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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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つながり

「説明していなかったが、この魔術には他人の意志を吸い取ることができる。むしろそっちが本命のようだの。動いたり硬化したりするのはあくまでおまけに近い」


「なるほど、だから魔力消費は少ないのか・・・むしろ吸い取るほうに魔力大量に使いそう」


「その考えは正しい。とはいえ今はお前の魔力で動いているのだ。そこをうまく使ってコータの意志の劣化版を移していこう・・・ついでにこやつのそれも移しておくか・・・」


そういってアリスはデビットのほうを見る。デビットはまるで逃げるかのようにアリスと自分の間に康太の体が来るように移動して見せた。


もはやまともな意識は残っていないだろうに随分と素直な反応だ。いや、残滓だからこそこんなにも素直で率直な反応をしているのかもしれない。


どちらにしろデビットは自分の意志をさらに劣化させて移すというのは遠慮したいようだった。


そもそも魔術の中に残されている意志をそのまま劣化コピーするというのもなかなかおかしい話ではある。


「さて・・・では始めるぞ。意識を楽にしろ・・・とりあえずどんな意志を内包させる?」


「どんなって・・・どういうことだ?」


「簡単だ。こいつの中にどんな意志を入れたい?あくまでお前のコピーとなるのだ。特定条件でのものでなければほぼ完璧なものしか作れん。ある程度考えろ」


「・・・じゃあ・・・話が聞きたい。話をしたい。そんな感じで」


「・・・お前という奴は・・・全く本当に悪い影響を受けたものだな」


悪い影響というのが何のことを示しているのかは康太にはわからなかったが、それがデビットにまつわるものであるということを文は何となく理解していた。


何せ先ほどからアリスの意識がデビットのほうに向いているのだ。この時点で文はアリスとデビットに何かしらの関係があったのではということに気付き始めている。


もっともそれがどのようなものだったのか、具体的な想像は全くできなかったが、アリスの過去にほんの少し興味を持ったのは言うまでもない。


「ちなみになんだけどアリス、劣化とはいえ意志・・・人格のコピーをするわけでしょ?そんなの大丈夫なの?」


「大丈夫なわけあるか。普通は非常に面倒くさいことになるぞ。少なくとも魔術協会の中で禁止されているような手法だと相当面倒なことになる。何せ完全に切り離した状態でコピーを作るからな」


「そんな簡単にコピーができるってのも想像できないけど・・・ていうかそんなことできるわけ?」


「できる。といってもさっきも言ったがひどく劣化している。コピーとは言ったが正確には無意識下で存在している認識や考え方を魔術で疑似的に再現しているに過ぎない。切り離した状態でそれを行えば当然バグが発生する。何せ本人ではないものの考えを機械的に処理しているからな・・・だからコピーというより分け与えているといったほうが正確か」


「・・・精度の低いAIみたいなものなわけね?」


「AIなどとは程遠い。知っていると思うが魔術というのは本来操作しなければ動かない。吸い取ったり奪ったりするのではなく分け与えるというのが問題なのだ。いや吸い取るのも十分問題なのだが」


アリスの言うようにコピーするとは言ったが実際には自分の思考や意志をある程度分け与える形でしか人格のコピーは作り出せないのだとか。


そうでなければすべての人格的な選択を術式で再現しなければならなくなってしまう。


もし術式だけで個人の意思決定や感情などまで完全に再現することができれば、それは間違いなく魔術的なAIかもしれないが、生憎そんなものを作るくらいなら別の方法を試したほうがずっと有意義だ。


「分け与えるということは自分の中にあるものに干渉することになる。その部分だけを選び取って魔術でそれを組み込むわけだから本人にも多少なりとも影響が出てしまう。だから問題なのだ、こちらから魔術で干渉するのではなく、魔術からこちらに干渉するような状況が出来上がることもある」


「普段のそれとは逆の状況が起きる可能性があるわけね・・・なまじ同じものからできているだけに」


「そういうことだ・・・だから今回はそういうものは使わない。コータにそんな危険な手法を使うわけにはいかんからな」


「じゃあどうするの?本人は埋め込みたいって言ってるのに」


「コータが埋め込みたい理由はあくまで意思伝達を容易にするためだ。それなら切り離すよりも常に接続した状態のほうがむしろ安全だろう」


「常に接続って・・・それ大丈夫なのか?」


「お前はすでにその状態にあるのだぞ?認識できていないだけだ」


康太としては常に何かとつながっているという認識はないのだが、今こうしてデビットとある程度交信できるのは、康太の中にあるデビットの残滓の影響が大きい。


多少技術や状況の違いはあれど、康太は常にデビットと接続されている状態であるといっていいだろう。


その状態が今は安定しているからこそ問題なく扱えているのだ。危険や影響が全くないとは言えないが、それでも今のままよりはましになるはずである。


「さて・・・では行うぞ。ただ言っておくがコータ、たぶんだがこれをやるとお前とこの魔術のつながりが強くなる。おそらくデビットと似たような状況になると思っていい。その結果なにが起こるかは・・・たぶんお前のほうがよく知っているだろう」


その言葉を聞いて康太は眉を顰める。この魔術とのつながりが強くなり、デビットと似た状態になるということがどういうことか、なんとなくわかるのだ。


「・・・大丈夫、吐くかもしれないけどその時は文に任せる」


「任せないでよそんなの・・・とりあえず我慢しなさい」


我慢できるものならしたいよと言いながらも康太は全く躊躇しなかった。それは康太が見るべきものだとわかっているからだろう。あの時完全に見えなかったものを、今度はしっかりとその目で見るべきだと、康太自身思っているのだ。


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