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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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何もかもが伝わる

文が正解にたどり着こうと必死に地下を索敵している中、康太の耳には足音が聞こえてきていた。


文が地下を索敵している間に、神父はいつの間にか移動していたようだ。すでに時間は夜遅い。魔術師たちの活動もそろそろピークに達しようという中、文がいることを理解したうえで神父は門を使って地下のほうへと移動したのだ。


「気分はいかがかな・・・?っと・・・さすがはデブリス・クラリスの弟子・・・随分と派手にやりましたね・・・」


神父が戻ってくると康太のいたその場所の光景の変化に愕然としていた。


康太は壁に打ち付けられていたというのに、その壁の一部は破壊されて瓦礫と化し、拘束していた部分は完全に元の形を保っていなかった。


だが壁が壊されても康太の拘束自体は解けていない。全身を覆う液状の魔術『ウィル』の拘束は解けておらず、中腰で仁王立ちするかのような体勢になっている。


無理やりに動こうとして体に無理な力がかかったのか、それとも今なお体内を液体が這い回っている影響からか、その表情は苦痛に満ちている。


「考えは変わりましたか?それだけの苦痛を味わって、それでもまだあなたは死が救いにならないと?死が何かを救うということだってあります。私はそれを」


「口で言うだけなら何とでもいえるんだよ・・・」


口で言うだけなら、康太の言うように言葉にするだけならば誰にでもできる。この神父の場合それを実践してはいるが、康太にとってはその言葉は軽いものだった。


少なくとも自分の考えを覆すほどの重さは感じられない。


「お前がどんな経験をしてそう感じたのかは知らない、けどな・・・お前みたいな胡散臭い笑いを浮かべる奴が死が救いなんて言っても説得力ないんだよ・・・そういうことは一度か二度死んでから言え」


「また異なことをおっしゃる・・・人間は一度死んだらそれまで・・・そこですべて終わりです。悩みも、苦痛も、絶望も・・・だからこそ私はこの魔術を作った。死が終わりにならないように。苦痛だけが取り除かれ、意識だけを残し人を救うことができるこの魔術を!」


それが今康太をとらえて離さない液体状魔術『ウィル』であるということは言うまでもないことだろう。

自慢げというより、この魔術を誇りにすら思っている節がある。自分はなにも間違ったことはしていないと堂々と胸を張っているようなそぶりすらある。


この男はどこかがずれているのだ。普通の人間なら考えたところで実践などしない、というかできるはずのないことをやってのけた。


ある意味この男は狂気に染まっている。それこそ康太が嫌悪するほどに。


「結果的に・・・その魔術が発動する過程で人に苦痛を与えて・・・その人の人生から楽しさも喜びも希望も・・・未来も奪っておいて何が救いだ・・・!お前がやってるのはただの人殺しだ・・・!」


確かに、人が死に瀕した時多くのものは絶望し、苦痛の中で死んでいくことだろう。


重傷を負った患者に対していっそ楽にしてやった方がいい、そういう考えのものがいるのもまた事実だ。

だがそれはあくまで第三者から見たものだ。


もちろんそういった人間の中には自ら死を望み、殺してほしいと心の底から願うものもいるだろう。


事実康太が体験した二万人近い人間の中にもそういうものたちはいた。殺してくれと念じながら死んでいく者たちは確かにいた。


そういう意味ではこの神父の言う死が救いになるというのもあながち間違いではないのかもしれない。

だがそれがたとえ間違いではなかったとしても、康太は否定せずにはいられなかった。


今も耳の中に残っている、頭の中で響いてくるあのかすれそうな声の数々。康太は今でも鮮明に思い出せる。


自分が疑似的に体験し、その思考や感情をリンクさせたからこそ、その感情を強く覚えている。


「悩みも・・・苦痛も絶望も・・・その人たちにとってはつらいものでも、だからこそ助けてほしいって思うんだ・・・!誰かに助けてほしくて、救ってほしくて・・・殺してほしいなんてのはほんの一部でしかない、本当は救ってほしいんだ。助け出してほしいんだ・・・!お前はそんなこともわからないのか・・・!」


康太が体験した多くの者たちは死を懇願するのではなく、助けを求めたのだ。


誰かに自分を救ってほしくて、この苦しさから解放してほしくて、助けを求めて手を伸ばし、声を出したのだ。


自分の命を吐き出すかのように声を絞り出し、命を削るようにその身を動かし、最後の最後まで命乞いをしたのだ。


どこの誰でもなく、誰でもいいから、どうか助けてくれと。


みっともなく見えただろう、情けなく見えただろう。あんな風にはなりたくないと、見る人間のほとんどが思っただろう。いっそのこと楽にしてやった方がその人のためになると思っただろう。


だがそんなものは第三者だからこそ言えるのだ。本当に苦しいものは、本当に辛いものは、どんな状況でも救いを求めているのだ。


終わらせてほしいのは命そのものではなく、その苦痛だけなのだ。


苦痛を乗り越え、また以前と同じように生きたいと願うから助けを乞うのだ。


康太の体を押さえているその液体状の魔術の中に、確かに人々の意志は残されているのだろう。


だがこんなものが救いであると、苦痛を取り除いた本当の救いであるなどと認められるはずがなかった。何せ康太はその中にいる人々の意志と苦痛をほんの少しではあるが理解してしまったのだから。


「そんなこともわからないと・・・あなたが言うのですか?苦痛を取り除くことができないものもいる。救おうとしても救えないものもいる。だからこそその人の苦痛を終わらせるために、死が必要なのです」


「死が必要なんてことはない・・・死ななきゃいけないなんてことはないんだよ・・・!なんでわからない!?」


「それはこちらのセリフです。万人に平等に与えられるのが死です。不遇に満ち溢れた人生だったとしても、最後に与えられるものが同じであるなら、それは救い足り得ます。なぜわからないのですか」


康太も神父も、互いに正しいと思っているからこそ主張を止めることをしなかった。


確かにどちらの意見も決して間違っているわけではないのだ。ただその考えが極端すぎるというだけかもしれない。


相容れない二つの考えがぶつかれば当然こうなる。どちらかが譲歩でもしない限りこの話は延々と続くだろう。


康太は譲らない。自身が経験した死と、その死によって人々がどのような思いを残して死んでいったかを知っているからこそ。


神父も譲らない。自分自身の理論が正しいとわかっているからこそ、そしてすでにそうやって多くの人を救ってきたからこそ。


「救われたことがないからそのようなことが言えるのでしょう。その救いを受けたものがどのように思ったか・・・知ればあなたも少しは考えを変えるでしょう」


「・・・死んだ奴の意志なんてどうやって伝える・・・?こいつに伝達させるのか?てかこいつら言葉話せるのかよ?」


「言葉を介することはできません。ですが私の思うがままに動き、私に協力してくれています。それが何よりの証拠ではありませんか?」


魔術で行動を制御しておきながらよく言うと康太は歯噛みしていた。神父がゆっくりと近づき、康太の体に触れようとする。


康太は逃れようとするが体外と体内に存在する液体魔術がそれを許してくれなかった。


「分かり合えなかったのは残念です・・・ですがあなたにもまた同じように、救いを与えましょう」


救いを与える。その言葉に康太はもう我慢ができなかった。そしてそれは体の中でくすぶっていたデビットも同様だったのだろう。


体から噴き出す黒い瘴気を見て神父は一瞬けげんな表情をするが、その黒い瘴気が瞬間的な作用がないということを即座に理解すると康太の顔に触れようとする。


たとえ攻撃して来ようと、触れてしまえばいいだけだといわんばかりに。


すでに拘束されている康太は逃げることができない。絶対的な優位は変わらない。そう信じて疑わないその神父を前に、康太は目を見開いて右手を動かした。


拘束され、動けないはずの右腕は自分に触れようとしていた神父の顔を逆につかみあげる。


いったいどうして。


そんなことを考える暇もなく、康太はその魔術を発動した。


「そんなに知りたきゃ教えてやるよ・・・存分に思い知れ・・・!」


康太の魔術の発動に神父は反応することができなかった。拘束していたはずの康太が動けるようになったことと、自分の顔が掴まれているという状況に一瞬ではあるが思考が停止してしまったのだ。


彼の頭の中にはありえないという考えと、同時になぜという疑問が満ちていただろう。


だがその満ちていた否定と疑問の考えはすぐに打ち消されることになる。


瞬間的に、神父の頭の中には膨大な量の情報が直接流し込まれていた。


それは痛みであり、苦しさであり、寒さであり暑さであり、康太が今まで体験したありとあらゆる『苦痛』だった。


康太の覚えた魔術は『同調』。自らが体験した事柄を直接相手にも伝えることができる魔術である。


ただその情報を伝える上で条件をいくつか設定できる。


例えば康太が体験した苦痛と同じ時間でその苦痛を味わわせることもできる。逆に遅くすることも加速することもできる。


康太は一秒にも満たない間に、今まで体験してきたすべての苦痛を情報として神父の頭に流し込んだ。


当然ではあるが、あまりに多すぎる情報量を強制的に入れた場合、たいていは処理能力の限界を超えて脳がシャットダウンされる。だがこの魔術はそのシャットダウンを許さないのだ。


脳が焼き切れても、拒否反応を起こしても、強制的に情報を直接脳に叩き込んでいく。


故に小百合はこの魔術を『精神破壊』という部門で扱っていた。


使い方によっては自分の経験した情報を相手に伝えることができる有用な魔術となるだろう。だが小百合は自身の体験した苦痛を短い時間に圧縮して相手に叩き込むという荒業を使うことで、これを破壊の魔術に変えた。


大量の情報は脳を焼き切り、与えられた苦痛はそのものの精神を蝕み、もう二度と目覚めることがないだろうほどの眠りへといざなう。


神父の体が痙攣していく。口からは泡を吐き、白目をむいて雷に打たれたように全身を震えさせ、失禁しながらその場に倒れこんだ。


小百合の目測が確かなら、おそらくもう目覚めることはないだろう。脳死状態に近い。この魔術は相手を強制的にそういう状態にしてしまうだけの破壊力を秘めているのだ。


精神破壊というにはあまりにも強烈で、あまりにも凄惨な状況に康太は大きくため息をつき、体をよろめかせる。


倒れこもうとした瞬間、その体を先ほどまで康太の体を拘束していた液体魔術のウィルが支える。


もうすでにこの神父からの制御は受けていないのか、先ほどよりもずっと自由に動いているように見えた。


康太がデビットを通じてこの液体魔術のウィルに頼んだのはほんの些細なことだった。


一瞬でいい。一秒に満たないほどの一瞬でいいから、腕のどちらかだけを動けるようにしてほしい。


話し合いを過激にさせれば、向こうから近づいてくることは予想できた。仮に話し合いが勝手に終わろうとしても、相手が康太を殺そうとするのではなく、何か別の手段、具体的にはこの液体に取り込もうとする時点である程度近づくのはわかっていた。


何せ人間の意志を残したまま殺さなければいけないのだ。正確には生きている人間から意志のみを抽出するといったほうがいいだろうか。それだけの魔術を使うのに対象に近づかなくても行えるのであればわざわざ危険を冒してまで攫う意味がない。


さらに言えば、デビットの仲介によって自身に肉薄するほどに近づいた神父の姿を康太は見ていた。だからこそ腕一本、ほんの数瞬さえあれば十分すぎた。


康太の使う精神破壊のための同調の魔術は対象の頭部に直接触れる必要がある。腕を伸ばして相手の頭をつかめさえすれば勝負はつく。そして康太の予想通りの結果になった。


神父は康太が流した苦痛の情報に耐えることができずに、完全に意識を手放してしまっている。

こんな状態では起きることができるかも怪しいところだ。いや、もう二度と目を覚まさない可能性だってある。


少しやりすぎただろうか。


ほんの一瞬だけそんなことを考えて康太はすぐにその考えを否定する。何十人もの人の命を奪ってきた男だ。情けをかけるのは筋違いというもの。もしこの場で康太が情けをかけても、仮に加減できたとしても、この男は放っておけばそれだけ多くのものを救いの名のもとに殺していったかもしれないのだ。


この場でこうすることが最善だったのだと言い聞かせ、康太は自分の体からゆっくりと出ていく液体魔術のウィルのほうに視線を向ける。


なるべく痛みのないように、康太の体に気を使ってその拘束を解いたウィルはいったい何を思っているのか康太の背丈に合わせるような形を維持したまま康太のそばから離れなかった。


「・・・あんたたちは・・・これからどうするんだ?」


康太の言葉を聞いているのかどうかもわからない。そもそも知覚器官があるのかすら定かではない目の前の赤黒い液体に康太は話し掛けた。


あんたたち。そのように康太が言ったのは目の前にいる液体魔術の根幹部分には多くの人間の意志があるからだ。


統合されているといってもそこにいたのは何十人もの人間。たとえ本人が認めようとそれをただの一個人としてみることなど康太はできなかった。


話し掛けておいてなんだが、その反応を見る余裕は康太にはなかった。その場に崩れ落ちるように腰を落とそうとすると、康太の体が衝撃を受けないようにウィルがクッションのように地面と康太の間にその液体を割り込ませる。


「もうこいつからの操作は受けてないんだろ・・・?あんたたちを助けることは・・・俺にはできないけど・・・解放することなら・・・師匠に頼めば何とかなると思う・・・破壊って手段ではあるけど」


康太はまだ有していない術式破壊の技術。この技術を使えば液体魔術そのものの中に組み込まれている意志を統合し留め、その決定を液体の行動に反映するという術式を破壊できるはずだ。


そうなればどうなるか想像に難くない。


液体の中に留められていた意識は解放される。わかりやすく言えば本当の意味での死が待っていることになる。


本人たちがどのようにその死について解釈するかはわからない。老若男女関係なく集められた被害者たちに共通の考えがあるのかもわからなかった。


意志が統合されているといっていたがどの程度まで混ぜ合わされているのか、またどれほどまで個人としての意識が残っているのかそれすらも怪しいところである。


デビットに何とかして自分の意識を伝えてもらおうとしたが、もうデビットは康太の言葉を伝えるつもりはないようだった。


もうこの者たちは救われた。まるでそう言っているかのようだった。


実際、強制的に操作できるだけの権限を唯一有した神父は気絶したまま起きる気配がない。二度と目覚めないかもしれないような状態になったのだ。


その中にあった操作用の術式ももはや解除されてしまっているだろう。この神父が目覚めなければこの液体魔術はほとんど自由に動くことができることになる。


康太の言葉に対して液体魔術は反応を返さない。ただ康太の傍らにい続けているだけだ。


攻撃するわけでも逃げるわけでも、自由に動き出すわけでもなくただ康太のそばに待機している。


いったいどういうつもりなのか康太はさっぱりわからなかった。こういう時にちゃんと話すことができない存在は厄介だなと康太はため息をついていた。


だがこのまま放置していてもきっと結果は変わらないだろう。


小百合に見せるまでもなく、おそらく魔力切れを起こすのではないかとにらんでいた。


この魔術が一体どれほどの魔力を必要とするのかはわからないが、こうして動いている以上、何かしらの効果がある以上、魔力を消費するのは間違いないのだ。


とりあえずこの場は、これからどうするかが決まらないうちは自分が魔力を供給して延命させるしかないなと思い、康太は液体魔術であるウィルに手を伸ばす。


「とりあえず俺の魔力を吸っとけ・・・維持するだけの魔力ならやれると思うから・・・そのあとはあんたらの好きにしろ」


康太の意図を察したのか、液体魔術は康太の体の中にほんのわずかに入り込むとその体に直接リンクを作っていった。


おそらく神父にもつながっていたであろうリンクを康太の中にも作り出すと、康太が望んだとおりその体から魔力が吸われていく。


だがその魔力はさほど多くない。少なくとも康太のひ弱な魔力供給でも補える程度の量でしかなかった。


液体魔術ウィルの消費魔力量の少なさに驚きながらも、康太はとりあえずここから出ようと体を動かしていた。


だが体内に先ほどまで異物が入っていた影響からか、体を動かすと節々が痛みうまく動くことができなかった。


肉体強化の魔術をかけて自然治癒力を高めるが、それも瞬時に治ってくれるわけではない。


一部の傷に関してはウィルが張り付いて止血をしている状態だが、それもいつまで続くか分かったものではない。


早いうちにここから脱出して正しく治療しなければならないだろう。


そう考えながら康太は索敵の魔術を発動する。


相変わらずここは地下深く、地上を索敵するとちょうど自分の直上に文がいることに気付ける。


動かずにいることからおそらく教会付近を捜索しているのだろうということは康太もすぐに気づくことができた。


康太がいなくなったということとその時の様子などの情報から教会が怪しいと、教会にいた神父が怪しいと気付けたのだろう。


康太一人しかその可能性に気付けていないのであれば問題だったが、文が近くにいるとなれば話は別だ。しかも動かずに探し続けてくれているのであればなおよい。


携帯などが使えなくてもものを伝えることができるだけの魔術を康太は有しているのだ。


康太が発動したのは遠隔動作の魔術だった。三十メートル程度の距離であれば問題なく発動できる。康太は文の肩をつかむとその背中を指でなぞる。ちょうど上から下へとまっすぐに。


康太のことを探して地下が怪しいと感じていた文は徹底的に教会の地下を捜索していた。だが教会のどこかしらにかけられている索敵用暗示を警戒して極端に索敵範囲を狭めているためにいまだ康太のいる空間にはたどり着けていなかった。


そんな中、唐突に自分の肩を何者かがつかみ、背中を指か何かでなぞるような感覚が伝わってくる。


「うひゃい!?だ、誰よ!?」


文が勢いよく振り返ってもそこには誰もいない。いったい何だったのかと疑問を持つ前に文のその手が何者かに掴まれる。


だがつかまれたと感じた腕には何もない。誰かがつかんでいるということもなく、誰かがその場にいるということもない。その場にいるのは文だけだ。


その異常な状況、一般人なら心霊現象だなんだと騒いだのかもしれないが文はそれが魔術であると気付けた。


何者かに攻撃されているのかとも思ったが、文の手をつかんだ何かは一向にそれ以上何かをしてくるということがない。


数十秒間そのままでいた文は、ようやくそれが康太が使う遠隔動作の魔術であるということを理解した。


「ビー・・・?ビーなのね?今どこにいるのよ!?」


自分をつかんでいる手に話しかけても康太には聞こえなかったが、文がつかんでいる手に対して話し掛けているということを索敵によって把握し、文が自分の行動に気付いてくれたと理解し小さく安堵する。

あとは何とかして文に自分の現在位置を伝えるだけだ。


だがここまでしたはいいもののどうやって伝えればいいだろうかと康太は悩んでいた。


手に文字を書いて知らせるのもいいかもしれないが、文が正しく理解してくれるかは微妙なところだ。

こういう時に携帯が圏外でなければ簡単に連絡が取りあえるのだが、なかなかそううまくはいかないようだった。


だが康太がそんな風に悩んでいると、文はいつの間にか携帯を取り出していた。そして何やら打ち込み始めている。


いったい何をしているのだろうかと思ったが、康太の索敵では文が携帯をもって何かしているということくらいしかわからなかった。


ひとしきり何かを入力したかと思うと、文は携帯を自分の前に掲げて見せた。いや差し出したといったほうがいいだろう。


そして康太はそこで思いつく。携帯の電波が伝わらなくても何かを伝えることができる方法を。


そして文がやっていた行動の意味を理解した。文は何かを入力していたのではなく、康太に何かを入力させようとその動作を行っていたのだ。


遠く離れていても遠隔動作によって携帯の文字を入力することくらいはできる。実際に自分の携帯を操作しながらのほうが間違いはないだろうなと考え、康太はとりあえず自分の携帯のメモ機能を起動させると、遠隔動作の魔術を発動しながら文あてにその文章を書いていった。


『現在位置はお前の直下。地下三十メートルほど。こちらからそちらの位置を索敵で把握している。犯人は神父だがすでに無力化した。出入り口はなく、門を使うことでしか行き来はできない模様。救援を求む』


康太の携帯ではそのように打ち込まれた文章だが、遠隔動作で携帯の文字入力をするなど初めての経験であるために正しく打ち込まれたかどうかは康太にはわからなかった。


これで伝わることを祈るしかないと、小さくため息を吐く。この方法だとこちらからの一方通行でしか物事が伝わらない。文も何かしらの方法で自分に伝えることができればいいのだがと思うが、文がそういった魔術を覚えているかどうかは定かではない。


とりあえず送るべき情報はすべて送った。あとはこの場所に救援がやってくるのを待つしかない。


この液体魔術をどうするかなと考えながら、康太は壁に寄りかかり少し体を休めることにした。


日曜日、評価者人数245人、ブックマーク件数3000件突破で四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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