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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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ウィルにできること

「ということで支部長の許可はもらってきました。あとは師匠が許可してくれるだけです!」


「・・・ったくあいつは・・・私に最終決定権を押し付けて・・・何かあったら私のせいにするつもりだな・・・?」


「普段迷惑をかけているのですから、多少は仕方がないのではないですか?それにしてもそんなことになっていようとは・・・」


康太がウィルを引き連れて戻ってくると、そこにはすでに戻ってきた真理がいた。どうやら小百合から大まかな事情は聞いたのだろう。康太のそばにいるウィルを見ながら困った表情をしている。


また康太が妙なものを引き連れてきたのだなと、もはや慣れっこのような感じがするが同時に仕方がないなとも思っているかのような感じである。


「実際ここに置くのはいいが・・・そいつはどれくらいの動作ができるんだ?それがわからないことには役に立つかもわからんぞ」


「そういえばそうですね・・・じゃあウィル、とりあえず師匠を持ち上げて地下まで運ぼうか」


康太の申請にウィルも承知したのか、ちゃぶ台の近くに座ったままの小百合の体を包み込むとそのまま移動を始める。


小百合は全く体を動かしていない。包んだ状態で移動できるようにウィルが動いているのだろう。


座った状態のまま移動するという状態に小百合も困惑しているようだったが、平面上での移動も、階段での移動も全く問題なくスムーズに小百合を地下へと運んで見せた。


「どうです?これで少なくとも師匠より軽い荷物は簡単に運べるってことになりますよ?」


そもそも自分の動きを封じることができ、なおかつそれなり以上の力を持っている時点でこの程度できることは簡単に予想できた。


物を運ぶということに関していえば普通の人間と同じか、それ以上に簡単にこなすことができるだろう。


しかも誤って落とすということがまずない。何せ基本的に運ぶものを包んだ状態で移動するのだ。軟体だからこそできる芸当である。


「ほう、なかなかスムーズな移動でしたね。これならある程度重いものを持たせても問題なさそうです」


「そうは言うがな・・・そもそもこいつはお前の言うことしか聞かないんじゃないのか?」


「いえ、別に俺が動かしてるってわけじゃないので、頼めば師匠たちの言うことも聞いてくれるかもしれませんよ?」


試していないから何とも言えないが、康太は別にウィルの操作権限を得たというわけではないのだ。


あくまで魔力を供給しているのに加え、その本質を理解したというだけに過ぎない。


この軟体に知覚器官があるかは別にして、康太の頼みを聞いてくれるということはおそらく別の誰かの言うことも聞いてくれるのではないかと考えていた。


「試してみるか・・・ではまず・・・そうだな・・・このプラモを作って見せろ」


そういって地下においてあった誰かのプラモデルを一つ手に取ってウィルのほうに放り投げる。


プラモを作るなどということがこの魔術にできるかは疑問だ。むしろ小百合はその疑問を解消するためにこの難題を突き出したのだろう。


物を運ぶという単純作業と違い、プラモを作るというのは基本的にその物体の構造やパーツの位置、全体像などを理解しなければいけない。


そこにはかなり高度な知能が必要になってくる。プラモを完成させるなど不可能だと康太は考えていた。


だが逆に言えばこれができればそれこそ人間と同等程度、最低でもある程度の把握能力を持ち合わせているということがわかる。


もし仮にできるのであれば難しい作業なども任せられることになりかなり有用になるだろう。


当然その分危険な魔術ということになるのだが、そのあたりはご愛敬といったところである。


だが小百合の思惑や康太の不安をよそに、ウィルはプラモのパーツが入った箱を開けて中を確認し始める。

一度体の中に取り込んでその構造を理解してパーツ一つ一つを分解していく。体の一部を硬質化し鋏のようにして取り外したのだが、どうやらそれが限界のようだった。


部分的にパーツをつなげようとした痕跡は見受けられるのだが、違う場所のパーツや形を完全に無視した場所をくっつけようとしてしまっている。


しかも基板から取り外されたパーツにはところどころ完全に基盤が取り切れていなかったりと不格好な部分がある。


精密な動作はある程度は可能だが、一度に複雑な動作をやらせようとすると不備が出てくるということだろう。


もとより補助頭脳的な役割を持っている魔術とはいえ、ある程度限界があるのだ。


何かをしろという単純な命令があればその命令をこなすための行動をとるが、その行動が複雑だったり把握する情報が多すぎたりすると処理能力を大きく超えてしまい性能を引き出すことができないのだろう。


だが康太以外の人間の言うことも聞くことができるということは発覚したし、何よりウィルが単体でできる行動の限界も把握することができた。


戦闘においてはおそらくかなり精度の高いフォローを行うことができるだろう。ただ日常生活における複雑な作業に関してはおそらくできることとできないことがはっきりと分かれそうである。


「ふむ・・・どうしたものかな・・・」


「いいんじゃないですか?いろいろと役に立ってくれそうですよ?少なくとも今のところは危害を加えるということはなさそうですし」


アリスさんにも場所を貸していることですし一人?くらい増えてもいいではないですかというのが真理の考えであるようだった。


アリスとしては魔術そのものと同列視されるのはあまり良い気持ちではないだろうが、少なくとも現状反対をしているのは小百合だけだ。


真理がなだめて小百合が反対する。まるで動物を拾ってきた子供に対する母親と父親の反応のようである。


「魔術師として活動するときはどうする?さすがに私も出払うとなるとここに置いたままにはできんぞ」


「その時は俺が連れていきます。こうすれば目立ちませんし、もしもの時は俺の装備になってもらいますから」


そういって康太はウィルに合図をすると、先ほどまで液体の姿だったウィルはその形を変え、ギターケースのような形になり硬質化して見せた。


確かに一見してみればただのギターケースのように見えるだろう。移動時は問題なく一般人を欺くことができ、魔術師としての活動時には康太の魔術師装束として擬態することで問題なく行動することができる。


確かに今のところ目立った問題はないように見える。むろんまだ一緒に生活していないからそう思えるだけで、生活が始まればいろいろと問題が見つかるかもしれないがその時はその時だ。


「真理は賛成、文も賛成、アリスも賛成・・・康太が申し出て・・・あとは私だけということか・・・全く・・・次々面倒を持ってきて、いったい誰に似たんだか」


「それは間違いなく師匠にでしょうね。トラブルの類を引き寄せるのは確実に師匠譲りですよ」


不本意ですけどと康太が付け足すのに対して小百合は舌打ちしながら康太の近くでギターケースのようになっているウィルを見て眉間にしわを寄せる。


「わかった・・・だがこの店にいる以上しっかりと働いてもらうぞ。まずはこの店においてあるものの把握からだ。せめて茶を淹れるくらいはできるようになってもらわなければ話にならん」


ただの魔術にそこまでできるかなと一瞬思ったが、プラモのパーツを切り離すことができるのだ、茶を淹れるくらいのことはできても不思議はない。


ウィルは何十人という人間の集合体だ。多くの人間が経験しているものの数だけ対応できる、処理できるものが増えている。


多種多様な人間の考え方や処理の仕方を有しているために、ある程度日常的な行動に対しては行えるのだ。プラモのパーツを外すことができたのも、被害者の中にプラモデルを趣味にしていたものがいたからかもわからない。


それに比べれば茶を淹れるという非常に日常に近い誰でもやれそうな動作は問題なくこなせるような気がしてきた。


「ただし覚悟しろ、もし妙な動きをしたらその時はお前を破壊する。肝に銘じておけ・・・いや肝があるかはわからんが」


「ないでしょうね肝。てかこれ生き物とは絶対違いますし」


「・・・とにかく覚えておけ。覚えられるかどうかはわからんが、お前が妙な行動をとったら即座に破壊する。いいな?」


小百合の言葉を理解したのか、ウィルはその体を大きくよじりながら何かしらの反応を示してみせた。


それが肯定なのか否定なのか、それとも了承なのか拒否なのかは正直わからなかったがこの場にいる人間の言葉を理解しているような節はある。


「・・・康太、お前がいるときはこいつの通訳を頼む。何を言っているのかさっぱりわからんからな・・・」


「あー・・・せめて人形っぽくさせますか?そのほうがまだわかりやすいでしょ」


「なんだ、人型になれるのか?」


「一応。マネキンっぽいですし体積足りなくて中身が空洞のところもちょくちょくありますけど」


「それでもこの軟体よりはわかりやすい。さっさと形を変えろ」


小百合がそういうとウィルは軟体の状態から人型へと姿を変えていく。康太の体を模したその状態は確かにマネキンのようだった。表情などはわからないが先ほどまでと比べると比較的どう行動しているのかがわかりやすくなったといえるだろう。


「よし、私の命令に対して分かったのなら首を縦に振れ。拒否は認めん。いいな?」


小百合の言葉にウィルはまるで是非を問いかけるように顔を康太のほうに向けてきた。


今まで神父に命令をされてきた立場からして、魔術師の命令に常にイエスの返答を出すのはおそらくあまり快く思っていないのだろう。


本来ならば首を横に振りたいところだろうが、相手が康太の師匠ということで少し迷っているようだった。


「まぁ、師匠なら変なことは頼まないだろうし、たぶん大丈夫だよ。頼まれても茶を淹れろとかせんべいもってこいとかそのレベルだと思うし」


実際小百合が信用ならない相手にそこまで大きな仕事や指示を出すとも思えなかった。


せいぜいクッションになれとか、面倒だから私を運べとかその程度のものだろう。


康太がその程度だと認識している以上、ウィルとしてもその判断に身をゆだねるつもりのようで小百合の方を向き直ると小さくうなずいていた。


小百合はその反応にため息をつきながらもよしとつぶやいてウィルを引き連れてこの店に何があるのかを説明していった。これから住むことになる魔術が『一人』増えることになったことを渋々ながらも認めているようだった。


評価者人数が255人突破したのでお祝い二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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