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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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意志の総意

「んー・・・なんとも微妙な感じ」


「なによ、結局こいつはどうしたいわけ?」


先ほどから瞑想してスライムもどきの魔術ウィルの意見を集約しようとしていた康太だが、その思惑に反してうまくいかないようである。


多少の魔力を消費し続けている現状からしてある程度は収穫がほしいところではあったが、デビットと同じような状態になってもやはり相手の意志を正確に感じ取るというのはなかなかに難易度が高いらしい。


「いやなんて言うかさ、意見が全然まとまらないんだよ・・・何回やっても毎回答えが違うというか、少しずつ変わるというか」


「・・・まぁこいつと違って一人じゃなくて複数いるわけだし、ある程度は仕方ないんじゃないの?」


統合されたとはいえこの魔術の中には何十人もの人間の意志が詰まってしまっている。そのせいで意見を聞こうにもうまくその意見をまとめることができないのかもしれない。


ただ命令を聞くだけならば、それこそこの状態でもいいだろう。あらゆる角度で物事を考えられるということはそれだけ可能性に対して気付けるということであり、より効果的な立ち回りができるということでもある。


だが康太が今やっているようにこれからどうしたいかということを考える意味では完全に裏目に出てしまっている。


何せ何かの目的に対して全員で立ち向かう明確な目標がある場合と違って、康太が確認したのはこれからどうしたいかという漠然としたものなのだ。


ありとあらゆることを考えられるということは当然その個人の願望とでもいうべきものも当然多岐にわたる。


「それなら聞き方を変えればいいんじゃないの?もともとそんなに難しいことは考えられないでしょうし」


「そうするしかないか・・・仕方ない、時間はかかるけど別の聞き方するか・・・」


どうしたいかなどという具体性のない質問ではなく、もっと具体性のある問いを投げかけるべきだったのだ。


例えば二択での選択を迫ればどちらかを選ぶしかなくなる。そうやって少しずつ意見を集約させていくのが遠回りにはなるだろうが一番の近道だろう。


とはいえ今の康太の質問の方法も康太が思い浮かべたことに対してのウィルの反応を見るというものだ。ある意味二択といえなくもない。


その中でさらに別の聞き方をしろとなるとどう聞くのが一番いいかと康太は頭をひねっていた。


「ちなみにだけど今のところどんな意見があったわけ?参考までに聞かせてよ」


「本当にいろいろだぞ?どこかに行きたいかって聞いたらそうだっていう奴もいたりここにいたいってやつもいる。いろいろと聞いたけどどれもイエスとノーがそれぞれ入り乱れてるんだ・・・そのせいでどの意見が多いのかわからないんだ」


「ふぅん・・・じゃあもっと極端な聞き方にすれば?」


「極端・・・っていうと例えば?」


「生きたいか死にたいかとか、そういう百かゼロかの質問よ。そうすれば多少は多数意見が出てくるんじゃない?」


百かゼロかというのは確かに極端な話だ。多くの人間がいる中でも百かゼロかを選ぶものはかなりはっきりと分かれることだろう。


とりあえず康太は生きたいか死にたいかを確認することにした。その答えは生きたいというものに好印象を持っているようだった。


やはり死にたいものはいなかったのだ。あの恐怖を植え付けられたものだからこそ、生きていたいと心の底から願ったのだろう。


実際康太もあの体験をしたら生きたいと心の底から願うだろう。


次に聞くのはこの状態に対しての是非についてだ。


魔術として存在してしまっているこの現状についてどう思っているか。これはある程度康太も予想できていたが、あまり好意的な感情は持っていないようだった。


ほとんどのものが不満を有しているように思える。だが中には死にかけてもこうして疑似的に生きていられてラッキーととらえているものもいるようだった。


やはり人の考えは千差万別だなと思いながらも、康太はさらに質問を進めていく。


小百合に頼めば魔術ごと消してもらえるかもしれない。そのことについての是非だ。


これこそ康太が聞くべきことだった。小百合の出番があるかないか。この者たちが消えたいと願っているか否か。


その答えは否定的だった。ほぼすべてのものが消えたくないと考えているようだった。中にはこんな状態は嫌だと思うものもいるらしいが、ほとんどが消えたくないという選択をしている。


ならどうしたいのか、そこがネックなのだ。


消えたくないということが分かり、小百合に手を借りる必要がないということがわかっても問題なのは彼らがこれから何をしたいのかということである。


自分で口を利くことができない以上、康太が一つ一つ例を挙げていってそれに対する反応を見るしかない。

だが極端なものでもない限り意見はかなり分かれてしまう。そうなってくるといくら聞いても堂々巡りになってしまいそうだった。


「とりあえず死にたくない消えたくないってのがほぼ総意だな・・・あとはこいつらが何をしたいかって話なんだけど・・・」


「まぁまずはこれをどうするのかを考えましょう。少なくとも康太しか交信できないんだし、身近に置いておくのがベターだと思うけど・・・地味に不便になりそうね・・・」


康太としてはウィルの意見を尊重したいところだが、今は理想よりも現実的な問題を考えなければならないだろう。目の前にそびえている液体状の魔術を見て文はため息を吐く。


デビットのように康太の体の中に問題なく入ることができるのであればまだよかったのだが、この魔術は物質的な効果を持ち合わせているためにそういうわけにもいかない。


どこに隠しておくにしても必ず空白の体積がなければならないだろう。


小百合の店の地下に置いておくのも一つの手だが、はっきり言って誰かの制御下にない魔術を放置しておくほど危険なことはない。何せ何らかの拍子に外に出て誰かに目撃でもされたら大問題になる。


情報伝達速度の速い現代社会において一瞬の隙さえも許さないというのはある意味つらい状況だ。


物理的に出られないように幽閉したり消去できたら楽だったのだろうが、残念ながらそれは康太としても避けたいところなのである。


「俺が管理できればそれが一番いいんだろうけどさ・・・こいつそもそも管理できるのかな?」


「きちんと世話ができないなら拾ってくるんじゃありませんって親に言われなかった?責任とれないなら抱え込まないの」


「いやペットじゃないんだからさ・・・でも実際どうしたもんか・・・とりあえず俺の体の中に入っててもらうか・・・?」


「いや、どう見たってあんたの体内にある空間より大きいでしょうよ・・・アリス、こいつの体積って変えられる?」


「んー・・・こやつの液体は別にいじれるとは思うが・・・小さくした後で大きくするとまた手間が必要になるぞ?この液体そのものは魔術ではないからの」


どうやら水属性と思っていたが実際はそうでもないらしい。おそらく既存の液体に意志を内包させるための魔術のようだ。液体を操っているのはあくまで副作用のようなものなのだろう。


おそらく核に近い部位がこの中のどこかにあり、それ以外はある程度別の液体でも流用が利くのだろう。

もちろんあらかじめ用意しなければいけない分面倒ではあるが。


「ちなみにこの液体はそもそも何なのよ?赤いけど・・・やっぱ血?」


「ただの血ではないな・・・魔術で若干変化させた血液だ。これまた手間がかかっておるよ。硬質化しやすく、また戻りやすいように性質を変化させたもののようだ」


「なるほどね・・・内包させる液体にもこだわってたんだ・・・なおさらこの体積を小さくさせるのは惜しいわね・・・」


液体そのものはおそらく血液を使っているのだろうが、意志を内包させる前にさらにひと手間加えたものであるらしい。


血液自体は魔術で発生したものではなく、魔術で加工されたものなのだという。


そう考えると文の言うように体積を減らすというのはもったいないように感じてしまう。


おそらく康太や文ではこのような液体を作り出すことはできないだろう。あとからどうしようもないために今あるものをなくすというのはデメリットが大きいように思えた。


「・・・なぁアリス、これって魔術でちょっと手が加えられてるけど血液なんだよな?」


「そうだ・・・まさかとは思うが自分の血管の中に入れようというのではないだろうな?」


「いやさすがにそれは無理だって。拒否反応起きたら俺死ぬじゃん。そうじゃなくて自分の体にまとったりすることできないかなって。これだけの体積があっても体の周りにびっしりまとわりつけば多少はましになるんじゃないか?」


それは実際にまとわりつかれていた康太だからこそ気付けたことである。目の前にあるウィルの体積がどれほどのものか正確に把握はできていないが、少なくとも人間一人分には足りない程度だ。そう考えるとそこまで多くの量ではないことがわかる。


この限られた量を駆使してうまく康太を拘束していたのだから非常に効率よく捕まえていたのだということがわかる。それだけ考えて行動できるということだ。その性能は評価しなければならない。


そしてそれだけの動作ができるのであれば、拘束の時のようなある程度の強度や力を保った状態ではなく、薄く引き伸ばした状態で皮膚のように体にまとうこともできるのではないかと考えたのである。


「なるほどね、薄く引き伸ばして皮膚みたいに張り付けると・・・それでも無理な部分は?」


「そこはぜい肉とか筋肉に偽装しよう。ちょっとやってみてもらうか」


康太が何やら念じるとウィルはその意図を察したのか、康太の体にまとわりついていく。


最初こそうまくその体を薄く延ばすことができないようだったが、やがてコツをつかんだのか康太の体を完全に覆うようにその形を変えていく。


だが薄く引き伸ばしてもやはりだいぶ体積が余ってしまう。康太の指示通り余った部分を腹部にまとめたのだが、関取なのではないかと思うほどに腹が膨れてしまっていた。


「さすがにみっともないわね・・・もうちょっと筋肉とかに回しなさいよ。腕とか足とか胴体とか太くしてさ」


「ちょっと待ってくれ・・・今調整してるから・・・」


「・・・まてよ・・・?この方法を使えば私の生身もダイナマイトボディになるというわけか・・・」


「あんたの場合魔術でそうなるように見せたほうが早いでしょうが。康太、右腕のほうが太くなってるわよ」


ウィルの体を使ってうまく自分の体を覆い、隠すことができないかといろいろと試行錯誤を重ねるが、やはりまだ慣れていないのかうまくいかなかった。


というか体にまとわりつかせてもやはり体積が多いのがネックである。


全体的に肉厚にしても結果は同じ。もっと別の場所に隠さないとダメなようだと康太たちはそれぞれ隠し場所を思案し始める。


時折体を疑似的に変えて遊びながらも、康太たちは何とかこの魔術を管理できないかと頭を悩ませていた。



土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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