互いの設定
「こちらは引退する身だ、これからの派閥の形としては好きにしてもらっても構わない。実際今君たちは一年生同士で活動しているわけだし、唯一の懸念の二年生がうまく動いてくれるなら、こちらとしては異論はないよ」
すでにこれから身を引こうというのにこれ以上とやかく言うつもりはないのか、三年生魔術師は困ったような笑みを浮かべている。
一年生の段階でこれだけ話を通せる当たり厄介な存在になりそうだなと感じているのだろう。実際康太と文はそれだけの魔術師になりつつある。
「はい、なのでお二人から二年生の先輩方にある程度話を通しておいてくれるとありがたいです。今の状態で一年生を止められないなら、三人で派閥を組みなおせとかそんな感じのことを」
「・・・話は通すが・・・向こうがどう反応するかはわからないぞ?大体お前たちに負けるからといって手を取り合うと決まったわけじゃない」
「そのあたりは二年生の先輩方次第って感じじゃないですか?自分より強い脅威となる存在がいるのにも関わらず、手を結べる相手と手を結ばない。それは致命的です」
圧倒的脅威。康太と文は常にそういった相手と戦闘することを前提として戦闘の訓練を行っている。自分より適度に弱いような相手と戦うことはまずない。ぎりぎり勝てるような相手であるような保証はない。だからこそ毎回毎回自分よりかなり強い相手と戦うことを念頭に入れて戦闘を組み立てる。
特に康太はそういう状況設定がうまい。だからこそ常に不意打ちや相手の意識の外側から攻撃したりすることが多い。
卑怯といってしまえばそこまでだが、それはある意味戦いにおいて常套手段だ。
そして今回の場合は康太たちが強者の立場である可能性が高い。そんな状況で二年生たちがどのような手段をとるか、そこが重要なのだ。
手を取り合えばそれでよし、手を取り合わなければそこまで。この同盟内での覇権は康太たちが握るといっていいだろう。
「何も常に協力し合えと言っているわけじゃありません。有事の際のみ協力し合えばそれでいいんです。それすらできないような確執が二年生の先輩方にあるというのなら・・・それはもうどうしようもありません」
康太と文が思いもよらない何かが二年生の先輩にあるというのなら、どんな説得にもどんな状況にもはっきり言って動きを見せることはないだろう。
そうなってしまったらどうしようもない。おとなしくこの学校内の同盟は文に任せるしかなくなってくる。
だがそうではないのなら、形だけでも二年生魔術師の三人の誰かに仕切ってほしいところだった。
文の負担を減らすという意味でも、そして形だけでも二年生たちに仕切ってもらわなければ彼らの立場がない。
今まで学年順で仕切っていたというのに、少し戦えるだけの新人が来ただけで自分たちの立場が崩されるのではたまったものではない。
ある程度は譲歩してやらなければ、向こうとこれから協力する可能性があるためいろいろと面倒なことになりかねないのだ。
「じゃあ、君たちとしては戦ってみて、それで判断するとそういうことかな?」
「一応この同盟は内部に関しては互いに監視しあって問題が起きないようにするのが目的ですよね?対処しきれないような存在を容認するのはこの同盟の意義に反します。そのあたりを理解できないのであれば・・・それもどうしようもないでしょう」
どうしようもない。先ほどから文が使う言葉だがこれは明らかに二年生魔術師たちがどのように動くのかを図っていると思っていいだろう。
相手がどう動くか、それによって魔術師としての行動を見てどの程度状況把握能力があるかを確認しようとしているのだ。
魔術師にとって必要なのは戦闘能力もそうだが状況把握能力のほうがどちらかというと重要視される。
どのように動くかで戦況を大きく変えられるのだ。戦う前に相手がどの程度の動きを見せるのか把握しておいて損はない。
「状況のセッティングは先輩方にお任せします。さすがに二年生の先輩方にも準備があるでしょうし・・・何より二年生の先輩がこの話を了承するかもわかりません。私たちが戦うまでもなく手を取り合ってくれるかもしれませんしね」
「あぁ、そうなれば最高。わざわざ戦う手間が省ける」
康太は戦う手間が省けるとは言うが、それが難しいということは考えればすぐにわかることだろう。
一年生はそのままだというのに二年生だけが派閥を再編成するとなれば、当然自分たちの実力が一年生のそれに劣っていると戦う前から認めるようなものだからだ。
もちろん康太と文のほうが実績を上げているし、協会からの評価も高い。康太に至っては封印指定に関わる事件をすでに解決し、ほかにも多くの事件にかかわって協会からの評価をどんどん上げていっている。
もはや二年生だけではなく三年生の魔術師としての評価など完全に抜いてしまっている。いや協会にいる魔術師のほとんどの評価を抜いているといっても過言ではないだろう。
だが評価されているからといってその実力を戦う前から簡単に認めるわけにはいかないのである。
それは年上としてのプライドだ。魔術師として生きてきたものの意地とでもいうべきだろうか。事件になど関わっていなくとも、自分たちは実力をつけるために日々修業し続けている。最近活動を始めた魔術師には負けはしない。それがたとえあのデブリス・クラリスとエアリス・ロゥの弟子だったとしても。
「さて奴さんどうするかね・・・文さんの予想としては?」
「戦闘八割、快諾二割ってところかしら。状況はさておき戦うことになるのは間違いないでしょうね」
先輩たちとの話を終えてその日の放課後、康太と文は小百合の店に向かいながら今日の話し合いの感想を話していた。
文の予想としてはまず間違いなく戦うことになるらしいが、康太としては戦わないに越したことはないためその予想は外れてほしいところだった。
「でも一応うちの師匠を引き合いに出したんだぞ?それでも俺らに向かってくるか?いくら一年とはいえ実績もだいぶ残してるし・・・」
「そうね。でも考えてみなさいよ、いくら実績を残したとはいえあの人たちは私たちの戦闘を何回見た?少なくともちゃんと見れたのはこの前の一回だけ・・・しかも見れたのはあんたの戦闘のごく一部。ほとんどあの黒い瘴気で見えなかったし私のに限っては魔術一発。判断材料が少なすぎるのよ」
「判断材料が少ないならなおさら手を出さないようにするんじゃないか?俺ならやばそうな相手には手を出さないぞ?」
「それはあんたが戦い慣れてるからよ。戦い慣れてない人なら、数の違いでその差を埋めようとする。幸い・・・いいえ運悪くあっちの方が数が上だもの」
戦い慣れているものほど、戦いにおいて情報を優先するきらいがある。特に康太などはその部類だ。相手の情報を知るためにある程度身を切ったり、潜伏したり油断させたりとそういったことに余念がない。
そして可能なら自分の手の内をさらさないようにして相手の手の内だけをさらし一気にとどめを刺す。それが康太の理想とする戦い方だ。
だが相手は戦闘経験が少ない。というか魔術師としての活動そのものが少ない。そのせいで魔術師における戦いがどのようなものであるのかを正確に把握していない可能性もある。
むろん師匠の下で指導を受けるにあたって最低限の戦闘訓練は受けているだろう。だがそれを即座に実戦に出すことができるほど戦いは甘くない。
康太などはほぼ実戦に近い形での訓練をしているからこそそれがすぐにできたが、普通なら文のようにどんなに訓練しても多少反応が遅れたり思いもよらない行動に動揺したりしてしまうものなのだ。
「それにね、あんたの師匠を引き合いに出してもそれは私たちが二人そろっていた場合に限られるって話したでしょ?逆に言えば私たちを分断しちゃえばそんな大したことはないと思われる可能性もあるってことよ?」
「・・・三年の先輩が二年の先輩にきちんとそのあたりを伝えればの話だろ?ただでさえ俺ら厄介者扱いされてたんだぜ?手を出してくるか?」
「厄介者だからじゃない。今回のこと考えてみなさいよ、ただでさえ厄介者な連中が、遠回しにだけど上下関係決めようって言ってんのよ?乗らないわけないじゃない」
「上下関係って・・・何時そんな話に?」
先ほどまでの話はあくまで同盟内における派閥のパワーバランスの関係だったはずだ。康太は二年生たちとの上下関係までこんなところで決めるつもりはなかった。
というか二年生たちのほうが上でもいいとさえ思っていた。何せこんな高校の中でしか使えないような上下関係なんて何の意味もない。
康太からすればさっさとそんなものは譲って高校の中ではゆっくりすごしたいとすら思っていたのだがどうやら話はそう簡単にはいかないらしい。
「戦ってお前たちの立場わからせてやる。俺たちのほうが強いんだからお前らは同じ学年同士で仲良くやってろ。私たちが言ったのはつまりそういうことよ?戦わずに素直に言うことなんて聞いたら、それこそ自分たちのほうが弱いって知らしめるようなものよ」
「・・・いつの間にそんな好戦的な申し出したんだ?もうちょっとこう、平和的というか友好的というか・・・」
「あんたが言い出したんじゃないの。ていうか自覚してなかったわけ?」
「いやなんというか、実力的に拮抗しておいた方がいいのならそっちはそっちで固まっておいてくれた方がって思ったんだけど・・・」
「つまりさっき言ったこととほぼ同じってことでしょ。自分たちのほうが上だって言ってるようなもんなんだから・・・あんた自分で言ってる意味わかってなかったのね・・・?」
確かにそういわれれば、一年生で固まっている状態と二年生が分離している状態では一年生のほうが戦力が上だからというのが大本の理由だったように思われる。
そう考えると確かに文の言う通りやたらと好戦的な物言いといえなくもない。これはやってしまったかと康太は口元に手を当てて悩み始める。
「まぁでもいい機会だったんじゃない?相手に私たちの実力を正確に把握してもらうっていうのは間違った行動でもないと思うわよ?いちいち先輩風吹かされるのも面倒くさいもの」
「・・・俺も結構大概だけどお前も結構攻撃的な性格してるよな・・・一応相手が先輩だってことわかってる?」
「もちろんわかってるわよ?でも同時に私は魔術師として先輩なのよ?こちとら十年選手だっての」
「あぁ・・・そうか、魔術師年齢的にはお前の方が上なのか」
魔術師年齢などというよくわからない単語が出てきたが、実際文は幼少時からずっと魔術師として生活してきた。
この学校の中にいる魔術師の中では最も経験年数が多いといえるだろう。
そういう意味ではただ年齢が上なだけの二年生や三年生が偉そうにしているのはあまりいい気がしなかったのかもしれない。
数年どころか一年すら経過していない自分がこうやって文と肩を並べているのもあまり良くないことなのかなと康太は少し思い始めていた。
「じゃあ俺はこれからお前に敬語使ったほうがいいか?新米も新米、まだ魔術師始めて半年ちょっとですいません」
「あんたはいいのよ、きっちり実力つけてきてるんだし」
「そんなこと言ったら他の人だってみんな同じだろうよ。半年ちょっとでこれくらいに成れたんだ、何年もかけた人間ならそれ以上の実力を持っててしかるべきだろ?」
康太が半年少しの時間でこれほどの実力を身に着けることができたのは偏に小百合の暴力的とまで言えるだろう訓練のおかげである。康太も文もそのあたりは十分以上に理解している。
普通に訓練していれば戦闘訓練だけをこなすとしてももう少し時間がかかっただろう。だが康太からすれば数年もかければ自分なんてあっさり抜いていけるのではないかと思えてしまうのだ。
「そうね・・・じゃあ聞くけどあんた遠距離攻撃だけで戦った場合どうなると思う?」
「遠距離だけって・・・槍も使っちゃダメなのか?」
「そう、肉弾戦は一切使わないで遠距離攻撃だけ。どれくらい戦える?」
肉弾戦を除いた戦いというのは康太にとってかなり想像しにくいものだった。何せ康太の戦いは基本肉弾戦があるのが当たり前だ。魔術師になってから初めての戦いでさえも肉弾戦を加えていたのだから当然かもしれない。
康太が使える遠距離攻撃といえば数えられる程度しかない。再現の魔術でのナイフや槍の投擲、蓄積の魔術を用いた鉄球の射出、あとは遠隔動作を用いたものだ。今練習中の火の弾丸を含めても大した数にはならない。
それらを駆使して遠距離戦をやれとなるとかなり厳しいだろう。何せこれらの攻撃は相手の隙をついてこそうまく作用する。真正面からこれらを使ったところで的確に防御されてしまうのがおちだ。
「・・・だいぶきついぞ・・・そもそも俺の戦い方って肉弾戦ありきだし・・・仮にないとしても牽制位できる程度は許容してもらわないと・・・たぶんあっという間に攻略される」
「でしょうね・・・あんた魔術の使い方すごく素直だし。見える魔術と見えない魔術、感知できる魔術とできない魔術、それを肉弾戦で隠しながら戦うのがあんたのスタイルだし・・・逆に言えば肉弾戦を除けばあんたは普通の魔術師と同じような成長をしてるのよ」
そう、康太は普通の魔術師戦をすれば普通に負けるような実力しか持ち合わせていないのだ。正確にはその程度の魔術しか覚えていないのである。
康太がそういった魔術しか持ち合わせていないのに今まで勝つことができていたのは康太自身が動き回り、肉弾戦を主として扱っていたからに他ならない。
魔術師が肉弾戦を使うなど普通の魔術師には思いついても実践なんて絶対にしない。なにせ体で殴るよりも魔術を使ったほうが圧倒的に攻撃力が高いし、何より確実に安全なのだから。
だからこそ肉弾戦を使ってくる康太の行動に動揺してしまう。さらに言えば近づかれればその分魔術の発動や操作、防御も迅速にしなければ間に合わない。そうなったら肉弾戦のほうが早い。
そうやって隙を作って相手を追い詰めるのが康太のやり方だ。
だが肉弾戦が使えないとなると康太は一般的な魔術師が使うような普通の魔術師戦を行うには手札が少なすぎる。
いや、手札の少なさをテクニックで補うことができればいいのだが、生憎康太はそこまで高い技術を持っているというわけでもない。
文も言っていたが魔術の使い方が良くも悪くも素直すぎるのだ。そのため二、三回ほどすれば相手に使っている魔術を把握されてしまうだろう。
そうなれば康太に勝ち目はない。そうならないようにうまく魔術を隠しながら戦うのが魔術師における戦いの定石なのだ。
その定石を最初から放棄したのが康太の、いや小百合たちの戦い方である。そのほうが圧倒的に効率的だからというのが小百合の考えだ。そしてその考えには康太も文も同意できる部分がある。
「あんたがこうやって魔術師として活躍できてるのは・・・というよりこれだけの戦闘能力を持つことができたのは、ひとえに小百合さんの指導のおかげね。あの人の指導方法は戦闘に特化しすぎてる」
「それってほめてるのか?ていうかまぁ確かに師匠からはまだ戦闘方法くらいしか教わってないけどさ・・・」
「小百合さんの趣味かもしれないけどね・・・でもそれだけじゃないかもよ?」
確かに小百合の趣味として戦うのが好きだからとかそういった体を動かす訓練のほうが好きだからとかそういう事情がなかったとは言えないだろう。
小百合の弟子として過ごしてきて分かったのは、彼女は訓練の時は非常に生き生きとしているのだ。
もちろん小百合は未熟な康太をいち早く身を守れる程度の実力をつけさせるためにこの指導方法をしたと考えるのも自然な流れだ。
実際小百合の、デブリス・クラリスの弟子になるということは彼女の抱える面倒ごとを最も近くで体感するということでもある。
自分の身を守る術を学ばせておいて損はない。
そういう意味では彼女の指導は正しい。何せ一年もたたず康太は戦闘に関してはかなりの実力を有する魔術師になれつつあるのだから。
「やり方によってはそれだけ能力は得られる。やり方さえこだわらなければね。あんたはそれだけの努力をしてる。私もそれを見てるしその大変さも知ってる。だからあんたが私と対等であると自信をもって言える」
実力もそうだが努力を見ているからこそ対等である。文らしくないセリフだ。いやらしいセリフというべきだろうか。彼女も自身の実力をつけるために努力を惜しまない。だからこそ康太の隣にい続けているのかもしれない。
「結論から話そうか・・・今度の土曜日、君たちと二年生は『手合わせ』をしてもらうことになった」
康太たちが二年生たちとの対決を提案してから三日後、康太たちは三年生に呼び出されていた。
切り出してきた第一声に文はまぁそうでしょうねと特に驚いた様子もなく小さくため息をついていた。
文が予想していた通り、こちらの提案に乗ってきた二年生。それが経験の浅さが原因なのか、それともただたんに康太が図らずも行ってしまった挑発に対しての反応なのかは判断しかねる。
どちらにせよ康太たちが戦わなければいけないのは決定事項だ。ここで引いたらそれこそ二年生たちの結託の可能性はついえる。
良くも悪くもめぐってきた機会を逃す手はない。康太としては別にどうでもいいが、文としてはいつまでも弱い先輩に先輩面されるのは面白くないのだ。
このあたりで一つ互いの立場をはっきりさせた方がいいとすら思っている節がある。
もしかしたら自分より好戦的なのではないかと康太は同盟相手の文を横目に内心ため息をついていた。
「それで、向こうから何か条件などは?当然何かしらあったと思うんですが」
「ん・・・条件といえるかはちょっと微妙だけど・・・向こうからの申し出としてそれぞれの派閥と戦ってほしいと進言されたよ」
「・・・それって二対二と二対一でやれってことですか?それとも俺らがそれぞれの派閥を一人で相手しろってことですか?」
「そのあたりの指定はなかった。想定としては現状の戦力で君たちを相手にできるかどうかを試したいというところだろうね」
康太と文が協力する状態で戦うか否かで総合的な戦闘能力は大幅に変化する。一人で戦うのと一緒になって連携するのでは意味合いが大きく変わってくる。
相性のいい者同士であればその能力を増長し、一人で戦うときの何倍もの戦闘能力を有することができる。
ただしその逆、相性が悪い者同士であれば本来の実力の半分も出し切れないことだってある。
康太と文の場合は前者だ。比較的良い相性に互いに互いのことを信頼しているために単体での戦闘よりもその能力は高くなる。
相手が図りたいのは一年生二人が襲ってきた時、今の状態の二年生が止められるか否かというところなのだろう。
最初から三人同時で戦うなどというのは、すでに自分たちが一年生たちよりも劣っているというのを知らしめるようなもの。だからこそまずはそれぞれの派閥で戦い、その結果によっては二年生の派閥統合も視野に入れるというものらしい。
確かに理にはかなっている。筋も通っているし二年生としての、いや魔術師としてのプライドという意味でも理解できないわけではなかった。
ただ、康太と文からすればあまり褒められる行為でないのは事実である。
「どう思うよ文さんや。俺としてはちょっと甘いんじゃないかと思えてならないんだけども」
「同意見よ。同盟の存在理由と状況設定をしっかりできてないわね・・・私たちが反旗を翻したり問題行動を起こしたら二年生総出になってつぶすのがこの同盟の本来のあり方でしょうに・・・」
三鳥高校の魔術師同盟は外部からの魔術師の侵攻を防ぐと同時に、同盟内における問題分子を排除するのも目的に加えられている。
例えば文の言ったように康太と文が同時に何かしらの問題行動を起こした場合、同盟に所属する魔術師全員が二人を取り押さえるというのが前提になる。そこに派閥というものは存在しない。あくまで止めるものと止められるものという二つの状態になってしまうのである。
だというのに二年生たちはそれぞれの派閥と戦ってほしいと言い出した。それはつまり有事の際でも派閥間の確執を抱えたまま行動しようということだ。
問題が起きているというのにそんなことを気にしているようでは困る。この時点でもしかしたらと文はあることを考えていた。
「あの・・・もしかしてなんですけどこの高校に他の魔術師がやってきたり、内部で問題起こしたりすることって今までなかったんですか?」
「あー・・・うん、恥ずかしながらその通りだよ。基本的にみんな修業とかで忙しいし、このあたりというかこの学校にそこまで魔術師としてのメリットはないからね」
やっぱりかと文はため息をつきながら額に手を当ててうなだれてしまう。
今まで、少なくとも今の三年生が一年の時から丸々三年近くそういった問題は全く起きてこなかったのだ。
つい先日康太目当てにやってきた魔術師が初めての外部の魔術師の侵入だったのかもわからない。
そうなると想定どころかこの魔術師同盟の存在意義さえも怪しくなってくる。必要ないのではないかとすら思えるが万が一のことを考えると必要なのもうなずけなくもない。
「まぁそれもそうか・・・みんな学生の時は修業がメインになるものね・・・学業とかもあるし青春謳歌したいだろうし・・・問題を起こす暇も技術もないか」
「そういうこと。この魔術師同盟はこれから一人前になるにあたっての準備的なものも含まれているからね。君らからしたらお遊びみたいなものになってしまうのかもしれないけど・・・」
お遊び。実戦を知りすでに何度も事件に首を突っ込んでいる康太たちからすれば確かにこの高校の中の同盟はぬるい。同盟間で何かするわけでもなく、やるのは魔術師としての隠匿と警戒くらいのものだ。高校内の安寧を目的としているのだから間違ってはいないかもしれないが確かにお遊びのように見えてしまうのも仕方のないことかもしれない。
日曜日、そして誤字報告十件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




