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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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二年生の出方

時刻は二十一時になろうというころ、康太と文は自分たちが普段通う三鳥高校まで足を運んでいた。


いつも通り完全なる魔術師装束に身を包み、いつでも戦闘を行えるだけの準備を整えた状態でやってきたために、二人の様子は少しだけ物々しい。


文は外見上いつも通りなのだが、康太のその姿が普段のそれとは若干違っていた。


魔術師装束そのものが少々変わっている。これはウィルを体にまとっているからであり、普段の日常生活で使うそれとは違い完全に戦闘態勢に入っているのが嫌でもわかる外見をしていた。


装甲が普段よりも増えているように見えるし、装備そのものも増えている。普段の康太がいかに軽装かわかるほどの変化だ。康太も最初自分自身のこの姿を見て少しやりすぎじゃないだろうかと思ってしまったほどである。


「さて、今日の相手はどっちかしらね・・・ビーの予想は?」


「一人の可能性大だな。少なくとも俺ならそうする」


「その心は?」


「二人の方は情報がほしいからいろいろと事情をつけて後回しにさせて、一人の方は負けた時の言い訳がほしいから先に戦うってところか」


「なるほど、十分にあり得る話ね」


今回戦うことになっている二年生の魔術師三人は二人と一人に分かれて戦うことになっている。


二人の方はまだ数的にも一応同数であるために万全を期しておきたいのだろう。勝つか負けるかはそれこそ本当に実力によって左右されるのだから。


対して一人の方は言っては何だが敗色が濃い。二対一という条件はたいていが数が少ない方が負ける。


戦いというのはいつだって数が多い方が圧倒的に有利なのだ。そしてそれは二年生も十分に理解していることだった。


だからこそ一年生とどちらが先に戦うかを決める際に、一人の方は自分から戦うことを申し出ただろう。


もし負けても『情報が少なすぎて本来の実力を発揮できなかった』という言い訳を作ることができるのだ。


あらかじめ戦う日時がわかっているのだからそれを観察することで情報は十分に得られるだろう。


そんな状況で二日目に戦いを挑んだほうは『情報不足』という言い訳は使えなくなってしまう。


二対一、そして得ている情報の量。この二つは十分に負けてしまった言い訳にできてしまうのだ。


これからも一年間魔術師としてこの学校で過ごすことが確定しているのだからある程度今後の立場を良くしておくために理由付けは必要なのである。


むろんただで負けるつもりはないだろう。おそらくそれなり以上に食らいつき、この二人相手に悪条件が重なりながらも善戦したという事実を残すことを目的にしている可能性が高い。


そして二日目に戦う方は、情報という戦いにおいてかなり重要なファクターを得ているのだ。


一日目の戦闘を観察できるという大きなメリットを得てなお負けたとなれば、それは言い訳もできないただの結果が残る。


それを避けるために一人の方は意図的に先に戦いを挑む。そして二人の方はより勝率を高めるために二日目を選択する。


互いの利害が一致した形になるために、確かにこういった状況になる可能性はかなり高いと思える。


康太たちからすればどんな目的だろうと二年生が早々に派閥を合併してくれれば話が早いのだが、こういった儀式的な戦闘も時には必要なのだと二人は学んでいた。


「想定、一人の場合の対応は?」


「俺が前、ベルが後ろ。囮になるからうまく追い詰めて同時に連続攻撃で沈める」


「二人の場合の対応は?」


「俺が攪乱、ベルが主戦力。かき回すからその隙をついて相手にダメージを重ねて有利な状況を作っていく」


「・・・まぁそんなところかしらね。手の内は?」


「一部見せる。全部は見せない、明日もあるしな」


康太は戦い慣れているだけあって状況の設定がうまい。自分たちが数的有利を取れた状況、相手と自分たちが同じ人数での戦闘。それぞれすでに康太の中では戦いのシミュレーションが済んでいた。


相手が一人なら康太が肉薄すれば十分に対応可能。二人ならば康太が接近して動き回り、うまく相手の意識を逸らせることができればあとは文がうまくやるだろう。


互いの長所をうまく利用した戦いをすれば勝つことは難しくない。未知数の相手だからこそ大まかにしか決められないが、それでも康太は重要なことを理解している。


それは戦いが今日だけではないということだ。


今日一日だけの戦いであるならば実力を出し切ってもいいのかもしれないが、相手が観察している可能性がある状況でまだ明日の戦いが控えているのだ。


現状戦力を出し切るような戦い方は自分の首を絞めかねない。


「・・・っと・・・お出ましみたいだな」


「んじゃ行きますか・・・頼りにしてるわよ?」


「こちらこそ。背中は預けたぞ」


康太と文はハイタッチして校舎の一角に見えた魔術師の方を見ながらわずかに敵意を向ける。


戦いの合図などはない、魔術師としての戦いはすでに始まっているのだ。


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