表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
四話「未熟な二人と試練」
53/1515

文の修業場

「本当に、あんたが今まであんな訓練をずっと続けてたって事実が私からすれば信じられないんだけど・・・」


場所はエアリス・ロゥの拠点、普段文が訓練を行っている場所である。


そこは図書館のような場所だった。多くの本があり、一般人も多く出入りしている場所で特に変わったところもないような場所。


だがその地下深く、階段を降りて隠し扉をいくつも開いたところに彼女の隠れ家のような場所が存在した。


そこは数多くの魔導書が保管された場所だった。本棚の端から端まですべてが魔術の術式が記された魔導書。それを康太はまだ理解できなかったが彼女が自分よりも格段に優秀である魔術師であることを考えればこういった場所が非常に似合うのも納得できるところである。


小百合の店の地下には多くの魔術用の道具があった。それに対してここは魔術を修めた書物がある。


変なところまで似ているのだなと康太は眉を顰めながら魔導書に目を通してみるのだが、さっぱり内容を理解することができなかった。


書いてある内容自体はただの本のようにしか見えない。それこそ伝記、歴史、ミステリー、冒険譚、ファンタジー、SF、料理本、ジャンルを問わず様々な書物がそこには保管されていた。


だがそれらはどれもその書物の中に魔術的な因子を組み込まれ、魔術師に魔術を伝授するために記された魔導書なのだ。


一人前の魔術師が見ればその術式を読み取ることもできただろうが、生憎康太にはただの本にしか見えなかった。


「そんな事言ったってしょうがないだろ。俺にとってはあの人の指導がすべてだったんだから・・・ていうかこっちの指導だって俺にとっては信じられないんだぞ?まるっきり実戦的じゃないんだからさ」


実戦的。


それは康太から言わせると、いや小百合から言わせると泥臭く、汚いものであるという事だ。どんなに理由をつけてもどんなに高尚な目的があったとしても、戦いがある以上そこには醜い争いがあり、おぞましい結果が待っている。


血と臓物をぶちまけるようなこともあるだろう。相手の人生の全てを奪うようなこともあるだろう。互いの意識の中で気高いものがあったとしても、戦いを正当化するような何かがあったとしても戦いというのは結局のところ醜く悍ましいものだ。


二人の間にあるのは認識の違いである。魔術によって発生する戦いにおける認識の違い、捉え方の違い。


片方は魔術が関わっていようと結局のところ戦いは戦い。テレビなどで報道されるテロや戦争や抗争などと何の変わりもないただの争いと思っている。


片方は魔術が関わっている戦いにはある種の気高さがあると思っている。互いの技術を比べ競い合い、自らの全力を注ぐそこにはスポーツにも似た潔さがあると思っている。


もちろんそれはどちらも間違ってはいない。戦いは結局戦いだし、魔術の技術を競うという意味でもスポーツのそれに似通っているかもしれない。それは間違っていない。


そう、両方とも間違っていないのだ。だからこそ二人の師匠は反目しあっている。意見を対立させている。どちらも正しいが故に決着がついていないのだ。


そんな議論や考えの違いを一体いつからやっていたのかは知らないが、少なくとも彼女たちが出会った時から続けていた可能性もある。


「まぁ・・・魔術師として経験の浅いあんたからするとそう見えるのかもね・・・確かに魔術師の戦いは暗黙のルールみたいなものがあるし」


「へぇ、そんなのあるのか・・・まったく知らなかった」


でしょうねと文は呆れながら康太が読んでいた本を回収して本棚に戻す。


数日間しか小百合の訓練を実際に見ていない、そして体験していない文でもその程度の事はわかる。


小百合は魔術師としては異端だ。


魔術師として本来行うべき考えや行動を彼女は意図的にしていない。自ら望んでそれを放棄している節さえある。


彼女の弟子であるジョアこと真理はしっかりとした魔術師としての考えや技術を身に着けている。これは彼女が独学で学んだものなのか、それとも小百合がそのように教えたのかは文にはわからないが、彼女が康太にも自らと同じようになるように修業をさせているのはなんとなく理解できていた。


康太は魔術師としては正直平均以下の素質しか持ち合わせていない。康太から聞いたのは素質がC-であるという事だけである。


魔術師として普通に育てていては恐らく大成することはないと理解したからこそ小百合は康太にそのように徹底的に『異端の魔術師』として育てることにしたのだという事を文は察していた。


師匠としてはそれが正しいのかもわからない。少しでも弟子を良い魔術師にするために指導する。そう言う意味では彼女の行いは正しい。


だが駆け出しの魔術師にする指導ではないのも確かだ。


こうして互いの修業風景を見学、そして体験するというのは恐らく康太にとっても文にとっても得られるものが大きいだろう。


文は小百合の実戦的過ぎる指導から自らの足りないものを模索し補わせる。康太は魔術師として正しい知識や考え方を得る。


どちらかというと康太の方が得るものが大きいのではないかと思えていた。康太は小百合の弟子という割には非常に礼儀正しく、エアリスにもすぐに受け入れられていた。


教えられたことは素直に実践しようと努力するし、何より真剣だ。数日ではあるがその真摯な態度は文の師匠であるエアリスにも十分伝わっているのだろう。彼女も康太のことを中々好意的にとらえているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ