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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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優秀さとは

三十分ほどして、康太は荒く息をついて意識を取り戻していた。いや意識を取り戻したというのは正確ではない。見せられていたものをすべて見終えたというべきか。


その顔色はお世辞にも良いものとは言えない。冷や汗を大量に掻き、顔をしかめているその表情は苦痛を絵に描いたようである。


「大丈夫?前よりはましな顔つきだけど」


「あぁ・・・デビットの時よりはだいぶましだな・・・今度のはまた別の意味できつかったけど」


デビットの時は肉体の死という明確な苦痛があり、なおかつ死に近づけば近づくほどに苦痛が強くなり最後にはなくなっていた。その繰り返しだったために明確だった個人の枠組みが今回はなかったのだ。


いうなれば延々と不安や恐怖を煽られ続けているというべきか、物理的な痛みなどが少ない分精神的なダメージがかなり大きかった。


正直二度と見たくない光景である。


「それで?思惑はうまくいったわけ?」


「ん・・・わかんない・・・どうなんだアリス」


「当の本人がわからないのに私がわかるわけがないだろう。とりあえずデビットと似た状態にしておいた。少なくとも何となくつながっていることは感じるのではないか?」


デビットと似た状態と言われても、康太自身今自分とデビットがどのような状態になっているのか正確に把握できていないのだ。


自分の中に操れない術式があるというくらいは認識している。康太が自分の体の中の術式を把握しようと集中すると、確かに先ほどまではなかった術式が一つあるのに気が付いた。


「あー・・・なんかあるな・・・これがそのコピーを作る術式なのか?」


「コピーを作るというよりはコータとのリンクを作る術式といったほうがいいな。常時情報を更新しているからそのほうが正確だろう。消費魔力もほとんどないと思うが」


「うん、ほとんどない。でもこんな魔術よく作れたな。ていうかよくデビットと似たような状況にできたな」


「お前と一緒に生活しているのにその体を解析しないわけがないだろう。デビットの状況も大まかながら把握している」


いつの間にと康太は驚いているが、文からすれば全く驚くようなことではなかった。


アリスは自分たちよりも何倍も上手な魔術師なのだ。おそらくだが康太は自分の家ではかなり緊張や警戒を解いている状態だろう。そんな状態の康太を解析するのはさほど難しくなかったと思われる。


寝ている間でもテレビを見ている間でも、それこそ勉強している間でも魔術の訓練をしている間でも、いくらでも時間はあるのだ。


「ちなみにさ、デビットの状態ってどんな感じなの?ほとんど魔力使わないじゃない?なんでなの?」


「・・・ん・・・いや、言わないほうがいいだろう。フミほどのものになら教えてもいいかもしれんが、コータに教えるのはいささか不安が残る」


「え?なんでだよ、仲間はずれにすんなよ泣いちゃうぞ」


「お前に教えて妙なことをしてデビットがまた暴走でもしたらどうする。未熟なうちは余計なことを知らないほうがいい」


今でこそデビットは康太の中にいることで落ち着いている。だがもし康太が興味半分でその術式やデビット本体に何か変なことでもしたら、何百年も猛威をふるい続けたDの慟哭がまた復活しないとも限らないのだ。


アリスとしてもそれは避けたい事態だった。未熟なうちからいろいろと教えられても無駄な知識、それどころか危険なことにすらなりかねないのである。


文のようにある程度の実力を有した魔術師ならばしっかりと自分にできる範囲ややっていいこと悪いことなどが理解できているだろうから教えても問題ないだろうが、康太の場合それが判別できていない場合がある。


特に康太の考えは時折非常に危険なものになる。師匠である小百合の影響か、それとも康太本人の性質か。どちらにせよあまり良い傾向とは言えないだけに文としてもアリスが教えないというのは賛成のようだった。


康太は不満そうにしていたが、それが自分を守るための気遣いの一種であると理解しているだけに強く言うことはできなかった。


「ところでさ、デビットは普段どうやって魔力を補充してるわけ?さすがにそのあたりだけは知りたいんだけど。康太からもらってるって感じではないし」


「あー・・・そのくらいなら教えてもいいか・・・デビットがもともと魔術師だったのは知っているだろう?そのせいかこの状態になっても自分である程度の魔力補充はできているようなのだよ。といっても肉体はないから術を介してという感じだがな」


「もともとDの慟哭が魔力を吸う魔術だからそれを利用してるんじゃないのか?俺の気づかないうちに一般人から吸い上げてるとか・・・あるいはまだほかに吸収用の端子を残してるとか」


「なんかすっごい他人に迷惑かけてる感じが・・・こいつ本当に元神父なわけ?」


「まぁ人やめてる時点で神父とか関係ないだろ。それに迷惑かけてるっていうならすごい今更だぞ」


「全くだ。何百年も人様に迷惑かけ続けたんだからな・・・生きていたら殺しているところだ」


非常に矛盾した発言かもしれないが、アリスの強い言葉にデビットは何か不穏なものを感じたのだろう、妙にざわめき始める。


相変わらずアリスには弱いのか、それとも師匠であるが故に畏怖しているのか。このざわめきがほんのわずかな恐怖を含んでいることを康太は感じ取っていた。


「それで?今回の本題に行きましょ。そいつらがどうしたいかは読み取れるの?」


「あぁそうだったな・・・ちょっと待ってくれ」


康太は目を閉じて集中し始める。時折デビットと話をするときにもしているように座禅を組んで大きく深呼吸をする。


話をするといっても実際に話をするわけではない。何というか、康太が何かを思い浮かべた時の相手の反応を読み取って疑似的に会話のようにしているだけだ。


向こうから話を振ってくれたり、感情を向けるということは基本はない。


たいていが何かしらの反応を示す程度しかないのだ。いやむしろ肉体をなくし、精神だけの状態になったにしてはまともな方だといえるだろう。


ウィルの中にいる意志も似たようなことができればいいのだがと康太は祈りながらとりあえずこれからどうしたいかの選択肢を一つずつ提示していくことにした。


「もしこれで消えたいとかいう意見が強かったら今回のアリスの努力まったくの無駄になるわね」


「そうかの?少なくともこれでまた一つコータは学んだだろう。無駄になることはない。それに努力という割に私は何もしていないぞ?せいぜい解説とちょっと手を加えたくらいだ。今回の事件はお前たちがメインだったのだろう?それは無駄にはならん」


「それは・・・そうかもしれないけど・・・ていうか今回もメインは康太だったわよ。私は最後に康太を見つけたってだけ。犯人特定に至るまでの可能性を最初に気付いたのは康太だし、だからこそ康太を見つけられたんだもの」


康太が行動したからこそ、文もその異常に気付けて最終的には神父の隠れ家を発見することができた。


神父を倒したのも怪しいと最初に感じたのも康太だったが、それでも文がいなければかなり面倒なことになっていただろう。


文があの場で教会の周りを探していなければ康太は外部に情報を伝えるすべのないままあの場で息絶えていたかもしれないのだ。


「自分を卑下するのは結構なことだがの、そんなお前をコータは信頼しているのだ。その信頼にこたえられるのはフミ以外にはいないということも覚えておけ」


「・・・信頼されるのは嬉しいけどね・・・最近ちょっと康太の活躍に遅れ気味でいろいろ思うところがあるのよ・・・」


対等な存在。康太も文も互いをそうとらえており、その関係に何の不満もない。相手には全く不満はない。だが文は自分自身に不満を抱いていた。


文は康太と一緒に行動しているとどうしても自分のほうが劣っているのではないかと感じてしまうのだ。


康太は確かに魔術の技術や知識では文に劣るし、康太にできないことを山ほどできる。だが事件などが起きた時、依頼などを受けた時にその核心に至る道筋を見出したり、解決に導いたりするのは何時も康太なのだ。


自分ができるのはいつもフォローだけ。康太が動きやすいようにしているだけのように思えるのだ。


そんな自分が康太と対等といえるだろうか。すでに協会からの評価もかなり差が開いている。


対等な同盟を組んでいるというのに、魔術師としての実力も経験も自分のほうが上なのにこの差は何だろうかと、文は自分が情けなく感じることがあった。


「ふむ・・・フミはコータのようにいざというときに瞬発力があるタイプではないからの・・・安定して実力を発揮できるアベレージヒッターのような印象を受ける」


「それじゃあ康太は一発屋って感じ?」


「そうだの、いざというときにドカンと一発当てることがあるから周りからすれば高い評価を得たりすることもあるかもしれないが、はっきり言ってそんなものは長期的に見れば魅力ではない。テレビの芸人でもそうだろう?一時期はやってもそのあと飽きられればおしまいだ」


「・・・あんたどんどん俗世に染まってきてるわね・・・芸人が出るようなテレビなんて見てるの?」


「もちろんだ。現代における娯楽は網羅する予定だぞ?まだまだ時間はかかるがな」


時間などあまりまくっているアリスからしても、この世の娯楽という娯楽を楽しんでもまだ時間は足りないだろう。


それだけ人間の娯楽に対する欲求や意欲は高いのだ。一言娯楽といっても種類は山ほどある。

それこそ人生を何回やり直しても足りないくらいなのだ。


「話がそれたな・・・コータが高い評価を得ているように見えるのはあくまで一時的なものだ。特にまだ魔術師になりたての卵の状態、平均的な評価がわからない以上正当な評価は下せん」


「まぁ、回数が多ければその分評価もはっきり分かれてくるでしょうけど・・・」


「そうだろう?少なくとも私は二人のうち優秀な魔術師がどちらかと聞かれたら間違いなくフミと答えるぞ。コータはあくまで面倒な問題に巻き込まれるというだけに過ぎん・・・トラブルを吸い寄せる体質のようだしな」


「あんたの件を含めてね」


「自分でいうのもなんだがそうだと思うぞ。どういう星のめぐりあわせをしているのかわからんが・・・おそらく康太はこれからも面倒を引き寄せるだろう。その時にフミが支えてやれ」


支えてやれと言われても、自分に一体何ができるのだろうかと文は悩んでいた。


また面倒なものを抱えそうになっている康太に何と言ってやればいいのか。自分の言うことなど聞きそうにない康太を見ながら文は小さくため息を吐く。


もう少し康太に近づきたいなと思いながら。


今日で小説家になろうに投稿してから4年の月日が経過しました。なのでお祝いで2回分投稿です


2012年9月2日から始まった毎日投稿も今日で4年です。長いようで短かったように思います。まだまだこれからも皆さんに楽しんでいただけるような文章を書けるように努力していきたいと考えています。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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