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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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意見の相違

「・・・あんなのが・・・救いになる・・・?あんなに苦しいのが、あんなに辛いのが・・・救いにつながる・・・?」


康太はあの三日間を思い出していた。


今でも時折夢に見る、死に続けた三日間。誰も助けてくれず、自分の体がなくなっていくかのような感覚。

ありとあらゆる苦痛を集約させたかのような、全身の細胞一つ一つまでを締め付けていくようなあの感覚を、康太は今でも思い出せる。


そしてその時に、その状態の人物がどのような考えを持つかも、どんな絶望を抱えているのかも、どんな願いを浮かべるのかも知っている。これ以上ないほどに。


だからこそ、この男のこの言葉だけは否定しなければならなかった。デビットという、人を救えなくて狂った神父を内包しているがゆえに、人を救おうと人を殺すこの神父の言葉だけは否定せずにはいられなかった。


「死ぬことが救いになんかつながるもんかよ・・・!あんなもんは救いになんかなりゃしない・・・!最後にはみんな・・・助けてくれって言いながら死んでいったぞ・・・!体が動かなくて、寒くて・・・誰かに助けてほしくて・・・!」


「・・・まるで死を体感したことがあるような言い草ですね・・・非常に興味深い。一体君が何を見て・・・何を知っているのか、非常に興味がある」


目の前にいた神父の目の色が変わるのを康太は見逃さなかった。それは言葉に表しているような興味深いものを見つけたというものではない。


自分の論理を否定されたことに対する、ほんのわずかな怒りか苛立ちか。それとも自分の考えを理解してもらえなかったことに対する失望か。


そのどちらだとしても、先ほどまでの張り付けたような笑みがほんのわずかでも崩れたことで、康太は目の前にいる神父の人物像をほんのわずかではあるが知ることができていた。それで何がどうなるというわけではない。だがそれでも少しだけ前に進んだのは事実である。


「・・・っと・・・申し訳ありません、どうやら客のようだ・・・ここでしばらく待っていただきましょう。もう少しお話ししたかったのですが」


神父が立ち上がると同時に康太も強引に起立させられ、ゆっくりと後ろの方に歩かされる。そして壁にたどり着いたところで自分を拘束している液体が拘束具のように変化していき壁に完全に固定されてしまう。


「こっちは話すことなんて欠片もない・・・とっとと失せろ」


「そうですか・・・少しではありますが考えを改めてもらう必要がありそうですね」


神父が笑みを浮かべ小さくうなずいた瞬間、康太の手に何かが突き刺さる。それが硬質化した液体の仕業だと気づくのに時間はかからなかった。


そして突き刺さったかと思えば今度は体の中に妙な圧迫感と激痛が走っていく。


手から腕へ、腕から体へ、それはどんどんと広がっていく。


杭のような形状にしてから突き刺し、その傷から体内に侵入されているのだ。肉を裂きながら侵入してくるその液体。失血死してしまうかもと思ったが、康太の肉体からは全く血が出てこなかった。


「失血死の心配ならありませんよ。それはしっかりと傷をふさいでくれますから。血管を傷つけることも極力なくします、仮に傷つけても即座に細胞単位で傷をふさいでくれますから安心してください」


「・・・あ・・・!が・・・あぁ・・・!」


相手が言っていることなど頭に入らないほどの激痛に、康太の視界はぐちゃぐちゃになっていた。


体の中を無理やりに這い回られるというのがここまで苦痛を伴うものだとは思っていなかった。


ただ痛みが襲ってくるだけではない。体内を這いずり回る音が体を伝わって耳に届く、強烈な不快感と激痛を伴って康太の体と精神を傷めつけていた。


「どうです?苦しいでしょう?痛いでしょう?生きている限りその苦しみは続きます。仮に今解放されても、その傷は長く残る。そんな辛いものから解放されるには肉体そのものから解放されなければ・・・そうでしょう?」


どうやらこの男は康太の考えを改めさせ、自分の正しさを証明したいらしい。


康太を傷めつけても何の意味もない。肉体ではなく精神を屈服、あるいは納得させるのが目的なのだろう。

確かに激痛だ。体の中にある肉を裂いて神経を直接逆なでしているかのようである。もともとあるはずのないものが入ってきているのだ。痛みを感じるのは当たり前である。


だが康太は強くにらみつけ、苦しみながらも笑みを作って見せた。


「・・・舐めるな・・・!俺はデブリス・クラリスの弟子だぞ・・・!こんな痛み日常茶飯事だっての・・・!痛いだけなら我慢できる・・・でも死ぬのは違う・・・!お前の言ってることは間違ってる・・・!」


その笑みも、その声も歪で弱弱しく今にも壊れそうだ。誰が見ても虚勢だということがわかる。もちろん目の前にいる神父にもだ。


だがそれでも、虚勢を張っていても、康太はそれを言い切った。死が救いになるなどということは間違っていると。


今まさに死んでしまえば楽になるのではないかと思えるほどの激痛と苦痛を与えられ、それでもなお康太はその考えを覆すことはなかった。


それだけは変えられない、変えてはいけない。あの体験をしたものとして、あの光景を見たものとして。

体の中にいるデビットがわずかにざわめくのを感じながら、康太は痛みに耐えながら荒く息をつく。その様子に神父は小さく息をついてゆっくりと康太から離れていった。


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