現地での調査開始
康太が門を使って現地の最寄りの教会にたどり着くと、教会の管理をしている神父がそこに立っており小さく礼をしてくれた。
「お疲れ様です。マウ・フォウは今どちらに?」
「あちらの部屋でお待ちしています。ライリーベルはすでに外へ」
「ありがとうございます。それと支部長から話が通っているとは思いますが」
「はい、この門を使用する者に関しては術師名や使用目的のチェックをしておきましょう。その程度であればお任せください」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
今まであまり意識してこなかったが、こうして門が設置されている教会を管理している神父はみな魔術師なのだ。
しかも専属魔術師よりも立場が上のかなり上位の魔術師なのだという。今まで失礼な態度をとったことはないが、知らなかったとはいえ当たり前のようにこうして丁寧な対応をするというのはなかなかできることではない。
特に自分よりも圧倒的に格下の魔術師にこのような丁寧な対応をするというのはそれこそかなりの人格者であるように思える。
ただ単に仕事としてとらえている節もあるだろうが、そのあたりはやはり神父ということだろうか。
神父が示した部屋に向かうと、そこには細身の男性が一人、テーブルのそばにある椅子に座っていた。そのテーブルの上には先日見たマウ・フォウの仮面が置いてある。
康太は索敵の魔術を使ってその人物がマウ・フォウであるという確証を得ると一息ついてから自分も仮面を外した。
「お疲れ様ですマウ・フォウ。用件は済みましたので行動開始しましょう」
「うん、よろしくね・・・というか・・・若いね。さっきライリーベルの時も思ったけど・・・君らって今いくつなの・・・?」
「今高校生です。まだまだ未熟ものですよ」
「高校生かぁ・・・そんな歳でそれだけ実績残してるんだからすごいなぁ・・・うらやましい限りだよ」
「いや・・・トラブルを引き寄せる体質ってだけでそこまですごくは・・・それになったらなったで面倒ですよ?いろんなところからにらまれますし・・・」
実際何の関係もない赤の他人であれば康太の境遇はうらやましいものに見えるかもわからない。
高校生でまだ魔術師としてデビューしたてなのにもかかわらず封印指定にかかわる事件をすでに二件も解決している。
過程はともかく結果だけを見れば大したものだといえるものだ。もっともそんな結果を残したせいでいろいろと禍根を残しているのだがそのあたりはいまさら言っても仕方のないことである。
「それじゃ行こうか。僕を呼ぶときは名字の方で頼むよ。吉田っていうんだ」
「じゃあ俺も名字で。俺は八篠です。よろしくお願いします」
外で活動するうえで自分の名前は最低限明かしておかなければならない。特にこれから協力する間柄なのだ。無駄な手間を増やすよりはそのほうがいい。
「それで、やりたいことっていうのは?何かあるって言ってたけど」
「はい、ここ最近で起きた行方不明者の私物がほしいんです。そのにおいをたどることができないかなと思って」
「あぁなるほど。君嗅覚強化が使えるんだね」
「はい・・・って言っても時間がたってるとだいぶつらいんですけど・・・やりようはありますよ」
天候にもよるが犬の嗅覚ですら屋外の追跡は数日が限度だ。これが室内であれば確実な追跡ができるのだろうが、そううまくはいかない。
仮に康太が行方不明者の私物を使って定点的に足取りを追うことができても、その行き先を追うことができるかは微妙なところなのである。
だが康太もむやみやたらに追跡を行うつもりはなかった。
「わかった。といっても最近のものになるとまだ調べきれてないものとかあるから何とも言えないけど・・・」
「確実にかかわってると思われる中で一番最近のものになると大体いつになりますか?」
「ん・・・三週間前かな・・・それより後のものはちょっと調べきれてなくてね」
それでも三週間前に起きた誘拐に関してはすでに調べがついているあたりさすがというべきなのだろうか。
調べものに関しては一家言持ちというわけだ。これは頼りになる人物が味方に付いているなと康太は少しだけ安堵していた。
「ならその人の自宅に行きましょう。ついでにそのあとに起きた行方不明者のことも一緒に調べちゃいましょう。何かあるかもしれないし」
「わかったよ。でも三週間前だとさすがににおいが消えちゃってるんじゃ・・・」
マウ・フォウの言うように三週間も経過してしまってはさすがににおいなどは完璧に消えてしまっているだろう。
三週間の間に雨なども降っている。屋外ににおいはほとんど残っていないといってもいい。おそらく匂いでの追跡はほぼ不可能だろう。
だがそれは屋外に限った話だ。
「屋外のにおいは消えてるでしょうけど、屋内のにおいは消えてない可能性があります。まずはこのあたりの主要の駅ににおいが残ってるかどうかを確認します。移動ルートを少しでも把握したいんです」
犯人がどのような手段を使って行方不明者を移動させたのかも気になるところだ。今回の件に関わっているであろう該当者が普段使うルートを把握したうえで匂いの有無を確認すれば移動ルートが絞れるのではないかと考えたのである。
康太とマウ・フォウは最近いなくなった人物の家までやってきていた。そこは二階建てのアパートで基本的に一人暮らしをしている人が多い物件である。
いなくなったのはこのアパートに住んでいた会社員の男性。いなくなったことに気付いたのは水曜日で会社に来なかったことから連絡などをつけようとしたが応答がなく、同僚や上司などが家を見に行ったところ鍵もかかっていたため、管理人に開けてもらったところもぬけの殻。
携帯にも出ず、そして男性の実家にも連絡をしたが戻っていないという。この時点で家族に話が初めて伝わったために、家族は警察に通報し行方を捜索してもらうように嘆願。
行方を捜索していても全く行先も何が原因でいなくなったのかもわからず、警察のほうは途方に暮れているらしい。
目撃情報もほとんどなかった。そしてこの目撃情報が全くなかったというのがマウ・フォウ曰く今回の件に関わっているという確信に迫れる第一歩なのだとか。
人間が失踪などをするときは過度のストレスや精神的に追い詰められていることが多い。それが表面的に出る人やでない人、その差はあれど街を歩いていたらそういう人間は人の目につくのだという。
特にいなくなる寸前はその傾向が強い。歩き方、表情、服装、持ち物。どんなものでもそうだがたいてい誰かの目に留まり、誰かしらの記憶に残る。
警察がただ単に聞き込みをしただけでは探し出せないような記憶の片隅にしかないような情報も、魔術師ならば引き出すことができる。
だがそれでも記憶に残っていないというのはつまり、その人物を物理的に見ていないということなのだ。
通勤ルートや自宅周辺、そしてその人物の行動範囲においてマウ・フォウは記憶を呼び起こせるような魔術で聞き込みに近い情報収集を行った。だがそれでも『誰一人として』その人物を見ていない。それは普通に考えて異常なのだ。
その異常が、何かしらの手段によって意図的に起こされたとしたら、それはもはや魔術師の存在を疑わずにはいられない。
文などが使う意識を逸らせる魔術と似たようなものだ。偶然その方向を見ないようにできる魔術。あるいは見ていたとしても認識することができない魔術。
どちらも十分にあり得る魔術だ。
「ここの一一三号室だね・・・行こうか」
「了解です・・・部屋の中には・・・誰もいませんね」
一応索敵で中に誰かがいないことを確認してから康太とマウ・フォウは部屋の中に入る。
そこは生活感あふれる男性の一人暮らしの部屋が広がっていた。
扉からまっすぐ伸びた先にあるワンルーム。そしてその途中にあるキッチンや洗濯機、横にある扉に入ればトイレやふろ場がある。
一直線に伸びた廊下の片隅にはごみ袋が置かれ、洗濯機の中には洗濯物と思わしき衣類が投げ込まれている。
ワンルームの先にはベッドに小さなテーブル、そしてノートパソコンにテレビ。カラーボックスの中には小説などが入っていた。
本当に昨日まで誰かが住んでいたかのような空間である。この後すぐにこの部屋の家主が戻ってきても何も不思議はない。そう思えるほどの空間だった。
さすがにいなくなってからほとんどずっと放置されているということもあって若干埃が積もっているが普通の一般男性の一人暮らしの部屋のように思える。
康太はとりあえず嗅覚強化の魔術を施し、この部屋のにおいを嗅ぐと同時に、この人物の衣服のにおいを嗅ぐことにした。
正直男の匂いなんて嗅ぎたくはなかったが、そうもいっていられない。しっかりと男性のにおいを記憶すると、その人物の行動先を予測するべくすぐに移動を開始した。
「吉田さん、この人の通勤のルートはわかりますよね?」
「もちろん調べてあるよ。行くかい?」
「えぇ、とりあえず駅のほうに。そこににおいがなかったら次は教会のほうに移動します」
「駅の次は教会か・・・門を使った可能性を考えるべきということだね?」
「はい、実際使われたかどうかはさておき、判断材料として知っておくべきです。この人はキリシタンじゃないですよね?」
「仏教徒らしいよ?といっても別に何かしてるわけじゃない。家がそうだったってだけだね。少なくとも教会に足を運ぶような習慣はなかったらしい」
日本人の大抵は仏教徒ではあるが、その事実をほとんどの人間が知らずに、あるいは把握せずに生きている。
一番そのことを実感できるのは葬式の時だろう。坊主にお経を読んでもらい線香をたき墓にお参りするというのは日本の仏教独特の文化の一つだ。
もちろん仏教徒だからキリスト教の教会を訪れてはいけないという決まりは基本的にはない。
そのためこの近くにある門が設置されていた教会に個人的に足を運ぶという可能性が考えられたが、マウ・フォウの調べではそれもまずなかったらしい。
つまりもし教会のほうにその人物のにおいが残っていたら、高い確率で門を使用して別の場所に移動させられた可能性があるということである。
そうなると非常に厄介だった。まだ教会ににおいがなければこの地区の中だけで話が完結するかもしれないが、もし教会に設置されている門を使われたら日本どころか世界各国どこに出ていたとしても不思議はないのだ。
調べる対象がこの限定された区域から世界各国すべてになってしまう。そうなってくるといろいろとまずい。
一応教会の神父に働きかけて調査はすることになっているが、それで犯行がストップすればいいが、被害が他の場所に移ったりしたらさらに面倒なことになる。康太の最悪の想像が当たらなければいいなと思いながら、その男性のにおいをたどろうと康太は必死になっていた。
誤字報告五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




