二対一
まず両者が行ったのは索敵。互いに行う第一手としては最も安全かつ確実なものだといえるだろう。
索敵をした文は相手が一人であるということをすぐに理解した。戦う場所はこの校舎内である。その中にいる魔術師は自分を含めて三人のみ。さらに言えば一人派閥の魔術師が校舎の中にいたのが確認できている。
そして相手もこちらがやってきたことを確認できただろう。こちらの方に先ほどから意識が向いているのがわかる。
となればどうするか、康太たちはとりあえず歩きながら考えることにした。
「一人よ、校舎の二階にいるわね。まずは予感的中ってところかしら」
「それじゃあ行きますか。接近するまでは一緒に行くぞ」
「そうね・・・接敵してから二手に分かれましょう。そこから先はほぼアドリブって感じになりそうね」
現状数的有利がある中でそれを破棄するだけの理由はない。まずは一緒に行動して戦闘状態が行えるだけの距離まで移動する必要がある。
文の魔術ならもしかしたら届くかもしれないが、これだけ遠距離で攻撃したとしても簡単によけられてしまうのが関の山だ。
まずは距離三十ほどのところまで接近することが第一である。そうすれば康太の索敵も役に立つし、何より射程距離に収められる。
おそらく相手も同じようなことを考えているのだろう。窓からこちらを確認できる場所を維持しながらこちらに向けて移動してきている。
やってきた康太たちよりも高い場所を維持しているのは少しでも射撃戦を有利に進めるためだろうか。
「ほとんど動かないな・・・二階から降りてくるつもりはなしか」
「いいんじゃないの?そのほうがあんたとしては戦いやすいでしょ?」
「どうだろうな・・・通路全部を攻撃で埋められるときついぞ?物理的によけられないもんはどうしようもないからな」
「あんたのことだから何とかするでしょ?問題はどうやってあそこまでいくかよ。上を取られてる以上ちょっと面倒よ?」
「もぐりこむか飛んでいくか。まぁその対策くらいはしてるだろうな」
射撃戦において、ほとんどの状態で頭上を陣地とした方が有利になる傾向がある。遮蔽物などの関係上、下よりも上にいたほうが攻撃を当てやすいのが原因である。
だがこれは普通の直進しかしない弾丸を使った場合の話だ。魔術でコントロールすれば問題なく曲がる攻撃なども扱えるために頭上をとる有利にはなりえない。
なるとすれば視界の問題だが、それも索敵を十分に扱える魔術師にとってはさしたる意味を持たないのだ。
それでもなおあの場にいるというのは、自分たちの立場を明確にさせようとしているということだろうか。
精神的に康太たちと距離を取ろうと思っているからこそ、そして上の立場を取りたいと無意識のうちに思っているからこそあの場から動かないのかもしれない。
あと十メートルほどでまともな戦闘が行えるだけの距離に近づくと、康太も文も一気に口数が少なくなっていた。
いつ攻撃が来ていいように集中を高めているのである。
相手の姿は見えている。他に魔術師の姿は確認できず、あれが自分たちの相手であることは疑いようもない。
すでに互いに射程距離に入っている。何か合図でもあればすぐにでも戦闘を始めることができる状態だ。
この状態で膠着させても仕方がないなと、康太は前に出る。あらかじめ想定していた通り康太が前に出て盾役をこなし、文がそのフォローをしながら追い詰める。
さてどうしたものかと康太は少し悩んでいた。ここから校舎の入り口に入って律義に階段を昇って行ってもいいが、その間に移動されても面倒である。
以前の文のように待ち構えたままでいてくれるとは限らないのだ。うまくこちらに意識を向けさせると同時に相手との距離を詰めなければならない。
「んじゃベル、フォロー頼むぞ」
「どうやって近づくわけ?階段からゆっくり行く?」
「いや、直接突っ込む。そのほうが早いしわかりやすいだろ」
相手に対してどのような考えを持たせる必要もない。ただ単純に康太が自分に近づこうとしているという結果だけを見せ、それに対してのみ対応させた方が戦いの幅を狭めることができる。
こちらがいろいろと策を弄すれば当然相手も同じように多くの手段で撃退しようとしてくるだろう。
だがこちらが一つの手段しかとらないのであれば、相手も必然的に取れる手段が限られてくる。
その手段を一つ一つ攻略していけば、相手は出せる手札をすべて失うことになる。そうなればこちらの勝ちだ。
康太は自身に肉体強化の魔術を施して二階にいる魔術師をにらむ。直線距離にして二十メートルあるかないかといったところだろうか。
康太が軽く準備運動をしているところを見て相手もこちらが動こうとしているのを察したのか魔術の発動準備をしているのがわかる。
互いに集中を高めている中、真っ先に動いたのは康太ではなかった。
動いたのは文だ。康太があからさまに動いているその意識を利用して、挟み込む形で通路に電撃の球体をいくつか作り出していく。
自分の周りに発光体が生み出されたことで一瞬意識が逸れた。その瞬間に康太は地面を強く蹴った。
文としては康太が接近した後に行動しやすくするための布石のつもりだったが、意識がそちらに逸れてくれたために康太の動き出しに対して相手の反応はかなり遅れてしまったようだった。
こちらとしてはありがたい限り。康太は再現の魔術を駆使して疑似的に足場を作り出し二階部分へと一気に駆け上がっていく。
反応が遅れたおかげで康太は一気に距離を詰めることができていた。肉薄とまではいわないが、十分に攻撃も回避もできる距離だ。これなら近づける。そう思った瞬間目の前にいる先輩魔術師もようやく反応した。
自分の目の前にあるガラスに向けて手を向けると、ガラスは徐々にひび割れ、無数の破片となって康太に向かって飛翔してきた。
念動力に近い魔術だろうか。康太は分析しながら無数に襲い掛かってくるガラス片を外套の形をしたウィルで受け止めていく。はた目から見れば外套を使って防御したように見えるはずだ。だが実際は防御の性能はただの外套よりもずっと高い。
康太が近づこうとするとこのガラス片と同じように自分の体に妙な力がかかっているのがわかる。
念動力によって自分の体を操られているようだが、その出力はそこまで高いものではないらしい。小さなものを飛ばすことはできても大きなものを操るには出力が足りないようだった。
強引に突破すればとりあえず接近できないことはないが、無駄に張り切ることもないだろうと一度迂回して少し離れたところのガラスを割り通路に侵入する。
当然そのあたりには文の魔術が点在している。触れないように気を付けながら康太は通路に降り立つと目の前の魔術師と対峙していた。
彼我の距離は十メートル程度といったところだろうか、その気になれば一秒程度で肉薄することができるだろう。
文も康太が無事二階にたどり着いたことを把握したのか、すでに移動を始めている。うまくいけば挟み撃ちにすることができるかもしれない。
現状すでに周囲には文の魔術が点在しており、下手に動けば攻撃に当たるのは必定だ。
これらを回避しながら康太との戦闘を行わなければいけないためにその難易度は非常に高いものといっていいだろう。
だがさすがに今目の前にいるのは魔術師。そしてさらに言えば目の前の魔術師は文のこの魔術を一度見たことがあるのだ。
それは康太と倉敷が戦った時の事。文が足止めをした時にこの魔術を一度見ている。
そのためか、二年生の魔術師の行動は早かった。手を動かすと開いていた扉からいくつかの布が浮きながらこの通路にやってくる。
それが教室の中にあったカーテンであることに気付くのに少し時間がかかった。おそらく康太たちがやってくる前にあらかじめ外して準備しておいたのだろう。
空中を不規則に動き回るカーテンは通路に点在していた文の魔術にことごとく触れ、その攻撃をすべて受け止めていく。しかもご丁寧にそのカーテンを床の一部に触れさせているため電撃はすべて周囲の建物に吸い込まれてしまっていた。
主に念動力を扱う魔術師。だがその出力は決して高いものではない。おそらく軽いものを操って物理的な攻撃を得意とするタイプだろうと康太は考えていた。
細かいコントロールなどもうまそうだなと判断した康太は自分のほうに近づいてくるカーテンを見て眉を顰める。
おそらくあのカーテンで康太を拘束しようとしているのだろう。さらに言えばカーテンという面積の広い布を使うことで目くらましの効果も狙っているのかもしれない。
康太は即座に索敵の魔術を発動して周囲に何かがあるのではないかと調べ始めるが、現状とりあえずこちらに対してのアプローチはそれだけのようだった。
互いにまだ様子見ということだろう。あちらが様子見だというのであればこちらとしても出方を変える必要がある。
何せそこまで長く戦闘を続けさせるつもりはないのだ。
実戦で使うのは初めてだなと思いながら、康太は『暴風』の魔術を発動する。
それは文から教わった風属性の魔術だ。初めて覚えた風属性の魔術である微風の強化版のような魔術で、強い風を起こすことができる。
強い風を起こすだけという単純な魔術ではあるが、今の状況に関していえばかなり有用な魔術だった。
相手が無属性の念動力で動かしているカーテンを、康太は風属性の魔術で吹き飛ばそうとする。
どちらの方がより強くカーテンに干渉できるかは言うまでもなかった。
康太の起こす強い風によってこちらに向かってきていたカーテンは押し戻されるように吹き飛び。強力な風はガラス窓や扉などを揺らしながら通路を一直線に吹き抜けていく。
それを機に康太は一気に近づいていた。槍を構えて接近戦の構えをすると、二年生の魔術師は当然康太から遠ざかろうと距離を取っていく。
先ほどこちらにカーテンを向かわせたときに、もう一枚のカーテンを出して背後の電撃で作られた球体を処理しておいたのだろう、難なく康太から離れるために走ることができていた。
そして康太に近づかれまいと、あらかじめ仕込んでおいたのか周囲にあるものをとにかく飛ばしてくる。
ガラスや釘、画鋲や掃除用具など、比較的軽いが当たれば痛いようなものばかりだ。
攻撃力が低いだけに炸裂障壁でも防げる攻撃だが、無視できるほど小さな攻撃でもない。
康太は大きいものは槍で弾いていき、小さなものに関しては外套を模したウィルに受け止めてもらう形で防ぎながら直進を続けた。
身体能力強化を使っている状態では康太のほうに分があるのか、追いつくのにそこまで時間はかからなかった。康太は槍を駆使して思い切り魔術師に攻撃を仕掛けると、相手も接近戦を想定していたのか懐からナイフを、そして近くにあった掃除用具から自在箒を取り出して康太に対峙する。
康太の持つ竹箒改に対して相手も箒を使って対応しようとするとはなんという皮肉だろうかと、笑みを浮かべながら攻撃態勢に入る。
あらかじめ待ち構えていただけあってこのあたりの準備は万全のようだった。康太が追い付いた後も空き教室の中からいろいろと康太に向けて飛翔してくる。特に厄介なのがカーテンなどの長い布の類だった。
攻撃力はほとんどないに等しいのだが。どうやらこれで捕縛しようとして来ているらしく康太に接近して巻きつかせようと動かしている。
康太が接近して攻撃を仕掛けたことで魔術に対する処理能力が若干下がっているようだったが、それでも十秒に一回程度、カーテンが康太の近くまで迫ってきているのだ。
そして捕縛だけではなく小物、画鋲や釘、ガラス片などの鋭利なものが頻繁に康太めがけて襲い掛かってきている。
気を散らすという意味ではこれは非常に厄介な攻撃だった。もっともこれらの攻撃は康太がまとっているウィルによって簡単に防がれてしまう。ウィルが防御に専念してくれているために康太は存分に攻撃に集中できた。
目の前にいる箒とナイフを持った魔術師は接近戦はあまりにもお粗末なのだが、徹底的に逃げの一手を取っているためになかなか追い詰めることができずにいた。周囲に発動している魔術に加え、彼自身が持つ武器とも言えない二つの道具のせいで攻めきれずにいる。
もっと強気に出れば崩すことができなくもないが、むしろ相手はそれを狙っているように思えたのだ。
いくらなんでも攻撃が弱すぎる。
康太がある程度攻撃に特化した魔術師であることは予想できていただろう。なのに防御も攻撃もお粗末すぎるのだ。
以前学校の校庭で行われた戦いを見ていたのであればもっとしっかりと準備して対策が練れたはずだ。
校内におびき寄せたのはおそらく炸裂鉄球のお手玉を警戒してのことだろうが、それ以外にも康太が取れる手段は山ほどある。
だというのにこの状態を維持しようとする魂胆がわからない。何せ今は康太一人ではないのだ、時間をかければかけるほど文が近くにやってきて不利な状況になるというのにあえて持久戦を挑むだけの理由がわからなかった。
何かあるのだ、あえて時間をかけているか、あるいは康太が無理にでも攻め込もうとした瞬間にカウンターを狙ってくるなど何かしらの方法で康太を戦闘不能にできるだけの手段を持っている。
何より康太が警戒したのは相手が使ってくる魔術の少なさだ。少なくとも今使っている魔術は一つか二つ程度しか把握できていない。
念動力を中心にした魔術師だとしても、まだほかにも戦闘用の魔術はあるはずだ。それを把握する前からこちらから打って出るというのは悪手なのではないかと思えてきている。
康太は槍をふるいながら索敵の魔術を発動すると、文はすでにいつでも援護できるだけの位置にやってきているようだった。
おそらく彼女も康太と同様の不安を感じているのだろう。あえて姿を出してフォローはせず、様子見に徹しているようだった。
文が待機をしているのであれば、康太が攻め込んで相手の思惑にあえて踏み込むしかないだろう。
康太は今までとは違い、完全に攻撃態勢に移行する。
といっても身体能力強化以外の魔術は使わない。持ち前の槍の技術を用いて相手をどんどん追い詰めていく。
箒を弾き飛ばし、ナイフを蹴り飛ばし、相手が無手になった状態でさらに攻撃を加えていく。
このままでは何もできないまま、何もしないまま負けることになってしまう。
先輩魔術師もそれを感じ取ったのか、舌打ちをしてから後方へと跳躍し、床を足で強く踏みつけた。
すると踏みつけた場所から光の筋のようなものが床や壁、天井を伝って張り巡らされていく。
これが魔術であり、そして方陣術によって発動されているものだと気づくのに時間はかからなかった。
光の筋は格子状に床や壁、天井に張り巡らされていくと、張り巡らされていた筋が一本一本はがれていきまるで鞭のようにうごめき始める。
康太の近くにある光の鞭は康太が近くにいることを察したのか、勢いよく襲い掛かってくる。
鞭というしなる武器の性質上、直線的とはいいがたいがよけることは難しくはない。だが康太がよけた先にも光の鞭は存在している。おそらく近づいた敵に対して自動的に攻撃する術式を方陣術に組み込んだのだろう。
この場所に追い詰められたようなふりをして、おそらくは文もこの場所におびき寄せて一網打尽にできればよかったのだろうが、生憎康太も文も警戒していたため、康太だけでも先につぶそうと考えたのだ。
よくよく観察すると、窓や扉、そして他の廊下につながる通路などは光の筋がまだ格子状になって出られないようになっている。
この場所に閉じ込めて徹底的に攻撃しようとしたのだろう。檻にしては目立つが、なるほど確かにこれは脅威だった。魔力を供給し続ける限りほぼ自動で攻撃できる。しかも他の魔術も併用すれば時間はかかっても康太と文を倒すことも可能だっただろう。
一人でも戦えるように、そして勝てるようにしっかりと準備を進めていたということだろう。
仮にも先輩魔術師なのだ。準備をするのも勝てるように努力するのも魔術師ならば当然。
負けた時の言い訳がほしいといっても負けるつもりはさらさらないようだった。
さてどうしたものかと康太は眉をひそめていた。光の鞭自体の攻撃力はそこまで高くはない。むしろ攻撃を当てた後体に絡みついてくる方が問題だ。
光の鞭の根元は壁や床、天井などに張り付く形になっている。絡みつかれたらおそらく完全に拘束されてしまうだろう。
ここまで来て康太はようやく気付く。この魔術師は攻撃よりも捕縛に特化した魔術師なのではないかと。
いくら康太でも無数の鞭やカーテンなどで捕縛されれば動くことは難しくなる。魔術での攻撃は継続できても、動きそのものを封じられてはできることはかなり限定されてしまうだろう。
相手が狙っているのは康太と文の捕縛、そしてそこから自分だけが攻撃できる位置を探して攻撃し続けるつもりなのだ。
幸い攻撃の密度自体はそこまで高くはない。何とかぎりぎりで回避できる。方陣術によって制御されているからか、攻撃も単調でそこまでの脅威とはなりえない。むしろこの魔術の本質はこの一定空間から獲物を出さないことが目的のように思えた。
康太と文をこの場所に閉じ込めることができれば相手としては最高の展開だったのだろうが康太と文が予想以上に用心深く、うまく状況をコントロールすることができなかったのだ。
普通に二対一の状態なら一気に畳みかけてもおかしくない。そんな状況康太と文は警戒して様子を見た。
そして康太は文という戦力を残した状態で接近戦を駆使して圧力をかけた。何か仕掛けをしているのはわかっている。早くそれを出さないとこのまま決着がつくぞという意味を込めたつもりだった。
そして隠していた手の内を引きずり出すことに成功していた。あそこで康太が圧力をかけなければいつまでもあのような戦いが続いていただろう。
他に何か所似たような仕掛けがしてあるかわかったものではない。なるべく相手の準備していた区間に引きずり出すことなくこの場で勝負を決めたい康太と文としては早々に相手の手の内を把握しておきたいところだったのだ。
決して二年生の魔術師を軽視していないという対応に、対峙している二年生魔術師は嬉しくもあったが同時に複雑でもあった。
警戒されているということはそれだけ油断がないということだ。はっきり言ってこれだけ厄介な相手に全く油断されないというのはそれだけ勝ち目がなくなっていくということでもあるのだ。
そして二年生の魔術師は方陣術を発動しただけで止まるわけではなかった。先ほどまでのカーテンでの捕縛は行わないが、釘や画鋲、ガラス片などを使った攻撃に加え、懐から分銅付きのワイヤーを取り出すと康太に向けて飛翔させる。
微小な攻撃によって意識を逸らせると同時に、ワイヤーを使っての捕縛を試みる。自動で操られている光の鞭と違ってワイヤーは術者本人が手動で動かしている。自動と手動、両方の捕縛魔術を扱うという意味ではだいぶ面倒なコンボだった。
これ以上捕縛の手段が増えるというのは康太としてもあまり良い状況とは言えない。そこで康太は二年生魔術師が繰り出そうとしているワイヤーに目を付けた。
自分のもとに向かってきている先端部につけられている分銅に注目したのである。
光の鞭を強引によけながらワイヤーに向かって康太は槍をふるった。そして同時に再現の魔術を使って分銅めがけて何度も打撃を加えていく。
そしてその分銅めがけて蓄積の魔術を発動することで槍の打撃、魔術によって再現された打撃のエネルギーを蓄積させていった。
先輩魔術師はすでに二本目、三本目のワイヤーを取り出そうとしている。数が増える前に手を打たないと面倒なことになるなと、康太は仕込みを終えるとその攻撃を発動した。
タイミングを見計らって蓄積の魔術を解放すると、分銅のちょうど正面に加えられた打撃のエネルギーが一気に解放され、二年生の魔術師めがけて一直線に分銅が吹き飛んでいく。
こちらまで延ばされたワイヤーもそれに追従するような形で撓みながら移動していく。
念動力によって操られていたのに突然強力な力で押し出されたことで強引に念動力の操作を振り切ったのだ。
自分のすぐ横を通り過ぎ、ガラスを突き破っていった分銅を見て先輩魔術師は舌打ちをする。
物理的な道具を用いての捕縛はむしろ自分の身を危険にするだけ、そう判断したのだ。
光の鞭が展開されている今、カーテンによる捕縛は行わないほうがいい。ただでさえ風の魔術で押し戻されるというのに、鞭の威力を減衰させる可能性のある面積の広いカーテンは使いたくない。
とはいえワイヤーも今こうしてはじき返されてしまった。あれが自分に直撃していたらそれこそ打撲では済まないかもしれない。
この状態で、二年生魔術師は保守に入ってしまった。康太がワイヤーの攻撃を嫌がったというその動作に気付くことなく、ワイヤーは自分の身も危険にさらすと判断して中断してしまったのだ。
戦闘経験が豊富ならば、康太がなぜわざわざ蓄積の魔術などという遠回しな行動をしてワイヤーごと分銅を弾き飛ばしたのか理解できただろう。
相手に分銅を使えば脅威になると教え、やめさせたかったからこそあのような手を使ったのだ。
ワイヤーを止めるだけなら炸裂障壁の魔術で十分だったのにそれをしなかったのだ。このあたりが実戦経験のなさが出た結果だといえるだろう。
土曜日、誤字報告を十件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




