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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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強迫観念

アリスの合図とともにそれは始まった。その感覚を、康太は知っていた。魔術を発動するときに何度も何度も見てきたものだ。


その魔術の根源とでもいうべきだろうか、その魔術の本質を見ることができる康太だけの特異性。


ウィルという魔術とのつながりが強くなったことで、アリスによってつながりを強くされたことで、康太はそれを見ていた。


暗い部屋の中で、目の前に誰かがいる。そして顔に何かが触れたかと思うと、自分の胸に何かが突き刺さる。鋭い痛みだ。だが決して大きなものではない。注射の時の痛みに似ている。だが注射よりも荒々しく、刃物で刺したにしては痛みが妙に少なかった。その妙な痛みと一緒に自分の中から何かが失われていくのがわかる。


恐怖と不安、だがそれ以上の痛みと混乱。血がなくなっているというわけではない、体のどこか別の場所が破壊されているというわけではない。痛みはあくまで胸の部分だけにほんのごく一部に走っている。


だがその体の隅から徐々に何かが失われているのがわかる。どうしてかわかってしまう。


何の知識もないのに、全くこの状況を理解していないというのに、それが何か恐ろしいことであるとなぜか察することができていた。


このまま続くと、自分は恐ろしいことになる。間違いなく、死と同等の何かが自分に襲い掛かる。


寒いわけでもない、熱いわけでもない。胸に走る痛み以外に体には何の異常もないはずなのにその状況こそが異常であるということを理解してしまっていた。


怖い、怖い、怖い、怖い。


唐突に連れてこられた未知の場所への恐怖、自分の目の前にいる謎の人物への恐怖、自分に突き刺さる謎の物体の恐怖、自分の身に襲い掛かっているこの謎の現象への恐怖。


声を出すことができない、それがなぜなのかもわからないから怖い。


体が動かない、何かに押さえつけられているのにその何かがわからないから怖い。


何か恐ろしいことが起きている、漠然とした予感でしかないのになぜか確信があるからこそ怖い。


ただの一般人であるはずの人物たちが抱いたそれらは、皆一様に恐怖だった。もし体が自由に動けば、その身を震わせ立つことすら難しくなるのではないかと思えるほどの圧倒的恐怖。


康太はそれを直に味わっていた。


デビットの時のような肉体的な苦痛ではない。精神を蝕む恐怖の体験と、それに対して自分に伝わってくる願いの声。


誰か助けてくれ。


この場所でも、この時代でも、この人たちも、また同じだった。


デビットの時と同じように、自身が死に瀕しているとわかったものはみな、助けを求めるのだ。どうしようもなく死にたくなくて、生きていたくて、助かりたくて。


その声がどんどん強くなる。アリスの行った話が聞きたい、話がしたいという意思に沿っているのか、ウィルの中にいる統括されていた意志が次々と康太に自分の身の上話をするかのように押し寄せているかのようだった。


アリスが康太とウィルのつながりを強くし始めてから、康太は目をつぶりその場に座り込んでいた。


そしてその表情は決して良いものとは言えない。デビットの時ほどではないが悲痛な表情を崩さなかった。

そしてその体からは汗が噴き出している。とても冷たい汗だ。いったい何をどうしたらこんな汗が大量に噴き出すのか、傍から見ている文からは想像もできなかった。


「・・・康太は大丈夫なの?」


「絶対に大丈夫・・・とは言えんがおそらく問題ないだろう・・・話を聞く限りこいつはデビットの関係したものたちの死をすでに経験している。それに比べれば・・・ベクトルこそ違えど苦痛のレベルとしては何段階か下がるはずだ」


「・・・死に続けた体験・・・か・・・想像もできないわ」


「できなくて当然・・・いやできないほうがいいだろう。コータは運が悪かった。こんなバカに付きまとわれて見せつけられたんだからな・・・本来見なくてもいいものを見せられて、見なければいけないと思い込んでいる」


「・・・抱えられないものを抱えようとするからよ・・・だからやめなさいって言ったのに・・・」


「やめろといったところで聞くような人間でもあるまい・・・ただまぁ・・・向き合おうとしているその姿勢は評価するがな」


どのようなつながりを作るか、その時の発言で『いうことを聞け』だとか『命令させろ』だとかだったらどれほどよかっただろうか。


康太がこの魔術の中にいる意志に対して話をしたいという感情を向けたからこそこんなことになっているのだ。


それは康太自身が選んだことか、それともデビットの一件があったからこそそう思ったのか。


デビットのことが全く関係していないとは言えない。おそらく康太がそう思った原因の何割かはデビットの一件が原因になっているだろう。


「・・・これが終わったら、康太とこのスライムもどきはどうなるの?」


「何のことはない。デビットと同じ関係になるというだけの話だ。そういう風に調整した・・・そのほうがこいつとしてもいいだろう」


「・・・また妙なものを引き入れて・・・っていうかこいつを小百合さんに消してもらう可能性もあるんだし、まぁいいのかしら」


「そうだな・・・この中の意志がどのように考えているのか、それによるだろう」


康太が今回この魔術と意思疎通を図りたいと思ったのは今後のことに関して確認したかったからだ。


消えたいのか、それともこのままでもいいから生きたいのか。それを確認するための必要なことがこれとは、康太の考える結果に対して与えられる苦痛のレベルが見合わないような気がしてならなかった。


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