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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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三年の重み

「それにしても誘拐ねぇ・・・いったい一般人さらって何しようってんだか」


「そりゃいろいろあるだろ。前に俺が行った場所でもそういうことあったし。結局前のところは何してたのか知らないけど」


「あぁ、確か静岡の方だっけ?私直接見てないけど・・・」


以前商談で向かった静岡のある場所で康太はそれらしいものを見たことがある。一般人に対して操り人形のようにする魔術を使っていた。


一般人を操るというのは実際だいぶ面倒だ。記憶消去的な意味でもそうだが下手に手を出せないというのが厄介なところである。


だがそういった目立つ行動をすればすぐにばれる。今回はもし魔術師がやっていた場合少なくとも三年は潜伏し続けていることになる。つまり操って何かをするということではないのだ。いったい何をしているのかはわからないがそれだけ長く潜伏できるとなると相当な面倒ごとであるのは間違いない。


もっともまだ魔術師の犯行であると決まったわけではないので何とも言えないわけだが。


「なんかあれか、やばい薬の実験とかでもやってんのか?」


「薬だったらまだいいほうでしょ。魔術の実験だとえげつないわよ?私たちが持ってる魔術一つ一つ試してみてとかやってたら地獄よ地獄」


「確かにそれは嫌だな・・・ていうか俺の魔術だったら確実に死人が出る」


「殺してもいいくらいの気持ちでやってるかもね・・・浮浪者相手だと探す人とかがいないから好き勝手やる人とかもいると思うわよ?」


失踪者として記録されていないだけで浮浪者などを狙ってさらい、実験の材料として使う魔術師もいるのだという。


以前話を聞いたことがあるが、魔術師が人体実験を行うときはたいていが『いなくなっても問題ない』人間を使うのだとか。


それこそ浮浪者などがあげられる。身よりも社会的な立場も存在しない人間だ。そういった人間がいなくなっても基本的には誰も気にしない。意に介さない。だからこそ何をしても問題がない。


人道には反するかもしれないが、そういったことをする魔術師がいるのも確かだ。康太も文も話にしか聞いていないが、そういったことをする魔術師がいた場合は一応止めなければならないだろう。


「でもさ、そう考えると今回の件って魔術師が原因じゃないんじゃないか?」


文の発言を聞いて何やら考えていた倉敷がふとつぶやく。その発言に康太と文は倉敷のほうを見て興味深そうにしていた。


「ふむ、その心は?」


「だってさ、好き勝手やれるなら浮浪者に手を出せばいいんだろ?今時ホームレスなんて探せば結構いるぞ?でも今回の件が発覚したのはその魔術師の知人がいなくなったからなんだろ?わざわざそんな面倒そうな人間さらうか?」


倉敷の発言は確かに的を射ている。もし魔術師が今回の犯人で、何らかの魔術的実験を目的にしているのだとしてわざわざただの一般人を狙う理由がわからないのだ。


立場も身寄りもある人間を攫えば当然騒ぎになる。大なり小なりの違いはあれど捜査の手が及ぶ可能性があるのは確かだ。


そんなリスクを冒して魔術師が危険な一般人を攫う理由がわからないのである。


「確かにその線も強いわね。でも私は一応魔術師が犯人だと思ってるのよ」


「なんでだ?普通は浮浪者を攫うんだろ?」


「確かにそのほうがいいけどね・・・さっきあんたも言ったけど今回の発覚原因はその報告した魔術師の知り合いが被害者になってるってことなのよ。普通の犯罪者がやったことなら三年もあればたぶんだけど探すことくらいはできたはずなのよ」


「なるほど、普通の犯罪者が相手ならある程度方法は限られるし時間もかかるけど魔術師なら調べられる。でもそれができていないってことはつまり・・・」


「そう、魔術師が関与している可能性が高い。もちろんあくまで可能性の話ね。絶対じゃないからそのあたりは覚えておいて」


先ほどの倉敷の考えも的を射ていたが、同じように文の考えも的を射ている。


攫われたのが数週間程度の時間であれば探し出せないのもまだ納得できた話だろう。


だが実際は三年もの時間があるのだ。本気で探そうと思えば三年もの時間があれば探索系の魔術を覚えることだって容易にできるだろう。


ただの一般人の犯罪者が相手であれば探索系の魔術を駆使すれば探し出すのは不可能ではない。


犯人が移動し続けてでもいない限り、特定の拠点を持っているという可能性を想定した場合探し出すのは時間の問題だ。


探索系の魔術の効果範囲は広いもので数百メートルはある。時間はかかるが探すのは無理ではない。


それでも探し出せないということはいくつもの要因が考えられる。何らかの妨害がかかっているか、すでに死亡しているか、日本ではないどこかへとすでに飛ばされているか。はたまたほかの何かか。


考えだしたらきりがないが、魔術師が三年もかけて犯人に対して『何の手がかりも得られていない』ということが文には不思議でしょうがなかった。


特定地域での犯罪を行っているのに、その特定地域を調べている魔術師の探査に引っかからないということが特に不思議だった。


だからこそ文は魔術師が犯人であると考えたのである。


魔術師であれば魔術師が行う調査の隙をつくことだってできる。調査している時期に意図的に活動しなかったり、調査範囲外で活動したりといろいろと有利だ。


文と倉敷の意見は互いに真逆の意見ではあるが両方ともしっかりと理由を持ちそのどちらもが筋の通った話だ。どちらの可能性もあるだけにますます調査が必要になるのは言うまでもないことだが、その分やることが増えるのもまた仕方のない話だろう。















「・・・で、これがその資料なわけか・・・」


「・・・思ってたより多いわね」


その日の放課後、康太と文は学校を終えた後小百合の店にやってきて件の情報を読み解こうとしていた。


小百合の店に届けられていた資料はおよそ段ボール一箱分。確かにアリスの時の資料よりはだいぶ少ないのだが、それでも一つの事件に関してのものとしてはかなりの量であるのは間違いないだろう。


「これ全部行方不明者関係の資料なんでしょ?よくもまぁここまで作りこんだものだわ・・・」


「全くだな・・・おっおぅ・・・しかも見やすいように目次まで作ってある・・・プレゼンでもやったんじゃないかってレベルの調査具合だ」


「あー・・・でも確かこの人って魔術協会を動かすためにいろいろやったって言ってたじゃない?この資料ってその時の流用なんじゃないの?」


もともと知人がさらわれたのをきっかけに調べ始め、個人の限界を感じたからこそその異常な点を魔術協会に報告。結果的に魔術協会そのものを動かすことになったがその時の資料がもしかしたらこれなのかもしれない。


端的にまとめてある内容と参考資料が入り混じっているだけにどこから先に読むべきか少し迷うところである。


何せ端的にまとめてあるものは本当に概要しか載っていないレベルなのだ。康太があらかじめ聞かされていた程度の内容しか入っていない。


そこから注釈として参考資料へと飛ぶことができるが、その注釈の量が膨大である。段ボール一つに込められたその資料の多さは、この案件に込められた意志の強さがうかがえる内容であるのは間違いない。


これだけのものを作るのに三年。三年というのは決して短い時間ではない。学生にとっても、さらに言えば社会人にとってもその時間は怠惰に過ごせるものではない。


社会人での三年は特に重要だ。昼に働き夜に魔術師として行動したとして、一体いつこの資料を作成したのかと問いたくなるほどである。


私生活のすべてを投じて調べ上げたといっても過言ではないほどの量の資料に、康太と文はさすがにこれは身を引き締めて取り掛からねばならないと意気込んでいた。


読み解く中で康太と文はまず該当地区で発生した行方不明者の詳細なデータを読んでいた。


この中で自発的に失踪したと思われるもの、あるいは何かしらの理由があっていなくなったものなどを除いていくのだ。


だがこの資料を作った人物はそのあたりをほぼ完全に網羅していた。背後関係だけではなく、その人物がいまだに行方不明であるか否か、そして行方不明になるだけの理由があったか否か、そして今回の事件に関する関係性があるか否か。


事実関係を含め推論も混ざっているが、ほぼ完璧に近いほどにまとめられていた。


当該箇所における行方不明者は確かにほかの地区に比べると多い。その比率は大体他の地区に比べて二倍を少し超える程度である。


行方不明になった人物の内、約六割はすでに見つかっているか、あるいは死亡が確認されているかのどちらかだ。残った四割に関してはいまだ行方も生死も確認できていない。


だが行方が分からなくなっている人物の中ですでに六割のものが除外されている。残った四割の人間に関しては今回の事件に何らかのかかわりがあるとしてチェックがつけてあった。


だが四割がいまだ見つかっていないとは言っても、その中には最近いなくなったもので調査が完全に済んでいないものも存在する。


時間があればこのあたりも調べられたのだろうが、魔術協会に報告するのを目的としているためにそのあたりは限界があったのだろう。


むしろ三年の集大成をここまでまとめ上げられただけですごいといえる。これ以上ないほどの成果といえるだろう。


少なくともこうして文章や結果として事実だけを残しているというのはかなり大きい。


推論もたまに混ぜてはいるが、それはあくまでも筆者の考えとして別項目に分けられている。


事実だけを記述した項目と分けることでそれが一体どういうことなのかをわかりやすく説明していた。


これを作った人はなかなかやり手だなと思いながら康太は行方不明になった人物の中から大まかにではあるが事件にかかわりがありそうな人物を把握しつつあった。


かなりの人数がいたが実際にかかわりがあるものはおそらくこの行方不明者の中で一割から二割程度なのではと康太はにらんでいた。


ここ最近行方不明になった人間を除き、最低でも一年前までさかのぼっての調査結果に絞ると、その傾向が表れてくる。


調査不足の人間を除くことで、明確な違いを見ようとしたのだ。そしてその結果康太が求めていた傾向を見つけることができた。


その傾向は、完全なる無作為。


規則性がない。性別、年齢、社会的立場、家族構成、何においても共通するところは確認できなかった。


まだ学生にもなっていない幼子、学生、社会人、無職、老人、挙げればきりがないと思えるほどの人種に康太は眉をひそめていた。


何の共通点も見られない、全くと言っていいほどに、かけらもないといえるほどに。


行方不明者同士が知り合いとか親戚とかいうこともなさそうなほどに関係のない状況に、康太はため息をついてしまっていた。


これだけ露骨な傾向だとさすがに康太でもわかってしまうのだ。それがどういう意味を持つのか。


「これだけばらばらだと・・・今回の件は魔術師の仕業っぽいよな・・・」


「あ、やっぱそう思ったんだ。さすがにここまでばらつきがあるとね・・・」


康太がたどり着いた結論にどうやら文もたどり着いたのだろう。


康太も文も今回の件は魔術師がかかわっているのではないかと結論付けていた。


その理由はあまりにも行方不明者の共通点がなさすぎるという点だった。


何人も行方不明になっているというのに、ただの一人もその情報がかぶっていないのだ。どれもこれも一人一人まったく別の何かである。ただの一人として同じ学年の学生がいないし、ただの一人として同じ会社、あるいは職種の人間がいないのだ。


ここまで露骨に無関係であるとさすがに何者かの作為的なものであると思わざるを得ない。


康太と文がこの件を犯罪者ではなく魔術師の仕業だと思ったのは理由がある。それは魔術師が人間を攫う理由が大きい。


「やっぱあれかな・・・いろんな被検体で魔術の実験してるとかそんな感じかな?」


「そうじゃない?ここまでばらばらだと選別してやってますってのが見え見えだもの・・・それもこの資料を見て初めてわかる程度・・・これ作った人本当にすごいわ」


そう、魔術師が人間を誘拐する理由は、大体が魔術の実験に使用するからである。


以前も康太たちが話していたが、そういう場合は社会的に何のつながりもない人間が選別される。


仮に誰かがいなくなったと騒がれ、探されるようなことがないようにするのが目的だ。


どんなことをしても問題がない、どんな状況になっても問題がないようにするのがセオリーである。


だがそうするとどうしても選ばれる人間が特定の条件に当てはまるものだけになってしまう。


具体的に言えば住所不定無職のようなホームレスの者たちが当てはまるだろう。栄養状態もあまり良くなく、精神的にも肉体的にも疲弊しているものが多い。


データを取るという意味で人間を集めるのであれば、ありとあらゆる人種や職種の人間を集めるのが最も適切だ。


客観的なデータを得るためには条件を変えてとにかく試してみるしかない。一人の意見や同じタイプの人間だけに意見を聞いても同じような答えしか返ってこない。


より高度で精度の高い答えを出すためにはより多くの種類の回答が必要なのだ。


これだけバラバラの行方不明者の中に含まれているのは、この人たちを魔術の実験材料にしたのではないかという確信に近い疑惑だった。


「犯罪者の可能性もまだ捨てきれないよな。こういう趣味の人間なのかもしれないし」


「十分にね。でも魔術師相手だと思って挑んだほうがよさそうよ。ただの犯罪者ならそこまで苦労はしないけど・・・魔術師相手だとそうもいかないわ。同業者が動いてるってわかれば向こうも警戒するでしょうし」


文の言うようにただの犯罪者が相手であれば康太たちは何の問題もなく簡単に対処できるだろう。


それこそ不意打ちでも受けない限り、いや仮に不意打ちを受けたところで康太ならばたいていは何とかなるだろう。


文に関しては少し不安が残るところだが、相手が拳銃でも持っていない限りただの一般人では康太たちの相手にすらならない。


だが魔術師となればそうはいかない。そうやって犯罪を繰り返している魔術師というのはたいていが同業である魔術師に対して強い警戒心を抱く。


特に魔術が一般人に知られないように管理している魔術協会の息がかかった魔術師にはその傾向が顕著になるだろう。


康太たちが調査のために動けば当然相手は警戒する。その結果排除という動きを取るか、それとも隠れ潜むという選択を取るかはわからない。どちらかというと後者の確率が高いだろうが、そうなってくるとまた探すのが面倒になる。


犯罪者だと高をくくって何の準備もせずに行動すれば痛い目を見るのは康太たちだ。そんなことにならないようにあらかじめ気構えだけはしておかなければならないだろう。


「とはいえこれ探すの結構手間だぞ・・・?一番最近に起きた行方不明で一か月前・・・しかも事件との関連性不明・・・相手が本気で隠れようとしたらそれこそ見つけられるかどうか・・・」


「一番手っ取り早いのが犯人の拠点の把握だけど・・・確かに探すのは骨が折れるかもね・・・最後の目撃証言があった場所を明示してる地図もあるけど、こっちの方はあんまりあてにならなさそうだし」


相手が犯罪者か魔術師かを見極めるには実際に犯行を行っているところを視認するか、その犯人の拠点を見つけることができれば一番手っ取り早い。


犯罪者ならば誘拐した人物はほとんど殺してしまう可能性が高い。特殊な事情や内容は置いておいてこれだけの人数を収めておける場所にも限りがある。


魔術師の場合は魔術の実験にするという目的からたいてい生かしておく場合が多い。もちろん誘拐してすぐに実験材料にして殺してしまうというのもあるかもしれないが、魔術の実験をするということで広い空間を確保している可能性がある。


行方不明になった人間の最後の目撃情報があった場所を地図上にマークしてあり、そのマークがある一定範囲にあることからこのあたりを拠点にしているというのはわかるのだがこれも実際あてにならない。


昔ならいざ知らず、今は車などの移動手段が多い。それこそ車に押し込めるように攫ってそのまま別の場所に運ぶということも十分可能なのだ。


もっともそうするとこの場所を重点に活動拠点にしている意味が分からないのだが、そのあたりはまだ調べなければいけないこととなるだろう。


何かしらの意味があるのか、それとも意図的に意味のない行動をしているのかただのこだわりか、どちらにせよこの区域に何かあるのは間違いない。


日曜日、そしていつの間にか五百話超えていたのでお祝いで合計三回分投稿


早いものでもう五百話ですか。もうこの話が始まってから軽く一年通り越してたんですね


まだまだ先は長そうですがこれからもお楽しみいただければ幸いです

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