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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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私情を交えた情報

「すいません、待たせたでしょうか」


康太と文がそんな風に話をしていると二人が借りた部屋に一人の魔術師が入ってくる。


男性のようだが少し声は高めだ。身長は百七十後半くらいだろうか。非常に細身で仮面をつけているというのにやつれているような印象を受ける男性である。


「いえそこまでは待っていませんよ。初めまして、今回行方不明者が多発している原因を調査することになったブライトビーです」


「同じくライリーベルです。あの・・・大丈夫ですか?」


「え?あぁ全然大丈夫ですよ。というか初対面でいきなり心配されるとはね・・・初めまして、マウ・フォウだ。よろしくね二人とも」


マウ・フォウと名乗った魔術師はそういって二人と握手をかわそうと手を差し出してくる。


康太も文もその手を拒むことはなく、手を差し出して握り返すのだが、その時点で文が心配してしまうのも無理はないと康太は内心驚いていた。


衣服に仮面、そして外套まで身にまとっているというのにその細さが際立つ上に、その雰囲気が妙に病弱チックなのだ。


何といえばいいだろうか、いまにも倒れてしまいそうな印象を受ける男性である。おそらくすでにいろいろと限界にきているのだろう。


体力的にも精神的にも、それこそ隠してもわかるほどに。


握った手がこれほど頼りなく感じられたのは初めてだった。弱々しく、細く、震えているのではないかと思えるほどだった。


仮面と外套をつけてなおこれほど強く弱々しさを感じるということは、それらを取ったら一体どうなるのだろうかと不思議でならなかった。


「まさか有名な二人にこの件に関わってもらえるとはね。僕は運がいいのかな?」


「えと・・・まぁその・・・あんまり期待しないでくださいね」


康太の名前ブライトビーは良くも悪くも協会内でよく知られている。康太と一緒に行動している文も同様だ。


彼女の場合はエアリス・ロゥの弟子というのもあるのだろう。康太が悪い方で目立っているのに対して文は良い方で目立っているというべきだろうか。


「それじゃあ・・・えっと・・・何のことから話そうか・・・」


言葉と一緒に吐いた息がそのまま体の中の空気をすべて吐き出すのではないかと思えるような声に、康太と文は本当に大丈夫かと疑問を抱きながらも話を先に進めることにした。


まず第一に知りたいのは今回の事件の発覚、というか事態が進展したきっかけとなったこの人物の知人に関してである。


「えっと、聞いていいことかどうか微妙なんですが、フォウさんの知人の方がいなくなったと伺っています。どういう知人なのかが気になって・・・」


「あぁ・・・なるほど・・・確かにこれだけ時間をかけて調べてるからね・・・気になるのも無理はないかもしれないね・・・」


実際に資料には行方不明となった人物の詳細はのせてあるが、目の前にいるマウ・フォウとどのような関係であったかを示すものはなかった。


実際必要のない情報はほとんど記載されていないのだ。問題なのはその人物の行方不明が正当であったか否かだけ。


いや正当であるかというより他者の介入があったかどうかを書いてあるだけだ。家族関係なども表示されていたが魔術師であるマウ・フォウとの関係性は全く載っていなかったのである。


「結論から言えばね、物心つく前からの友人だったんだ。いわゆる幼馴染ってやつでね、小さいころからこの歳になるまで・・・あぁ、いま三十七なんだけど・・・これまでほぼずっと一緒だったからさ・・・とにかく探したよ・・・でも見つけられなかった・・・」


幼いころからの友人。康太たちの考えは当たっていたのだが三十七歳という具体的な年齢に康太たちが考えている以上に深い関係だ。家族ぐるみでの関係があっても不思議ではない。第二の家族といっても差し支えないほどだ。


三十年以上の交友があった人物がいきなり行方をくらませれば、自分に何の相談もなくいきなりいなくなれば、それは確かに探すだろう。


草の根を分けてでも探し出すだけの意気込みを持って探したマウ・フォウだったが、それでも見つけられなかったのだという。


「調べれば調べるほど一人の力の限界を感じてね・・・そんな時に僕たちが暮らしている町の行方不明者が多いことに気が付いたんだ・・・それで調べていくうちにそれが露骨になってきて協会に依頼してる・・・そんな流れなんだ」


三年間続けただけでもすごいと思いますよと康太は口にしかけたが、そうやすやすと評価するような言葉をかける気にすらならないほど彼の言葉は重かった。


言葉自体はすらすらと彼の口から出てくるのに、その言葉一つ一つが妙な重さを持っているのを康太も文も感じ取っていた。


絶対に自分が探し出すのだという覚悟と想いをもって挑んだことだというのに、自分の無力さを実感した男の言葉。簡単に何か言えるはずもなかった。


だがそれでもまだ彼はあきらめていないのだ。その細い体に鞭を打つがごとく日々を送ってもなおまだ探そうとしている。


それがたとえいばらの道だろうと彼は進むだろう。体格やその弱々しさとは真逆の精神力を彼は持ち合わせているようだった。


「他に何か知りたいことがあれば、答えられる範囲で答えるよ。といっても大抵のことは資料に書いておいたつもりだけど」


実際それだけの情報量がこの資料の中には込められている。彼が言えることはそこの書いてある以上のことはない。そう言いたげだが実際はそうではない。まだこの中に載っていないことで彼の口から直接でしか聞けない言葉があるのだ。



「今回の件、フォウさんが思い描く犯人像はどのような感じですか?」


康太と文が今回の件で一番聞いておきたかったのがこの話だった。


現段階でもっとも情報を有しているのは間違いなく目の前にいるマウ・フォウだ。情報の正誤はあれど今回の件に関して最も多くの情報を知り、それらをまとめられるだけの知力を持っているのは間違いない。


そんな人物が今回の件をどのように判断するか、まずは確認しておきたかったのである。


「それだと個人的な願望も含まれちゃうけど・・・それでもいいなら」


「お願いします。今は少しでもいいから情報がほしいので。どうしてそう思ったかの根拠もあると嬉しいです」


誰かの意見というのはそれだけで貴重なものだ。自分たちにはない考えを示してくれるかもしれない。


人間一人で考えるのには限界がある。その限界を超えたり、別の角度からの考え方を指摘するのが他の誰かの考え方なのだ。


その考えによって自分たちにもまた新しい考えが生まれ、より深く物事を考えることができたなら、少しずつではあるが真実に近づくことができるようになるだろう。


一人で完璧になる必要はない、何人がかりでもいいから問題を解決してしまえばいいのである。


「僕個人の意見としては『魔術師の仕業である』ってところかな。もちろんそうだったら協会が動いてくれるとか打算的な願望も含まれてるけど、これだけ調べて何の成果も得られないっていうのはちょっと異常なんだ」


「・・・この資料だけ見てるとすごい調査したと思うんですが・・・その経過で全く犯人の情報がなかったって本当なんですか?」


康太が持っている資料はそれこそ概要から詳細まですべて表示してある。おそらくマウ・フォウが調べたことをほとんど載せているといってもいいだろう。


それだけの情報の中で犯人に触れるようなことはほとんどといっていいほどない。あるのは推論の中での可能性レベルの話だ。


「これでも僕は戦闘よりも調査とかのほうが得意でね、個人的に似たような事件の調査とかそういうのを請け負ったことがあるんだよ。そういう時はたいてい一か月も調べれば犯人への手がかりを確実に得られた。事実今回調べてる経過でいくつか別件を片付けたし」


「別件って・・・今回の件とはまた別の行方不明とか誘拐とかそういうのってことですか?」


「いや、正確には今回の区域でいなくなった人間の中に普通に誘拐された人もいたんだよ。でも僕が探してる犯人ではなかったって話・・・最初はこれが犯人かとか喜んだりもしてたんだけど、調べると一人しか誘拐してなかったりとかで・・・」


つまり、特定区域で行方不明になっている人間の中には三種類の人間がいることになる。


一つは今回の件の犯人によって攫われた人物。これはまだ犯人が魔術師か一般人かの区別はできていない。


一つはただ自分あるいは周囲の環境に問題があり自発的に失踪した人物。これらはマウ・フォウの資料でほとんどが調査され、すでに事件への関連性が低いとされ対象外となっている。


一つは今回の一件とは関係なく、別の犯人が個人的に誘拐したという場合だ。同じ場所で誘拐犯が別に出ても不思議はない。ただ時期と場所が偶然にも重なったというだけの話なのだから。


マウ・フォウは今回の件の犯人や被害者と思わしき人物を調べる過程でいくつかの誘拐事件をすでに解決したのだという。


その度に一喜一憂したらしいが、それでも彼は調べるのをやめなかった。


「今回の指定された地域の中に三人ほどそのあたりを拠点にしてる魔術師がいるということですけど、その三人に関してはどう思ってますか?犯人の可能性はありますかね?」


「んー・・・そのあたりも難しいところだね。もちろん三人に関しても調べてはいるんだ。能力や実績とか使える魔術とか人柄とか一通り調べたけど・・・これだけの人数を誘拐するだけの『理由』がないんだよね」


「理由・・・ですか?」


仮に魔術師が犯人だったとして、当然だが誘拐するだけの理由が発生してくる。しかも今回の場合かなりの数の人間を攫っている。それだけ実験しなければいけないだけの魔術を開発あるいは使用している可能性が高い。


だがマウ・フォウはその理由がないといっていた。


「その地域にいる魔術師三人の内、一人はすでに引退間近で後進もすでに一人前になっている。いまさら新しい魔術を研究するとも思えないし、何よりそういうことを嫌う人だ。以前一緒に調査とかをしたからそれは間違いない」


「あぁ・・・そうか、個人的な知り合いだったらそんなことをするかどうかもわかりますよね・・・ってことは容疑者は二人?」


「いや、その二人のうち片方はまだ新米に近い。えっと去年の二月に魔術師として拠点を持ったばかりだね。こういうと自惚れに聞こえるかもしれないけど、その程度の経験の人間の犯行なら僕はすぐに探し出せる。これだけ探して手掛かり一つないっていうのはかなり腕の立つ魔術師の可能性が高いんだ」


話す限り、マウ・フォウはそれほど自信家というタイプではなさそうである。むしろ自分のことを過小評価しているタイプだ。


そんな人物が探し出せるといったのだ。おそらく調査や探索に関しては相当の自信と実力を持っているのだろう。


確かにそういわれるとそういう人物が拠点を持って二年も経過していない新米に近い魔術師の所業を見逃すとは思えなかった。


そうなってくると三人の魔術師の内可能性があるのは一人だけである。


これだけでかなりの進歩だが、マウ・フォウは小さくため息をついて見せる。おそらくそう簡単に話は進まないのだろう。


「もう一人、これがちょっと特殊でね。思い切り戦闘に特化したタイプの魔術師なんだ・・・これがなかなか難儀な性格をしててさ・・・少なくとも誘拐とかそういうことは向いてないっていうか・・・たぶんできない」


「それは・・・どうしてそう思うんですか?手の内を隠してる可能性とかも・・・」


確かに魔術師の中には戦闘に特化していたり調査に特化していたりとそれぞれ得意分野が分かれているものが多い。


康太は戦闘に特化しているし、文はそれら二つをバランスよくこなせるようにしている。それぞれ特徴があるのはいいのだが、他人に見せる場合手の内を隠すのは魔術師の中では半ば常識になっている。


マウ・フォウに会うときにだけそういう風に見せている可能性がないとは言い切れないのである。


「いやその・・・そいつね、僕の同期の魔術師なんだ・・・一緒にいろんな事件とか調査したり解決したりしたことがあってさ・・・まずそういうことはしないタイプ」


「・・・あー・・・なるほど」


思い切り私情の混じった情報であるために資料には載せられない。いわゆる康太と文のような関係なのだ。昔から一緒に行動して互いに気心が知れている。


客観性がなく主観性の強い確証のない情報ではあるが、マウ・フォウはこの三人はまず犯人としてはありえないという風に考えているのだろう。


そうなってくると魔術協会にその近辺を拠点にしている三人の魔術師は犯人から除外されることになる。


そうなってくると本当に犯人がどこからやってくるのか見当もつかない。協会の門を使って別の場所から移動してくるのか、それとも協会に申請していないだけでそのあたりを拠点にしているのか。どちらにせよ犯人の特定が難しくなったのは確かである。


もちろんマウ・フォウの言葉すべてを鵜呑みにすることはできないが、目の前にいるマウ・フォウ自身がもっともこの事件の解決を望んでいるのだ。目の前にいる犯人候補を私情で除外するとは考えにくい。


おそらく私情も含まれてはいるだろうが客観的な理由から彼らが犯人ではないと考えたのだろう。


「・・・てなってくると、犯人の特定さらに難しくなるな・・・一応協会のほうに依頼して門を通る際にちょっとしたチェックを入れてもらうことにしたんです。門を使って誘拐してた場合はそこで止められますけど・・・」


「へぇ、そんなことしたのかい?ていうかよく支部長に頼み込めたね」


「あはは・・・ちょっとお願いしたくらいですよ。うちの師匠の関係で支部長とは顔がつながってたんで」


「君の師匠っていうと・・・あぁ・・・なるほど、そういうことか」


康太の師匠。ブライトビーの師匠といえばデブリス・クラリスだ。協会内でもそのことはある程度知られているのだろう。


そしてそのデブリス・クラリスと支部長の関係というのもある程度知られているようだった。


問題児とそれを何とかしようとしている管理職。はっきり言って傍から見れば痛々しい関係だが、どんな形であっても康太とのつながりになったのは間違いない。


「でもそれはありがたいね。犯人が協会の門を使うかどうかを把握できる。時間はかかるかもしれないけど確実に前には進んだ」


「あとはその区域でこれからも犯行が起こるかですけど・・・大体どれくらいの周期で行方不明者って出てるんですか?」


「それがわかれば結構楽になるよな。その周期で状況をある程度把握して行動できそうだし・・・」


「んー・・・こっちでも調べてはいるんだけどね、行方不明時期の完全な把握って結構難しいんだよ。家族とかが身近にいれば日付だけは確定できるけど、一人暮らしの人とかとなるとなかなかね・・・勤め先に確認できるパターンもあるけど休みの日とかと被ってる場合もあるから」


行方不明者が出た場合真っ先に確認をしようとするのが家族だ。特にそれが学生などであれば基本的に毎日家に帰る学生の安否を確認しようとするのが普通の家族である。


だが問題なのは一人暮らしなどをしている人たちだ。


基本一人ならば確認できない場合なども多々ある。特に大学生だったり社会人となるとその傾向が強い。


社会人であれば会社側に出社か否かの確認を取ればどれくらいの時期からいなくなっているのか調べることはできる。


だがそうでない場合や、休日などを挟んでいる場合確認が遅れてしまうことがある。条件が重なれば半年以上連絡が取れない状況になっていたなどということもあり得てしまうのだ。


それが老人などであればその傾向は顕著に出てくる。


今回の件は老若男女問わず被害にあっているためにすべての被害状況を確認するというのはかなり時間がかかってくる。


それこそ攫われる瞬間を把握するのはほぼ不可能だろう。どちらかというといなくなったという事実が確認されてからの事後調査という形になってしまう。


そのせいで正確な周期の割り出しというのは実はなかなか難しいのだ。


「となると・・・とりあえず俺らは現地に行ってみるのが一番かな・・・調査系だともうできることなさそうだし」


「そうね・・・向こうにいる協会が把握していない魔術師を探すくらいしか・・・あとは現地の警戒かしら」


「それでも助かるよ。僕は戦闘はからっきしだから、荒事はできないからね・・・」


マウ・フォウはこのまま調査を、康太と文は一緒に現地に向かって魔術師の調査を、そして倉敷は特定地域に向かう門を使用した魔術師の特定を。


それぞれやることが確定したことでようやく次の段階に進める。まだ先は長そうだと康太たちは小さく息をついていた。














「というわけだ、お前には現地に向かった協会の門の使用者をまとめてもらうぞ」


「・・・そりゃいいけど・・・かなり時間かかるぞこれ・・・」


後日、これから動き出そうというときに康太は倉敷を魔術協会日本支部の一室に呼び出していた。


そこは今まで協会の門を使用した魔術師とその使用場所が記載されている書類が保存されている場所だった。


残されている書類だけでも膨大な量だ。もっともすでにいくつかの書類は破棄されているものもあるのだという。全てを保管していてはあまりにも膨大な量になってしまうため、過去に使用した分から徐々に破棄していき、新しいものだけを残すという会社などでもよくとられる手法を行っているらしい。


「とりあえず五年分のデータをまとめてくれ。時間はかかっていいからこつこつ頼むぞ」


「五年分って・・・この部屋何年分のデータが残ってるんだよ」


「少なくとも十年分って言ってたな。これだけの量だとやっぱ大変だろうけど頼むぞ」


「・・・むしろ俺が外回りとか行きたいくらいだよ」


「でもお前索敵とかまともにできないだろ?」


そう、康太が倉敷にこのデータのまとめを頼んだのはそこがネックだった。


確かに倉敷は天候などを一時的にではあるが雨や霧といった水に関わるものに変えることができる。だが倉敷は精霊術師であるために水の属性以外の術を扱うことができないのである。


つまり普段文などが使う無属性の索敵魔術を扱うことができないのだ。霧などを使って疑似的な索敵はできても、今回の調査ではそれは難しい。


現地にいる協会に申請を出していない魔術師を探すのが今回の探索の目的だ。欲を言えば犯行の現場の一つも抑えられればいいのだが、実際そんな風にうまく事が運ぶようなことはないだろう。


「畜生、こういう時精霊術師だと不便だよな・・・無属性の魔術が使えないって地味にきついぞ」


「まぁそうだよな。暗示とかも使えないんだろ?必須魔術覚えられないって結構つらいよな」


康太もようやく覚えてきたところだが、魔術師にとっての必須魔術はいくつかある。


康太も覚えた暗示に索敵、そしてまだ覚えてはいないが記憶操作なども必須魔術にカウントされている。さらに文が使うような意識を逸らしたりできる人払いの魔術などもその中に区分される。


とにかく一般人にばれないようにするために必要な魔術が、魔術師にとっての必須魔術として認識されているのだ。


そのほとんど、というかすべてが無属性の魔術であるため、無属性の魔術は基本中の基本として存在している。


地味ではあるが有用な魔術が多いのが無属性魔術の特徴だ。精霊術師は無属性の魔術を基本扱えないためにそのあたりが非常に不便なのである。


こういったところも精霊術師が魔術師に軽んじられてしまう原因の一端になってしまっているのだろう。


「まぁ頼むぞ。断る権利はないのはわかってるな?」


「ハイハイわかってるって・・・ていうかお前らのほうは平気なのかよ。そんな誘拐犯がいる場所に向かうなんて」


「問題ない・・・とはいいがたいけどな・・・とりあえずマウ・フォウと協力してできることをやる予定だ。ベルはとにかく区域内の索敵。俺は俺で別にやることがあるからそっちをやる。案外忙しいんだぞ?」


今この場にすでに文はいない。康太は倉敷に説明するために残ったが文は現地に向かって索敵を開始しているのだ。


あらかじめ協会やマウ・フォウを通して現地を拠点としている三人の魔術師には康太たちの存在を周知してある。仮に康太たちが怪しい行動をとっても彼らが動くことは基本的にはない。


つまりそこで動くような魔術師がいたなら、それは康太たちの存在を知らない魔術師ということになる。


釣りとまではいわないが、相手をおびき寄せるためにあえて怪しい動きをするのも必要なことだ。文は索敵と釣り餌両方の役目を引き受けた形になる。


「ふぅん・・・まぁいいや。デスクワークはあんまり好きじゃないんだけどなぁ・・・」


「そういうなよ。とりあえず頼んだぞ、俺はこれから現地に行かなきゃだから。ある程度まとめられたら連絡くれ」


「あいよ・・・結果が捗らなくても文句言うなよ?」


「あぁ、そっちの作業はあくまで確認みたいなもんだからな、気にしなくていいぞ」


協会の門の使用履歴を見るのはあくまで門を使用したものが犯人であった場合の特定を容易にするための準備に過ぎない。


これで協会の門を使用せずに犯行に及んでいた場合、倉敷の努力は完全に水泡に帰すわけだが、あらかじめできる手段をとることは間違いではない。


特に倉敷は探索という条件ではほとんど役に立てない。それが水中や水辺であればその力をいかんなく発揮できたのだろうが、生憎と今回行く場所にそれらしい場所はない。海に面しているわけでも大きな川が流れているわけでもないただの住宅地だ。


戦力にならないものを連れていくくらいなら、無駄になるかもしれないが一応こうしてデータをまとめさせておいた方が有意義というものである。


適材適所、そういってしまえばそこまでのことだ。


もっとも康太もそこまで探索ができるというわけではないが、康太は康太でやるべきことがある。それがうまくいくかどうかの保証はないが、やるだけのことはやらなければマウ・フォウに申し訳ないのだ。


誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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