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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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事の顛末

「というわけで師匠、あとはよろしくお願いします。俺は今日帰りますんで!」


「勝手にしろ・・・とっとと帰れ」


康太は文とアリスを引き連れて家路につくことにした。


その場に残された小百合と真理、そして新しい住人のウィル。店の中は以前に比べてだいぶ手狭のように感じられていた。


今年の初めのころは小百合と真理しかいなかったというのに、随分と変化したものだなとため息をついてしまっていた。


「それにしても・・・康太君は妙なものに巻き込まれ始めましたね・・・今回の件、何か裏があるように感じられます」


「私としては面倒を私のもとに連れてきさえしなければ一向にかまわんのだが・・・全くあいつのあの面倒を引き寄せる体質は本当に誰に似たんだか」


「ははは・・・師匠も結構面倒を引き寄せる体質なような気がしますけどね。ですが康太君のそれは少し異質なような気がします」


小百合に出会ったこと、禁術の事件にかかわったこと、封印指定に関わったこと。魔術師になって一年目の人間にしては明らかに異常だ。


関わった事件の内容が濃すぎるのである。単なる悪運と決めつけるには何か作為的なものがあるように感じられて仕方がなかった。


「どんな星のもとに生まれればあんなことになるんだか・・・お前はあいつの両親は見たことがあるんだったな?どんな感じだった?」


「普通の一般家庭という感じでしたが・・・お姉さんにはあったことがありませんがご両親に関しては本当にただの一般人ですよ?」


真理は一時期康太の家に暗示をかけに行っていた。まだ康太が暗示の魔術を扱えなかった頃の話である。

康太の両親のこともある程度知っているし、康太の家庭事情も当然のように把握していた。


康太の実姉にはまだあったことがないが、彼の両親がただの一般人であるというのは把握している。


魔術のまの字もないような本当にただの一般人だ。別に特別な何かがあるわけでもないために康太自身がただ単に不運な星のもとに生まれてきているというだけだと真理は考えていた。


「あいつ個人の事ならこれ以上とやかく言っても仕方がないな・・・これからもあんな調子で面倒にかかわっていったら成人するまでに体がいくつあっても足りないぞ」


「一年目でこれですからね・・・これから一体どうなってしまうやら」


「私の時よりひどいんじゃないかと思えるレベル・・・いやそれは言い過ぎだな。私があいつの年のころはもっとひどかった・・・」


「師匠と比べるというのもなかなか・・・ですが・・・康太君もまた妙なものを連れてきましたね」


先ほどまで人型だったウィルは康太がいなくなったからかすでに人型を解除しており軟体状態に戻ってしまっている。


畳の上で何やらリズミカルに動いているが何か意図して行っているというわけでもなさそうだった。


確かに妙なものを連れてきた。小百合の本心としては今すぐにでも破壊しておいた方がいいと考えているのだが、自分の弟子が頼んできたのだ。それを無下にするのも忍びないなとため息をつきながらウィルの前に立つ。


「ウィル、お前は康太の役に立ちたいと考えているのか?」


小百合の問いかけにウィルは人間の首から上の部分だけを形どり、小百合に向けて何度もうなずいて見せる。


事のあらましは康太にすでに聞いている。ウィルが何を考え、どのように行動しているのか、なぜ康太とともに動こうとしたのか、何となくではあるが察しているつもりだ。


康太への恩返し。言葉にするとこれほど奇妙な恩返しもないだろう。魔術が魔術師に恩を返すなど普通なら考えられない。


だが目の前の魔術は特殊なのだ。すでにデビットという例外を認めている以上、それ以外の例外があり得ないとは言えない。


だからこそ小百合は小難しいことは一切考えずに自分の思ったことを素直に口にすることにした。


「これからもあいつは面倒に巻き込まれるだろう。それこそあいつの命そのものも脅かされるはずだ。その時にはおまえにもあいつの役に立ってもらう。いいな?」


願ってもないことだと思っているのか、ウィルは力強くうなずいて見せる。小百合がどのような思惑を持っていようと、それが康太のためになるのであれば自分たちは力を貸す。ウィルの中の意志としてはそういった意見がすでにまとまっているようだった。


それならば話が早いと小百合は薄く笑みを浮かべる。


「ならまずはお前にやってもらうことがある。その体になってどれほど経ったかはわからないが、最低限戦えるようにはなってもらわないと困るからな」


「ちょっと師匠・・・初日からそんな」


「最初が肝心だ。こいつがどれほどの考えを持っていてどれほどの性能を持っているのか正確に把握する必要がある」


これから味方にするにしても、弟子を任せるにしてもこの魔術がどのような性能を持っていて何ができて何ができないのかはしっかりと把握しておく必要がある。


もしかしたら自分が対処しなければいけないかもしれないのだ。早いうちから実力を把握しておいて損はない。


「まずはお前の性能を把握する。可能ならばやってもらいたいことがあるが、そのあたりはまた今度だ。行くぞウィル、訓練開始だ」


まるで自分たちのことを人間扱いしているかのような一人の魔術師に、ウィルは素直に従っていた。


康太が師匠としている人物のことを、少しだけ理解したのかウィルは首を縦に振ってそのあとに続いていった。



















「はぁ!?殺された!?」


「・・・あぁ・・・こちらの不手際としか言いようがない・・・全くどうしてこうなったのか・・・すまない、せっかく君が生け捕りにしてくれたというのに・・・」


康太は後日支部長に呼び出されて協会にやってきていた。


火急の用事だからということで学校が終わった後にすぐに駆け付けたのだが、そこで伝えられたのは信じられない事実だった。


康太が捕まえた、廃人にしたあの教会の神父が拘束されていた部屋で殺されているのが発見されたとのことだった。


神父は康太が精神破壊をしてから数日たってからも意識を取り戻すことはなく、魔術協会日本支部の拘束用の牢屋に近い場所に拘束されていたのだとか。


情報を引き出すために生かしておいたのだが、魔術師たちが情報を引き出そうと彼が拘束されている部屋に向かうとそこには息絶えた神父がいたのだという。


死因は心臓を一突き。凶器は不明だがおそらく魔術によるものだと支部長たちは断定しているようだった。


部屋の周りには当然監視の魔術師がいた。二人体制で常に部屋の中の神父の姿を確認していたのだが、調査のための魔術師たちがやってきたとき、彼らは気絶させられていたのである。


何者かが神父を口封じするために殺したのは間違いないだろう。それが誰なのかがわからないというのがネックだ。


「一応確認しておきたいんだけど・・・この数日、君のその魔術はずっと一緒にいたんだよね?」


「ずっとではないですけど・・・少なくとも支部には連れてきていませんよ?大体師匠や俺が一緒にいましたし・・・」


「だよねぇ・・・勝手に動いたわけでもないとするとやっぱり誰かが殺したってことになるよねぇ・・・しかも協会内部の誰かの仕業っぽいし・・・」


「・・・あぁ、やっぱりそうなりますか」


支部とはいえ協会の中に容易に入ることができるのは基本的に魔術協会に所属している魔術師だ。


少なくともこの数日の間に外部の、協会に所属していない魔術師がやってきたという記録は残されていないらしい。


となればあの神父を殺したのは協会の魔術師の誰かということになる。


それがいったい誰なのか、それはわからないが少なくとも神父に禁術の情報を教えた、あるいはそれを背後からそそのかした誰かだというのは間違いないだろう。


「にしても・・・随分初動が早いですね・・・神父をとらえてまだ数日・・・掲示板にも張り出されてないレベルですよ?こっちの情報筒抜けってことですか?」


「問題はそこなんだよね・・・君の連れてる禁術のこともほとんどの人間に伝えてない状態だっていうのに行動を起こしてきた・・・つまりこっちの事情を把握している・・・スパイとまではいわないけど、情報を流している人がいるね。しかもだいぶ深くまで関わってそうだ」


これは根が深そうだよと支部長は頭を抱えながらため息をついている。


神父を犯人として捕らえたという情報はまだ支部内にさえあまり広がっていない状態だ。知っているのは支部の専属魔術師、しかもその中でも割と一部だけ。あとは協会内で神父を監視していた魔術師程度しか知らず、ほとんどの魔術師はあの事件に関してほとんど何も知らない状態に近い。


何せ今回の事件の全容もまだわかっていないために、その結果を掲示板に張り出すこともまだできていないのだ。


つまりこの事件の裏にいた人間は、あらかじめ神父の動きをチェックしていた、あるいはこの支部内に独自の情報ルートを持っているということになる。


神父が捕まった時点で手を出さず、ある程度監視が緩む段階で手を下したということは確実に仕留めなければいけないという条件があったからに他ならないだろう。


いくら康太の精神破壊によって廃人になってしまったとはいえ、情報源になった神父を最高の、いや最悪のタイミングで始末したのだ。明らかに見計らっていたと考えるのが当然だろう。


「それにしても、君のその魔術は術者が死んだっていうのに普通に動いてるんだね」


「えぇ・・・もうこいつの操作系統は独自のものになっちゃってますから・・・運がいいのか悪いのか」


康太の言うように幸か不幸か、術者であった神父が死んでもウィルはこの世界に残り続けた。おそらく彼らがそれを望まない限り、そして術式そのものが破壊されない限りこの世界に存在し続けるのだろう。


「それが情報源になればよかったんだろうけど・・・残念ながらそういうわけにもいかなそうだね・・・でも気を付けたほうがいい。もし神父を殺したやつがその魔術のことを把握していたとしたら」


「わかってます。俺も標的になる可能性が高いですね。とりあえず師匠や姉さん、ベルとアリスには警告しておきます。面倒なことになりましたね」


「本当にね・・・いったいどれほどの規模が相手なのか想像もつかないよまったく・・・」


情報が漏れていたとは考えにくく、相手が情報を独自に得ていたとしたら康太が連れているウィルのことに対しても何かしらの情報を持っていたと考えるのが自然だ。


神父を殺したものの目的が何なのかはわからないが、ウィルを引き連れている康太にその矛先が向けられないとも限らない。


警戒するに越したことはないだろう。


全く面倒なことになった。康太と支部長は同時にそんなことを思いながらため息を吐く。


禁術をめぐっての騒動。以前のそれと似ているようでまた違う、少しだけ事態が深刻になったような、そんな気さえする顛末だった。


評価者人数が260人突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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