兄弟子の近況
「なるほど、確かに康太君には近い世代の魔術師というのは少ないかもしれませんね」
いつの間にか話を聞いていたのか、真理がウィルと一緒に荷物を抱えて地下に降りてきていた。
随分とこの光景も見慣れたものだと思いながらも、康太は真理とウィルから荷物を受け取ると所定の場所にしまっていくことにした。
そんなことをしながらふと思い出す。自分には文という同世代の同盟相手がいるが、真理にそういった魔術師仲間はいないなと。
以前は不戦条約を結んでいると言葉を濁していたが、実際はどうなのだろうかと少しばかり気になった。
「あの、姉さんの世代ってどんな魔術師がいるんですか?今まで姉さんくらいの世代の魔術師にはあんまりあったことがないんですけど」
「私の世代ですか・・・そうですね・・・ふつう私の世代の魔術師は独り立ちしようといろいろと苦労してるんですけど・・・私は良くも悪くも師匠があれなのでまだ独り立ちはできませんね。一時期一緒に活動しようと誘われたこともあるんですよ?」
実際に真理がそういった魔術師と接触しているところを見たことがないために、そういうことがあったといわれても全くもって想像できない。
康太たち高校生が独り立ちの準備として活動を始めているのに対して、大学生というのは独り立ちをすでに始めている世代なのだ。
師匠からの教えだけではなく自分自身で考えて行動するのが魔術師であるという行動理念のもと、自分の拠点を作ったり、自分たちのチームを作ったり、あるいはすでにあるチームに参加したりとこれから魔術師としての生活を謳歌するために必要な活動に精を出しているのだ。
康太のような未熟者からすれば考えも及ばないが、確かに今まで似たような勧誘は受けたことがある。
協会に足を運んだ時も、時折ではあるがこんなチームがあるというような話を耳にすることがあった。
とはいえ康太の事情が事情なだけにあまり大っぴらに誘ってくるようなものたちは少ない。
この前の魔術師が乗り込んできて勧誘してくる一件以来、康太をチームに誘っても問題ないというような空気になりつつあるのだ。
会話をしようとするのであれば康太は比較的その攻撃性を収めた状態で会話に応じてくれる。
最初から断りを入れてくる場合もあるし、そこまで興味がないことに関しては露骨に態度に出してくれる。
気に食わないことがあれば即叩き潰すという性質を持った小百合の弟子にしては温厚な方だと周りからは思われているだろう。
真理という前例があるおかげか、康太もまた似たようなタイプだと思われている節があるのかもしれない。
そういう意味では真理に感謝だった。
逆鱗にさえ触れなければ康太は比較的安全、逆に康太の神経を逆なですれば『あいつら』のようになるといういい手本になったということである。
「姉さんも師匠から独り立ちを許可されたらそういうところに参加するんですか?」
「どうでしょうか・・・そもそもそういったチームに参加することの利点は自分の覚えていない魔術、あるいは関心のなかった魔術に触れることにあります。あとは徒党を組んで楽しくやろうとか、力を誇示しようとか・・・そんな感じですね」
「どの時代も人が集まるとやることは変わらんのだの・・・だがマリ、年齢的にはもう一人立ちしていても不思議はないのにお前はなぜサユリのもとから離れない?」
「お恥ずかしながらまだ許可が下りていないんですよ。覚えるべき魔術は多くて。師匠曰くそろそろ卒業試験に行けるかもとおっしゃっていましたが・・・」
ただ単純に労働力を失うのが嫌だから縛り付けているように思えるかもしれないが、実際小百合は魔術に関することを教えるときはかなり真剣だ。
その練度が一定以上に達しないと使用を許可しないし、破壊の技術に関して彼女に勝るものは数限られる。
それこそ兄弟子である奏だって小百合の持つ破壊の技術を超えることができるか怪しいものだ。
「卒業試験っていうと・・・いったい何やらされるんですかね?」
「さぁ?もしこれで私を倒すのが卒業試験だとか言われたらあきらめるほかないかもしれませんね・・・」
「あきらめるのが早くはないか?やってみなければわからないだろう」
「そうは言いますけど・・・私そこまで戦闘能力高くないんですよ?こう見えても軟弱な女の子なので」
この場に文がいたらきっと『どの口が言うんですか』と突っ込んでいたことだろう。
一つ訂正、いや否定しておくと、真理は康太よりも戦闘能力が高い。
総合的な魔術における戦闘だけではなく、近接戦闘においても康太を圧倒するだけの実力を有している。
伊達に小百合のもとで長いこと修業はしていないのだ。時折組み手をしたりするのだが、筋力で圧倒できていても技術で全く足元にも及ばないために康太からすればなかなかに悔しい思いをしている。
逆に言えば小百合の指導を受け続ければ真理程度の実力を有することはできるということだ。
そしてそんな真理でさえも小百合と戦うことになったら一目散に逃げだすのだという。
本気になった小百合はそれほど強く恐ろしいということだ。ほんのわずかにではあるがその片鱗を知っている康太としてもそれが最終試験にならないことを祈るばかりである。




