝手に動いてしまっている。


あれが文の魔術の一つであることは間違いなかった。


文は康太と二年生魔術師が二階に陣取って戦っているのを見て、一度距離を取ってから安定策をとることにしたのだ。


つまり、攻撃の届かない遠距離からの狙撃。


康太の真似をしているようであまり好きな攻撃ではないが、磁力を用いて杭を飛ばして遠距離での物理攻撃を可能にしたのである。


康太が蓄積の魔術によって一度に物理的なエネルギーを加えるのに対して、文のそれは磁力をある程度継続して杭に与えるために、遠距離でのコントロールも可能なのである。


康太の鉄球の有効射程距離は長くとも二十メートル程度。それ以上は弾道が安定せず、他の魔術による弾道変化がなければ安定して敵に命中することはない。


何せ加えている力がただの打撃なのだ。一点に集中したところではじき出された鉄球はまっすぐとは飛んでくれない。一度弾かれただけでは風や重力、空気抵抗などの影響を強く受け不規則な軌道を描くだろう。どうあがいても狙撃には向いていない。


だからこそある程度外れることも考慮して炸裂する鉄球をお手玉などに込め三百六十度全体を攻撃できるようにしたのだ。


いわば意図的に作り出した無差別攻撃。制御できないならあえて制御しないことで相手に威圧感を与えられる。


収束の魔術によって、距離さえあればその攻撃をすべて相手に当てることができるようにはなったが、当然距離が出るだけ威力は減衰する。あくまでこの魔術は相手にプレッシャーを与えるものであるのだ。


だが文のそれは康太のような制御しきれていないものとは全く違う。彼女自身が完全に制御し、狙いすますかのような、針の穴に糸を通すかのような繊細さで放たれる。


杭というより釘というべき細さを持ったその武器には、微弱な電撃を発生させる魔術がエンチャントされている。


それに加えて彼女自身が電撃によって磁力を操作してそれを急加速させて撃ち出しているのだ。


リニアモーターカーなどでも用いられている磁力による加速。武器や兵器などでいえばコイルガンなどがそれに該当するだろう。


もっとも、文が安定して操れる速度、そして相手を殺さない程度の威力となると音速を超えることもできない。


だが対人戦において、音速など出す必要はない。相手が反応できない速度で、相手が感知できない距離から攻撃すればいいだけの話なのだ。


康太がDの慟哭を使って相手の目をつぶしたことで、相手は索敵による感知に頼らざるを得なくなった。

康太ほどの前衛タイプを相手にするにはより精密な索敵をしなければならなかっただろう。


ミスの許されない状況で、彼は索敵をするために意識を康太に向けざるを得なかった。見えない文よりも、目の前にいる康太が攻撃態勢に入ったということによって彼はまた一つ動揺したのだ。


状況の変化による混乱によって、平静を保つために無意識のうちに処理を減らすため索敵範囲を狭めてしまったことに彼は気付けただろうか。


康太がDの慟哭を発動した時、その動揺を見抜いて攻撃を仕掛けたように、文は康太の攻撃によって動揺したその一瞬を見逃さなかった。


完璧というには少々遅いが、それでも十分な十字砲火である。


不規則に、そして断続的に勝手に動く腕と足に、二年生の魔術師は戦っていたのが康太だけではないと今更ながら思い出したのだろうか、索敵を広げ文の姿を確認しようとする。


だが文は康太たちがいる校舎にはいない。校舎を出てさらに離れた場所の民家の屋根の上にいた。

康太たちの居場所が確認できるだけの場所で、このまま狙い撃つ構えをとっていた。


その体の周りに浮く電撃をまとった杭がその証拠である。康太と息を合わせて再び狙撃しようというのが誰の目にも明らかだった。


ここで戦うのは分が悪いと判断したのか、二年生の魔術師は自分の腕と足に突き刺さった杭を強引に引き抜きながらその場から離れようとする。


当然、康太がそれを易々許すはずがない。


文のほうに意識が逸れた瞬間に、すでに方陣術による光の鞭をかいくぐりあと数メートルのところまで迫ってきていた。


槍の射程距離ぎりぎりのところまで迫っている康太に対して、取れる手段はかなり少なかった。

そもそも康太をこの距離まで近づかせたことがまず悪手なのだ。


だがこの距離に先輩魔術師の勝機があるといってもよかった。


そのことに気付いた彼は、康太の槍を自身の鞭の魔術で無理やりにつかむと康太の体を自分の近くに引き寄せる。


決して離さないつもりか、数本の光の鞭で康太との距離を強引に零にしたまま硬直状態を作って見せた。


「・・・何のつもりですか先輩・・・俺男と抱き合う趣味はないんですけど?」


「・・・こうすればお前の連れは攻撃できないだろ?お前を盾にしたままあいつと戦わせてもらう」


康太を盾にする。なるほど確かにこの状況においてかなり有効な手段といえるだろう。


相手が狙撃ができるからといって、あの攻撃は特定の対象のみを攻撃できるような代物ではない。

物理的な攻撃である以上、盾があれば防ぐことは容易だ。


その盾が何も物体である必要はない。生き物でもいいのだ。例えば文と同盟関係を結んでいる康太でもいい。


普通に考えれば味方への攻撃などは避けるべきだ。フレンドリーファイアなど戦いにおいては最も避けるべき事項なのである。


普通に考えれば、攻撃などできるはずがない。味方を盾に取られているこの状況で文ができることはかなり限定されてしまったというべきだろう。


もっとも、それは康太と文が普通の同盟関係だったらの話である。


次の瞬間、康太が再現の魔術によって近くにあった窓ガラスを砕くと、まるでそれを見計らっていたかのように電撃が二人めがけて降り注ぐ。


情けも容赦もなく、ためらうことなく文は康太ごと攻撃することを選んだのである。


「あ・・・が・・・!?」


「っつぅ・・・!」


襲い掛かってきた電撃が両者の体を硬直させる中、先に動き出したのは言うまでもなく康太だった。


康太と文は一緒によく訓練している。それこそ共闘するときもあれば互いに競い合う形で戦うことだってある。


前者の場合は小百合や真理や奏相手に、後者は一対一での戦闘訓練という形でそれぞれ戦っている。


その中で文の攻撃を康太が受けることもしばしばあるのだ。それこそ今回のような意図的な攻撃も含まれる。


相手を倒すためにあえて康太ごと相手に攻撃を仕掛けるということはしばしばあった。康太自身もそれを納得しているしどうこういうつもりはない。そうすることが一番勝率が高いと踏んだからこそそうしているのだ。


そして今回のこれも同様である。文の攻撃を受け慣れている康太と、文の攻撃など受けたことがない先輩の魔術師、どちらの方が攻撃を受けた後の反応が早いか。


それはもはやあらかじめ決定していたようなものだ。


攻撃を受けることを覚悟していた人間と、攻撃されると思っていなかったもの。精神的な動揺という意味でも二年生の魔術師の反応は大きく遅れた。


電撃による痺れが体に残る中、康太はその体を半ば無理やりに動かしていた。


そう、康太が動くことができるのは何も普段から文の攻撃を受け慣れているということだけが理由ではない。


その体にまとっているウィルを介して、外側から操る形で動きにくくなっている体を強引に動かしているのだ。


康太は眼前に、それこそ手の届く距離に迫っていた先輩魔術師の体をつかむと一切の加減なく拳を叩き込む。


体は動かなくとも魔術は動かすことができるはずだが、康太を盾にしながらも攻撃を受けたことにかなり動揺していたのか、全く反応することができずにその拳を受け、その体は廊下に転がるように倒れこんだ。


そして方陣術の起点から離れてからある程度時間が経過し、術に込めていた魔力が切れたのか周囲に展開していた光の鞭が徐々に消え始める。


勝敗はすでに決したといってもよいだけの状況だ。目の前の二年生はまだ立ち上がろうと体を動かしているが、文の電撃による痺れに加え康太に思い切り殴られたせいもあってうまく体が動いていないように見える。


康太は光の鞭にとらわれていた槍を拾うと、その切っ先を二年生に向ける。


「これ以上はケガじゃ済まなくなるかもしれませんよ?そろそろ降参してくれるとありがたいんですが」


降参してくれないのであればさらに痛めつけることになる。それこそ意識を失うまでは攻撃し続けるつもりだった。


体が動かなくとも魔術は操ることができる。魔術師を倒すということは相手の意識を確実に奪うということでもあるのだ。


逆に言えばこの状態ではまだ康太たちは勝ったとはいえない。圧倒的有利であることに変わりはないかもしれないが、絶対的な勝利条件を満たしていない以上油断できるはずもなかった。


康太からすればこれ以上戦うだけの意味を見いだせない。そしておそらくそれはこの二年生にとっても同じことだろう。


この戦いで自分の命がかかっていたり、命に等しいほどに重要な物事がかかっているのであれば必死になるのも理解できるが、今回の戦いは別に何をかけているというわけでもないのだ。


強いて言えば二年生としてのプライドくらいだろうか。


年下に負けたくないという考えがある程度で、それ以上の何かがあるとは思えなかったのである。


事実それ以外のものはほとんどないといっていい。何せ今回のこの戦いはあくまで二年生たちに康太たちの実力を示すことにあるのだ。


仮にここで負けたからといって何があるわけでもない。康太たちからすればこれ以上戦うことは無意味とさえ思えているのだ。


「さすがに・・・そう簡単に勝たせてはくれないか・・・」


「わかったならあきらめてくれませんか?俺もこれ以上怪我したくないんです」


まったくの無傷と思われている康太だが、それなりに負傷はしてしまっているのだ。


といってもその怪我を負わせたのは先輩魔術師ではなく仲間であるはずの文なのだが。


そもそもこの二年生の主力魔術が攻撃ではなく捕縛が目的としている魔術なのだ。


しかもそれなりに厄介なタイプの魔術だ。負傷するわけではないが身動きが取れなくなるというだけでだいぶ戦況は変わっただろう。


それも物理的なものだけではなく、現象的な光の鞭という形での捕縛もあったために、もしあれに捕まっていたらどうなっていたかはわからない。


そう考えると割と紙一重の戦いだったのである。


目の前の倒れ伏している魔術師を見て、まだ戦意があるとは思えない。


おびき寄せて一網打尽にするという策略が外れた時点で、そしてその魔術を発動できなくなった時点でもはや彼には何のアドバンテージもない。


負傷の度合いも、残っている魔力も康太たちに比べるとだいぶ劣っている。


これ以上やっても意味はないと察したのか、ため息をついてその場にゆっくりと倒れこむ。


「参った。降参だ」


その言葉を受けて康太は小さく息をついて向けていた矛先を外す。その行動を確認した文も戦いが終わったことを察して小さく息をついていた。














「お疲れさま。ここだけ見るとだいぶひどいわね」


「前よりはましだろ。ガラスが数枚お釈迦になっただけだ。しかもそのうちの一枚を割ったのはお前だぞ」

「わかってるわよ。じゃ先輩、あとの片づけは任せてもいいですか?」


魔術師の戦いにおいて、敗北したものはその建物の損傷などの修復を請け負わなければならない。

今回の場合においてもそれは同様である。


もっとも今回は康太の言うようにガラスが数枚割れただけで済んでいる。あとはカーテンの一部が痛んでいたりしている程度だ。それ以外の物品にそれらしい目立った損傷は見当たらない。


「わかっているが、どうせ明日も相当暴れるんだろう?俺が直す意味はあるのか?」


「ありますよ。少なくとも明日は私たちが直しを請け負うかもしれないんですから」


少しでも負担は減ったほうが嬉しいですと文は思ってもいないことを口にする。


明日も負けるつもりはないだろうに、横で聞いていた康太もこればかりは苦笑するしかなかった。


「とはいえ・・・あれだけ非殺傷系の魔術を多く使ってくるあたり、先輩手加減してたんですか?それとも何か別に思惑があったり?」


「・・・そういうわけじゃない。ちゃんといろいろと考えがあったんだ。まぁいろいろと無駄になってしまったがな」


さすがにその思惑とやらを話すつもりはないようだった。文と康太の見立てでは捕縛した後に強力な一撃を確実に加えるというものだが、その考えが正しいかどうかはわからない。


これから味方になるとも敵になるともわからない相手にむやみやたらに自分の手の内を教えるようなことは避けるべきだ。


一時的とはいえ戦いが終わった今でもそれは変わらない。


「でも拘束系の魔術は結構厄介だったな・・・俺も師匠も基本的に攻撃魔術しか持ってないからあぁいうのは新鮮だったかも」


「あぁ・・・まぁあんたはそうでしょうね・・・これを機に何か覚えたら?」


「そうだな・・・相手の動きを少しでも鈍らせれば攻撃も当てやすくなるだろうし・・・いろいろとできることも増えそうだ」


相手を捕縛するという行為は何も相手の行動を制限するというだけが目的ではない。


攻撃魔術が相手を傷つけることを目的とするのに対して、拘束系の魔術は相手に物理的、あるいは現象的に干渉することが条件になる。


ワイヤーなどでの拘束が物理的拘束で、念動力などによって動きを封じるのが現象的な拘束となる。


今回二年生の魔術師が主力として使っていた光の鞭は、具現化された光る物体を使って相手に物理的に干渉する魔術だった。


単純な攻撃力だけで見れば、一本一本の攻撃力はさして脅威ではない。だがそれが数本、十数本と集まってくると話は変わってくる。


たとえ弱い糸でも何重にも重ねて縛り付ければそれなりに強固になるのと同じように、何本もの魔術が拘束してくるとなると全く動けなくなる。


動き回る相手に確実に魔術を当てるには、確かに拘束するのが最も手っ取り早く確実かもしれない。


そういう意味では今回のあの魔術は最適解といってもいいだろう。閉鎖的なあの空間において、壁や天井や床に張り巡らされた光の鞭は、康太の機動力をうまく殺していた。あれをさらに数を増やし、一本一本の動きが速ければ康太は捕まっていたかもしれない。


そして拘束系の魔術の利点は何も敵に対して使うだけにとどまらない。


例えばその魔術を自分にかけて、どこか別の場所に掴まったり、落ちないように体を支えたりということもできるのだ。


相手への牽制というだけではなく、それなりに汎用性が望める魔術なのである。そのあたりが攻撃魔術との違いといっていいだろう。


直接的な決定打とはなりえないが、状況を変えるための一手にはなる。


康太が覚えるのを真剣に考慮するのもうなずける魔術である。


「にしてもお前たち・・・同盟相手だというのに平気で攻撃するのはどうなんだ?盾にした俺が言うのもなんだがあれはひどいんじゃないのか?」


「何言ってるんですか。普段のこいつのほうがもっとひどいですよ?女だってのに普通に殴ってくるんですから」


「それだけ聞くと俺が最低な奴みたいに聞こえるからやめろよ。お前だって普通に電撃飛ばしてくるじゃんか。お相子だお相子」


康太と文の日常的な訓練風景を見たことがない人間からすれば、本当にこの二人は同盟を組んでいるのだろうかと不思議になるような会話である。


だがそれも無理もないだろう。同盟というのは基本同じ敵に立ち向かう仲間であり、競い合い支えあう同志でもある。


そんな間柄なのにこの二人の仲は随分と攻撃的なのだ。


普段からして攻撃的な人物が近くにいて、そうならざるを得なくなったというべきか、それともただ単に二人ともそういう気質だったというだけの話か。


少なくともこの高校に入ってからそういう風に変化していったのはまず間違いない事実である。


「まぁ同盟にもいろんな形があるってことでここはひとつ」


「そういうことですね。それじゃ先輩、あと頼みます。俺らは明日に向けて英気を養いますので」


校内の後片付けを任せて康太と文はその場を後にした。今日の戦いは何とか勝てたが明日はどうなるかわからない。


幸い明日は土曜日だ。夜まで呼び出しがないのならばしっかり体を休められる。


特に負傷した康太はしっかりと体調を整えておきたいところだった。


日曜日、評価者人数270人突破、ブックマーク件数3300件突破で四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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